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【コラム】課題”緩和”という考え~ソーシャルインパクトへのプレッシャー~

 先日出た研修で、良い言葉と出合ったので共有します。それは、「課題”緩和”」という言葉です。あれ、非営利なのに、「課題解決」しなくていいの?という疑問はごもっとも。国連のSDGs(持続可能な開発目標)でも「誰一人取り残さない」とうたっています。でも、「緩和でも良い」と言われると、少し肩に力を入れることなく、課題解決に迎えると思ったのです。その理由とは?


NPOが求められる「ソーシャルインパクト」

 NPOで働いていると、近年、「ソーシャルインパクト」という言葉をよく耳にするようになりました。カタカナ語を翻訳すれば「社会的影響」。つまりは、NPOなどが生み出す社会的価値を可視化する、という動きです。いつ頃から非営利セクターで一般化した言葉か分かりませんが、2016年に内閣府が出した以下のページを見つけました。

 その中で、

人口減少・高齢化が進展する中、複雑化・多様化する社会的課題に対応するためには、従来の行政中心の取組だけでは限界があり、人材、資金といった民間の資源を社会的課題の解決に呼び込む必要がある。そのためには、現在、共助社会の担い手として社会課題の解決に取組んでいる団体の活動によって生み出される社会的価値を可視化し、団体内でのPDCAサイクルの円滑な実施等による事業の検証やそれを用いたステークホルダーへの説明につなげていくこと、すなわち社会的インパクト評価が定着することが不可欠である。しかし、現状ではこうした取組は十分定着していない状況にある。

内閣府NPOホームページ「社会的インパクト評価に関する調査研究」

と言及されています。

 NPOは、まだまだ会計処理ができていなかったり、活動報告まで手が回っていないところもあったりします。しかし、一緒に課題解決をするセクターの一つとして、官や民間企業などと協働したり、寄付などの支援を受けたりするには組織基盤が整っている必要があります。きちんと、「自分たちも成果を出せる団体なんだぜぃ!」と言い切るためにも、成果を可視化、見える化することはとても大事です。例えば、成果指標を示して数値で表したり、その事業から生んだ感動ストーリーなどを発信することなどが挙げられます。

 非営利セクターは、なかなか財政的に厳しいところが多い。もちろん営利を目的としていないので、助成金や補助金に申請し、その支援を受けて活動するところがほとんどです。その資金は、会社のCSR(企業の社会的責任)だったり、税金だったり、国民の財産だったりします。いただいた資金(志金と表現するところも)を使い、きちんと成果を出す、という「説明責任」も、NPOには求められているのです。それも、事業期間が5年あればまだ良いですが、3年や2年(JICA海外協力隊など)、1年なんてものも多くあります。

緩和でも良いというプレッシャーからの脱却

 私も、なんだかんだで10年近く、非営利セクターでプロボノやスタッフとして働いてきました。いろいろな助成金もいただいてきました。もちろんいただいた資金を活用し、国際協力や多文化共生、国際交流などで、成果を出すべく努力はしてきました。

 ただ、「成果を出す=何らかの数値目標を達成してね~」って、結構なプレッシャーだったりします。特にコロナ禍。当初想定していた活動が、コロナ禍の拡大により、対面で活動できなかったり、緊急事態宣言が発動されて活動さえできなかったりで、「当初仮定していた数値はとても達成できない!」ということで、重圧や焦りを感じます。助成いただく団体には何らかの中間報告や最終報告をする必要がありますが、「何を報告すればいいの?」というプレッシャーを感じたり、ちょっと少ない成果を盛ってしまったり(インパクトウォッシュともいうそうです)することもあります。

 そんなプレッシャーの日々の中、「緩和でもいいんだよ~」という講師の言葉は、とてもありがたかったですし、ほかの講師は、「当初の仮説は当たらないことがほとんど。その度にピポット(方向転換)しながら、解像度を高めていくのが大事」という言葉もいただき、肩の荷が下りた思いでした。

「誰一人取り残さない」も未達成?

 今、世界的な「ソーシャルインパクト」といえば、2030年を目標に世界中で達成を目指すSDGsです。17個のゴールのもと、169のターゲットと呼ばれる具体的な目標、232のインジケーターと呼ばれる目標値があります。「人とヒトの幸せ開発研究所」としても、これらのインジケーターをもとに、自分の活動領域に当てはめた「ローカルインジケーター」を設定し、その活動を数値化しようと試みています(バリュー①バリュー②参照)

 そのSDGsさえも、「達成が危機的状況」と、2023年9月の国連SDGsサミットでも報告されました。

「(SDGs)達成に向けて順調に進展している目標はわずか15%」

ロイター通信

と、国連のグテレス事務総長は言及しています。

 「誰一人取り残さない」という理念は、本当に素晴らしい。でも、いろいろと予期せぬ事態もあり、必ずしも予定通り進むことは、国連の場でも難しい。100%の成果を出すのって、難しいんです。だからこそ、まずは「緩和」を目指す、という考え方は、しっくりきたのです。

緩和をしつつ、その先の「解決」を目指す

 ただ、「緩和でもいい」というのは、「成果を出すことを放棄する」ということではありません。「今回は70%だけだけど、課題の緩和はできたよね~」では、いつまで経っても「解決」という状況には向かえません。

 緩和していれば、何が原因で好転しているのかと長所を伸ばし、悪化しているならば、これまでの事業で良かったのかを見つめ直し、改善する。そのうえで、その先にある100%、もしくはさらに120%の成果を求める―。そんな思いを持った人にこれから、たくさん出会えるのを楽しみにしています。

山路健造(やまじ・けんぞう)
1984年、大分市出身。立命館アジア太平洋大学卒業。西日本新聞社で7年間、記者職として九州の国際交流、国際協力、多文化共生の現場などを取材。新聞社を退職し、JICA青年海外協力隊でフィリピンへ派遣。自らも海外で「外国人」だった経験から多文化共生に関心を持つ。
帰国後、認定NPO法人地球市民の会に入職し、奨学金事業を担当したほか、国内の外国人支援のための「地球市民共生事業」を立ち上げた。2018年1月にタイ人グループ「サワディー佐賀」を設立し、代表に。タイをキーワードにしたまちづくりや多言語の災害情報発信が評価され、2021年1月、総務省ふるさとづくり大賞(団体表彰)受賞した。
22年2月に始まったウクライナ侵攻では、佐賀県の避難民支援の官民連携組織「SAGA Ukeire Network~ウクライナひまわりプロジェクト~」で事務局を担当。
2023年6月に地球市民の会を退職。同8月より、個人事業「人とヒトの幸せ開発研究所」を立ち上げ、多文化共生やNPOマネジメントサポートなどに携わる。


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