ワンルーム
「今年の夏は、一緒に花火見に行こうか」
「いいね!行こう!」
―あの時の君の笑顔を、君との約束を、僕は果たすことができなかった。
***
僕の春は終わった。
これから始まる暑いこの季節を、君と迎えることは叶わなかった。
「もう…会うこともないのか」
君1人がいないだけなのに、部屋がものすごく広く感じた。
窓を開けた。窓の外の景色は、何も変わらない。変わったのは僕と君の関係だけ。その紛れもない事実が、悲しかった。
なんで僕は、君を信じてあげられなかったんだろう。
***
「部屋の整理、しなきゃな。」
誰にも届かない独り言を言いながら、僕は動き出そうとした。新しい恋を探せばいい。そう自分に言い聞かせた。
「これって…」
その時、テーブルにできた傷を見つけた。君が皿を落とした時にできた傷。皿を落として割った時の、君の申し訳なさそうな表情が浮かんだ。
「だめだなぁ…僕」
そんな傷1つに君を思い浮かべてる現状で、新しい恋なんて出来るわけないじゃないか。そう思うと視界がぼやけた。
***
君と買ったものを捨てることにした。ひとつひとつ、思い出を感じながら。君との会話を思い出しながら。
前を向くために、君を忘れるために。それなのに、君が僕をどれだけ思ってくれていたかを、思い知るだけだった。結局何も捨てられずに、ただ心だけが痛んだ。
***
―ねぇ、僕が居なくても大丈夫なの?
君がいないとって思うのは僕だけなの?
そんなふうに語りかけてみたけど、その行き場のない問いかけは、誰かに届くことなく、青いカーテンの上から僕を見下ろしていた。
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