掌編小説)マジか⁉︎

何が悲しくて男3人で飲まないといけないのか…。
研修終わりに『同期3人が揃う機会なんて、なかなかないよね。飲みに行こうよ』って…。
友達ってわけじゃないし、正直、話が途切れ途切れになって困る。

あの店員、いいお尻してるなぁ。胸もでかいし、顔も可愛いいし…。あんな彼女がいたら、週末に高いお金を払ってオネェちゃんを呼ぶ必要もないのに…。

『田中君…。聞いてる?』

ヤバ!店員に集中し過ぎて違う世界にいってった…。

「おっ。おう。なんだっけ?」

飲み会の言い出しっぺだからって高山は頑張ってるなぁ。男3人しかいないのに、きちんと気を使って話して…。こういう気遣いが営業成績にも繋がってるんだろうなぁ…。顔もそこそこイケメンだし、可愛い彼女とかいるんだろうなぁ…。

「高山って彼女いるの?」

『えっ?いるよ。』

だよなぁ。リア充っぽいしなぁ。

「どこで知り合ったの?出会い系?」

『出会い系とかやった事ないよぉ!高校の同級生なんだ。もう7年位付き合ってるから、最近は何かと結婚を匂わされて困ってるよ。田中君は?』

「まぁ…。俺はそこそこな。まだまだ、遊びたいし…。沢山いて選べないって言うかぁ…」

『ヘェ〜。田中君は見かけによらずモテるんだね』


川村の奴、やっと口を開いたと思ったら、きちんと嫌なトゲを刺してきやがる。
いくら同期3人だからって、もう少し気を使って話せよ。話題もなんかふってこい。根暗な感じだし、前からいけ好かないと思っていたけど…。
コイツが営業成績TOPとか意味がわからない。

『そう言う川村君は?』

うわー。高山は優しいなぁ。流石!ミスター気遣い…。イヤイヤ、川村の見た目と性格でなんとなく察しろよ。川村も下向いてしまったじゃないか。
いい気味だけど…。

(急に川村が顔を上げて神妙な面持ちで話し出す。)

『僕も彼女は作りたいんだ。でも、作らないようにしているんだ』

作らないって…何様だよ。作“ら”じゃなくて、作“れ”ないんだろ。同期の前で見栄を張りたいのはわかるけど、コイツは本当に可愛げがない。

『なんで作らないの?』

おい、おい。マジか高山。それは聞いてやるなよ。そんな質問をしたら、川村が黙り込むって…。

(予想に反して、川村が真面目な顔で話だす)

『自分で言うのも何だけど、僕は異常にモテるんだ。もし、彼女が出来たら沢山の女性が悲しむ事になると思う。いや、それだけじゃなくて、“川村ロス”で、外を出歩く人が減ってしまって国の経済にも影響を与えてしまうかも知れない。女性は悲しい時にストレスで甘い物を食べたがるから、砂糖の消費が極端に増えて、砂糖不足なんて事態になってしまうかも…』

マジか⁉︎

川村も冗談とか言うんだなぁ。ただ長々と話した割におもしろくない。しかも、どこでツッコンだらいいのか…。高山も“えっ”って顔して困ってるし。

「いやいや。そんなの気にするなよ。砂糖の値段が上がるとか知った事か。そんなにモテるんなら、ほら、あの店員の子とかいっとけば?可愛いしどう?“川村ロス”とか起きたら、俺がなんとかするから」

なによりもこの微妙な空気をなんとかしないと。あまり話に関わりたくはないけど仕方ない。今回だけは、助け船を出してやるよ。

『えっ。本当
⁉︎田中君がなんとかしてくれるの。田中君、いい人なんだね。じゃぁ。お言葉に甘えさせてもらうよ』

マジか⁉︎

まだ、この面白くないボケを続けるのかぁ…。コイツ予想外にハートが強い…。

……。

『そろそろ時間も遅いし、お開きにしようかぁ』

空気を読んで高山がこの会を閉める。

(会計を済ませて店を出た)

『お疲れ様ー』
「おっつー」
『お疲れ様。田中君、約束忘れないでね』

マジか⁉︎

まだ、そんな事を…。コイツ、マジでヤバい…。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2年後

今日も暑いし、きつい。
こんな日の外回りはマジで地獄だ。最近は、景気が悪い為か、どこに行ってもコストカット、コストカットって渋られるし、ボーナスも下がったしやってらんねぇ。喉も渇いたし、アイスコーヒーでも…。
スタバは高いからコンビニに寄って行くかぁ…。

(珈琲マシーンにコップをセットしてボタンを押す。)

ガムシロ、ガムシロ…。あれ?ガムシロが切れてる…。切れる前に補充しとけよ。

「すいませーん。ガムシロ下さーい」

『すいません。どうぞ』

(いつもよりも、小さなガムシロを一つ手渡される。)

「もう一個もらえませんか?」

『お客様。申し訳ございません。砂糖の価格が高騰しておりまして…。ガムシロの入手が困難になって、お一人様、お1つ限りでお願いしています。』

えっ?そんな事あるの…?

(ビービー…。ビービー…。)

携帯がブルったぁ。
チッ!また、営業先からか…。
あれ?川村からだ。珍しい。なんだろ?
3ヶ月前に急に辞めやがって。アイツが辞めたせいで営業のエリアは増やされるし、引き継ぎも不十分なまま、“後は、なんとかして下さい”って最後までムカつく奴だったなぁ。
(LINEにはメッセージと2ショットの写真が送られていた。)

結婚しました。
田中君のおかげです。
追伸
後は、なんとかして下さい。

うわー!居酒屋の店員さんだ。

…ん…。
…不景気…。砂糖不足…。結婚…。
えっ⁉︎そう言う事…。

川村!マジか⁉︎

おわり

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