見出し画像

【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
497.ハッピーグッドイーブル

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

 翌日の昼下がり、幸福寺門横の駐車場に一トンの幌トラックが入って来てエンジンを止めた。

 田舎の特権、馬鹿みたいに広い駐車場は参拝客が乗り付けたマイカーで混雑していたが、運よく駐車スペースが空いていた様である。

「うわぁ、凄いな! 大盛況じゃないか! ね、悠亜?」

「流石はハッピーグッドイーブルさんのお寺ね! みんなに愛されてるんだわ! なんか私も嬉しいよ、あきら

 運転して来た男性が感心した様に言い、助手席から降りて来た可愛らしい女性が嬉しそうな声を上げた。

 ここに善悪と趣味を同じくする同好の士がいたならば軽くパニックを起こしていたかもしれない。

 なぜなら助手席から降りて来た女性の名は『吹木ふいぎ悠亜ゆあ』。

 人気実力ともに日本トップクラスのフィギュア原型作家、所謂いわゆる業界内のカリスマだったからである。

 幸い参拝客には見咎みとがめられていない様である。

 マスクと合わせた大き目のセレブっぽいサングラスが功を奏したのかもしれない。

 ホッとした感じで荷台から巨大な荷物を取り出した二人は、幸福寺の山門を潜り、本堂を目指して歩き出すのである。

 恐らく手にした荷物、善悪が特注したフィギュアが、庫裏くりの方の玄関を通れないと判断したからであろう。

 昭と呼ばれた運転手だった男性、フィギュア販売会社のお客様窓口担当の役員である『結城ゆうきあきら』は開け広げられた本堂の中を覗き込んだが、そこでは法衣に身を包んだ中年男性と、見た事も無い程大きな中年女性、巨漢で色白なこちらも法衣を来た男前、可愛らしいフランス人っぽい大きなリボンを付けた幼女の四人が喧々諤々けんけんがくがくディスカッションの真っ只中であった。

「え、じゃあ本当にイストモスやらないのか? んじゃあ我の祭りは? どうするんだ、善悪?」

「んだから、復活していないのでござるって言ってるでござろ、すたれたのでござるよ、廃れたの…… もうポセイドンなんか信仰の対象じゃないんじゃないの?」

「ええ、アスタショック!」

「ねえコユキ姉上、わらわのは? 兄上達のオリンピックとネメアーを真似て始めさせた女性の運動大祭ヘーライアは残っているよね? 当然!」

「うーん、ガッカリさせちゃうけどね、そっちもやっていないと思うわよん、だって去年見たでしょ? 今はオリンピアに女性も一杯出ていたでしょう? 必要無くなっちゃったんじゃないかなぁ?」

「えええ、バアルショック……」

「んでも代わりに冬のオリンピックやったじゃないの! それにもう二年待てばフランスでオリンピックやるからさ! それまでMVPの彼でも見て楽しみましょうよ!」

「うーん、こないだまでやっていた冬の奴か…… なんか芸術的な競技が多くてピューティア祭りっぽかったんだよなぁ~、ん? って事は我やバアルへの信仰よりまさかあの馬鹿、アヴァドンへの信仰の方が残っているって事? んな馬鹿な! 有り得んだろう?」

「妾よりあの馬鹿が…… バアル超ショック……」

「んまあ、二人とも配下の悪魔達からは慕われてるんだから良いんじゃないのん、兎に角、今現在でも執り行われているのはアタシ達が主神であるオリンピアンだけなんだから仕方が無いでしょう? なははは、優越感だわっ!」

「流石は善悪様とコユキ様です、モヌ、ま、マラナ・タ!」

 四人の横に立っていた大男の小坊主が嬉しそうに叫んだところで結城ゆうきあきらは本堂の中に声を掛けた。

「あのー、結城と申しますが、その声、幸福善悪さんですよね?」

 声を掛けられた善悪はビックリ仰天と言った風な表情を浮かべて結城昭に答えた。

「えっ? ゆ、結城氏! み、自ら届けてくれたのでござるかぁ? そ、そんなぁ~、忙しいのではござらぬか~?」

「えへへへ、何て言うんですかね、サプライズとか、そういう感じで来てみたんですけど~、えへへ、それに善悪さんに直接会って相談したい事? ご報告したい事が約二点有った物ですからぁ~、えへへ」

「そ、相談? で、ござるかぁ? 何でござろ? 取り敢えず入っておくれぇ! ささ、どうぞどうぞ、インヴィディアぁ! お茶をお持ちしてぇ! でござるぅ!」

「はぁーい」

 庫裏くりからインヴィディアの声が響く中、結城昭と横に立っている可愛らしい女性が本堂のたたきで靴を脱いで、両手で大事そうに抱えた荷物と一緒に小上がりからいそいそと上がって来たのであった。

 二人揃ってちょこんと正座した上で善悪に向かって頭を下げたのである。

 善悪は言うのであった。

「ね、ねえ、結城氏ぃ、こ、この可愛らしい女性って、ぼ、僕チンの記憶によれば、ま、まさか、あの人なのでは?」

 結城昭は答える。

「は、はい…… なんかお恥ずかしいのですが…… お察しの通り、彼女は吹木ふいぎ悠亜ゆあですっ! 善悪さんありがとう! 貴方のお陰で、えっと、僕たち結婚する事になりましたぁっ!」

「えええええっ! ええ、マジでぇ?」

「「はいっ! マジですっ!」」

 何やら急転直下のようだ、取り敢えず観察してみる事にしようか。

***********************
拙作をお読みいただきありがとうございました!

この記事が参加している募集

励みになります (*๓´╰╯`๓)♡