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2023 全日本男子FS「ベスト演技」リレーが生んだ神試合

2023年の全日本選手権男子シングルフリーはまさに「神試合」でした。

フィギュアスケートファンはよく「神演技」という言葉を使いますが、それは「神がかっていると感じるほど完璧な演技」はそう簡単に見られないからこそそう表現したくなるものなので、神演技が連続で見られることはそうそうありません。それがまさか全日本選手権で、それも高難度ジャンプに挑むからこそ神演技が出にくい男子シングルのフリーで見られるとは!

フィギュアスケート専門記者のジャッキー・ウォン氏も「これはおそらく私が今まで見たフリースケート6人の中で最も素晴らしいグループだろう」とポストしていたほど。

素晴らしい演技を続けたのは最終グループの6人だけではありませんでした。その前の第3グループの吉岡希選手の演技以降、8人全員が現状でのほぼベストな演技を続け、挑んだジャンプでは一度も転倒や抜けがありませんでした。全員がプログラム内で4回転を2~4回跳ぶので、通常であればジャンプの転倒や抜けがいくつも出て当然なのに。X(Twitter)などで何名かが「スケオタが見る死ぬ前の夢のような大会」のような表現をされていましたが、「凄いものを見ちゃった」と思いました。

この大会がいかに滅多に見ることのできない神展開だったかは松原孝臣さんの記事が一番よくまとまっています。

私自身がこの神試合を見た記録をしっかり残しておきたいと思ったので、遅まきながら私の感想を記録しておきます。あの流れをもう一度思い起こしたい方はお付き合いください。

ちなみに私は男子シングルフリーはCS放送のある時間帯はCSで、それ以外はフジテレビの配信サービスFODをテレビ画面で見ながら「キス&クライ」と「#スケーターとつながろう」動画を要所要所で個人用に画面録画しながら見ていました。

男子SPから振り返りたい!という人はこちらの記事もどうぞ。
2023 全日本選手権 男子SP 鑑賞雑記


ペア競技のスタートダッシュ


実は神大会のスタートダッシュはペアのフリーだった気がします。
ゆなすみこと長岡柚奈・森口澄士組のフリーはすごかった!

NHK杯ではミスがあったこともありますが、合計135.39点だったのが今回は173.64点!わずか1か月で38点も積んできました。NHK杯の時に見えていた緊張をうまくコントロールして着実に技を決めていく姿には惚れ惚れしました。

しかもNHK杯の時より構成上げてるし!後半のサイドバイサイドのトリプルルッツは痺れました。NHK杯の時に感じたスケーティングの良さが土台にあるし、まだまだ成長していきそうなペアで先が楽しみでしかたありません!!!年明けに派遣される国際大会でSPのミニマムスコアを無事取得できて、世界選手権で彼らが滑る姿を見られますように。

第1グループ

第1滑走の海老原大弥選手からほぼノーミスの演技!
同じジュニアの垣内珀琉選手も回転不足やお手付き程度でほぼノーミス、田内選手はアクセル転倒と前半コンビネーションの抜けはありましたが後半でリカバリーしてまとめて。スケオタの注目の的だった世界ジュニアワールドの三枠目争いは垣内選手がゲットしました。

今のジュニアの選手がシニア大会に出るにはステップシークエンスの追加投入が必須。ジュニアの出場者は十分な演技ができない選手が多いのが常ですが、今大会は大崩れするジュニア選手が少なかった気がします。

周藤集選手が公式練習中の怪我でフリー棄権になってしまったことだけは残念でしたが。骨折という連盟発表に非常にショックを受けています…ものすごく先が楽しみな選手だと思っているので、焦ることなく怪我を治してほしいです。

第2グループ


片伊勢武アミン選手と佐々木晴也選手の演技が印象深かったです。片伊勢選手はSPで溝か穴かにひっかかった転倒がなければ第3グループに入っていたと思うので残念でした。フリーは後半疲れが感じられましたが、まとめ上げましたね!

佐々木選手は4回転挑戦してくるかな?と思いましたが回避してまとめる戦略で来ました。去年の全日本を現地で見た際、非常に好みの滑り&所作をする選手だと感じたので陰ながら応援しております。でも総合13位だと後半の国際試合派遣はないかな…というか京大の試験が大変だから無いか?来季も楽しみです。

  • 本田ルーカス剛史選手

第2グループで最も印象に残ったのは、今季を最後にペアに専念することが決まっている本田ルーカス剛史選手

「エクソジェネシス」に合わせて素晴らしい演技でした。大きなミスは回転不足&両足着氷になった4回転トゥループのみ。冒頭のトリプルアクセルがこらえ着氷になってコンビネーションにできなかったところ、ラストジャンプでしっかりリカバリーしてきたところに痺れました。

ペアとの練習配分がどうなっているのかはわかりませんが、西日本選手権の時にはあまり良い演技ができなくて全日本出場出場を逃してしまいました。しかし西日本選手権優勝だった織田信成選手が現役復帰に必須のJADAへの書類手続きが完了できていなかったことがわかり、繰り上げ出場となった経緯があります。織田選手を再び全日本で見てみたい気持ちもあったのですが、もし織田選手が出ていたら、この本田選手の感動的な演技は無かったと思うと複雑ですね。解説の本田武史さんもコーチ陣も泣かせる情感こもった演技で前半が締めくくられました。

第3グループ前半

  • 島田高志郎選手

この試合で最も不運だったのは島田高志郎選手かもしれません。
冒頭の4回転サルコウは踏み切る前に氷の溝か穴にはまった?ようで跳ぶことすらできず。頭を打つのではないか心配な転倒だったので思わず悲鳴を上げてしまいました。

彼の実力ならばその後まとめられたらトップ10に食い込むことはできたでしょうが、冒頭の衝撃のせいなのかそれとももともと古傷の調子がよくなかったのか、ジャンプ着氷の乱れが相次いで得点を伸ばすことはできませんでした。スケーティングと表現が素晴らしい選手だというのに実力を発揮することができず、とても残念です。

何より本人が一番悔しかったと思いますが、演技終了後笑顔で観客に応える姿が印象的でした。

11位だとシーズン後半の国際大会派遣があるかどうかは微妙でしょうか…?なかったとしても、幸いシーズン前半で昨季を超えるSBは出せているので来季のGPS枠は保証されるだろうと期待しています。フリー「死の舞踏」は完成系を見たいので続行という判断をしてくれると嬉しいなぁ。(新プロでも勿論嬉しいですけど)

  • 三宅星南選手

昨年のGPS&全日本選手権の成績がふるわず、今季国際大会派遣がなかった三宅星南選手。彼にとってもある意味正念場であったこの大会。好調だった一昨年の状態に完全に戻すところまではいきませんでしたが、4回転サルコウがお手付きながらも入りました!

スタミナのない選手というイメージが長くあったのですが、フリー後半多少の疲れはありながらも、表現の力強さは最後まで失われていなかったように感じました。華のある魅力的な滑りをするスケーターさんだと思っているので、学生スケーターで終わることなく長く続けてほしいです。

「ベスト演技」バトンリレーの開始

第3グループ前半

  • 吉岡希選手

今シーズン途中からフリープログラムを昨季のパイレーツオブカリビアンに戻しました。私は一度完成形が見られたプロの持越しは好きではないのですが、吉岡選手の持越しは興味深く見られました。というのも昨季のフリーと今季のフリーが同じプロだと今季彼がいきなり見せた滑りや所作の変化がとてもわかりやすかったからです。

去年までの吉岡選手は「ジュニアで4回転トゥループ安定して入ってジャンプがめったに崩れないのは強みだけれど、このスケーティング&スピン&荒い所作ではシニアで互角に戦うのは難しいだろう」…と正直なところ私はあまり期待していませんでした。

なのに今季スケートアメリカのSPではほぼ別人の滑りに進化していてビックリ!その時のフリーではそこまでの進化は感じなかったのですが、全日本のフリーには進化を感じました。こんなに短期間にスピンやスケーティングって変わることがあるんですね表現も今後進化していきそうな兆しを感じるし、これからの成長が本当に楽しみになりました。

国内大会のため参考記録ではありますが、得点は自己ベストを超える249.38点。上位勢が崩れれば四大陸選手権出場もありえるかも?と期待させる結果になりました。

  • 壷井達也選手

今季GPSで思うような結果が出せなかった壷井選手ですが、全日本でようやく実力を発揮できました。冒頭の4回転サルコウこそステップアウトとなりましたが、2本目のコンビネーションはきっちり入れてきて。SPフリーきちんとそろえて252.34点と参考記録ながらこれまた自己ベストスコア。去年の全日本だったら2位相当の得点です。(去年の2位は252.56)

でも今大会はまだこのあと有力選手が6名もいますからさすがに表彰台には食い込めないでしょう。吉岡選手をわずかに上回ったので、「四大陸選手権代表の座を掴めるかもしれない選手枠」は壷井選手に取って変わられました。

神々しさすら感じた最終グループ6名

珠玉の6分間練習

6分間練習は五輪開催年全日本の最終グループか?と思うような緊張感の中で始まりました。ただひりひりした緊張感ではなく、熱気漂う空間という感じでしょうか?

現地に行っていた方の報告によると、みんながそれぞれの助走の気配を察知しあって阿吽の呼吸でジャンプのタイミングを譲り合い、全員が適切にジャンプ練習できていたように見えたとのこと。そのあたりが殺気ではなく純粋な熱気を生み出していた要因でしょう。

思えば宇野選手・鍵山選手・山本選手は中京大学のリンクで一緒になることもある。鍵山選手・三浦選手・佐藤選手は地方ブロック大会等で今季何度も一緒になっている。友野選手は宇野選手・山本選手・三浦選手と今季同じ大会に出ている。お互いがどこでどのジャンプを跳ぶのかを互いにある程度把握していたのかもしれません。何よりライバルを尊重しあって互いに全力を尽くしあおうという考えがあったのではないでしょうか。

一昔前の6分間練習といえば殺伐とした空気感が漂うこともありました。宇野選手がシニアデビュー間もないころの国際大会の公式練習では、海外のベテラン選手が他選手をうまいこと牽制しつつ滑るものだからなかなかジャンプ軌道に入れない…と困ってコーチに相談していたのを思い出します。そんなことを思うと、この6分間はとても稀有な練習風景だったのかもしれません。

6分間練習は地上波放送だとCMタイムにされがちですし、有料配信や放送でも1~2名の選手をアップで追いかけることがほとんどです。このようなリンク全体を見て初めてわかるこの空気感は現地にいた方でないとわかりませんので、SNSで教えていただいてありがたかったです。FODの配信などスケオタ向けのコンテンツではリンク全体を捉える固定カメラで映してほしいですね~。

友野一希選手

SPの4回転着氷でお手付きが一回入ってしまったことで若干出遅れてしまった友野選手。ただ、高難度ジャンプを多数入れる男子シングルでは挽回できないほどの点差ではありません。

今季フリーは魅力的なプログラムながら試合では一度も4回転3本が綺麗に入っていませんでした。2本目の4回転トゥループでごく軽いお手付きこそありましたが、SPの時のようなガッツリとしたお手付きではなかったので最小限のGOE減点で通過。その後決まった4回転サルコウの美しいことと言ったら!軽いお手付き一つ以外全て美しい着氷で、スピンステップはオールレベル4!!!

友野選手の演技が醸し出す世界観に引き込まれた観客たちからはジャンプが決まるたびに拍手の雨が降り注ぎますが、曲の静謐な世界観を邪魔したくないかのようにその雨音はそっと消えていきます

何より後半のステップの美しいことといったら!なぜステップはこんだけしか点がないんだー!今の採点システム間違ってるだろー!!!って叫びたくなるような凄みのあるスケーティングでした。観客が息を呑んで引き込まれているのがテレビの画面越しからもわかりました。

そして最後のスピンの最中に待ちきれないかのように拍手の渦が少しずつ場内に広がっていき、最後のポーズをとる前に立ち上がり始める観客。こんなほぼ完璧な演技が全日本選手権の段階で見られるなんて!と心を強く動かされました。

今季フリーのシーズンベストスコアを出しましたが、PCSが思ったよりも低くて総合得点は271.52。素人目には90点前後出てもいいと思ったのですが…海外スケオタの間でもSPフリーともに彼のPCSが低すぎるとの声がかなり上がっていました。

ですがこの後の結果はどうなるにせよ、これだけの演技をフリーでできたのであれば友野選手自身に今日の悔いは残らないだろうと思えたのは幸いでした。

この点数が出た瞬間に、あれだけ素晴らしい演技を見せた吉岡選手&壷井選手の四大陸出場の芽は消えてしまったな…と少し気の毒に思いました。

佐藤駿選手

佐藤選手は僅かな差でGPF進出は逃したものの、シーズン前半の成績がGPF5位だった三浦選手と拮抗しており、全日本で上回ったほうがワールド代表になるのでは?と予想されていました。しかし両者ともSPでは思うように点を伸ばせず、二人の差は数点のみ。フリーでいい演技をした方が代表をつかみ取るだろうという流れ。

そんな中で冒頭に決めた4回転ルッツはとんでもなく高くて美しかった!去年までの演技と違って格段と進歩した表現でその後の演技も魅せて行きます。

トリプルアクセルからの三連ジャンプでステップアウトはあったものの、4回転トゥループはコンビネーションも含めて2本美しく降りました。ラストのトリプルルッツは若干こらえ気味でしたけど全て降りたのには感服。今季の国際大会でのフリーPBを上回るスコアが出ました!

スピンのレベルを揃えられなかったこと&スケーティングの差で友野選手が上回るか?と思ったのですが、友野選手と大差ないPCSがもらえたことで、SP点差で逃げ切ることができました。

佐藤選手はスピンのレベル取りとセカンドジャンプの種類を増やすことなどで今後もまだまだ伸びしろがあります確実に四大陸のチケットはつかんだだろうし、ワールドもありうるかも!?な仕上がりにはゾクゾクしました。

その一方で「あぁ友野くんあんなに素晴らしい演技だったのに、これでワールド代表の可能性はなくなったな…」と複雑な気分でした。

三浦佳生選手

続いて三浦佳生選手。GPFと同様胃腸の不良が心配される中でフリーをやり切れるスタミナがあるのかどうかが心配でした。冒頭の4回転ループは回避してトリプルアクセルからの3連続にしたあたり、「絶対にワールド代表をつかみ取るぞ」という心意気が感じられましたね。

4回転2本目のサルコウでステップアウトこそしましたが、後半でリカバリーのためにコンビネーションにした4回転トゥループ-3回転トゥループがド迫力でした!

GPFの体調不良後は彼の最大の個性である爆速スケーティングが影を潜めていましたがこのフリーでは速さが戻ってきたように思いました。

何よりスピンステップをオールレベル4に揃えたことには気迫を感じましたね。加点はまだまだなので今後スピンステップを磨いていけば総合300点台も夢ではないと思います。今季の厳しいスピンレベル認定を糧にさらにレベルアップしていくのではないかと期待しています。

得点はPBに迫る280点台に載せました。あんなに素晴らしい演技をした友野選手も佐藤選手もこの得点を前にはもう打つ手がない。これはワールド代表確実に決めたなって思いましたね、この時は。


鍵山優真選手

最も得意としている高得点源の4回転サルコウで転倒してしまったSPの悔しさを経てのフリー。鍵山選手のことですから、きっと吹っ切れた爆発的な演技を見せてくれるのではないかと期待していました。

怪我からの復帰シーズンとあって4回転2本でセカンドループどころかセカンド3回転もなしという、鍵山選手の本来の実力から言ってかなり抑えた構成で挑んできたものの、なかなか国際試合ではノーミスが出来なかった今季。全日本でようやくフリーをノーミスでまとめてきました!多少こらえ気味の着氷やステップで軽くひっかかったところこそありましたが、見事な演技。

今季の彼を見ていると、難易度を抑えたところで全ての要素を完璧にこなすのはとてもハードルが高いことなんだなと痛感。貫禄のステップの後、ラストの決めポーズを終えてガッツポーズをする姿に、着実に復活の道を進みつつある彼の底力を感じました。

去年の全日本では若手3人全員大きなミスが出て悔しい思いをしたのに、今年の全日本では全員がこんな素晴らしい演技を披露するなんて。

最終グループは4回転ジャンプを全員2~4本入れており、転倒や抜けなしで演技をまとめるのはとんでもなく難しいことです。なのに4人続けて素晴らしい演技が続くなんて。なんて神試合を見せてもらえているんだろうーと、フィギュアスケートの神様がいるのなら手を合わせて感謝したくなるような気分でした。

山本草太選手

佐藤・三浦・鍵山の3選手には全員「追い込まれた後のフリーにはめっぽう強い」というイメージがありました。しかし残念ながら山本草太選手には、大きな試合でSPでリードしているとプレッシャーでフリーで大崩れするイメージがこびりついてしまっています。(昨季のGPFは例外でしたが)

これだけの神演技の流れが続いていることは彼にとっては相当なプレッシャーになっているのでは?と思い、正直言って滑り出した時には不安しかありませんでした。(信頼してあげられなくてすみません…)

なのに私の不安が全くの嘘のようにジャンプが次々と美しく決まっていくではないですか!いやいや彼の場合一番ミスが出やすいのはトリプルアクセルだから…と思っていたらアクセルも2本入って。この大会で最も自分の実力を出し切ったのは山本選手でした。

あぁこれは表彰台だわ…昨季の全日本とワールドと今季の中国杯の悔しい結果は無駄じゃなかったのねって思いました。(ガッツポーズ連続はこの曲の世界観を著しく壊すので次の試合では遠慮してもらいたいですがw)

とはいえジュニアの頃にあれだけ期待されながら全日本の表彰台に乗るまで10年。去年は友野選手がようやく表彰台に乗り、今年は友野選手の連続表彰台はかなわなかったけど山本選手に表彰台が回ってきたのか…いやあ長かったなぁ…と感慨にしばしふけりました。去年活躍できた人たちが今年は涙をのみ、去年涙をのんだ人たちが今年活躍できたんだなと思いましたね。

神試合の締めくくりは?

え、でもちょっと待って?これは三浦選手が表彰台から外れるということ?
…表彰台足りなくない?

最終グループ前半の3人、去年だったら余裕で2位に入れるスコア&素晴らしい演技だったのに表彰台にすら乗れないなんて…と呆然昨季の世界選手権だったら全員6位以上に入れるスコアです

この最終グループは世界選手権と同様のハイレベル…というか今季の厳しめのレベル認定傾向を考えると、昨季の世界選手権レベルを超えているとすら思いました。国内大会と国際大会のスコアを比べるのはナンセンスとはいえ、全日本は他国のナショナルに比べて採点が辛い傾向にあることを考えるとこれは凄いことです。この最終グループメンバー6名は全員世界選手権の表彰台争いに絡める実力があります。

こんな凄い全日本選手権過去にあった?
過去の世界選手権でも男子シングル最終グループ全員がほぼノーミスでまとめてフリー演技の順位or総合の1位が毎回更新されていくなんて試合あった?

演技が終わるたびに「おおお、これは表彰台行ったかも!」って興奮するのに、それが毎回更新されてしまうなんて。

これ、私たちは今後何十年にもわたってスケオタの間で語り継がれるような凄い大会を今目撃しちゃってるんじゃないの?とゾクゾクしてきました。

宇野昌磨選手

いつものようにウォーミングアップ中も他選手の演技を見ていた宇野選手は、リンクを引き上げる山本選手に満面の笑顔で拍手を送っていたそうです。そしてそのままリンクイン。

彼は今季前半の成績からいって、今日メタメタな演技になって表彰台落ちしたとしても世界選手権代表は確実な状況でしたから、この日宇野ファンは落ち着いて演技を見守れるはずでした。なのにこんな神演技連続展開をされてしまったら…!最終滑走者が今一つな演技をしてしまったらこの美しい流れを美しいまま締めくくることができなくなってしまうではないですか。

ここまで続いた「ベスト演技」のバトンリレーアンカーが無事バトンを落とさずゴールできるか…めちゃめちゃアンカーの責任が重大になってしまったじゃないですか!!!

何より最終グループ全員高得点を出してきているから、いくらSPで10点以上の差があっても、昨年の全日本選手権みたいに4回転ジャンプでの大きなミスが複数出てしまうと優勝を逃すどころか台落ちする可能性すらゼロではない。

長年の宇野選手ファンとしては実力通りの演技を披露して6回目の優勝を果たしてほしいところだけれど、彼は重慶⇒大阪⇒北京⇒長野と中1週間での4連戦目。3連戦の鍵山選手も結構きついと思われるのに最ベテランがこれほどの連戦となると相当疲労はたまっているだろうし、左の靴が全日本前についに壊れたとの報もありました。万全の調子とは程遠いはずなので、1ミスぐらいでまとめる演技ができればいいのだけれど…と不安が強まりました。

ただ、今の彼ならば多少のミスはあったとしてもきっちりまとめてくるだろうという信頼感もありました。なのに強い不安に襲われたのは、全て先日のNHK杯の採点のせいです。

「NHK杯後遺症」が奪ったカタルシス

滑り始めた瞬間強烈な恐怖感に襲われ、「ああ怖い、4分後にワープしたい…!」と思わず口走ったら、横で見ていた旦那に「これが一番見たかったんちゃうんかw」と突っ込まれました(苦笑)。

いや、できるものなら結果を知ってから安心してから見たいけど怖くてもライブで見守りたいのよ!ただのファンでもこんな気持ちになるのにコーチやご家族はどんな気持ちで観戦するんでしょうね。

私は宇野選手が最初の4回転ループでステップアウトした段階で完全に心配モードに脳が切り替わってしまい、せっかく素晴らしい演技だったのにライブ視聴時は彼の演技を全く楽しむことができませんでした。

続く4回転フリップは決められたけどギリギリ。NHK杯ではあれ位の着氷でも「q」をとられたし、後半の2回目の単独4回転トゥループは着氷若干怪しくて得点暫定表示カウンターで審議マークの黄色が4回転ループと同様ついている。二つとも「q(4分の1回転不足)」ですめばいいけど、万一「<(2分の1回転不足)」と判定されたら…?
PCSも下げられるだろうし3連続ジャンプの後半は回避したし得点的にはギリギリになってしまう可能性もありうる?…と頭の中がぐるぐるして、採点結果のコールを聞くまで生きた心地がしませんでした。

NHK杯の激辛採点を体験していなければ2つめの4回転トゥループを着氷した段階で「1個ぐらいqつくかもしれないけど、これはいったね!」と優勝を確信して最後のコレオと美しいスピンを堪能し、演技後の「セーフ」ポーズにも微笑んで、キス&クライの様子をニコニコと見守れたでしょう。自分にNHK杯の後遺症がかなり強く残っていることをひしひしと実感致しました。あまりに重症なのでNHK杯のテクニカルパネルには慰謝料を払ってほしいぐらいです…。

この後遺症、宇野選手が競技引退するまでずっと続きそうな予感がします。本人は笑顔で「セーフ」ができるぐらいに克服して次の段階に進んでいるようなのになんとも情けないです。来春のモントリオールワールドもこんな気持ちで見守ることになりそうだなぁ…。

史上最高の神試合

前のスケーターがPBを更新するようなノーミスに近い演技をすると、それがプレッシャーになってしまう選手は多いです。前の選手への歓声や得点コールが耳に入らないよう耳を抑えている選手の姿を目にしたこともあります。しかしこの6名はそうではなかった。むしろ互いにいい演技を願ったうえで競い合おうーという心意気があって、前のスケーターがいい演技をすればするほど「じゃあ僕も!」とそのエネルギーがいい形で引き継がれていく、そんな「神試合空気のリレー」が行われているように見えました。

佐藤選手の演技の半ばあたりから「ひょっとして神大会になるのでは?」との期待感が私に芽生えました。アンカーとその前の二人のところで「バトンを落としはしないか」と不安に襲われましたが、結局最後までトップスピードのままバトンをつないでゴールにたどり着いた。スケオタが死ぬ前には一度は見てみたいと願う夢が、よりにもよって、世界中で最もプレッシャーが激しそうな全日本選手権で実現しちゃうなんて!

いやでも各選手たちが互いにリスペクトしあいながら切磋琢磨しあっている今の日本男子が集まった大会だからこそこれが実現したのだろうか?とも思います。私が去年現地で見た全日本は結構自爆大会気味でメンタルかなり削られた大会だったので、この日の試合を現地で見ることができた人が本当にうらやましいです。

FOD配信では、宇野選手のコーチのステファン・ランビエール氏と鍵山選手のコーチのカロリーナ・コストナー氏が表彰式後の音楽に合わせて手を取りダンスする姿が映りました。昔の二人のあれこれを知っているスケオタ全員がにやついたことでしょう(笑)。あれから20年近く経って、まさかクリスマスシーズンに遠い日本で二人が手を取って踊りあう日が来るなんてね。

鍵山選手はSPでミスが出てしまったことなどに悔しさがあったのか、表彰式の間はやや表情が硬いように思われたのですが、コーチたちのダンスに気づいた時は宇野選手と二人満面の笑顔で顔を見合わせていました。長年全日本に出場してきて初の表彰台だった山本選手ももちろん終始満面の笑顔。表彰台を逃した選手たちにとっては惜しい結果となりましたが、素晴らしく暖かい雰囲気の表彰式でした。

こんな神試合、そうそう見られるものではないとわかってはいますが、来年再来年、このメンバーたちでまた見られるといいな…

13年連続出場&10年連続表彰台の凄さ

宇野選手の長年のファンとして、このことは最後に語っておきたい!

彼はこれで6回目の全日本優勝となりましたが、更に凄いと感じるのが13年連続出場&10年連続表彰台という事実です。トリプルアクセルと4回転トゥループを手に入れたジュニア時代(高2)に初めて2位になってから、10年連続で1位か2位しか取ったことがないというとんでもない安定感。

何より13年連続出場というのは、この間一度も全日本出場を逃したり、怪我で棄権したりしたことがないということです。アスリートに怪我はつきもので宇野選手も怪我で出場が危ぶまれた大会はありました。2018年などは酷い捻挫で周囲が熱心に棄権を勧めるほどでしたし、北京五輪の前の大会でも軽度の骨挫傷と診断されてから時間がさほど経っていない時期での出場でした。

それでも出続けてきた結果、「その時の体調で出せるギリギリのラインのところで演技をまとめてくる」というベテランの職人技を身に着けた。いや~頭が下がります。どこまでこの全日本出場&連続表彰台記録を伸ばせるでしょうか?

今後については本人が決めることではありますが一ファンの私としては心身が許すのであれば長く現役を続けてほしいと思っています。数分間にすべてを込める、競技でしか見られない美しさをまだもう少し見ていたいです。

代表選抜の苦しみ


翌日の女子フリー終了後、シーズン後半の国際大会派遣メンバーの発表がありました。(あまりに凄かった男子シングルについて延々書いていたら力尽きてしまったので女子やアイスダンスの感想は省略です…どのカテゴリも印象に残る演技は多々あったのですが。アイスダンス代表決定の延期という英断が下されたのはよかったです!)

男女シングルの枠は四大陸選手権、世界選手権ともに「3」しかありません。鍵山選手は去年国際大会出られてなくてワールドランキング低いし、四大陸の金メダルも持っていないからおそらく四大陸とワールド両方に選ばれるだろうなとは予想していました。代表候補6人全員がいい演技をできたなら、できるだけたくさんの選手をワールドないし四大陸に送ってあげられたらいいのにな…と試合前から思っていました。

そしたら6人全員がいい演技だったでしょう?もう6人全員ワールドに送りたい。そして鍵山選手と吉岡選手と壷井選手を四大陸に送ってあげたいと試合終了後には強く思いました。

選考結果は、世界選手権代表は宇野・鍵山・三浦選手の3名(補欠に山本・佐藤・友野選手の3名)、四大陸選手権代表は鍵山・山本・佐藤選手の3名(補欠に友野・壷井・吉岡選手の3名)となりました。

私自身は友野選手の今季プロがどちらも大好きなので、できればワールドでプロの完成形を見たいと思っていました。なので彼がワールドにも四大陸にも出場できなくなってしまったのは本当に本当に残念です。

一昔前は25歳前後ですぐ引退引退と言われていましたが、友野選手の滑りは年々進化しています。宇野選手もそうですが、衰えはまだ全く感じられず進化しか見えていないのに年齢を理由に引退をほのめかされるのはまだまだ早すぎます。毎年レベルアップしていって、今までで最高レベルの演技を全日本で見せたのにチャンピオンシップ大会に出られないなんて。とにかく枠が少なすぎるんです枠が!!!と言いたくなります。

吉岡選手も壷井選手も他の国なら余裕で世界選手権正代表になれる選手です。しかも10位以内を狙えるレベルです。シーズン後半の国際大会でPBを更新して何とか来季のGPS出場枠を複数確保できたらいのですが…。各試合出られる同国人の数が決まっているから、彼らもなかなか気の毒な状況に置かれています。まぁもちろん国内にこれだけハイレベルな先輩たちがいることはプラスでもあるのですけれど。

バンクーバー五輪の頃によく「愛知県で独立国を作って別枠にカウントしてほしい」なんて冗談がよく言われていましたが、今切実にそう思います。今回善意本表彰台は「中京国」にしちゃいたい。今季後半チャンピオンシップ大会に出られなかったメンバーは、全員世界選手権前のチャレンジカップとかの大会でとんでもない高得点出して表彰台独占しちゃいなよ!って思います。はぁぁ本当にもったいない。

でもそれだけもったいないメンバーの素晴らしい演技を国内選手権で見られる私達日本のフィギュアスケートファンは大変な贅沢を味わっていると言えますね。海外ファンの注目度といったらそれはそれはすごかったです。本当に本当に幸せな試合を見せてくれてありがとうと感謝したいです。

この試合を届けてくれた選手たちが次の大会でも素晴らしい結果を残すことができることを祈ります。

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