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100社以上投資してきたGPから見たアフリカスタートアップの景色とは 〜2021年を振り返って〜

Kepple Africa Venturesは2018年から投資を開始してきましたが、昨年2021年の1年間で30社に新たに投資し、2019年から投資してきた累計投資先は100社を超えました。2021年は投資先の成長も見え始めてきた1年となりましたが、実際にケニア・ナイジェリア・日本に拠点を置くKepple Africa VenturesのGP品田・山脇・神先は何を思い、何を目指すのか。アフリカスタートアップ最前線の様子をお届けします。

スタートアップエコシステムの成熟

アフリカ・スタートアップの域内展開

品田「2021年はアフリカ域内展開をするスタートアップ進出が多かった印象です。実際にKepple Africa Venturesの投資先でも、HRテックのWorkPayはケニアからナイジェリアに進出し、医療系スタートアップのAHHはナイジェリアからケニアに進出しました。」

ケニアからきたWorkPayチームをナイジェリアで出迎える品田(サングラス)

山脇「この域内展開が進んでいる傾向は、スタートアップの意志だけでなく投資家からの期待感、プレッシャーによる面もあります。投資家、特に現地に根差していない投資家はシリコンバレー並の成長スピード、スケーラビリティを求めるので、他国展開の実績があるかないかで企業価値が大きく異なることがあります。一方で、実際はスタートアップが一国でわずかなシェアしか取れていない中で、すぐに他国展開をすべきかは難しい問題です。」

品田「そうですね。まあ実際に、他国展開の実績は資金調達に際してポジティブに働きますからね。実際、ナイジェリアの投資先(SaaS系)は、コートジボワール・アルジェリア等へと展開してRevenueを大きく伸ばし、他国展開する能力があることを示したうえで、次のシリーズAでValuationを大きく上げて資金調達をしていますからね。こうしたパンアフリカ展開で成功している事例は、ニュースバリューも高くて聞こえがいいですよね。」


アフリカの起業家のレベル上昇

品田「後は、アフリカにおけるファウンダーの厚みが増していますね。ロジスティクスやフィンテックのように、ある程度、うまくいくことが見えている分野だけでなく、Web3.0など世界の大きな流れに対してそこに対応するアフリカ人の起業家がすぐに出てくるようになりましたね。」

神先「Web3.0の文脈では、投資先でも、Third Design(旧Onboard)のようにメタバースの流れにうまく乗る会社もありましたね。Onboardは元々、工場や組立ラインでのマニュアルや消費者向け説明書を3D化するビジネスモデルでしたが、現在はメタバース上で3Dのモノをデザインする際に、ノーコードで作成できるようなモデルへとシフトしました。

Web3.0にはあまり関与しないスタートアップもいて、そこの差が明確に現れるなと思いましたね。」

山脇「持論ですが、起業家の資質にはSmartと(良い意味での)Stupidの二つの方向性があると思っています。Smartとはロジカルに分析をして答えを出そうとすること、Stupidは分析的な根拠は少なくとも大局観にたって「匂い」で意思決定をすること。

Smartな人は下調べを入念に行って新しい世界に飛び込みますが、Stupidな人は良い意味でいやらしく潮流に乗ろうという動きを取る。アフリカは、経済水準は当然先進国よりも遥かに低く、社会インフラも上手く機能していないから、そもそも売上を1円でも立てることが非常に難しく、どうしても目先の売上が立ちやすい、分析して答えが見えやすい領域に目を向けやすくなります。しかし、短期的に黒字を出せるかと、その先で大きく成長するか、という先には隔たりがあり、Stupidタイプの方が長期的には上手くいったりするんですよね。

自称「Stupidになりきれない」山脇が語る(一番右)

アフリカで起業する外人はStupidな部分があるのか、ケニアでは、外人ファウンダーの方がそうした世界のトレンドを見たり、知り合いがうまくいっているから、といった事例を見て自身も飛び込んでビジネスを組み立てている印象があります。Antara Healthはまだ現在ケニアではあまり重要視されていない慢性疾患に焦点を当てていますが、これは海外の事例を参考にしてアフリカで展開している例ですね。」

品田「ナイジェリアの場合は、そもそも国がクレイジーで、元々突き抜けている人もたくさんいますから、ローカルファウンダーであっても、Stupidになって果敢に世の中を変えていこうとする動きが強いのかと思います。

例えばTeamAptも、ナイジェリア生まれナイジェリア育ちのローカル起業家ですが、銀行口座を持たない人々に金融サービスを提供するビジネスモデルで、既存の銀行のような既得権益に真っ向から立ち向かい、急成長を遂げています。


VC戦国時代 

品田投資家の層もかなり多様になっていると実感しますね。2〜3年前のアフリカの投資環境は、まだVC同士がかなり分断された状況でした。でも、自分達が日本から来たVCでありつつも果敢に現地エコシステムに入っていき、色々な殻を打ち破ったこともあり、今ではVCの顔ぶれも多種多様になってきていて、特にシードは最近はかなり飽和してきています。」

山脇「そうですね。VCが飽和状態になってきている事に加え、最近Y Combinatorが投資規模を拡大するニュースもあったので、VCとしての価値がより問われるようになってくると思います。

今後、VCとしては、Y Combinatorに行く前のかなりのシード案件を狙うか、Y Combinator卒業後かになると思います。でも、今まではチケットサイズ500万程度で入れられましたが、高額かつ厳選された投資家しか入れなくなると思います。」


Kepple Africa Venturesとしての1年間

日本企業からアフリカスタートアップへの直接出資

品田「2021年は、投資ももちろん行っていましたが、とにかく日本企業をアフリカとたくさん結んだ1年だったなと思います。その数は2021年だけで7社に及びます。一部例を挙げると、エムスリーをナイジェリアヘルスケアスタートアップのAHHにアカツキをナイジェリアのゲームパブリッシャーのCarry1stに、JICAをSanergyに繋いできました。」

神先「7件の直接投資で計10億ほど日本企業から引っ張ってきており、ファンドという形でもアフリカに投資しているので、私たちがアフリカに投資している額と、私たちの紹介で投資に繋がった額を合計すると数十億円規模とすごい額になりますよね。」

山脇「昔はGateway to Japanと打ち出して、日本企業とアフリカのスタートアップを繋ごうと思っていましたが、もうそのような言葉も必要なくなってきましたね。」


エジプトへの投資

品田「後はエジプトにも多く投資しましたね。」

山脇「エジプトやばいんじゃないか、となって2020年末に品田さんがエジプトに行ったのを皮切りに、投資が始まりましたよね。」

品田「2020年末にエジプト訪問後、1年間で合計9社投資しましたが、エジプトは、ケニアやナイジェリアと比較するとインフラが整い、人口密度が高く、B2Cビジネスがすでに大きく伸びていて環境が整っているので、スタートアップの成長しやすい土壌が整っている印象です。

決済インテグレーターのMoneyHashや、給与前払い及びBNPL (Buy Now Pay Later)を提供するNowPayや、セレブとファンを繋ぐプラットフォームを提供するMinlyなど今後注目のスタートアップが多くあります。」

2020年末のエジプト訪問時のミーティングで出資に繋がったMinlyと再集合(2021年)

2022年に向けて

品田「この1年間も色々と新しい取り組みを行ってきましたが、3人(品田・山脇・神先)で新しいことをやるという事に関して、意見が割れることはなかったですよね。

山脇さんがパキスタンにいくぞ!という話になった時期もありましたが、サークル活動のように好きなことを自由に出来たことが私たちの強みになっていたと思います。この特徴は今後も変えずに、このサークルのような感覚から、どう組織として強みを壊さずに行けるかが重要になってくると思います。」

神先「この3年でアフリカにおけるKepple Africa Venturesのブランドはかなり確立されたと思っています。ナイジェリアのPE、Verod CapitalとのファンドであるVKAVのファンドレイズを始めた当初は大変でしたが、MOICやIRRとして投資先の投資実績を示せるようになってから、ファンドレイズが大きく変わりましたよね。今、ブランドがついてきたところなので、このブランドをどう広げていくか、が重要で。

その中で、僕自身の役割はポテンシャルのある人材を見抜いてポジションを与えること、必要なところに資金を引っ張ってくることだと思っていて。実際、山脇さんは当初はベンチャーキャピタリストとしてのキャリアは全く考えていなかったんですもんね。

僕が一緒にVCやらないかとお誘いして、今となってはthe africa reportによると、アフリカのデジタル化に貢献した人物として、山脇さんはルワンダのカガメ大統領を超えて24位に選ばれるほどになりましたもんね。

現代は、良いアイディアがあれば、お金は人から集められる時代になってきたと思っているので、組織として優秀な人材ををどう増やしていくか。いい人材を適切な場所に置けるか。それを引き続き頑張って行きたいです。」

山脇「そうですね。また、先ほども言いましたが、私たちはどのようなVCで、どのような価値を提供できるのかを考えて行く必要があると思っています。VCとしての価値がますます重要になってきている中で、この問いは非常に深い問いであると思っています。」

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