詩)蜘蛛の巣

蜘蛛の巣に蝶がいた
可哀想にと逃してやった
娥の類なら何も思わなかったのに
黒い大きな羽が美しかった

蜘蛛は何日も食えずに
腹を空かして待っていた
何処にも行かず
息を殺して
獲物が掛かるのを待った

幾つもの眼が美しい私を見つめる
赴くままに空を舞い
花から花へと蜜を吸い渡る
地を這っていたあの日は何処か

何が正しくて
何が間違いか
何が美しく
何が醜いというのか

生きるもの
死ぬもの
生かされるもの
殺されるもの
運命などと薄っぺらな言葉が
頭蓋骨の内側に何度もぶつかる

正義か罪か善行か悪事か
答えを知る誰かに
会える日は来るだろうか
扁桃体に透明な糸が絡まり
腹を空かせた蜘蛛が
恨めしそうにこちらを覗く

眼…まなこ 赴く…おもむく 何処か…どこか
扁桃体…へんとうたい(記憶と感情のコントロールをしている脳内の部位)


この記事が参加している募集

スキしてみて