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夕日という味わい深い観光資源

そこから見える海の向こうで、大きな太陽がゆっくり地面に吸い込まれていきました。

フィリピンのマニラ首都圏に面するマニラ湾は、ちょうど西側を向いており、真正面の海に沈んでいく夕日はとても幻想的に映ります。誰が言ったか知りませんが、マニラ湾は北海道の釧路、インドネシアのバリ島と並び、世界三大夕日のひとつとされており、毎週末には多くの人がこの美しい夕日を見にマニラ湾沿岸を訪れます。

世界で4番目に大きなショッピングモールと言われている、マニラの「SMモール・オブ・アジア」のすぐ裏にはマニラ湾の大パノラマが広がっており、夕方5時を過ぎると、沿岸では人々がコンクリートの堤防に腰を下ろし、夕日が沈むのを今か今かと心待ちにしています。家族連れや恋人同士が仲睦まじく夕日を眺めている光景は、傍から見てもとても幸せそうに映りました。

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夕日が沈む光景には、そのような幸福感だけでなく、恍惚感のようなものもあり、深い味わいが引き出されるとも思っています。

「黄昏」という言葉にもあるように、盛んな時を経て、徐々に終わりに近づいていく人生の儚さをこの夕日が沈む様子に喩えることで、それまでの思い出を振り返ったり、少し悲しい気持ちになるのかなと思います。

昨年、アカデミー賞作品賞を受賞した映画「ノマドランド」ではアメリカの広大な大地をその独特の撮影方法で演出し、話題作となりました。あの映画でも夕日のシーンがたくさん組み込まれ、人生の黄昏期にノマドという過酷な生き方を選んだ人々と重ね合わせるように綺麗な夕暮れ時のシーンが映され、涙した方も多くいたのではないでしょうか。それだけ夕日には人々の心理に刺さる深い印象があるのだと思います。

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東京という土地を見てみると、あまり夕日を楽しめるような場所が多くない印象を受けます。もちろん海が南に面していたり、西側は平野の奥に山があるといった地理的な事情もありますが、もっと人々に深く刺さるような夕日を眺めるスポットがあってもいいのではないかと思いました。

映画「Always 三丁目の夕日」という作品では昭和30年代の東京の街並みが夕日と深く関わっていたことが描かれています。このような歴史があると、現代の東京も夕日と結び付けられたら面白いなと思うし、それによって新たな魅了が引き出されるとも思います。

ビルやタワーの展望台を除くと、谷中銀座やお台場の潮風公園、荒川河川敷など、少ないながら夕日スポットはあるものの、高層ビルが林立する都市部ではなかなかこれ以上のものは見出しづらいでしょう。

今後、東京でもなんらかの形でこの夕日という資源を使って人々が仲良くなれたり、また一人ひとりの心に深く刺さる感動体験が作れたらいいな、とマニラの夕日を眺めながら思いました。未だ終わらない都市開発で人工物を建てていくより、自然に即したもので人々を楽しませられたらより東京の価値、ひいては人々の幸福度は上がるのではないでしょうか。

それか、日出ずる国の都として朝日を眺める場所があっても面白いな、なんてことも思ったりして。

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