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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
617.逢魔が原

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 カイムを伴って超有名ファームへ歩きながら義弟達や狩野、馬糸、民生にしたのと同様に、世界の先行きを任せる旨を伝えたコユキにカイムは言う。

「理解したよ、弾ちゃん達には魔力吸収に協力してくれるように頼むね、北海道で配下に加えた魔獣達にもしっかり伝えさせる…… でもさ、アスタロトと合流したら一回焼いてもらうからね? 二人が出した答えが本当に一番いい方法なのか炎の中で確かめるからね? じゃなきゃ協力とかしないんだからね? キョロロン」

 トシ子が心配そうに返した。

「まあお前ならそう言うんじゃろうが大丈夫かえ? 別段炎に耐性持ってる訳でもないのに、ダーリンが加減を違えれば死ぬぞい? カイム」

「大丈夫キョロよ、もともと木炭や練炭の中で真実を語って居たんだからね、摂氏千度くらいならヨユーヨユー! キョロ」

 コユキは思う、

――――なるほど、元々焚火やかまど、暖炉の中だったんだもんね、大体煮炊きするくらいの温度が丁度良い訳ねー、前にライターオイル持ってたのはそう言う事だったのか、あれって大体摂氏千度くらいだった筈だわ、大事な事ね、覚えておこう!

 あと少しで消滅する身だと言うのに、いかなる時でも常に学ぶ姿勢を崩さない、コユキにはそんな頑固な一面が有るのだ。

 対してその肉体は一切の硬さを持ってはいないブヨブヨプッヨンプッヨンだったのだ。

 一年半前はわずか二十二貫に過ぎなかったコユキの体重は、この春、遂に栄光の百貫、三百七十五キロを上回り、夢の肥満体、その入り口を潜ったのである。

 そのほとんど全てが脂肪で構成されているのだ、ちょっとした偉業と言っても良いのでは無かろうか?

 私がそんな事を考えている内にファームの敷地に入ったのだろうか、周辺の雰囲気がガラッと変わるのであった。

 具体的には風景から現代風の家屋や建造物が消え失せて、色目の無い丘が広がる殺風景極まりない原野に姿を変えたのである。

 以前、大阪の千里の天神さんへ赴いた時に、善悪とコユキが迷い込んだ昔っぽい神社の景色にもどこか似ている気がする。

 トシ子が訳知り顔で言う。

「ほう逢魔おうまが原じゃないかえ、こりゃ念を入れたもんだね」

 善悪がスキンヘッドの上にハテナを浮かべながら聞く。

「師匠、逢魔が原って何でござる?」

「逢魔が原ってのはのう、クラックを隠す為にもう一重ひとえ余計に包み込んだ領域の事じゃぞい、クラックを見つけられるほどの魔力を持った者しか入る事は不可能なんじゃよ、んで入り込むとクラック入口の偽装と同じ魔力で満たされとるからのぉ、オルクスのおチビちゃんみたいなサーチでは見つけられないじゃろ? その為に張る結界だのう、秘宝を隠す時や侵攻前に軍勢を潜ませたりする時に使うんじゃよ」

「ほー、そうなのでござるかー、見た目は兎も角流石は老人、年の功でござるなー」

「本当ね、んで老人、じゃなくてお婆ちゃん、どうやって見つければ良いの? クラックの位置は」

 二十歳はたち前後に見えるトシ子はややイラっとしてから事も無げな感じで言う。

「そりゃ神聖銀じゃよ、そこら中を片っ端から刺して回れば良いじゃろうが、善悪もアフラ・マズダで叩き捲るんじゃよ」

「なるほど、とは言っても…… ねえ善悪ぅ」

「うん、だだっ広いよねここ…… どれだけ掛かるのやら、でござる」

「そうだのぉ、早くした方が良いぞい、日が暮れてしまうぞい」

「ねえ、お婆ちゃん、カギ棒一本だったら魔力込めて使えるんだよね? 手伝ってくれないかな?」

 トシ子はニヤニヤしながら答える。

「アタシももうこの年じゃからのう、手伝ってやりたいのは山々じゃが足手まといになってもいかんからのぉ、ここは若い二人に任せるとするわい、仕方ないじゃろう? 何しろ老人じゃし、な? はははは、なははははぁ!」

 くっ、このババア、根に持っていやがったか、そう口に出さなかったのは紛れもなく成長であろう。

 仕方なく逢魔が原領域の端っこからカギ棒を刺す感じのエアプスリと、白銀の念珠を握り込んでの片手シャドーを始める二人であった。

 力になる事が出来ないカイムや虎大、竜也は応援するしか出来なかったのである。

 しばらくすると人目を避けて山中を抜けて辿り着いた弾ちゃん、リボン、マッチも加わって地道な作業を続ける善悪とコユキに惜しみない声援を送るのであった。

 レグバは待ち切れなかったのか東西南北を維持しながら転寝うたたねを始めている。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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