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ウェブ系エンジニアが商業ゲーム開発に本気で一年半向き合った話

(Cover image: Photo by Lorenzo Herrera on Unsplash

今年も早いもので12月になりました。だいぶ長文を書いていないので文章がまとまるか不安ですが、年末(自分)恒例の一年のふりかえりを行いたいと思います。

これは 2023年 エンジニアと人生コミュニティ、アドベントカレンダー 二日目の記事です!
https://adventar.org/calendars/9158

昨日は かっくんさんの「"エンジニアと人生合同本"執筆の舞台裏」でした。
https://note.com/fromkk/n/n2809746e818c

最近の大きな変化でいうと、 Polyscapeという会社でゲームエンジニアとして過ごした一年半を終え、ウェブ開発の現場に軸足を戻そうとしているところです。

大中小様々なウェブアプリ開発現場に関わってきましたが、商業ゲームの開発(コンソールへの移植も視野に入れています)に一年半従事した経験は、それ以前のエンジニア人生とは全く異なるものでした。

「ゲームをつくってみたい!」と思っているウェブアプリ界隈の方に届けばと思い、体験談をシェアします。

今までの経歴

Shopifyというカナダ最大手のEコマースプラットフォームでシニアエンジニア→ SREとして働き、数百万リクエスト/分という痺れる環境での障害対応や、 Railsコミッターに囲まれながら世界最大のRailsモノリスでガンガン機能開発 などをしていました。

なぜゲームにチャレンジしたか

詳細は一年前に書いた下記エントリに委ねますが、ゲームという表現手段に無限の可能性を感じているから、というのが今でも変わらないモチベーションです。

大まかなタイムライン

  • Polyscape設立の記事を読んで、業務委託・のちに正社員として入社

  • 社長のソロ開発に加わる:自分がPolyscapeに参加する以前に、社長が一人でがりがりプロトタイプをつくっていました。そこに自分が混じり、Unity、C#初体験で、最初の1週間で「ダッシュ攻撃」のようなものを実装しました。

  • 採用が進み、エンジニアが増える:多くの期間を三人のエンジニア体制で過ごしました。 開発のロードマップを社長とともにつくっていく、エンジニアリングマネージャー的なムーブが増えました。

  • マネジメント業務が増える:入ってきた二人のエンジニアがとても優れていて、新しい分野にキャッチアップしつつ、マネジメント業務を行うのは集中が分散してかなり大変でした。

つくったゲーム

MISTROGUE:ミストと生けるダンジョンhttps://store.steampowered.com/app/2102320/MISTROGUE/
(PCとMacでプレイでき、Steamで購入可能です)

風来のシレンやトルネコといった不思議のダンジョンシリーズのようなゲームプレイを、リアルタイムアクションとして表現しているゲームです。

エンドコンテンツ、百戦錬磨の道の様子

伝えたいこと

ゲーム開発は、まじで痺れた

BtoC、供給過多の業界で、売れるものをつくることの難しさを身に沁みて学びました。

完成度、に対する基準の高さ、おもてなし精神もすごいです。その結果「完成度の基準」の目線が上がったと思います。

ゲームを作りたいウェブ系エンジニアの方は知り合いにもたくさんいますが、この業界でお金を稼ぐためにやろうと思うと「割に合わない」と思うこと確実だな、と思いました。

ゲーム業界では、業界構造が違うので、一人一人のエンジニアに入る報酬はウェブに比べると高くないです。

ゲーム開発の現場でのステークホルダーの多さ。
自分が見た小さな現場でも、二倍以上の役職・専門職が社内社外で動員されていた

ゲームを作り続けるモチベーションを保つには、「ものづくりの真髄に触れることができる」という姿勢が必要だと思います。

ものづくりに対して深い愛情と狂気を注ぐことが生きがい、それでいて技術的にも強強のエンジニアがごろごろしている印象です。

面白いゲームをつくるために

ゲームを「それっぽくつくる」ところまでの敷居は、近年だいぶ下がった印象があります。Unityで、ローカルで動いて、カジュアルゲーム的なものであればすぐ作れるでしょう。ただその先に、完成度をあげるためのエンドレスな作業があります

「このゲームは何が面白いのか」ということに対する鬼のような突き詰めがいる。それで、きっとやったスタートラインに立てる印象です。

既存のゲームをまるパクりすることで、この部分のショートカットはある程度できるかもしれません。それでもそれを自分たちで細部に至るまで言語化できないと、パクっていたと思っていたとしてもなんか面白くない、というものができると思います。

面白いゲームを、売れるゲームに変える

その後に、「面白いゲームを売れるゲームにするためのマーケ作業」があります。ゲームが面白ければ、そのゲームは売れる、というのは幻想です。このマインドセットが深く刻まれました。

とにかく、ゲームは供給過多。面白いゲームが、毎月続々と出ています。(Steamなど) その中で、なぜあなたのゲームが彼らの目に留まるのか。認知、評価、の壁を越えるまでに、いくつもの離脱ポイントがあります。

毎日数本単位で、高品質、低価格のゲームが続々と出ている(Steam)

MISTROGUEは、幸いそこを越えることができました。社内にとても優秀なマーケPR担当の方がいてくださり、国内ゲームメディアできちんとバズらせることができました。

そうやってボリュームゾーンに認知されると、容赦ない批評にさらされる。その批評が、Steam上でほぼリアルタイムで購買潜在層の行動を変える、というシビアな世界です。

私たちがつくったゲームは「賛否両論」

認知はされましたが、評価の壁を超えられたとはいえない状況です。手をこまねいていたわけではなく、毎回真摯にレビューに向き合い、追加コンテンツを出し続けました。

6月末のアプデ:果てなき亜空
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000098447.html

アプデの度に、評価のコメントの内容は変わります。それでも、賛否両論とやや好評のあたりをいったりきたり、とする状況は続きました。

今なら言えますが、これはつまり「完成度が低い」とみなされている状況を打破することができなかったことだと思います。

完成度の上げ方

完成度は、バグフィックスや細部の荒さを取り除くことであがるものでしょうか。弊社タイトルがアーリーアクセスから正式版までにたどった道に関して言えば、私はそうは思いません。

「このゲームは何が面白いのか」というところに対する開発・運営側の深い、深い理解。それをゲーム開発の完成度の細部に落とし込む開発力

この二つが「たとえ荒削りのゲームであったとしても」ユーザーを納得、低評価レビューを黙らせることができるだけの迫力を持つゲームをつくるための要素だと信じています。

ディレクションをやらせていただくことができた

この意見を持つに至った背景には、自分がゲームディレクター業務に関わった経験があります。2023年9月と10月の二ヶ月間、正式版発売までのゲーム全体のディレクションをやらせていただく機会をいただきました。

毎日自分のゲームの引き出しのなさ、言語化の稚拙さに嫌気がさしました。が「このゲームは何が面白いのか」に対する言語化、アングルの打ち出し方は正しかったと思います。正式版リリース初週で、アーリーアクセスまでの売り上げを大幅に上回る数字を出すことができました。

MISTROGUEは「スキルのかけ算で、強敵を圧倒する」ゲームだという打ち出しに変更しました

コンテンツ追加を突貫工事でやったことで「これで正式版なの?」とツッコミ・低評価につながったのも否めません。ただ、コンテンツ追加をしなかったとしたら、バグフィックスや細部の荒さを取る作業にチームは従事していたでしょう。

自分が思う完成度とは、ゲームに深く、深く刻まれ、開発メンバーに幾度となく語られるDNAのようなもの。会社が掲げるミッション、ビジョンのようなレベルのものが、ゲームの各タイトルにあるような、そんなアツいものが完成度の高いゲーム、という説明の背後に隠されていると思います。

社内で組織運営のベンチマークとして取り上げられたA24スタジオ

なぜあなたは今やめるのか?

正直、二ヶ月間担当したゲームディレクション業務で、燃え尽きてしまったからです。自分の至らなさに、ゲームの完成度を高めることの難しさに。

このままやっていても、優秀なゲームディレクターになるパスや、ゲームとウェブの掛け算で強強のエンジニアとして成り上がっていくパスが描けませんでした。

身についたもの

ただ、仕事人生ではじめて「自分はひとりではできないんだ」という諦めの境地がひらいたように思います。

"Give Up"
Photo by Jackson Simmer on Unsplash

今までは、ウェブの現場で「自分結構イケてるんじゃない?」と思っていたこともありました。他の人たちにどれだけ支えられているのかにも鈍感でした。

仕事においてですが、今は「自分一人では何もできないんだ」という諦めの境地に立てたように思えます。これは、自分がチームマネジメントやPM、経営幹部になるにあたっては必須の薬のように思います。

自分が求めるリーダー像が変わった

「私にはメッセージがあるが、それは自分だけでは実現できない」と心から認められる人。そのときに、周りに「助けてください」と、卑屈になることなく真っ直ぐと伝え、他の人たちに頼ることができる。それが、周りの力を引き出すみなもととなる。

そんなリーダーシップ像が自分は好きだし、そんな人のもとで働きたい。そんなリーダーに自分が将来なるための、経験を積むことができたと思います。

これから

軸足はウェブ開発に戻り、フリーランスエンジニアとして、技術力とマネジメントの掛け算の分野でこれから活動していきます。仕事も絶賛募集中です。まずはお声がけください。https://www.linkedin.com/in/kenzan100/

個人開発としては、ゲームを作り続けます。

「ゲーム開発に畏敬の念を持って接することができるようになった」「完成度に対する解像度が上がった」 「他の人に、真の意味で頼ることを覚えた」 それぞれ、ゲームの個人開発に、今後のキャリアに、かけがえのないスキルを獲得しました。本当にありがとうございました。狭い世界です。またよろしくね。


Advent Calendar、明日はTakatsuさんの記事です!お楽しみに 😊


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