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カルチャーデザイン 07 みんなのサステナブル

「サステナビリティ」は、ビジネスシーンではもう何に関してもついてくる言葉になりました。しかし、一般の生活者として、サステナビリティを自分ごとに捉えている人はまだ多くはありません

特に日本では、どこか高尚なものだとイメージされていたり、自分が何かアクションを起こすなんて無理だと思われがちです。また、「サステナビリティ」という言葉の裏にある問題の範囲が非常に広いにも関わらず、全てを混同して語られており、課題を曖昧にしてしまっています。

ただ、気候変動危機は加速度的に迫っており、世界には様々な問題が山積しています。企業のビジネスモデルや、ひとりひとりのライフスタイルを変えていかなければなりません。

そんな課題意識をもった、大手アパレル企業のアダストリアは、新しく子会社をつくり、サステナビリティを実現する新ブランドを立ち上げようとしていました。これまでとは全く違った考え方でのブランドをつくりたい。その思いを汲み取り、KESIKIがコンセプトやブランディングをお手伝いしました。

サステナブルをみんなのものにするためには。KESIKIとしても問い続けたい、大きな問いへのアプローチを追いかけます。

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生活から遠いサステナビリティ

大手アパレルのアダストリアグループは、ファッションのサステナビリティに向けていくつかの事業を進めていました。そういった流れの中、いよいよサーキュラー・エコノミーに本格的に取り組むため、精鋭メンバーを集めて新会社を設立。会社の期待を背負う、新しいブランドを発足することに。その立ち上げをビジネス面でサポートする戦略コンサルファームのローランド・ベルガーより、KESIKIの元に相談がありました。


決まっていたのは、すべての衣服をコットンなどの天然繊維、もしくは再生ポリエステルなどのリサイクル素材で作るということ。

環境負荷を軽減するという側面を重視したブランドをつくることはできますが、それと同時に叶えなければならないのは、アダストリアとしてこのブランドを同社の他ブランドと肩を並べる規模にまで成長させたいというオーダー。この両立はとても難しいものがあります。

というのも、日本ではまだまだ「サステナビリティ」が生活の一部に溶け込んでいないからです。消費者が環境負荷について考えながら物を買ったり使ったりするという意識があまりない。また、サステナブルなライフスタイルが一部の「意識の高い人」のものとなってしまっており、ブランドとして押し出すことで消費者が距離を感じてしまうことも。ここが、サステナが売りになる海外との大きな違いだと感じていました。

様々な職種や年齢の人にユーザーインタビューをしたところ、人それぞれ「サステナブル」がに対する理解や認識が違うことがわかりました。例えば、「オーガニック・ナチュラルであること」をサステナブルと捉える人もいれば、「店舗に着なくなった服の回収箱があること」をサステナブルと捉える人もいたり。


誠実だけれど、遊び心も忘れない

エコやサステナブルを前面に掲げる打ち出し方では、マスマーケットに対してアプローチするのは難しいのではないか……。

その課題意識から、まずブランドの人格づくりをしていくことに。
サステナブルというコンセプトはひとまず横に置いておき、「未来のファッションやライフスタイルはどうなっていくか」という大きな問いを、チームで話していきました。

メンズ・レディースではなく、ユニセックスに。
シーンごとにいろんな服を買うのではなく、一つの服をいろんなシーンに。
服に体型を合わせるのではなく、服が体型に合わせてくれるように。

そんなふうに、より個人が素直に心地よく生きてゆく、時代のシフトが起こっていくのではないか。それが引いては、トレンドサイクルが早く、大量消費を促し続けるファッション業界を変えていくのではないか。

そんな仮説が浮かび上がりました。


また、様々なブランドがサステナブルにアプローチをしている中で、このブランドとしての態度のポジショニングを考えていきました。 自然と共生する生き方をかっこよく魅せるアウトドアブランドや、シンプルで変哲のないデザインを追求するライフスタイルブランド……。様々なブランドがある中で、このブランドはどんな態度を世の中に示していくのか。チーム一体となって話し合い、言語化をしていきました。

ブランドも人も同じ。人格やこだわりを形成し、常に立ち戻れる軸をつくることで、社内外での求心力の起点となり、ブランドのらしさを保ちながら善き成長が実現しうると考えます。

この議論の中から生まれたブランドパーソナリティが、この2つ。

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「KIND, yet CONFIDENT」
多様な人やモノ、価値観を受け入れる寛容さ。ありのままの自分を受け入れる、凛とした強さ。やさしいけれど、嫌味のない自信を持つ。

「HONEST, yet PLAYFUL」
自分にも人にも、嘘をつかない誠実さ。その場の空気をほんのり和ませてくれる明るさ。まじめだけれど、いつも遊び心は忘れない。


インクルーシブな記号

次に考えたのは、ビジュアル・アイデンティティである、ブランド名とロゴ。デザインプリンシプルを元に、内包的で可変性のあるネーミングを考えていきました。

ネーミングは、言葉の意味から論理的に考えつつ、ロゴにしたときの見た目のデザインも考慮する、というのが一般的な考え方です。

今回も、言葉遊び的なアイデアも多く出ました。しかし、「新しいふつう」を提案するブランド。ネーミングも、新しい作り方に挑戦してみようということになりました。

様々な人の生活に寄り添う、よりニュートラルな表現をしたい。思想をダイレクトに押し出しすぎず、より多くの人に自然に受け入れられるネーミングにしたい。

そんな思いから、文字を一度、「意味」から切り離し、「記号」として捉えてみることに。そのときに、内包的でインクルーシブな印象を受ける文字を選んでいきます。

「アルファベットと数字の中で、可変性のある形はどれか?」ということを考えたときに、「O(オー)」と「0(ゼロ)」という文字が浮かび上がりました。

インクルーシブや循環、境界線、つながるといったキーワードを表現してくれます。また、小さい人が着ても、大きい人でも細い人でも、どんな人にも服が自分に合わせてくれるというイメージを連想させます。そこに、あなたの意味をもつ「U(ユー)」をあわせることで3文字から構成されるやわらかなビジュアル・アイデンティティを作れるのではないか。

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見た目のイメージと、声に出した時の響きなどを総合して考え、喧々諤々の議論の結果、ブランド名は「O0u(オー・ゼロ・ユー)」に決定しました。


楽しいA面と、思想を伝えるB面

ブランドコミュニケーションでは、楽しさや心地よさを前面に押し出し、あとからブランドとしての思想や環境に対する姿勢を伝えていくという、二段構えの設計を考えました。

O0uは、店舗を持たないD2Cブランド。店舗がない分、お客さんに対してブランドを知ってもらったり、ブランドの世界観を伝えるチャネルが必要です。そこで、当初は予定がなかった「ウェブマガジン」をつくるということを提案しました。

ECサイトは「A面」として、心地よさを打ち出す。オウンドメディアは「B面」として、ブランドの思想を伝えています。


KESIKIはECサイトのデザインディレクションも担当。写真家やスタイリストなどのビジュアライジングのスタッフもバランスを考えました。写真家は、いわゆるファッションフォトグラファーではなく、日常を切り取るのが得意な方がいいのでは。そう考えて、旅雑誌「TRANSIT」の創刊から携わっている、田尾沙織さんに依頼しました。

モデルのキャスティングも、ファッションモデルではなく、実際に境界線を越えるような生き方をしている方々に依頼をしました。意識せずとも自然とサステナブルな生活ができている方、影響力がありながらもリアリティを持ってブランドと共鳴する方など、O0uらしさを体現しているロールモデルとして出演いただきました。


KESIKIがエディトリアルディレクションを担当したウェブマガジンは、「楽しいサステナブル」というコンセプトで、ME & THE EARTHと名付けました。自分たちの生活の延長にある環境問題や解決方法を、生活者と一緒に学んでいくというスタンスです。

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いくつかの連載に分け、ブランドを多角的に発信する仕組みを作りました。連載「INSIDE O0u」では、ブランドに関わる人へのインタビューを通して裏側をしっかりと語る。

一方で、「MY SUSTAINABLE LIFE」では、モデルを依頼した方々などに伺った等身大のサステナブルや、「ECO-FRIENDLY POINEERS」ではサステナビリティを前向きに実現する企業やクリエイターの取り組みを紹介。商品紹介の記事は入れず、ブランドの思想を表現するための場所を用意しました。


サステナブルをみんなのものに

そうして、約半年の期間を経て、無事ブランドが誕生。

「何をしたら正しい」という答えがない中で、「自分だけやっても意味がない」と思ってしまったり、「自分には難しい」と考えられてしまっているサステナビリティを、みんなのものにしたい。そんな思いでブランドづくりを二人三脚でお手伝いしてきました。

サステナビリティを「民主化」し、誰もが一歩踏み出せるようにする上では、もちろんいろんな矛盾や葛藤も生まれてきます。

ただ、そんなトライアンドエラーも含めながら、先駆者たちや、生活者とともに、考えつづける「場」としてのブランドをつくるということ。それは新しいカルチャーを生み出すひとつの方法です。


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