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編集者になってはじめて担当した本の話

同じ制作の仕事だったけれど、業界を変えて未経験から書籍編集者になって、いちばん最初につくった本の話を、金晩のアルコールが残った状態の勢いで書き連ねよっと思い立ち、noteまで開設して、いま勢いで書いてます。

2022年の1月にありがたいことに今の会社に拾ってもらって、だいたい3月ころに企画通過、8月に出した本が、テレビでもおなじみ出口保行先生の『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉』という本です。

まず事実としては、発売から1年以上が経ったいまもおかげさまで重版が続き、電子書籍とか除いて紙の部数だけでも10万部突破というところまでたどりつきました。どうやらちょっとは誇っていい数字らしいです。

結果論になっちゃう感じがして、売れてる理由を分析するのもあんまり恥ずかしいかなとも思う一方、まじめに振り返ってみると。

まず、そもそも、出口先生がめちゃくちゃいいです。メディア露出が多いからありがたいとかそういう話より前に、いやもちろんそれも大感謝なんですが、何より出口先生の人間性が好き。

法務省時代、刑務所や少年鑑別所などで、犯罪者や非行少年に日々、向き合ってきた出口先生です。省庁での出世より、人を育む現場を望んで大学教授へと転身された出口先生です。だから、何より人間への目線がやさしい。本のタイトルはちょっとおどかす感じですが、読むとめちゃくちゃやさしい。しかもなんかイヤミなやさしさじゃない感じがする。

子育て本って主に育児中の方々が読むわけですが、悩みも多いだろうし、わが子に真剣だろうし、日々に追われてるだろうしで、根本的にやさしい著者でないと響く言葉は書けないと思うのですが、出口先生のは、やさしさがにじむ文章だから、Amazonのレビューとか見ていても、読者満足がすごく高く、SNSの口コミで読者が広がっている実感がすごいあります。

で、そのやさしさを過不足なく演出してくださっているのが、先生といっしょにライティングしてくれた、小川さんというライターです。というか小川さんもやさしい。初めての担当作でめちゃくちゃ錯綜してただろう僕のアイデアを、じっくりとカフェで聴いてくださった想い出があります。

小川さんがかかわる本はとっても重版率が高くて、売れる本が多くて、スーパーライターなのに、それを相手に感じさせないほど物腰やわらかな方で、以来、甘えちゃって私いま、小川さんとの4冊目をつくっています。

出口先生と小川さんのおふたりのおかげで、もう内容というか原稿の満足度はめちゃくちゃ高いわけです。犯罪心理学を通じて非行少年の実例を分析することで、子育て、特に声かけの問題点と改善点を探るというおもしろい内容ができました。

子育ても心理学も非行少年も、いずれも書籍において人気が高いテーマ、切り口なので、マーケットインの観点からも、未経験ながらいっちょ前に売れそうな実感を抱かせるものでした。

でも、実は最初は子育てテーマにするつもりはなくて、でも結果的に子育てテーマにしたり、特に声かけに着目したりといった企画の建てつけは、先輩編集者の方々の助言を受けたもので、そういう意味ではベテラン編集者の智慧が詰まった企画ということで、かなり下駄を履かせてもらってるというか、ほんとにこの本においては自分の「手腕」なんてぜんぜんなくて、まわりの方々に助けられた本でした。タイトルや帯コピーも、子育て世代の方を中心に、いろいろアドバイスをいただきました。

そもそも子育ての当事者でない自分が、入社1冊目で子育て本を企画し、編集することすら、予想だにしなかったことでした。まさか子育て本を作るとはな〜、どうしよう、そんな感じでした。

でも、これは読者の方のレビューでもよく見かけるのですが、子育て本のようで子育て実用じゃないっていうか、相手を「呪う言葉・救う言葉」という、だれにでも通じるコミュニケーションの問題提起じゃないですか。だから、もちろん子育て当事者がいちばんの読者層ではあるものの、子育て関係なく面白いし、ためになるから、読者がぶわぁっと広がったのかな、なんて思います。

僕にとっても、自分でつくっておいて何を言うって感じですが、いまでは自身のバイブルという感じで、ときに読み返します。

言葉が人を呪ったり救ったりというのに共感があるというか、私自身、医者の不養生というかなんというか、いまでも言葉選びや言葉を発するタイミングに苦手があるというか、不用意に親しい人を傷つけてしまう幼さがあり、あとになって言葉に気をつけなきゃなっていつも思って、ときたま読み返しています。「よかれと思って」の発言が危ないって本書でも書いてあるのですが、ほんとにそう。よかれと思っての発言って、自分の場合は、あとで冷静になって考えたら、ぜんぜんダメに決まっている発言だったりします。

いちおう前職ではコピーライターを名乗っていたのですが、そのときも、編集者になったいまも、けっきょく自分って言葉で失敗してるなぁって感じます。毎日って、なんであんなこと言っちゃったんだろうの連続じゃないですか。

何が言いたいかというと、自分が勝手に思っている、この本が売れてくれた理由としては、もちろん制作陣のパワーもでかい、営業してくれたり宣伝してくれたりっていう社内の人たちのパワーもでかい、そもそも市場もでかい、そういったことはもちろんあるけれど、少なくとも自分の中では、「本当に編集者本人のための本だった」という面は大きいのかなという話でした。

僕はこの本をこの先、何度でも読むんだろうなという感じがします。魅力的な言葉の使い手になって、タイトルとかコピーとか原稿整理とか得意になって、また10万部の本、作れるといいいな。

あ、あと、この本のはずせない大きな魅力のひとつとしては、こんどうさんというイラストレーターさんのカバーイラストの力も大きいということも言っておきたいです。小川さん同様、こんどうさんにも甘えて何度も頼んじゃっています。

最後に、書籍のAmazon商品ページのリンクを貼ることをお許しください。出口先生とはいま、次のおもしろいことを考えてますのでお楽しみに。本じゃなくて、まさかのものを、社内のみなさんのお力を得てつくっているところです。


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