宇野昌磨 2023SPと「エブエブ」/ FSの4Loで驚いた理由
*先日アップした「2023宇野昌磨FS 自己満足とチェス世界王者」の続き
*宇野選手の今季SPと
*宇野選手の中国大会での演技を見て
の詰め合わせです。
勢い余って中国大会男子シングル出場者全員の感想まで書いていたのですが、少々長くなってしまったのでそちらは別記事で上げて、こちらは宇野昌磨選手関連のみ好き勝手に語ります。
ステファン先生からの「答え合わせ」
2023GPS中国大会直前、2つの媒体がステファン・ランビエールコーチのロングインタビューを公開しました。私をはじめとする宇野昌磨ファンの多くが推測していた通り、選曲時から「宇野選手のスケート人生を表現したい」という考えがステファンコーチにあったようですね!
最初に出たOlympic Channelの記事は後日日本語版が出たのでそちらのリンクを紹介しておきます。
ステファン・ランビエール独占インタビュー:内面と向き合い宇野昌磨が気づいた「自分が求めていること」
その後別の媒体からも記事も出ました。こちらは宇野選手だけでなく同門のデニス・ヴァシリエフス選手と島田高志郎選手、先日のJapan Openでの演技の振り付けを行った宮原知子さんの話も含めた超ロングインタビューでめちゃくちゃ読み応えがあります。
※こちらの記事は日本版はありませんが、自動翻訳でも大意はつかめます。
私が気になっていた「チェス世界王者マグヌス・カールセンのドキュメンタリーをステファンコーチが知っていたか?」は残念ながら不明なままでした。ですが、少なくともあの曲想と「タイムラプス」という曲名からステファンコーチが描いていた世界観は既に先日の宇野選手の初披露演技でファンに伝わっていたものとほぼ同じものでした。
今季のフリー曲は別の2つの選択肢で悩んでいたようで(将来でいいからどの曲だったか教えてほしい…!)、宇野選手は相変わらず自分では曲を選ばない主義を貫いてるしステファンコーチも悩みに悩んで決められずにいたところ、SPの振り付け後に急遽方向を変えて今の選曲になったということ。
その過程でどんなやりとりがあったのかはわかりませんが、ステファンコーチは「昌磨がどの扉を開けるのか選べる状態にしておきたい」と感じたのかなと思いました。
現役時代のステファンコーチは五輪に対して思い入れが強い選手だったと記憶しているので、「自分の教え子たちと共にミラノ五輪を目指したい」という気持ちは強くあるんじゃないかなと思っています。しかし宇野選手同様世界選手権2連覇経験がある彼は、頂点に立った後にモチベーションを保つことがいかに難しいか、勝利を望まれるプレッシャーがいかにきついかを身をもって知っているだけに、選手たちにはどうするかは自分で決めてほしいと思っているのでしょうね。だからこそあのフリープログラムを選んで引退前の花道にするという選択肢を与えたくなったのか?と思っています。
一方でそういう選択の自由を与えた方が宇野選手が現役を続ける確率は高くなるだろうという考えもステファンコーチの中にはあったりして…とも邪推しています。宇野選手の性格を考えると「押すより引け」でしょうからね(苦笑)。まぁもちろん宇野選手が引退する選択をしたとしてもステファンコーチは受け入れるでしょうけれどね。
中国大会でのインタビュー内容から「宇野くん今季で引退しちゃうのかな?」と感じる人も増えていますが、私は「順位や点数を求めていた第1章が終わって、”試合で自分自身が満足できる演技を見せる”ことを追求する第2章が始まるだけ」と都合のいい解釈をしています。
「第2章のチャレンジはアイスショーで繰り広げます!」って言われたらそれはそれでついて行きますが、第2章が意外と長いんじゃないかなと期待。もちろん今年自己満足できる演技ができるようにと願っていますが、きっと宇野選手なら自己満足のハードルを上げていくんじゃないかな~って(苦笑)。
ショービジネスで輝く彼を見るのも楽しみですが、それは是非第3章でお願いしたいところです(笑)。
宇野選手が最近たびたび発言している「フィギュアスケート選手は引退が早すぎる」ということには私も同感だし、体が耐えられる状況であれば「技術と芸術が最高のバランスで融合した試合演技」を追求することを選んでくれると本当に嬉しいだけどなぁ…というのが、私の勝手な想いです。
アイスショーでの今季SP初演 無音の衝撃
中国大会の感想に行く前に、今季SPについてのあれこれを先に。
今季SP初披露はアイスショー「The Ice」名古屋公演でした。今季の新プロをやってくれるだろうということでワクワクで配信を購入して視聴していたのですが…これが著作権処理の問題でまさかの「無音配信」でして。
もうどれだけこれが衝撃的だったか。
アイスショー配信では確かに著作権上の都合でたまに誰かの演技が無音になることはあるし、購入時の注意書きにもあったけどこのショーの目玉だった「今季新SP初披露」の最終個人演技がまさか無音になるなんて思いもしなかったのですよ。
今もくっきりはっきりと思い出せる、めちゃくちゃ楽しみにしていた新プロが無音だと悟った時のあの絶望感。
事前のリハーサルを見学していた人たちからの情報で使用曲は既に判明していたとはいえ、いくらなんでも初演で音を想像しながら演技を見るのは厳しすぎました。(名古屋公演だけナゼか他の日の別演技も無音だったんですが、その時は懐かしい過去プロだったのでかろうじて脳内で音楽再生ができました)
その後の「The Ice」公演を3回観に行ったので私もナマで新SPを当然音付きでナマで鑑賞できましたが、The Iceで見た演技の記憶を呼び起こそうとすると、初回の無音配信の記憶がもれなくセットでついてくるのが今も本当に恨めしいです(苦笑)。
SPと映画「エブエブ」の関係
SPの音楽は「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」というアカデミー賞作品賞受賞映画作品の挿入曲3曲を編集したものです。(クソ長いタイトルのため日本の映画ファンの間では「エブエブ」と略称で呼ばれているため、以下全て「エブエブ」と略します)
FS「タイムラプス」とは異なり、こちらの方は宇野選手の過去の映画音楽プログラムと同様、あくまで映画音楽の世界観を彼なりに表現しているイメージ。ストーリー性は感じられません。映画内で演奏されるドビュッシーの名曲「月の光」をサントラ曲2曲が挟む構成となっています。
宇野選手のメロウな演技を見て「ロマンチック&ファンタジーな世界が表現された映画なの?」と想像していたファンを何人か見かけましたが、そのイメージのままで鑑賞すると・・・となるでしょうね。先にサントラ曲を知って「昌磨にあいそうな曲だ」と考えていたステファンコーチは、後で映画を見て「かなりクレイジー」と驚いています(苦笑)。
(私は公開直後に映画館で鑑賞しましたが、彼と同様の感想を抱きました)
私は「名シェフが市販のポテトチップをメイン食材に少量の超高級食材&スパイスを添えて作ってくれたオリジナル料理」みたいな映画だなと感じました。人によってものすごく好みが分かれる感じの。
「シュールでハチャメチャ感満載のSFアクションコメディ映画」でありながら、根底には「どんなところにも愛の可能性が広がっている」みたいな哲学が広がっているーという感じなんです。
ステファンコーチも曲想&映画本編から感じ取っていた通り、一見クレイジーなこの映画の根底には「愛」が流れ続けているのです。だから私は宇野選手の表現はちゃんと映画の世界観を表現していると私は思っています。
たぶん本人は今回も元の映画は見てないんじゃないか、見ていたとしてもその記憶を演技には投影していないんじゃないかと推測しているのですが、相変わらず音楽表現に徹すると映画の世界観がきっちりと反映されるんだなぁと本当に感心します。
というかあの映画自体が「ありとあらゆる観方を肯定する」精神で貫かれているので正解なんてないのです。映画「エブエブ」を観て「シュールで下品な下ネタもあるハチャメチャSFコメディ」と解釈するのも「多元宇宙に広がる深い愛について描いた哲学的作品」と解釈するのも正解なのです。ただし宇野選手のSPのイメージを壊されるリスクを冒したくない人は映画を観ない方が無難かもしれません。私は結構好きなんですが…評判が真っ二つに割れる系の映画です。
中国大会のSP演技
ショーとは衣装を変えてくるかな?と思っていたのですがそのままでしたね。明るいリンクで見ると上半身のグラデーションカラーは美しかったです。デザイン的には素敵な衣装だとは思うんですが、あの羽は宇野選手の独特な肩&背中の動きを堪能するのに正直邪魔だと感じます。国内外で「あの羽むしり取りたい!」とつぶやくファンを多数見かけました。
今季は表現に力を入れると再三発言していること、競技プロの振り付けや練習開始が例年より遅かったことから初戦は6~7割位の仕上がりかな~と思っていたのですがまさか最初からここまでクリーンな演技が見られるとは!
SPは7月のアイスショーから滑っていたし本人もSPは準備ができているような発言をしていたので当たり前なのかもしれませんが、いきなり4-3が入ったことにはちょっと驚きました。「結果を求めること」から解脱しつつある副次効果で4-3が入りやすくなったんでしょうか。表現を追い求めると逆に技術が安定するってこともあるんですね~。
ステップレベル判定2には?ってなりましたが(後で3に修正されました)、まだこれが初戦、今後細かいところを詰めていくだろうからこのクリーンな演技がさらにレベルアップしていくのかと思うとすごく楽しみです。
中国大会フリーの演技
「ループ転倒」が意外だった理由
私、「6~7割位の仕上がりかな」と思いながら見ていたはずだったのに、最初のループの転倒はビックリしてしまいました。ビックリした自分にビックリしたので、過去2年間の4回転ループの成功率を調べてみました。
4回転ループ復活させた北京五輪シーズンは6回中4回が加点3以上。昨季はGPSカナダ大会だけ着氷乱れがあってGOE-0. 15だったけど出場大会6回中5回が3点以上の加点。2年間で合計12回試合で跳んで転倒は試合に久々に投入した2021年JapanOpenの1回のみ。加点0点以上を「成功」と表現すると、この2年の通算成功率は75%、昨季だけなら83%&転倒ゼロという驚異の数字でした。そりゃ鉄板だと思っちゃいますわ。
実は4回転フリップより成功率高いんですよね。(昨季はダブル抜け2回、回転不足や着氷乱れでマイナスGOEが2回で加点付きは11回中7回の64%)4回転ルッツ一度も「抜け」なしでコンスタントにプログラムに入れ続けてた昨季のマリニン君の4Lz成功率27.3%(11本中3本)より高いんです。
2016-18シーズンの4回転ループは14回中7回と成功率は5割だったのを思うとよくぞここまで…と頭が下がります。おかげでこのジャンプがいかに難しいジャンプか忘れかけていました。申し訳ない(苦笑)。
昨季は4回転ループ&フリップの成功率の高さが圧倒的な強さの要因となっていました。(マリニン君は今季は4回転の数を減らしてジャンプの質を上げてきているので今季は回転不足判定が減り成功率がかなり上がると期待されます)
そもそも昨季試合でループを入れた選手は4名だけ、成功率50%を超えた選手はいません。(リッツオ選手が14本中3本で21.4%、グラッスル選手が3本中1本で33・3%、三浦佳生選手が2回中1回でジャスト50%)
宇野選手も練習ではループ成功していたのですが、まだ曲に合わせて確実に入れられる状態ではなかったのかもしれません。シーズン後半には合わせてくると期待しています。
フリー演技の感想
転倒の影響もあって次のフリップもダブルに抜けてしまい、見守る側もちょっと焦ってしまいましたが、その後のトリプルアクセル以降は「転倒?それが何か?」という感じで進めていったのはさすがだなと感服しました。(余ってるコンビネーションジャンプどこに入れるつもりなんだ~とは思いましたがw)
ず~っとめちゃくちゃ安定していたかのような記憶になっている昨シーズンも全日本ではサルコウ抜けてフリップで転倒…ってのがありましたもんね。現地で観ていて、あの時も「抜け」&転倒にものすごくビックリしたのをよく覚えています。その時もビックリした自分に驚いていた記憶がありますね(苦笑)。
(あれはあれで後半の怒涛のコンビネーション畳みかけが結構好きでよく見返しています。リカバリーのため2連続ジャンプを急遽3連にしたことでラストのステップ&スピンが音楽から遅れてしまってちょいとしまらないエンディングだったのは不満ではあるんですが、あの怒涛の巻き返し感はこれぞスポーツ!って感じで好きだったりします。ポーズ決めて恥ずかし気な笑みを浮かべるところも好物w)
私としてはようやく観られる競技版のフリー演技に没頭したかったのですが、ステップ判定2にまたもや?となってしまったりで、初見時は完全に没入できずじまいでした。テレビ観戦にはテレビ観戦のいいところがありますが、採点情報はどうしても気が散りますね。暫定採点だから間違いも結構あって「?」ってなったりするし。NHK杯では会場で観戦するつもりなので得点のことは極力忘れて宇野選手の演技に没入できたらいいなと思っています。
今はただただ今後このプログラムが熟成していくのを見守るのがとても楽しみです。