[すこし詩的なものとして]0031 年下のシーフ

 「3つ数えたらバイバイね」と、右の少年は言った。

 「君はなにをくれるの?」と、左の少年は言った。

 「メランコリーってくせになりそうだね」と、中央の少年は言った。

 「外は、甘くても危険な夜だよ」と、左の少年は言った。

 「見て欲しいものは、頭に残しちゃだめだよ」と、右の少年は言った。

 「雪が降ると、思い出しちゃうね」と、中央の少年は言った。

 「そろそろ。8時23分だ」と、左の少年は言った。

 「用意はいいかい?」と、中央の少年は言った。

 「進めば、すぐ見えてくるんだよ」と、右の少年は言った。

 「ほら、ひとりじゃないと信じなきゃ」と、左の少年は言った。

 「空には星が瞬いているよ」と、その少年たちは言った。

 気づいたら、僕の前から少年たちはいなくなっていた。
 彼らはいろいろなものを僕から盗んでいったように思っていた。
 でもそれは最初からわかっていた。
 最初からには何もなかったんだ。
 すべてが幻想だったんだ。

 そして何も持たずに一歩前へ出る。
 後ろを見る勇気はなかったんだ。
 だから僕は右手でピースサインをつくり、手を後ろに回して腰のあたりに添えた。後ろにいる君たちへのサインだ。
 もうたぶん大丈夫。
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2012.12.2

これを書いたのは、もう8年も前になりましょうか。
いろいろな悲しみが起きた中書いたものなので、結構支離滅裂なのだけれど、言葉ひとつひとつになんだか思い出は詰まっています。
僕の目の前にいる個性豊かな子どもが3人が語る言葉は、どれも今の僕にも響いてきます。
苦しい時をどんなふうに乗り切ったかなんて、実は明確に覚えていなくて、そして思い出そうにも思い出せなくて、でもなんだかんだ今も生きている。そんなことを思うと、時間軸は止まることなく、精神軸だけが動くことを拒否しているだけで、川の流れのように、大河の一滴のように、移りゆく時代、移りゆく感情、移りゆく年月、どれも不変ではなく、流れに導かれて変化してゆくのだと思います。

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