私には自殺願望があった。 幼少の頃、寝る前に布団にくるまって母から絵本を読んで貰うのが好きだった。童話世界の住人達が生き生きと動き回る様子に耳を傾けながら、いつも知らぬ間に眠りに落ちていた。 卓上照明の光に引き寄せられ飛び回っていた羽虫が、絵本の表紙の上に転がっているのを見つけた朝。私は初めて死の存在を知った。同時に、自分と名付けられた何かがある事、自分に起こる死と他人に起こるそれとは違う事に気がついた。自分とは何なのだろうか。どうしてここにいるのだろうか。自分にとって
写真集を見て妄想した夢小説を幾つか書きました。 夢小説(二次創作)①黒アゲハと長い夜---(黒ベビードールの見開き) 「あの人はもう戻ってこない」 部屋の片隅で澱(よど)んだ空気が少しだけ震えた。誰の声かも分からない無気力な呟き。誰もいない薄暗い部屋に、私は溶け込んでしまったみたいだった。 細くなった手首に触れると、まだ乾いていない傷口から生暖かい液体がぬらりと手のひらにつく。小さな鼓動を感じた。血液は林檎の様に鮮やかな色合いだけれど、私の顔はきっと人形の様に
01 ペンに魔法を… 「書き慣れた社内文書の様式で、ファンレターを提出しても宜しいか」 ネトサの没ネタだが、実際に便箋の前でペンを握ってみると、書きたい事は山ほどあるのに、何をどう書けば良いのか分からず白紙のまま。それこそネタもならん深刻な問題。 緑ペンに魔法を掛けて、素敵な文章を紡ぎ出せたらいいのに。 02 君の香り 沈丁花(ジンチョウゲ)が咲いている。 目が覚めて自室の窓を開けると、春前のひんやりした空気と一緒に微かな甘い香りが漂った。 「私はどんな動物
部活帰り。厚い雲で覆われた夕暮れの空が、冷たい雨を降らせた。 薄暗い通学路を傘を差して駅へ向かう学生達がちらほらと見える。大学の正門を出た頃は小雨だったはずだが、雨脚は徐々に強まり、今は大きな雨粒が上着の肩を容赦なく叩いている。ろくに教科書の詰まってはいない軽い鞄を頭に乗せ、俺は駅へ向かい走り出した。 黄色い傘を追い抜いた時、 「あれぇ〜、俺くんじゃない?」特徴のあるハスキーボイスに呼び止められた。 足を止めて振り返ると、間髪入れずに開いた傘をこちらへ差し向け、手招
目を閉じてイヤホンから聴こえてくる声に耳を傾ける……ただそれだけで幸せだった。初めて歌声を聴いた瞬間、長く夢に見ていた女の子と遂に出逢えた気がした。 平凡な日常の中で彩夢さんの存在が大きくなり依存度が増していく。「もっと~して欲しい」そんな要求ばかりが胸の中に溜まっていく。 もっと沢山の歌割りで声を聴きたい、グラビア写真集で可愛い姿が見たい、配信やツイートで日々の何気ない出来事を知りたい、好きな映画や小説や漫画、興味のある事や考え方を知りたい……。 無理はせずにしっか