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短編小説。

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2022年8月の記事一覧

雨上がりに想う君。

雨上がりに想う君。

部屋を出て一人で歩いた。
君との思い出をかき消すように、ただ何も考えず。
外はさっきまで雨が降っていて、雨上がりの独特な匂いが立ちこめている。
「雨上がりの匂いってね、ぺトリコールって言うんだよ!ギリシャ語で“石のエッセンス”って意味なんだって!」
得意げに話す君の姿が浮かんだ。
もうその姿を見ることは叶わない。

***

ケーキ屋の前を

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わたがし。

わたがし。

「ねぇ!」
女の子をデートに誘うなんて人生で初めてだった。経験が少なすぎるせいで、ただ呼ぶだけの声がものすごく大きくなってしまった。
「…なに?」
ほらみたことか。でかい声に反応した君は、すごく怪訝な表情をしている。
「あの…その…」
頑張れ、自分。言うんだ。誘うんだろ、お前の目の前の女の子を。
「僕と…夏祭り一緒に行ってくれない…?」
恐る恐る君の方を見る。
「なんだ、そんなことか。いいよ。特に

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君とカメラと花火。

君とカメラと花火。

終わった。
全てを失った気分だ。
大好きなカメラにも触りたくないくらい、喪失感にかられていた。

シャッターを切る。
そんな一瞬さえも君に使えばよかったと思えるほど大切だった君は、僕のカメラには映らないくらい遠い存在になってしまった。

***

外でなにやら大きな音がする。
「あぁ今日花火だったか」
それまではなにも頭になかったのに、急に切

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逃した魚。

逃した魚。

終わりは唐突にやってきた。
私たちが築き上げてきたはずの2年半は、あなたの一言であっけなく幕を閉じた。

***

「あのさ、別れようか」
言葉が出なかった。頭が真っ白になるとはこのことだろう。
「なんで急に?」
できるだけ重くしないようにと、笑顔を作ったつもりだけど、上手く笑えているだろうか。
「好きな人ができたんだ」
言葉が

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