見出し画像

ヘッドハンター、を読んだ。

巻末解説を我らの角幡唯介さんが担当。雪男探しの際にザックに持ち込んだ文庫本が、このヘッドハンターだったそう。空白の五マイルで停滞時に読んだ月と六ペンスと同じく、角幡作品に登場する作品はもれなく読むようにしている。

元傭兵の男が、世界の荒野や山岳地帯でハードなハンティングに勤しむ姿がひたすら続くのだが、特筆すべきは異常ともいえる精緻な状況描写である。ハンティングに用いる武器や装備類の材質やサイズなどを逐一細かく説明している。

読み始めた頃はこの偏重した文体に苦しんだが、不思議とあるラインを超えるとこのスタイルが病みつき状態に。大薮氏本人が至極真面目に取り組んだ執筆の結果だったのだろうが、読んでいるこちらとしては、もはやネタに思えて読んでいてニヤニヤしてしまう。

主人公が体力回復のために仮眠をするシーンがあり、起床と同時に「杉田は夢精をしていた」とあり、突然なぜ??と驚いたり、発情期となった狩猟対象の動物が交尾に勤しむ姿を「ファックしている」など、ちょいちょい突っ込みたくなる要素が散見され、これもニヤリとしてしまう。

本作を手にしたもうひとつの動機がある。30年前に定期購読していたヒップホップ専門誌のFRONTでライムスターのMC SHIRO a.k.a.宇多丸氏の連載コラムで大藪春彦氏を取り上げており、なにやら不気味な作家がいるのだなと記憶していた。

狩猟というある種の暴力行為を通じて、人間の肉体では実現不可能な物理的な力の片鱗を垣間見る。または刹那に掌握する。そのような幻想を抱かせることが、この作品の不思議な魅力だった。

…などと、もっともらしいことを書いてしまったが、自分にはよくわからない作品だった(笑)。ただ、読んだことがあるという事実が重要であるのは、いつもの通り。またどこかで大薮作品を手にしてみよう。


この記事が参加している募集

読書感想文

読書好きが高じて書くことも好きになりました。Instagramのアカウントは、kentaro7826 です。引き続きよろしくお願い申し上げます。