エッセイ『美容室トラップ』

ここだけの話なのだが、美容室の中にはトラップが山ほど仕掛けられている。しかもそれはすべて回避不可能のトラップであるから、タチが悪い。今回は特別に美容院に行く際に気をつけるべきトラップを教えようと思う。

一番注意しなければならないのは、髪を切る前の準備段階の時だ。この段階のメインイベントはシャンプーである。ここにも、たくさんのトラップが仕掛けられているのだが、皆さんはきっと気づいていないだろう。シャンプーをしている間は至福の時である。ここで私たちは、顔にティッシュのようなものを被される。顔を見えないようにするためなのだろう。視界はティッシュによって真っ白になり、プロのシャンプーとヘッドマッサージによって、私たちの意識は天へと向かいたがっている。ただ、私はいつもここで困惑する。ティッシュをかけている間、私たちはどんな顔をすれば良いのだろうか。できれば目を瞑りたいのだが、目をつぶると寝てしまいそうで怖い。逆に目をあけていればいいじゃないかという人もいるかもしれないが、もう少し注意深くなってくれ、頼む。もし、ティッシュのような何かがマジックミラーのようになっていて、向こう側からはこちらの顔が丸見えだったらどうであろうか。私たちの顔を見て嘲笑っているかもしれない。私は一度それを確かめるために、変顔をして見た。しかし相手の反応は変わらない。お客様が変な顔をしていても淡々と話を続けるように教育されているのだろう。恐ろしい施設である。