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SALASUSU実験校プレ開校したよ! カンボジア発、「誰も取り残さない教室」の第一歩

とうとうこの日を迎えることができた。2024年1月8日、SALASUSUの実験校を「プレ」開校したのだ。およそ50人の小学生(4年生から6年生)に、学校の放課後に実験校へと通ってもらう形で1日3コマの授業を教え始めることができた。「プレ」に込めた思いは、今回の開校が2025年の本開校に向けた実験である、ということ。今年さまざまな形で教室の運営を行い、2025年に改めて本開校することを目指している。

その最初の挑戦となる1期では地域の小学校3校と連携して生徒を募ったが、実験校に通いたいという生徒がどれだけいるのだろうかというところがまずドキドキであった。しかし蓋を開けてみると、想定の倍以上の生徒を受け入れてほしいというリクエストをいただいた。小学校の校長や教師の方々の「生徒にもっと学んでほしい」「学びの機会をもっと提供したい」という思いに触れ、より身が引き締まる思いで毎日授業を届けている。

開校式の集合写真。子どもたちだけでなく市長さんや学校の校長にも参加してもらった
生徒は毎日500リエル(8分の1ドル)を払って僕たちの実験校に学びに来る

開校式以降何度か教室に足を運んでいるが、子どもたちが僕たちの授業に想像以上に馴染んで学びに没頭している姿に驚いた。
僕たちが目指す「協同学習」という学習形式は、通常のカンボジアの小学校における学び方とはかなり違った形の授業である。そこへの戸惑いや、実際に45分間自分のペースで学びに集中することができるだろうか、ということを心配していたが、2週目には45分間、落ち着いて授業を受ける子どもたちが多くなってきていた。

国語の授業では、それぞれがそれぞれのペースで本文や資料を読むことを大事にしている

僕らが実現させたかった「生徒同士の学びの支え合い」もたくさん生まれている。

となりの席の生徒のからの質問に答えてあげる生徒の姿

特に僕が感動したのは美術の授業だ。カンボジアの小学校でも美術は指導要領に含まれているが、実際にはほとんど行われていない。そうしたなか、実験校では生徒たちが夢中になって絵を描いていた。

となりの人とまったく違う絵になっても気にせず、それぞれの絵を描くことに集中している様子

この2人の生徒は、国語、算数の授業ではまだなかなか思った通りに理解できなかったり、集中できなかったりすることもあるのだが、美術の授業では黙々と描くことに没頭している。周りの仲間や資料に支えられながら、これまで知らなかった視点や技術に果敢に挑戦しているのだ。上手い下手・良い悪いが判断されず、安心して目の前のことに集中できる環境がそれを支えているのかもしれない。そして、美術の授業を通して実験校を信頼してくれているから、苦手な国語や算数の授業でもわからないなりに格闘してみようと頑張ってくれているのではないだろうか。

商品開発をリードしていた作り手が挑戦する彼女なりの構成と絵。何よりも観察が素晴らしい

作り手の女性の描く絵の正確さ、丁寧さにも驚かされた。彼女はいま生活の中でいくつかの課題に直面しているのだが、美術の時間だけは描くことに没頭できて気持ちが落ち着くようだ。なお、このように年齢や背景が異なる人同士が同じ場所で学んでいるのも僕たちの実験校の特徴で、たくさんの学びや繋がり、安心できる感覚を生み出していると思う。

ただし、いろいろと良い学びが生まれているとはいっても、実験校自体の課題は本当に山積みだ。たとえば、授業案にどれくらい日本人が介入するべきか、という葛藤。今日の授業の質を良くすることと、カンボジア人教師が自律的に成長していくことの両立を目指したいからこそ悩む。

また、近隣の公立学校とよりよく連携していくために、自分たちの学校をどう位置付けていくと良いのかという問い。長期的には補習校ではなく公立学校をめざしたほうがいいのだろうかと考えることもある。実験校で良い授業を提供することで、かえって午前中の公立学校の授業の時間をつまらなくしてしまうというネガティブインパクトもありえないことではない。

僕も答えを持っていない難しい問いが日々たくさん生まれていて、それに押しつぶされそうになることもある。けれど、生徒たちがこの深い学びを味わってくれている姿、それを支える教師の葛藤の真摯さを知っているから、なんとかしてこの取り組みを支えつづけたい。実験をしつづけることでしか、公教育を支えていく良い事業を生み出すことはできないのだと思う。

1期は1月末に終わりを迎える。その後またどのような対象の子どもたちにどれくらいの期間で教えていくかという設計を見直した後、2期目、3期目を開いていく予定だ。前の記事で書いたように、この実験校にカンボジア中の学校の校長や教師が見学に来るような未来を創りたい。僕はそれを信じて支えつづける。

(2024年1月27日執筆、3月10日公開)

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