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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
573.動物カフェ・デビル

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

 店内に入ると客は皆無であった、のみならずやけに薄暗いしパッと見、動物の類も見当たらなかった。

 店員に声を掛けられる事も無く途方に暮れていると、店の奥からひょっこり顔を出した赤いバンダナとエプロンに身を包んだ西洋人っぽい男性がコユキに声を掛けて来る。

「え、嘘、お客さん? って、なんだコユキ様じゃないですかぁ! いらっしゃるなら先に言って下さればお迎えに上がったものを…… ささっ、フロアにお上がりになってお楽しみくださいませ! 今可愛い動物たちもスタンバイさせますのでぇ! おーいっアイペロス、ナベロスー、コユキ様がお見えになったぞぉ!」

 コユキは驚いて聞いた。

「アンタ、ネヴィラス君の子分のグラシャラボロス君じゃないの! それにアイペロスとナベロスの二人も一緒なの? 何やってんのよ、ネヴィラスに命令されたの? ってか流行ってないわね、この店……」

 グラシャラボラスは赤面しながら答えた。

「ネヴィラス様じゃなくてその上、アスタロト様からのご命令でして…… 最近お金を稼ぐ事に興味があるみたいでしてね、テレビで見たカフェをやりたいってネヴィラス様に駄々を捏ねたみたいでして…… それで我々がここを居ぬきで借りて先週開店したんですけどね、何故か全然流行らないんですよね? 摩訶不思議ってやつですよ」

 コユキは得心がいった。

 何週間か前、食事後のマターリタイムに皆で見ていた、アド街ック的な奴だったか途中下車っぽい番組で動物カフェについて特集していた時、アスタロトがやけに興味津々な感じで食い入るように画面を見続けて居た覚えがある。

 大方良く無い頭で『簡単に儲かりそうだな、我もやろ』位のノリで部下たちに迷惑かけたとかそんな所だろう。

 昔ながらのパワハラ上等、モラハラどんと来いの悪魔軍団である。

 上の命令には絶対服従、嫌なら死ねまである組織では幹部の彼らを以てしても断れなかったに違いない。

 そう考えたコユキは瞳に同情の色を湛えながら言った。

「まず店が暗いわよ、二つの意味でね! もっと照明を明るくしてさ、フロアの色もこんな気持ち悪い紫一色じゃなくてポップな感じに変えなきゃだめだと思うわよ? んで、お客が来てから動物たちを連れてきますじゃなくてはなからフロアで自由にくつろがせておかなくっちゃ! 出来れば店舗の外でその様子をモニターなんかで映したりしてさ! 後は料金とかを表からでも分かる感じにすんのね、黒板アート的な奴がまあ無難でしょうね~、見たお客が入ってみようかな? って思わせないとじゃない? デビルって店名もどうかと思うけどそっちはお金が掛かりそうだもんね、取り敢えずこんな物かなぁ? どう思う? デスティニーさん」

 急に振られたデスティニーは戸惑った表情で答えた。

「あーそうだなー、俺も専門じゃないから良く分かんねーけどさ、やっぱ周辺に似たような商売が多い訳じゃん? ふくろうカフェとか猫カフェとかうさぎカフェとかさ、んだから目先を変えたりして差別化したり基本のカフェの味やラテの腕前にこだわりを見せたりさ、何か余所よそとは違うって所をアピールポイントにしなきゃだめだと思うけどな…… その上で余所のお店がやってるようにチラシやノベルティ配ったりしてさぁ、話聞いた感じだとお兄さん達モノホンの悪魔なんだろ? だったら店名のまんま、悪魔の格好でビラ配りでもやればさ、客引きヨロシク店まで誘引できるんじゃないか? 受けると思うぜぇ、欧米人風の悪魔コスなんてゴスロリ女子垂涎すいえんなんじゃないかなぁ?」

 この意見もコユキのアドヴァイス同様、しっかり者らしいグラシャラボロスは一所懸命にチラシの裏に書きとっていた。

「ふむふむなるほど…… いや勉強になります、三人で相談して改善してみたいと思います、ありがとうございました、ハッ! し、失礼しました! ご注文も聞かずにこちらの話ばかりしてしまいましてぇ! 何に致しましょうコユキ様、お連れ様」

「アタシは兎に角甘けりゃなんでも良いわよ、チクロでも良いわ」

「あ、じゃあ俺、この苺のズコットケーキとホットチョコレートで」

「承知いたしました、コユキ様はチクロ、お連れの方はストロベリーズコットとホットチョコレートですね、少々お待ちくださ――――」

「やっぱ、アタシもデスティニーさんと同じ奴にするわ、なによチクロって…… アンタ等行政にツブされるわよ? 第三世界じゃ無いんだからさ」

「かしこまりましたー」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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