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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
394.柿のタネ

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 幹がずっしりとした杉の大木、大体大の大人が二抱え程もありそうな大きな幹に向かって投げられた『柿のタネ』は顕著な変化を見せたのである。

 投げたタネが幹に衝突した瞬間、中空から現れた大きなウスが木の根元目掛けて落下して、根の半分程を引き潰す勢いで打ち付けられたのである。

 そして、落ちた個所から、摩擦だろうか? 発火した炎はメラメラと燃え盛り、その中から弾けた木の実が、杉の大木の幹に食い込んだのである。

 焼け爛れたその木の実は栗の実の様であった。

 その傷痍しょういを逃さず襲った影は、蜂だろう、ぶんぶんと羽音を響かせて、チクチクチクチクと決死のダイブを繰り返していた。

 次の瞬間、信じられない事が起こったのである。

 幸福寺の立派な立木の中でも巨大で威容を誇っていた杉の大木が…… 転んだのである。

 つるっと擬音を響かせて、そう、言葉通り、つるっと滑って転んだのであった。

 ヅッドーンッ!

 大きな音を周囲に響かせて横倒しになった杉の大木のあらわになった根にはビッチョリと茶色の物体が付着しているのであった

 思いもしない破壊力を目の当たりにしたコユキが呟く。

「エライ破壊力じゃないのよ…… これ、フンババ君の力借りなくても、ハーキュリーズだっけ? このタネ投げるだけで楽勝なんじゃないの?」

 コユキのポッケに入れられていた『美味しそうな柿の種ピーナッツ入り(小袋)』がカサカサと音を立てた。

 ここの所『今、食べれる』から変化の無かった賞味期限表示が変わっていた。

『ふっ、やれやれ』

と。

 只の文字列なのだが、自分よりも強い存在と戦い続けてきたコユキには、この言葉にはハッタリや虚勢の類では無く、絶対的な実力と経験に裏打ちされた物であることがひしひしと伝わるのであった。となると見てみたい、それが人情であろう。

 鳥取砂丘で手に入れてから一週間、一度たりともする気の起きなかった行為、小袋のマジックカットに手を添えてペリっと開封し、取り出した半楕円の辛口オカキを躊躇ちゅうちょなく口に運んだのである。

 ポリッポリッ

 二、三度噛んで嚥下えんげしたコユキは、さあ、何が起こるのかと期待を込めて待っていたのであったが、特段の変化も無く時間だけが過ぎていく。

 手にした開封済み柿ピーの残りがカサカサカサと蠢いていることに気が付いたコユキがいつもの癖で賞味期限表示に視線を落とすと、そこには新たな文言が……

『青柿…… 無いのか……』

 これには困り果ててしまうコユキであった、時期的にもまだ四月を折り返していない時期である、青柿なんて入手困難なのは明らかであったからである。

 無念そうに賞味期限表示を見つめつつキュっと下唇を噛み締めていたコユキに善悪の声が届くのであった。

「あわわ、す、杉が…… とほほ、コユキ殿はいこれ絵巻持ってきたでござるよ、あとリョウコちゃんが」

 嘆きの声に続けて文箱ふばこをコユキに渡した善悪の横から顔を出したリョウコがコユキとその背後でアスタロトと並んで腕を組んでいたリエに向けて明るい声を掛けたのであった。

「あれれぇ~、コユキぃ、リエちゃんぅ~、おっきな木ぃ、倒しちゃったのぉ~、イケないんだぁ~! えへへぇ~♪」

「倒そうとしたわけじゃなかったんだけどね、ごめんね善悪、あと本堂から『鶴の尾羽』も持って来てくんない?」

「モー人使いが荒いんだから、まあ、待っているでござるよ、やれやれまったく……」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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