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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
264.タルタロスの大穴

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 アスタロトの不穏ふおんな言葉に緊張を高めたコユキの横から善悪が言った。

「あはは、大丈夫でござるよアスタ! 拙者とコユキ殿、ニコイチの二人の前ではノープロブレム、心配無用でござる! んね? んね? コユキちゃん! あははは、ブボォっ!」

 うるさかったのであろう、久しぶりにコユキの平手打ちが善悪の顎を捉え、善悪は本堂の隅までごろごろ転がっていき、気を失ったのかピクリとも動かなくなった。
 少し静かになりオルクスの寝息がスヤスヤ響く本堂で、コユキはアスタロトに向き直る。

「それで、そのやばい奴を封じた場所は? それに、そいつらってバアルやアスタ、元のアタシ達より邪悪、というか強かったの?」

 珍しく即答せずに腕を組んで考えていたアスタロトは、終始デレてウザったく纏わり付くトシ子の頭を撫でながら答えた。

「場所と言うかタルタロスって呼ばれる大穴だな、封じられているのはウラヌス、クロノス始めとした多くのティターン族、それとギガス達だ。 強さという意味では信仰を失ってからそろそろ六千万年だからな、肉体も霊体も朽ち果てていようから心配いらないだろう。 問題は彼奴等きゃつらの邪悪の象徴たる『魔核』の存在だな…… マーズとヘカトンケイル、キュプロクスは火星だったか? 我等も十二人揃っていた時とは違い大きく力を減らしているしな、我等三兄弟と手下の悪魔達だけでは焼き尽くされて影しか残らないだろうな…… あんな物が地上に出たら、もうどうしようもない」

 アスタロトほどの大魔王を持ってしてこの諦念ていねん、やば過ぎる状況なのに、金色の暗黒騎士が空気を読まずに手を上げて、俺もいるぞとか言ってはしゃいでいた、馬鹿なんだなぁ、アヴァドンって。

 別にアヴァドン、別名アポロンの阿呆が移った訳では無いだろうが、コユキと漸く起き上がり戻って来た善悪も、揃っておかしな事を口にするのであった。

「あれ、アタシ達って三兄弟だっけ? うーん、そうかー、三兄弟よね? ね、善悪?」

「うん、そうなんだけど…… なんか、もう一人いたような? 四兄弟だったって事は無いのであろうか?」

 アスタロトが呆れたように答えた。

「何を言っているのだ、コユキも善悪も、我等は三兄弟、長兄がルキフェル、次兄がバアル、そして末弟の我アスタロトのみだろう? 他に誰がいるというのだ、確りしっかりしてくれよ」

「う~ん、そうなんだけどぉ?」

 未だ納得行かない顔で首を傾げているコユキはそのままでアスタロトは会話を続ける。

「兎に角、もしもタルタロスの結界が破られるような事があったら事だ、その場合は全員が犠牲になってでも封印するしかない、あんな危険な物を地上に出すわけには行かぬ、元『神』や『天使』と仰ぎ見られた我々の責を果たすしかないだろう」

「そ、そんなにやばい物質で出来てるのでござるか! 炭素や珪素けいそ、鉛とは大違いでござるな…… そんな物うっかり人間が掘り出す事なんか無いでござるか? ああ、封印があるから大丈夫なのでござるか」

 善悪の疑問にアスタロトは首を振って答えるのであった。

「魔力結界で封じたからな、物理的な掘削には無抵抗だぞ、とはいえ人間には何の価値も無いだろうし、態々わざわざ掘り起こすような事は無いだろう。 昔、ガラスの食器の色づけ、緑だったか、それ用に欲しがった変わり者の権力者がいたから銀化合物の鉱山を教えてやった事があるが、あんな変わり者の為政者いせいしゃなんてそういないだろうしな、持ち出した所で直にすぐに死んでしまうだろうしな」

 ピクっと善悪のコメカミが引き攣ったのである。

「ま、まさかその権力者って…… ユリウス…… カエサル、じゃないよね? でござる?」

 アスタロトが嬉しそうな顔で返事をした。

「よく知ってるじゃないか善悪! 思い出したのか?」

「くぅぅぅ~っ! は、ハプスブルク家ぇぇぇ~! と言う事はヨアヒムスタール鉱山――――」

「ボヘミアのな! 因みちなみに最近善悪の蔵書からメルカトル図法? の地図帳を見て楽しんでいるのだが、タルタロスの大穴は全部で五箇所だが、当然ボヘミアの鉱山は含まれていないぞ! 安心してくれ」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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