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きみとぼくの白昼夢。(上)

2人を繋ぐ“赤い糸”が切れる音が聞こえた。

2人の時間が、君が他の誰かと出会う時間になっていった。

2人の日々は色褪せていった。

悪い夢を見ているようだった。
早く覚めてくれ。そう願うばかりだった。
でも夢じゃなかった。

僕は君を失った。


                                  ***


いつも通りの時間に目を覚ます。
君のもので溢れかえる部屋を見渡す。
君は世間で言うところの「元カノ」になったのに、まだ何一つ捨てられずにいた。
「やっぱり夢じゃなかったのか」
そう呟きながら洗面所へと向かった。

鏡に映る冴えない姿の自分と向かい合う。
茶髪で寝癖もついている。
「君がいないんじゃ、僕には何も残らないじゃないか」
君が使っていた黄色い歯ブラシを見つめながら歯を磨いた。

毎日同じ時間に起きすぎて、この時間に起きるのが習慣づいてしまったが今日は休日だ。
「まだ寝ようかな」
そう思って布団に入ると、枕にはまだ君の神の匂いが優しく鼻腔をくすぐった。
「君がいない明日が来るのが嫌だな」
そうか、こんな弱気なところも君を不安にさせていたのか。

振り返れば振り返るほど自分が情けなくなった。


                                 ***


気がつくと数時間が経っていた。
何も考えずにスマホを開いた。通知は1件も来ていない。
「馬鹿だなぁ。何を期待してるんだろう」
もしかしたら君から「なにしてるの?」みたいなLINEが来てるんじゃないかと思って期待したが、そんなわけがない。


ご飯を食べても味はしない。
噛み締めているのは昨日の残りのおかずじゃなく、最後の君の言葉なのだから。
「私もう無理みたい。さようなら。」
僕の中でどれだけ君が大きな存在だったかを思い知った。
君がいなくなっても考えるのは君のことばかりでまるで2人で居るみたいだった。


                                 ***


飲めもしないビールを片手に、部屋の窓から月を見ていると、君との会話を思い出した。
「私が月なら、君は太陽。2人で補い合って生きていこうね」
「僕たちならきっと大丈夫だよ!」

君は嘘をついていなかった。
月のように、想いも同時に欠けていったのだから。
「そんなところまで似なくていいんだよ」
その呟きは君に届くわけもなく、夜の冷たい空気に消えていった。


                                  ***


繋いだ右手も、笑ってくれたつまらない冗談も、誕生日にあげたネックレスを付けてくれたことも、君の弱さを見せてくれたことも。
全部が僕の宝物だった。
僕のだから独り占めしたかった。

だからお願い。
僕の知らない君を、僕の知らない彼に見せないで。


こんな僕もいつか、「もう大丈夫」と前を向ける日が来るのだろうか。
そんな不安を抱えながら、今日も夜が更けていった。

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