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エッセイ)私の好きなスタジアム

“スタジアム”って聞いて最初に思い浮かべるのは野球場だ。日本の球場ではなく、アメリカのでっかくて芝が綺麗な球場が思い浮かぶ。

その球場の名前も所在地も知らない。
それでもでっかい球場でホームランを打つと、外野席で青いチェックのシャツを着た割腹のいいおじいちゃんがビールを溢しながら叫んで、野球帽を被ったガキンチョがオーマイガーってやってたり、若いおねぇちゃんがお互いにハグしあって喜んだり、歓喜と絶望が一瞬ではじけてごちゃ混ぜになる、そんなシーンが浮かぶ。
スタジアムって言われると最初に浮かぶのは、
“場所”ではなく“人々が熱狂しているシーン”が浮かぶ
その前提を踏まえて“好きなスタジアムは?”と聞かれると近所の県営体育館が真っ先に浮かんでくる。

どこの県でも1つや2つは県営の体育館があると思う。少し広めで、壁にはボールで凹んだ痕があり、観客席の椅子はかなり固め、部活の大会とか室内スポーツの社会人リーグなんかで使われているちょっと古めの体育館。
なんの変哲もない、どこにでもある体育館が、私の好きなスタジアムだ。

私は数年前までフットサルの県リーグで監督をやっていた。リーグには色んな人がいた。
単純に楽しみたくてやっている人、ここで認められて名前を残したいと思っている人、プロになるのが夢でその足がかりとしてやっている人、部活でやり残した忘れ物を探している人、思いや熱量は人それぞれで様々に違っていた。思いの強さに強弱はあったものの、誰もが、“勝ちたい”と思っていた。負けてもいいやって奴は一人もいなかったと思う。

そんな県リーグには、様々なドラマが起こる。
格下のチームが格上のチームに勝つジャイアントキリング。試合終了直前の逆転劇。終了直前のシュートがブザーと同時にゴールに入るブザービーター。優勝候補同士の天王山や負けたら降格の決まる裏天王山なんかは、観客席にいても、その緊張感が伝わってきた。
アマチュアのリーグとはいえ、好きな事を犠牲にして必死でやっている人も少なくなかった。自分のチームがジャイキリをやった後、相手チームの数人が泣いていた光景は、いい歳をした大人が…って未だに脳裏に残っている。
アマチュアのリーグに純粋な観客なんかは、殆どいない。観客は大抵が参加チームの選手や関係者。それでも200人近くの人が観ている中での試合は、日頃、感じることのない高揚感なり満足感があった。
自分は選手じゃなかったから、実際にプレーをしなかったけど、それでも毎試合、感情を動かされたし、成功も挫折も味わう事が出来た。
スタジアムは人の感情を揺り動かして、非日常の空間を作り出す場所。そう考えれば、私にとって、この体育館以上に感情を動かされた場所はない。
だから、私の好きなスタジアムは、このなんの変哲もない、どこにでもある体育館だ。

監督をやめた後も私は体育館に通っていた。
身軽な立場で教え子なり、元チームメイトに“あーだこーだ”言うのも選手の成長とかが見られて、自分が関わっていた時とは、また違った楽しみがあった。
純粋にフットサルが好きだから、唯の観客として観るのも楽しい。いい試合展開だと、思わず立ち上がって叫んでいたりもした。

そんな、自分の楽しみだったリーグもコロナの影響で、去年は無観客試合になり、今年は開催も危ぶまれた状況になっている。
このリーグの為に毎日走ったり、映像を見て学習したりとできる範囲での努力を続けている選手がいる事を思えば残念で仕方がない。
唯の体育館をスタジアムに変えた数々の試合が思い出の中だけになってしまうのは、とても寂しい事だ。
まだ、先の事になってしまうのだろうけれど、1日も早く“ワーワー”と皆ではしゃげる日が戻って来る事を心より願っている。

おわり

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