韓国での奇妙な船旅
韓国では長く続いた梅雨がいよいよ終わろうとしています。
僕が釜山に来てからもしばらく雨が続いていました。こんなにも雨が多いと嫌になってしまいます。
ソウルでの3週間も雨ばかりだったし、真夏のシーズンの7月でも、韓国は鬱蒼とした気分が立ち込めています。
大雨による被害も出ており、頻繁に鳴る警報に、もっとつらい思いをしている人のことをふと感じてしまいます。
とはいえ、ちょっとずつ梅雨は終わろうとしています。
先日、快晴の釜山にて、僕は流れるまま不思議な体験をしました。
***
出発はエンジントラブルから
ソウルを出て、韓国南部の大都市・釜山(プサン)にやってきました。
僕が釜山に来た目的は、ボランティアをやるため。
釜山に滞在するおよそ3週間、僕はナイトクラブや民泊物件のオーナーをしている人をサポートするためのボランティアをすることになりました。
具体的には、ナイトクラブの運営手伝いや民泊物件の掃除をする代わりに、シェアハウスに無料で宿泊させてくれるというもの。
オーナーは韓国人ですが英語も堪能であるため、基本的には英語でコミュニケーションを取ることになります。
今回、オーナーがボートで出かける際に一緒に同行することになりました。誘ってもらった依頼にはもちろん二つ返事で答えます。
朝8時、水とサンオイルをリュックに詰め込んで、僕はオーナーの車に乗り込みます。車はテスラのモデルYです。まさか韓国でテスラに乗れるとは。
サンドイッチのお店で朝食を食べてから港に向かいます。ありがたいことに、いつもご飯代を全て出してもらっています。
今回、詳しいことは何も聞かされていませんでした。どんなボートなのか、どこに行くのか、行った先で何をするのか、全てわかりません。でも、不安よりワクワクの方が勝っている感覚をおぼえていました。
港に到着。たくさんのボートが停泊しているヨットハーバーです。
今回乗るボートは、プライベート用で10人くらいは乗れるサイズのものでした。
これがオーナーのものなのかどうかはいまいちわかりません。でも、小慣れた感じで扱っているのでたぶんそうなのでしょう。
先にボートの中にいた整備工らしきおじさんとしばらく話しながら、オイルを入れていきます。僕も一緒に手伝っていきます。
オイルを入れ終わっていざ出発という時、ちょっと様子がおかしくなります。何度エンジンを入れても動かない。
あれれ。
どうやら故障したみたいです。焦る整備工と考えるオーナー。何もできない僕はひたすら待つばかり。
彼らはあの手この手で修理をしています。でも、知識がないし、そもそも韓国語を話せない僕は会話にすら入れません。
直射日光が照りつくボートの上でただただ待ち続けます。スマホに入れてるKindleを読んで暇をつぶします。
なかなか修理が終わらない。時計の針がてっぺんに差し掛かった頃、一旦休憩に入り、オーナーに連れられて3人ですぐ近くの中華料理屋に向かいました。
余談ですが、韓国には独自に進化を遂げた「韓国式中華料理」が数多くあります。有名どころだと、ジャージャー麺をアレンジした「チャジャンミョン」など。日本にも「日本式中華料理」のラーメンや餃子、天津飯があるので、それと同じ感覚かと思います。
この店で、中国式冷麺(チュングクシク ネンミョン)を食べます。これも韓国式中華料理。中華風の味付けの冷麺です。
僕が何も言わなくても、オーナーは勝手に注文してくれます。優柔不断な僕にとっては、勝手に注文してくれるのはとってもありがたいです。後日オーナーから、ケントはなんでも食べる度胸があると言われました。予期せぬ褒め言葉でした。
中国式冷麺は少し辛かったけれど、暑い夏にはぴったりの美味しい冷麺でした。また一つ韓国料理を覚えました。食べている間、ふたりはずっと話し込んで、おそらく修理の件について打ち合わせていました。
食べ終わってから、ボートに戻り、再び待つことになります。
次第に飽きてきたのでひとりで港を散歩していたら、その辺にいた犬何匹かに襲われたので、おとなしくボートの上で待つことにしました。
待ちくたびれた頃、港に来て5時間半が経っていました。
ブーーーン
ボートの中にエンジン音が響き渡ります。やっとエンジンが起動しました。これで航海できる!
太陽が南中を示す14時30分、オーナーと整備工と僕の3人を乗せたボートは海に向かって動き出しました。
***
ボートで航海
南海(ナメ)を西に向かって航行するボートの上から僕たちは釜山の街を眺めます。広安大橋(クァンアンデキョ)、五六島(オリュクド)、太宗台(テジョンテ)など、釜山の海沿いにある有名な場所を海側から見ていきます。
ただ観光に来ても、なかなかこの景色は見られないでしょう。とても貴重で楽しい体験です。
風が強かったものの、日差しが差し込んでいたため、とても清々しい気持ちでした。
最高!
長く待った分、開放感に溢れていました。こんな貴重な経験なかなかできるものではありません。
この気分のまま、ボートはスピードを上げて進んでいきます。
ボートの中では、外を眺めたり、ボートを操縦しているオーナーと話したり、のんびりと過ごしていきます。
僕は激しく揺れる乗り物の中で活字を読むと、酔ってしまいます。なので、ちょっと暇だったけれど、本は読めません。
徐々に雲が出てきて、天気は曇り空になっていました。海は天気が変わりやすい者です。風も強かったため、寒いとも感じるようになってきていました。
加えて、だいぶ時間もだいぶ経っていたので、ちょっと飽きてしまいました。
早く着かないかなぁ。。
そんな気持ちにもなっていました。不安ではないけれど、日も沈んできて焦りのようなものも感じてきました。
時刻は18時30分を過ぎていました。出発してから4時間。
夕日が西の空に綺麗に見えました。もう今日が終わりそうな、そんな展開になってきました。
そもそもこの後、島に着いてからもどうなっちゃうんだろう。いろいろと疑問が湧いてきます。
そんな中、ボートはひとつの島に寄せようとしています。
やっとここが目的地だ!
スマホで調べてみると昌善島(チャンソンド)と書かれていました。大陸とは島で繋がっているものの、れっきとした島です。調べてみても日本語どころか英語の情報もほとんど見つかりません。
この島の港に停めることになりました。
接岸の作業は一緒に手伝います。ロープや岸とボートの間に挟むやつを渡したり、一緒に引っ張ったり。
そして無事、港に到着しました。
これでひと安心、かと思いきや、上陸した瞬間、港にいた港湾警察の人たちに囲まれます。
おやおや?
少し焦りの気持ちも出たものの、韓国語が話せなかったし、主要メンバーではないと判断されたため、すぐに解放してもらいました。
オーナーと整備工のふたりがしばらく警察と話しています。アルコールの検査をしたり、指紋を取ったり、ちょっと物々しい雰囲気もありました。
僕は何もすることができないので、ボートに戻ってぼーっとその様子を眺めていました。
およそ30分間の事情聴取を終え、ふたりも解放されました。詳しいことはここでは書けませんが、少しトラブルがあったそうです。
とはいえ、島に上陸できました。ホッと一息。開放感が出たのか、尿意が近くなりました。
***
小さな島の夜
島に着いてから、流れるままに車に乗せられます。
運転しているのは、おそらくこの島で働いている漁港関連の人なのでしょう。車には工具や木材がたくさん積まれていました。
みんな韓国語で話しているため、この後どうなるのか全くわかりません。我々はどこへ行くのか。
時刻は19時を過ぎており、こんな遠い島でどうやって帰るかもわかりません。
ただ、流れに乗ることしかできないけれど、そんな状況に面白さも感じていました。こんな貴重な体験、誰しもができるものではありません。
そして、ふとオーナーから一言「We are going to stay」と言われます。今日はもう帰らない、と。
突然の外泊が決まりました。なんかおかしくなっちゃいました。
たぶんオーナーはいろんなトラブルに遭って、疲れていたでしょう。顔が物語っています。この時、僕ができることは、僕を連れてきてしまったことに後悔を感じさせないことだと思いました。
できるだけ明るく、楽しく振る舞う。これを心がけることにしました。
車はとある港に着きました。ここで他の漁港関連の人と合流します。暗闇の中でみんながなにかを探しています。
何が起こったのか、何を探しているのか、僕には全くわからないので、ひとりで日の沈んだ薄暮の空を眺めていました。
もうすぐ今日が終わる。やり残したことはないかい。
やり残したことはあるのかな。空を眺めながら、釜山に来てからの慌ただしい日々のことをふと想起しました。
再び車に乗り込み、向かった先は海の目の前にある小さなペンションでした。まだとても新しくてとても綺麗な建物でした。
広いリビング、大きなベッド。お湯の出るシャワールームもある。むしろ快適だと思いました。
言われるがままにシャワーを浴びます。今日のあれこれは、僕に取っては大きな苦労ではなかったけれど、思っていたよりも体は緊張していました。熱いシャワーはとても心地よいものでした。
せっかく体は綺麗になったけれど、着替えはないので仕方なく同じ服を着ます。
リビングに行くと、みんなが夜ご飯を食べていました。
一緒に来た漁港のおじさんたちが、ハモの刺身をつつきながら、ソジュ(焼酎)を飲んでいます。
僕もその輪に混ぜてもらい、一緒に食べます。ハモ刺しは素朴だけど身が詰まってて美味しく、箸が止まりません。
韓国式の上下関係はソウルにいた頃に教えてもらっていたため、実践してみます。注いでもらう時に手を添えたり、脇目を見てこっそり飲んだり、見よう見まねでしきたりを守ってみました。
僕は3年ほど、お酒を控えていましたが、韓国に来てからは人付き合いで何度も飲んでしまっています。ソジュが好きで。。。
漁港のおじさんたちは、みんな楽しそうに話していました。
オーナーも整備工も疲れた顔でしたが、それでもお酒を飲んで楽しんでいました。
僕は一ミリもその会話についていけなかったけれど、楽しそうな雰囲気に混ざって、気づいたら笑顔になっていました。
いろいろあった一日を乗り越えて、どこかハイになっていました。
楽しい!
心の底から来る不思議なエネルギーにゾワゾワした楽しさを感じていました。
〆で韓国風ラーメンも食べたため、お腹いっぱいです。ペブルダ!
まだ11時台だったものの、もう疲労困憊。片付けを任せて、もう寝ることにしました。
歯ブラシがないので、口の中はちょっと違和感があります。こういった外泊のために、歯ブラシぐらいは常にカバンに入れていてもいいなと思いました。
分厚いマットレスの布団に入った瞬間、沈むように記憶がなくなりました。
***
島から脱出
朝起きたら、窓の外は真っ白でした。
外に出てみると一面霧の世界で、とても不思議な気分でした。
確かにもう目は覚めている。明晰夢ではないと認識しつつもどこかまだ夢の中にいる気分でした。
アニョハセヨ!
漁港のおじさんたちが草を刈っていました。
すぐ目の前のビーチに行ってみます。誰もいない静かな浜辺。真っ白な霧に包まれて、穏やかな気持ちになります。
いろいろあった一日が終わったけれど、まだこの奇妙な旅は終わっていない。
今日一日がどうなっちゃうのか、ゾクゾクした気持ちになります。
オーナーも整備工も起きてきて、準備をしてすぐに出発しました。同じ車に乗って、またどこかに連れて行かれます。
霧の中の山道を車は軽快に進んでいきます。
着いた先は、一軒の食堂。ここでみんなで朝ごはんを食べます。
何を注文したのかもわからない中、キムチやナムルなど、いろんな惣菜が机に運ばれます。それをみんな箸でつっついてく。
メインの料理は魚のフライでした。
島らしい魚を使った料理が本当に美味しくて、美味しくて。五穀米と一緒に食べれてとても満足です。
この店のキムチも絶品でした。韓国来てから、キムチが大好きになりました。僕の食生活はすぐに野菜不足になってしまうので、日本に帰ってからもキムチを食べ続けたいと思っています。
ここでも、お代は全て持ってもらいました。本当まわりのみんなに感謝です。ついつい食べ過ぎてお腹いっぱいになってしまいました。
車で向かったのは、島の小さな港です。ここで整備工のおじさんとはサヨナラです。
名前もわからないけど、ずっと顔を合わせていたから不思議な友情が芽生えていました。少し寂しい別れとなりました。
がっちり握手をしました。カムサハムニダ!一期一会です。
そのまま車は島を走ります。
いつの間にか車は大きな橋の上にいました。デザインとか、たもとにあった遊園地の光景を見ていると、この橋が明石海峡大橋に雰囲気が似ていると感じました。
遊園地には島を渡る長いゴンドラが架かっています。ソウルのロッテワールドに行った時にも思ったけれど、韓国のアミューズメント施設はどこもお金のつぎ込み方が派手で、まるでバブル時代の様相です。
向かった先は、大陸側の街・泗川(サチョン)です。この街のバスターミナルで車を降ろしてもらいました。
ここで運転手のおじさんともお別れ。ありがとうございました。
久しぶりにオーナーと二人きりになりました。
釜山行きのバスのチケットを買ってもらいます。いよいよバスで帰路につきます。
***
釜山への帰路
三千里(サンチョンリ)バスターミナルは簡素で無機質な建物でした。
バスの出発までまだ40分あったので、ひとりで近くを散歩してみました。
観光地でもないし、日本人もほとんどいないような普通の住宅街です。小さな食堂や教会、幼稚園などを見て、この街の生活を想起してみます。
こういったちょっとした街の姿を見るのが楽しいから、旅行はやめられないのです。
釜山行きのバスに乗り込みます。4列シートのどこにでもあるバスでした。
バスの中ではほとんど記憶がないくらいに爆睡してしまいました。
目が覚めると、周りがとても賑やかになっていました。1時間半ほどで釜山の西部バスターミナルに到着。やっと釜山に戻ってこれた。
オーナーにアイスコーヒーをおごってもらいました。外は暑かったので、とても爽やかな気分です。
この時、僕たちはお互い見えない達成感を共有していました。
エンジントラブルに警察からの事情聴取、突然の外泊。いろいろあったけれど、釜山に戻ってこれました。
地下鉄に乗って、港に戻り、そこからオーナーの車に乗ってお昼ご飯を食べに行きます。
お昼は、オーナーのおすすめの食堂で参鶏湯(サムゲタン)を食べます。
大きなチキンが丸々一個入った参鶏湯は、旨みがぎゅっと染み込んだ優しい味でした。
嗚呼、美味しい。
この2日間、いやその前の日も含めた3日間くらい、すべての食事をオーナーと食べています。
まだ会って一週間も経っていないのに。なんか不思議な関係性です。
オーナーにはいろいろとお世話になっています。
こんな未熟者を受け入れてくれてありがたい気持ちでいっぱいです。
密度の濃い奇妙な旅はこれにて終わりです。
***
おわりに
釜山に来て以降、さまざまな出会いや体験があり、とても充実した日々を送っています。
この世界にはまだまだいろんなものがある、隣国に来て感じることはたくさんあります。
これからもそんな体験を送れたら良いと思うし、それらを少しでも伝えていけたらいいなと思います。
不安症な僕も、いろんな経験を経て強くなってきました。
この一年間、果敢に挑戦してきたことがちょっとずつ形になってきた感覚があります。
今回の奇妙な旅も、そのひとつの成果だったと思うし、客観的に見て成長したと思える自分がいます。
トラブルは楽しんだもん勝ち。
もう少し生きやすい人生を送っていけるように、これからもいろんな経験を積み上げていきたいと思います。
僕のことは以下の記事で紹介しています。
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また次回の投稿までお元気で。
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