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No.2 新卒で複業という選択を

石川 凜(いしかわ りん)
2014年に京都大学農学部に入学。1年の留学を経て2019年度から働き出した彼女は、新卒で農業系ベンチャー2社(株式会社坂ノ途中株式会社ポケットマルシェ)で複業を開始。2020年1月からは3社目となるクックパッド株式会社も加わり、パラレルワークをこなす。

新卒1年目にして3社目での仕事を始める、という選択ができた彼女は、「仕事」や「人生」をどのように捉えているのでしょうか。

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_____ まず、3社って、すごいですよね。

めっちゃ「なんで!?」って聞かれること多いです(笑)よく言われるのは、「京大卒業したんだから、大企業に就職するでしょ」「普通、正社員になるでしょ」ってこと。私自身、就活もしてて、もともと人材系メガベンチャーに就職しようかなと思ってたし、インターンも複数行ってました。本当は内定もらって就職しようとしていた会社があったんですけど、内定式の前に辞退したって感じです。その時も、迷ってましたよ。

_____ どんな迷いでしたか?

自分のその後のキャリアを考えた時に、まずは一旦ちゃんとした会社に入って研修とか受けて学ばせてもらうことで、その後のビジネスパーソンとしての蓄えになるんだろうなと思ってて。

それをなしに何もできない状態でスタートアップに行っても、自分が貢献できることも少ないだろうなと。そしたら、入った会社にとってもよくないし、自分としても成長機会を失うかもしれないと思っていました。だから、新卒で、人を育ててくれる会社に入るほうが、自分にとっても、いずれ行きたい会社にとっても、両者のためにはいいんじゃないかと思ってましたね。

ただ一方で私の場合は、坂ノ途中とポケットマルシェが自分の目指したい世界にそのままぴったりだったからこそ、そこで今すぐにでも働きたいという思いはもその時からありました。

____ 今働いている会社とは、以前から繋がっていたのですか?

坂ノ途中は、学生インターンからの今はアルバイトで、ポケットマルシェは、学生の時からアルバイトとして現在は業務委託。私は留学して1年卒業が遅れて5年目があったから、5年目は就活をしながら坂ノ途中のインターンを始めました。

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その時は、坂ノ途中は自分がやりたいことに近いけれども、今行ったところで貢献できるスキルもないし、“教えてもらえる環境”ではないと体感していたから、インターンしながらも別のところに就職しようと思っていましたね。

5年生の8月からポケットマルシェでアルバイトを始めましたが、その時には別の会社で内定が決まっていて、そこに行くかなと思っていた段階でした。

____ 就職を控えたそのタイミングでポケットマルシェでアルバイトを始めたのはなぜですか?

もともと留学前にポケットマルシェの前身であるNPO法人東北開墾でインターンをしてたので、ポケットマルシェという会社ができた時からいいなとは思っていて。あと、5回生の4月に『農業ベンチャーをキャリアとして考える』という趣旨のイベントのお手伝いをしてたのですが、その時にポケットマルシェの人(東北開墾のインターンで知り合った人)が来ていて、「アルバイトできたらいいよ」と言ってもらえたので、せっかくの機会だしということで、東京に行ってアルバイトを始めました。

そこで、会社ごとの“環境が違う”ことを実感しましたね。ポケットマルシェの、社員さん、社員さんの持っているスキル、そこで学べること、自分ができること、使えるリソース、東京で働くこと...

いろんなことが会社によって違うんだなと思って。

そしてポケットマルシェで働いているうちに、実は自分もここで働く中でいろんなことを学べるかもしれないと思うようになりました。別に大きな会社に入って研修受けなくても、こんなにいろんなスキルを持った人たちと一緒に働いていたら、意外とどうにかなるんちゃうか、見よう見真似でもなんとかなるかもしれない、と思えたんですよね。
それまでは自分でも「新卒で農業ベンチャーなんて」みたいな気持ちもあって。でも2社目でも働き始めたら、「複業という形ならそれもありかも」という気持ちが生まれてきました。

でも、そこからまた迷って、「このまま2社で働くのもいいかもしれないな...」「でもやっぱりな...」みたいな気持ちの間でだいぶ揺れ動いていました。
その時に、『10年後の仕事図鑑』とか、webの記事で「歳をとった時に、ネタにできるような人生がいいよね」みたいな記事を読んで、その通りだなと思って。

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この先、「私はこれができます」っていうスキルがAIに取られるかもしれないし、あるスキルが普遍な価値になるとは限らないし。経歴で人の価値が判断されないような世代になってきているし、今後は何だかよくわからないものを形にしていくみたいなクリエイティブな仕事しか残らないような気がしていたから、農業ベンチャーみたいに整っていない環境の中で、バラバラにあるパーツを組み立てて事業を組み立てるスキルは意外と今後役に立つかもしれないなと思って。

____ 心の中では決まっていたのですか?どっちの道に進みたいのか。

相当迷ってましたけどね、実は(笑)。でも、いろんな情報を集めて自分を納得させようとしてたかもしれないです。

昔からずっと、“ my life is my message ”っていう言葉がすごく好きで、それをモットーにしているんだけど、自分の買い物、行く場所、会う人、関わるプロジェクトとか、その一つ一つがmy messageに繋がっている生き方をしたいなとずっと思っていて。正直なところ、内定をもらっていた会社で働くことはmy message に繋がっているとは思えなかったです。

でも、「とはいえ、今は修業期間で、その先にやりたいことをやったらいいんだから。」みたいなよくありがちな論理で自分を納得させようともしてみました。
それでも、私の場合は、my life is my message っていうモットーがあったのと、『いつ死んでも後悔しない生き方』をしたいなと思っていて、その2つを徹底しようとすると、自分のやりたいことにまっすぐな会社に行くのがいいんだろうなと思いました。

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_____ どうして最初から “複業” を選べたのですか?

私には、複業という働き方が自分にあっているなと思っています。

ずっと一つのプロジェクトをしていると飽きてしまうのですが(笑)、今日はこっちの日、次の日はこっち、という日々新しいことができるのは、自分にとっても刺激になるし、学びの幅も多いし、関われる人の数も多い。会社に対しても結果的に還元できるものも多いのではと思っています。

そもそも“農業ベンチャー”という括りは広くないから、1社にして視野が狭まってしまう気がして。2社掛け持ちすることである程度視野は広がるかなと。

_____ 会社との折り合いはどうしたのですか?

坂ノ途中の社長と、ポケマルのCEOや当時のCOOが、ビジョンが共有できる仲間だったから、坂ノ途中でインターンしている時に、ポケマルでアルバイト始めますってことも言いやすかったですね。

自分的にはめっちゃわがままだなと思ったし、リモートも多くなって時間数も減るからできることは少なくなるし申し訳ないという気持ちはあったけど。

でも、そこは自分の意思を大切にして強気のスタンスでいたと思います。
ポケマルでアルバイトを始める数ヶ月前から、話し合ってはいました。なぜポケマルでアルバイトをしたいのか、なぜ今の環境だけでは不満なのか。小野さん(株式会社坂ノ途中 代表取締役)は、その「なぜ」というところにしっかり寄り添って聞いてくれて、だからこそ、今後のやりたいこと/キャリアを考える機会をもらえました。

心がけていることとして、自分の人生だから自分が決めるんだ、自分がやりたいようにやるんだ!という強い意志は持つようにしてます。

_____ 何でそんな強い意志がもてるのでしょうか?

自分勝手なんだと思います(笑)自分がやりたいことだけ、やりたいようにやりたい!という性格なので。自分の意思でいろんなことを決めて行くタイプだから。幼稚園を決める時にも、「お兄ちゃんと一緒は嫌!!」って言って、自分で幼稚園を決めてたらしいです(笑)

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あ、でも、強い意志がなくても、1社に就職しなくてもいいというのが今後は普通の選択肢になってほしいですね。そういう働き方/生き方を実践する人が増えたら、理解してくれる人は増えるんだろうなと思っていて、だからこそ自分はその道を選んでいます。

_____ 今の道を歩み初めて、どうですか?

「本当にこれで良かったのかな」と思うことはありますね。会社のプログラムでいろんな講座を受けさせてもらえるとか、会社のプロジェクトで長期の海外出張を任されるとか、いわゆるすごい人の経歴を見た時とか、同年代でも特定のスキルがすでにある人たちとか、

そういう人を見るたびに、「私は本当にこれでよかったんだろうか」「私にはスキルないな」とか、「この先大企業に転職できるのかな」とか、「いろんな可能性を潰しちゃったのではないかな」みたいな不安はあります。

高校の勉強、大学受験の時も、自分の可能性を潰したくないから、とりあえず選択肢を潰したくなくて、だから勉強する、みたいなところはあったので。自分の可能性をいかに潰さないか、みたいな。

新卒で今の選択をしたから、いろんな可能性をすでにたくさん潰したなという感覚はあります。ただ、いつまでも可能性を広げるとは言ってられなんだなとも思ってます。

ひとまずは、いかにリスクをとって、いかに面白い生き方をするのか、いかに無難に生きないか、というのをテーマにしようと決めたので。そういうことで自分を納得させています。


_____ お金のことは心配なかったですか?東京に住んでるし、生活費はかかりそうな印象だけど。

待遇的には週6日働いているから、総合的な金額でいうと、生活はできるっていう感じです。

でもやっぱり、アルバイト・業務委託・パート雇用の掛け持ちだから給料は高くないし、有給やボーナスもないし、週30時間働かないと社会保険入れないから国民健康保険払ったりとか。確定申告もしなきゃいけないし、一般的に見たらしんどいんだろうなと思っています。でも私は別にお金持ちになりたい!という欲はないから、普通にご飯食べれたり、たまに旅行行けたりできたら、自分的には満足です。それに仕事も自分が好きなことをやっているのであまり抵抗はありません。

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ただ一方で自分の適正な時給とか、自分が “いくらぶん働いているのか” というのは、自分で考えるようにしています。一般的な働き方も参考にして、自分にいくら払われているのが適正なのか、みたいなことを自分で考えて会社にも提案するようにしています。

それが自分で自分の人生に責任を持つことでもあると思うし、自分の舵を自分で握るってそういうことかなと。


何に関しても一箇所に依存していないことがいいなと思っているから。依存先を分散させることがリスクが少ないという考えです。いくつもの仕事を持って、自分が自分に対してコントロールの権限を持っているようにしています。だから企業に雇ってもらっているというよりは、企業とも対等な権限を保っているというか。

そう考えられているきっかけは、一度リーダーシッププログラムに参加した時に、自己効力感を持ちましょう、という話があって。それもあって「自分はできるぞ」と自分に言い聞かせながら生きています(笑)


_____ これからのことと、最後に一言!お願いします。

次はできたら海外で働こうかなと。無難じゃない生き方、リスクをとった生き方。突拍子も無いことをしたいなとおもっていて。

ふさわしいタイミングで、ふさわしいことが起こると思っているから、然るべきタイミングを逃さずに、今だ!と思ったらすぐ動けるような状態でいたいなと思っています。
この間はオーストラリアでとても面白そうな会社をたまたま見つけたのでDMを送ろうかなと思ってたけど、この事態なので。コロナがおさまったら、海外を考えようかなと思います。

それまでに、できることはやらなければと思ってますね。今はとにかく目の前のことを。

社会は結局人々の人生の総和でできているから、それぞれの人が自分の人生を何のために使うかということは、社会にとって大事なことだと思っています。

“Living experiment”という言葉が好きで、いつも「私の人生は実験なんだ」みたいな、そういう感覚を持っているんです。別にそれが正解かどうかはわからないけど、試しにやってみて、その結果がよかったとしても悪かったとしても、その後の他の人の人生に活かせたらいいなと思って生きてきます。

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【編集後記】
写真からもわかるように、ゆるく、ふわっとした容貌の凜ちゃん。
“3社でパラレルワーク”という単語だけ聞くと、「能力があるからできたこと」と単純に見られがちかもしれません。
その背景には、自分の気持ちを言語化して、やりたいことを貫こうとする強い意志があったからこそできた選択だということがひしひしと伝わってきました。
その一方で、
いきなりジャンプして複業ができているわけではなく、インターンの時期があったり、これまで大切にしてくれた人たちに同業社に近いところで働く決意を伝えることもしていることがわかります。
社会のこと、未来のことを真摯に考えていると、その想いが相手にも伝わり、着実に環境を作っていけることを体現しています。かっこいい。

まずは、自分を信じて考えて、相手を信じて伝えてみること。凜ちゃんからそんな学びがありました!

今後も、彼女の動向を追っていきたいと思います。

【ライター】
篠原 七子(しのはら ななこ)
神戸市出身、福岡市在住の26歳(2021年時点)。自然と調和した暮らしづくりを目指し、コンポストの研究製造販売をする会社でCS/広報として働く。本メディア発起人(経緯はこちら)。
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