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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
300.蔦のダンジョン

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 凡そおよそ一時間を掛けてこのダンジョン、『卜部うらべ季武すえたけの魔窟(だんじょん)』を踏破してきたコユキの前には、漆黒の和服、『闇夜の内掛け』が綺麗に畳まれて四角三宝しかくさんぽうの上に置かれていた。

 途中で遭遇した数々の罠、トラップは凶悪を極めたものばかりであった。
 なんともいやらしい罠は容赦なく侵入者、コユキに襲い掛かり続けたのである。

 テクテク歩いている道中、不意に足元の石畳が沈み込んだ瞬間、左右の壁から襲い掛かる槍の穂先の群れ!
 思わず息を飲んだコユキは寒気を抑えることが出来なかった、それはそうだろう、襲い掛かってきた穂先は合計数十本にも及んでいたのである。

 もしも穂先の悉くことごとくび切り、ちりの様に霧散しなければどれ程の裂傷を負っていたことか…… 想像するだけで今も震えを抑えることは出来ない……

 次に彼女を戦慄させたのは坂道、軽い上り坂に配置された残忍すぎる仕掛けであった。
 長く続く坂道に多少の疲労を感じたコユキが集中力を欠いていた事は否めなかった。
 足元に張られた極細の糸を見逃してしまったのである。

ピンっ!

 通り過ぎた瞬間に気が付いたコユキの危機感を嘲笑うかのように、開かれた眼前の壁からは、巨大な真球の馬鹿でかい岩石が、転がっては、来なかった。

 周囲に繁茂したつたつる確りしっかりと受け止めてくれた丸い岩石は、ホールドされたまま通り過ぎるコユキの姿を、さも口惜しそうに見送ったのである。
 もしも蔦の蔓がなかったら、考えただけでも心胆寒からしめるに充分な残忍なトラップだと言えよう。

 最後の罠は最も非道な物だったと言えるだろう……

 進み続けた暗いだんじょんの終わりを告げるかのように輝いた広間、その中央に四角三宝に乗せた着物が目に入った瞬間にコユキは走り出した。
 それ位、鬱憤うっぷん、もしくは強烈なストレスが溜まりに溜まっていたのであろう。

 広間に踏み込んだ瞬間に最後の罠が発動されたのだ。

 前方にそびえていた二つの壁が轟音を響かせて持ち上げられて行き、その奥に蓄えられていた大量の水が正面に立つコユキを押し流さんと、うねりを伴った濁流と化して襲い掛かってきたのである。

 千年程の年月で、水が蒸発したかどこからか漏れ出していたのでなければコユキとて無事ではすまなかったであろう。

 今回は幸い、減りまくった水量の濁流は、コユキのくるぶし辺りをサラサラと流れ去って行ったのであるが、お蔭でコユキのお気に入りのスニーカーはびしょ濡れになってしまった……
 んまあでも、それを差し引いても、これは僥倖ぎょうこうと言って良いのではないだろうか?

 この様な艱難辛苦かんなんしんくの果てに辿りついたコユキは、特段の感動と共に『闇夜の内掛け』を手に入れるのであった。

「罠の存在を注意してくれてありがとう卜部さん、これからよろしくね!」

 前の二人、ライコーとツナに対してしたのと同様に、内掛けに変じた卜部うらべ季武すえたけにも丁寧な挨拶をしたコユキは、次の瞬間に体の動きを止めて無表情になったが、すぐにいつも通りの柔和な笑顔を取り戻して独り言のように呟いたのである。

「大丈夫よ、ありがとうね」

『『?』』

 コユキの言葉に不思議そうな想念を浮かべるライコーとツナであったが、間を置かずに発せられた問いが二人の意識を別の所へと強引に向かわせるのであった。

「よしっ! これで今日のノルマってか目標にしていた兵庫県のアーティファクト、三つ全部確保できたわね! さてクラックの中を随分歩いてきたけど、これから戻るのも結構しんどいわねぇ」

『いや、ダンジョンの入り口脇に結界があったようじゃぞぃ、アレをくぐれば現世うつしよに戻るじゃろうて』

「そっか、そりゃ助かったわ」

 言いながら既に罠も無くなったダンジョンを戻ったコユキは、程無くライコーの言っていた結界を発見して潜り、どこか鬱蒼うっそうとした森の中へ帰還を果たしたのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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