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夕陽のガンマン

皆さんの心に残る原風景はなんですか?
僕の場合、いくつかあるけれど小学生の頃に見た夕陽が強く印象に残っている。今日はその話をしたい。

***

1999年。
ノストラダムスの大予言で地球が滅亡するとされた七の月を過ぎても、地球を滅ぼすはずの恐怖の大王は一向に現れなかった。
あの予言に隠された真実はなんだったのか? テレビでは連日しきりに報道されていた8月、僕は夏休みを謳歌する小学5年生だった。

友達の間でも話題にのぼる地球滅亡の噂に少しざわめきながらも、僕は子どもらしく、今日何をして遊ぶかばかり考えて毎日を過ごしていた。
デジモン、遊戯王、ミニ四駆……
全国の小学生を夢中にさせた流行りのゲームにのんびり屋の僕はいつも出遅れて、デジモンは3、遊戯王はリボルバードラゴンのパックから、ミニ四駆はパチモンっぽいやつを一台と、友達との対戦ではどれも勝率が低かったけど、それなりに楽しんで一緒に遊んでいた。
そんな僕たち小学生の間で次に流行ったのが、エアーガンだった。

9月になり学校が始まると、またしても流行りに乗り遅れた僕は持っていなかったけど、続々とエアーガンを購入する子ども達が増えると近隣住民から危ないと苦情が入ったらしく、学校ではエアーガン禁止令が出され、特に人に向けては絶対撃っていけませんと朝礼でよく先生が言っていた。
「既に持ってる人はいいけれど、これから新たにエアーガンを買ってはいけません」という理不尽なルールが制定され、僕はエアーガンを持つことが許されなかった。

エアーガン禁止令は学校から各家庭に配布され、親に何か言われたかどうかは忘れたけど親に頼んでエアーガンを買うのは難しい状況になってしまったことは憶えている。

なんでだよチクショウ……

反抗期とされる年代なこともあってか、大人の決めた理不尽なルールに対する反抗心を燃やしつつも根が真面目で臆病だからか面と向かって反抗することもできずにモヤモヤしていた。
そんな時、クラスで友達に言われた。
「シマチューだったらエアーガン売ってるよ」
島忠(今は島忠ホームズらしい)は、自転車で30分くらいの場所にあるホームセンターだ。
いつもの遊び場より遠い、自転車で30分くらいの距離がまた小学5年生の僕にはちょうどよく冒険心を刺激した。
「……行きたい。俺もエアーガン欲しい」
僕の訴えに快く友達は応えてくれて、「じゃあ今日シマチューまで一緒に行こうぜ!」と友達4人で行くことになった。

放課後。
集まって早速シマチューに向かって自転車で走り出した。田んぼ道を駆け抜けて、まさしく田舎のホームセンターという趣で辺り一面を田んぼに囲まれたシマチューに着いた。
4人でおもちゃ売り場に真っ直ぐ向かい、エアーガンの売り場を見つけた一人が声を上げる。
「エアーガンあったよ!」

そこにあった、箱に入って積み重ねられたエアーガンが、僕にはなんだかとても眩しく見えた。
どれもめちゃくちゃカッコいい。
デザートイーグルという名前のカッコよさに惹かれてこれが欲しいと言ったら、「俺が持ってるからダメ」という理不尽ルールで禁止されるも、「これもいいよ! これにしなよ」とヘッケラー&コックUSPというエアーガンを勧められた。
パッケージを手に取って眺めると、18歳以上専用と書かれてあった。一応他のエアーガンも見ると10歳以上専用もある。
当時10歳。でも僕はその時、対象年齢に達しているエアーガンは子ども騙しの偽物に見えて18歳以上専用こそが本物のカッコいいエアーガンなんだという気になっていた。
「じゃあそれにする……」
なけなしのお小遣いを握りしめてヘッケラー&コックUSPを手に取りおもちゃ売り場のカウンターに向かった。
「キミ、これ18歳以上専用だからキミは買っちゃダメだよ!」とか店員に言われたらどうしようとか考えて不安になりながら、気持ち少し大人らしい表情を作って「18歳だけどなにか?」みたいな顔でエアーガンの箱をレジに置いた。

……18歳は無理があるぞ、当時の俺よ。

ドキドキと心臓が鼓動を打つ。
結局、買えないかもしれないという僕の心配は杞憂に終わり、店員はなにも言わずに売ってくれた。
初めて手に入れたエアーガンのヘッケラー&コックUSPはすごい輝いてみえた。
親に内緒で、学校の禁止令を破って、シマチューまで遠出して18歳以上専用のエアーガンを買ったことは、なんだか大人の階段を一歩登ったようで少し誇らしかった。

***

シマチューを出ると、外はすっかり夕方になっていた。
「今日はみんなありがとな」
「うん、じゃあ帰ろうぜ。今度一緒にエアーガンで遊ぼうぜ!」
「うん!」
自転車で田んぼ道を帰っていると、正面に大きな夕陽が見えた。その夕陽が今日はなんだかとても美しく感じて、郷愁に駆られるような気持ちになっていた。
「なんかスタンドバイミーみたい」
友達の一人、T君がポツリと言った。
T君はスタンドバイミーが好きで面白い映画だとよく話していた。彼に勧められて見たスタンドバイミーに僕もすっかり心奪われて、今でもスタンドバイミーは僕のバイブルになっている。

大人の階段を登ったあの日の夕暮れ、僕たちは確かに無敵の4人組だった。今ならなんだってできる気がした。

「12歳だったあの時のような友だちは、それからできなかった。もう二度と……」

映画『スタンド・バイ・ミー』

僕にとってのそれは、10歳の時だった。
あの頃の僕はなんだってできた。友情は永遠だった。そして刹那に輝く毎日を送っていた。

T君はその数ヶ月後、5年生の終わる春休みに家庭の事情で転校した。
僕はそれ以来、T君とは20年以上会ってない。
スマホはおろか携帯もない時代、転校すれば最後、もう連絡を取ることもなかった。

Tシャツ一枚で臨んだサバゲーで、彼のデザートイーグルで撃たれた胸はとても痛かった。目に当たらなくてよかった。
……うん、たしかに危ないわ。学校が禁止するのも頷ける。
T君は元気にしてるだろうか。
もし今彼と再会すれば、きっとすぐあの日に戻れると信じている。

あの頃の僕たちはたしかに、友情が永遠だった。

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