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【コラム】民間の「多文化マインド」活用を~外国人材受け入れ「必要」86%人口減や人手不足背景~

 共同通信が全国の自治体首長を対象に行った人口減少問題に関するアンケートで、86%が外国人材の受け入れを推進する必要があると答えたことが16日、分かった。農林水産業や医療介護分野の深刻な人手不足を背景に、地域の労働力や活性化の担い手として欠かせなくなっているためだ。自治体が「消滅しかねない」との危機感を抱く首長は84%に上り、人口減に歯止めがかからず、自治体運営が厳しさを増す状況が浮かんだ。

共同通信

 17日の朝刊は、共同通信の人口減少に関する全国自治体アンケートのニュースの話題が大きく報じられています。「86%の自治体が外国人材の受け入れを推進する必要があると回答」。その背景として、人口減に歯止めがかからず、「自治体が消滅しかねない」との危機感がある、との記事です。ただ、この記事で、多文化共生関係者としても「危機感」を感じたのは、「日本語教育や行政情報の多言語化など外国人住民が暮らしやすい地域づくりに取り組んでいる」と答えた自治体が63%だったということ。逆に言えば、約4割の自治体が、何も取り組めていないということの裏返しです。このような実情に対し、「民間の多文化共生マインドを活用してほしい」と思うのです。


2070年には外国人比率が1割超えに

 今回の共同通信の全国自治体アンケートは、2023年4月に国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が公表した、2021年から2070年までの「日本の将来推計人口」によるものです。

 この中で、少子高齢化により、調査の出発点である2020年の総人口1億2615万人(国勢調査結果)は、2056年には1億人を切り、2070年には8700万人と、約31%減少すると予測されています。このうち、100歳以上の人口は、2067年時点で50万人を超えると推計されています。

 一方で、「働き手」として期待している外国人は、2040年まで毎年約16万人ペースで増え続けると予想(その後は総人口の減少と連動して緩やかにペース減)され、2070年では940万2千人の外国人人口と予測されています。8700万人総人口に対し、940万人の外国人。つまりは日本の総人口の10人に1人以上が外国人、という予測がされているのです。

より高まる「若い」外国人材への期待

 この50年で、人口がただ3割減るだけではありません。働き手である「生産年齢人口」(15~64歳の人口)は、2020年の7509万人から、2070年には4087万人まで約4割減少します。8700万人に対し、4087万人。つまりは働ける年代は約半数となる見込みです。

 一方で、アジアはまだまだ平均年齢の若い国が多いです。米中央情報局のTHE WORLD FACTBOOKによると、ASEAN各国の平均年齢は、ラオス24歳、フィリピン24.1歳、カンボジア26.4歳、マレーシア29.2歳、ミャンマー29.2歳、インドネシア31.1歳、ブルネイ31.1歳、ベトナム31.9歳、シンガポール35.6歳、タイ39歳と、日本の48.6歳に比べ、ラオスやフィリピンでは2分の1、タイと比べても10歳近い差があります。まだまだこれから、働ける人材がたくさんいます。その中から、「海外で働いて稼ぎたい」という外国人への期待があるものと思われます。

公務員も人手不足「外国人支援へ手が回らない」

 先の共同通信の記事に戻ります。これだけ人口減が進めば、税金を支払える世代も減ります。一方で、水道管や道路の長さが変わるわけではありません。税収が減ると同時に、地域が抱える課題は複雑化。さらには職員数も減少しています。「総務省地方公共団体定員管理調査」によると、地方公共団体の 総職員数は 、1994年度の328万人をピークに減少傾向で、 2022年度は 280万人と、94 年比15 %の減少しているそうです。

 私が地球市民の会時代、公益財団法人かめのり財団の委託を受け、「佐賀県における外国人住民支援に係る多文化共生調査」を実施しました。

 その調査の中でも、自治体職員から「外国人支援まで手が回らない」という声が聞かれました。共同通信アンケートでもあった「約4割の自治体が、外国人支援に何も取り組めていない」という結果も、調査を担当して実感した数字です。

子ども、災害、法律知識・・・民間の多文化マインド活用を

 ただ、86%の自治体が「外国人材の受け入れが必要」という中、何もしないで指をくわえて待っている、というわけにはいきません。ではどうすればいいか。行政がすべての外国人支援、多文化共生施策を担うのではなく、民間の力も活用してほしい、ということです。

 まだまだ、多文化共生に携わるCSO(NPOも含めた市民社会組織)、担い手が少ないのは現状です。2022年度から、かめのり財団が「多文化共生地域ネットワーク支援事業」として、「かめのり多文化共生塾」と冠した担い手育成やネットワークづくりに取り組まれています。2022年度は九州会場(佐賀会場)の事務局を担当しましたが、これらの人口予測により関心を持つようになったこと、より多文化共生の仕組みづくりに関心を持つようになったのは、この多文化共生塾が大きな転換です。

九州会場でも多くの参加者があったかめのり多文化共生塾=2022年12月

 ただ、多文化共生に携わるのは、これまで外国人支援をした経験があるCSOだけでなくても良いと思うのです。外国人をめぐる問題は、教育、医療、災害、就労―など、枚挙にいとまがありません。例えば子どもの居場所づくりに取り組む団体が、外国にルーツを持つ子どもも支援する。災害支援団体が、外国人向けに防災訓練を実施する。士業が外国人に特化した法律相談をする・・・など、様々な形で関わることができると思うのです。行政には、それらの活動に補助金や助成金で資金援助をすることもできると思います。

 また、休眠預金など、新たな民間で活用できる財源も登場しました。トヨタ財団特定課題「外国人材の受け入れと日本社会」など、多文化共生の助成金も増えています。これらの資金を活用し、さらに多文化領域の民間公益活動を活性化する、つまりは「多文化共生マインド」を育むこと。それこそが、さらなる外国人材から選ばれる国となり、ひいては「自治体の消滅を防ぐ道」となると信じています。

山路健造(やまじ・けんぞう)
1984年、大分市出身。立命館アジア太平洋大学卒業。西日本新聞社で7年間、記者職として九州の国際交流、国際協力、多文化共生の現場などを取材。新聞社を退職し、JICA青年海外協力隊でフィリピンへ派遣。自らも海外で「外国人」だった経験から多文化共生に関心を持つ。
帰国後、認定NPO法人地球市民の会に入職し、奨学金事業を担当したほか、国内の外国人支援のための「地球市民共生事業」を立ち上げた。2018年1月にタイ人グループ「サワディー佐賀」を設立し、代表に。タイをキーワードにしたまちづくりや多言語の災害情報発信が評価され、2021年1月、総務省ふるさとづくり大賞(団体表彰)受賞した。
22年2月に始まったウクライナ侵攻では、佐賀県の避難民支援の官民連携組織「SAGA Ukeire Network~ウクライナひまわりプロジェクト~」で事務局を担当。
2023年6月に地球市民の会を退職。同8月より、個人事業「人とヒトの幸せ開発研究所」を立ち上げ、多文化共生やNPOマネジメントサポートなどに携わる。


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