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上場準備における内部管理体制の整備とプラットフォームの健全性審査についてー各論ー

0 はじめに

法律事務所で弁護士をしており、note社には1人目の法務として、業務委託で関わり始めましたが、その後、上場準備にも関わるようになりました。
現在は、法務コンプライアンス室長、CEO室長、一般社団法人クリエイターエコノミー協会の事務局長などをしています。

全体感については、以前書きましたが、今回は特に時間をかけた、内部管理体制の整備とプラットフォームの健全性に関する各論について触れていきたいと思います。

1 内部管理体制の整備

上場にあたっては、健全かつ効率的に事業を回すことができるような仕組みづくり、すなわち、内部管理体制の整備が求められます。そのため、当社も、証券会社のタスクシートにのっとって、内部管理体制を整備していきました。

なかでも、規程整備、監査等委員会の設置、内部監査の実施、反社会的勢力に関する覚書の整備、勤怠管理などについては、時間をかけて行なっていきました。

(1)規程整備

規程については、すでに会社に存在しているものもいくつかありましたが、上場会社になるために必要な多くの規程については、証券会社などから雛形をもらったり、現場にすでにあったマニュアルをもとに、整備(規程を会社の実態にあわせる、かつ、規程を整備して必要な社内プロセスを追加していく)することになりました。その数は50を超えていました。

規程には、大きく分けると以下のような類型があり、それぞれ、必要に応じて、証券会社、上場コンサル、現場とやりとりをしながら作っていきました。

  • 上場コンサルに作成をお願いしたうえで、少し調整すれば整備できるもの

  • slackや社内掲示板を見れば現場とやりとりしなくとも整備できるもの

  • 現場にそれっぽいものはあり、それをもとに、現場とやりとりをして、整備するもの

  • 現場とやりとりをして1から整備するもの

  • 現場に作成してもらわないと整備できないもの

規程によっては、雛形ベースのやり方では、当社には、はまらないようなものもあり、その場合は、雛形とは別の方法による統制を検討していきました。

数が膨大なこともあり、目に入るたびに、気になるところがでてきてしまい、取締役会にたびたび上程することとなりました。

(2)監査等委員会の設置

上場にあたっては、監査役会設置会社または監査等委員会設置会社となることが求められますが、当社は、監査等委員会設置会社を選択しました。

上場準備中のスタートアップとして、成長しなければいけない、かつ、上場にふさわしい体制を整備する必要があるという難しい状況を理解していただきながら、ときに、必要があれば社内にとって耳が痛いことも言う、上場準備にも協力していただけるというバランスをとっていただける方に監査等委員をお願いできたのはとても良かったように思います。

そういった方を見つけ出すのは、時間がかかるので、以前から、目星をつけておくことも求められるように思います。

(3)内部監査の実施

上場準備にあたっては、内部監査を実施し、指摘事項については、上場までにしかるべき対応を完了させる必要があります。

内部監査担当者を採用できるまでは、内部監査の本を読んで、自分で担当していましたが、ノウハウがあまり公開されていないこともあって、なんちゃって感は否めず、採用できたのはとても助かりました。

また、内部監査は、指摘することが目的となりすぎてしまうと、際限がない指摘となりかねないところがありますが、フェーズに応じた適切なリスクコントロールという観点も踏まえて、実施していただける方を採用できたのも良かったように思います。

(4)反社会的勢力に関する覚書の整備

上場準備にあたっては、既存の継続的な契約を含む、あらゆる契約について、反社条項を整備することが求められます。相手方からすると、あまり愉快なものではなく、お手間をおかけするもので、なかなか進まないケースもあり、また、古い契約で連絡がなかなかつかないものがあったりと、かなりの時間と根気強さが求められるものでした。

また、その前提にもなる契約リストの整備も求められます。こちらも、紙のファイルとクラウドサインをひっくり返して記載していくことが求められるので、特に既存の契約については、なかなか手間のかかるものではありました。最近では、いくつか契約管理サービスも出ているので、そういったものを利用していると、かなり負荷が下がるものかもしれません。

(5)勤怠管理・労務関連の数値の整備

上場準備にあたっては、勤怠管理の整備も求められます。パソコンにシステムを入れるパターンもありますが、コロナで原則在宅勤務になったなかで、実態に即し、かつ、なるべく現場の負担になりすぎない方法というものを証券会社と模索しました。

また、1の部や各種説明資料の作成にあたり、各種の労務関連の数値を整備する必要があるのですが、過去5年に遡って正確な数字を出すというところについては、資料が完全には整備されていなかった部分もあり、かなり苦労しました。

このあたりは、将来を見越して整備しておくと、楽になる点かと思いますが、そのタイミングでそこにリソースを投下すべきかという問題もあり、悩ましい問題かとは思います。

内部管理体制の整備として求められる水準については、たしかに必要と感じる部分も多かった反面、以下の記事にあるように、さまざまな背景がありつつ、ものによっては、やや厳しくなりすぎているような、と感じる部分もあり、今後、実務が進むなかで、バランスがとられていくとよいように感じました。

3 プラットフォームの健全性審査のフロー

CtoCプラットフォーム特有の部分ではありますが、CtoCプラットフォームの上場準備では大きな論点となるプラットフォームの健全性については、詳細なマニュアル整備をはじめとして、特に注力しました。

(1)証券審査前

この段階では、実態としては、一定の抽出基準に基づくパトロールや通報への対応がなされていることが多いかと思いますが、その内容をさらに充実させ、審査における前例と遜色のない水準になっていくことが求められるとともに、運用ルールを規程やマニュアルとして整備することが求められます。
もちろん、前例とサービスがほぼ一致するわけでなければ、すべて同じ対応をしないと許されないわけではないですが、前例は重視されているように思います。

前例も踏まえ、先々、東証の審査に入った際に論点化しそうなもの(審査基準など)については、東証の上場推進部への事前相談が行われます。また、慎重さがより求められる論点については東証の審査部への事前相談が行われることもあります。

振り返ってみると、証券会社の中での公開引受部と審査部の対話や、類似する他社の審査が進むなかで論点となったものや、サービスを見ていて気づいたものについても、随時追加で対応を求められることもあったように思います。また、論点によっては外部の弁護士の意見を求められるようなこともあります。

(2)証券審査

証券審査では審査担当者が改めて、運用ルールが上場会社に相応しい水準となっているかを確認するとともに、実際に、①運用ルールに基づいた運用が適正になされているか、②運用ルールの対象外でも、審査担当からみて懸念のあるコンテンツがないか、をサンプルチェックをして確認します。

サンプルチェックで運用ルールの対象になっていない、懸念のあるコンテンツがでてきた場合は、運用ルールの不足が指摘されることもあります。

CtoCプラットフォームの場合、運営側が想定していないコンテンツも随時発生していくため、エラーを0にすることが求められるわけではないのですが、PDCAを回していくことは求められます。

(3)東証審査

東証審査でも審査担当者が改めて、運用ルールが上場会社に相応しい水準となっているかを確認するとともに、実際に、①運用ルールに基づいた運用が適正になされているか、②運用ルールの対象外でも、審査担当からみて懸念のあるコンテンツがないか、をサンプルチェックをして確認します。ここではより入念なサンプルチェックがおこなわれます。

東証審査でも、CtoCプラットフォームの上記の性質を踏まえ、エラーを0にすることまでは求められませんが、クリティカルなコンテンツ(そのコンテンツが重大な事態を引き起こす可能性が高いもの)を限りなく0にすることや、クリティカルではないコンテンツでも、①運用エラーの数や②懸念のあるコンテンツの数が閾値を超えないことが求められます。

懸念のあるコンテンツについては、会社の担当者の目線と審査担当者の目線はどうしても、当初は後者が高くなりがちですが、後者の目線を理解し、ルールや運用についてPDCAを回していくことが求められているように思います。運用ルールについても、CtoCプラットフォームの上記の性質を踏まえ、PDCAが回る体制になっていることも求められていたように思います。

4 まとめ

内部管理体制の整備やプラットフォームの健全性の担保については、非常に骨のおれるものではありましたが、会社が大きくなっていき、また、多数の株主という新たなステークホルダーが増えるにあたって、このプロセスを踏むことで、成長一辺倒ではなく、しかるべき統制も効かせることにつながったように思います。

また、証券会社と議論を重ねて、統制を効かせつつも、当社にふさわしいさまざまなルールを整備していくという点については、当社のバリューである、①クリエイター視点で考えよう、②多様性を後押ししよう、③クリエイティブでいこう、④つねにリーダーシップを、⑤すばやく試そう、⑥おおきな視点で考えようという6つのバリューが総合的に求められていたように感じています。

上場準備は非常に大変なものではありましたが、上場することにより、しかるべき統制や社会的信用、資金調達手段の多様化など、さまざまなメリットも得られました。
「誰もが創作をはじめ、つづけられるようにする」という当社のミッションを実現するために当社がやるべきことは、まだ無数にあり、上場によって得られたメリットを活用しつつ、一歩ずつ前進していければと思います。

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