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『論語と算盤』考察20 学校の勉強を社会で活かすには

 おばんです(朝読んでいる方は、おはようござりす)。
 次の一万円札、渋沢栄一の著書『論語と算盤』で、僕が気になったところを考察していきます。

 今日は、「立志と学問」から、「社会と学問の関係」あたりを。

勉強は社会では役に立たない?

 「学校の勉強は社会に出てから役に立たない」は、たまに聞く言葉です。算数は使うけど数学は使わないとか、歴史は勉強しても意味ないとか。
 渋沢栄一は、学問と社会は、本来そんなに違いはないのだが、科目が多く複雑になるにつれて、本筋を見失いがちになる、という趣旨のことを言っています。

 学問と社会とは、さほど大なる相違のあるものではないが(中略)、今日の社会は昔と異なりて、種々複雑となっておるから、学問においても多くの科目に分かれて(中略)、各々その希望に従って甚だ複雑多岐である。
 ゆえに実際の社会において各自の活動をする筋道も、学校にありし時、机上において見たごとく分明でないから、ともすれば迷いやすく誤りがちになる。
(『論語と算盤』立志と学問 社会と学問の関係 より)


何のために勉強するかを明確にする

 本筋を見失わず、勉強の成果をあげていくには、

 ・大局を誤らない(目的を明確にする)
 ・他人にふりまわされない
 ・成果を急がない

 ことが大切です。この科目、学科等を選んだ理由、今この勉強をしている理由を明確にしておくと、勉強に対するコミットメントが上がると思われます。

 大体に眼をつけ大局を誤らずして、自己の立脚地を見定めねばならぬ。すなわち自己の立場と他人の立場とを、相対的に見ることを忘れてはならぬ。

 元来人情の通弊として、とにかく功を急ぎて大局を忘れて、勢い物事に拘泥し、僅かな成功に満足するかと思えば、さほどでもない失敗に落胆する者が多い。学校卒業生が社会の実務を軽視し、実際上の問題を誤解するのも、多くはこのためである。
(同上)


勉強は地図、社会は山登り

 この節では例えとして、

 ・勉強…山岳地図を見るとき
 ・社会…実際の山登りをするとき

 という表現をしています。
 地図を熟知していたとしても、実地では予想外のことがいくらでもある、ということです。
 なので、予想外で複雑なことがいくらでもあることを覚悟しておきながら、勉強をしていこう、ということでしょう。

 「予想外で複雑なことがいくらでもあることを覚悟しておく」ことが、大局を見る目を養う第一歩です。

 学問と社会の関係を考察すべき例を挙げると、あたかも地図を見る時と実地を歩行する時のごときものである。地図を披いて眼を注げば、世界もただ一目の下にある。(中略)それでも実際と比較してみると、予想外の事が多い
 それを深く考慮せず、十分に熟知したつもりで、いよいよ実地に踏み出してみると、茫漠として大いに迷う。(中略)あるいは深い谷に入って、いつ出ることができるかと思うこともある。至る処に困難なる場所を発見する。
 もしこの際、充分の信念がなく、大局を観るの明がないなら、失望落胆して勇気は出でず、自暴自棄に陥って、野山の差別なく狂い廻るごときこととなって、遂には不幸なる終わりを見るであろう。
(同上)


社会における「大局」とは

 では、社会での「大局」とはなにか。渋沢栄一的に言うと、義(良い考え方)と利(経済的利益)の統合。つまり「論語と算盤」のことだと思います。

 上の引用で、「功を急ぎて大局を忘れ」、「僅かな成功に満足」などと書いてあるとおり、人は「利」ばかりを追い求め、「義」つまり良い考え方を軽視する傾向があります。これは、渋沢栄一の思想のバックボーンである、儒学が成立した2500年くらい前から同じことです。

 苟(いやしく)も義を後にして利を先にすることを為さば、奪わざれば厭(あ)かず。(中略)王亦仁義を曰わんのみ。何ぞ必ずしも利を曰わん。

 現代語訳 仁義を後にして利益を第一に考えることをすれば、最終的には奪わないと満足しない。(中略)王様、これからは仁義のことだけを言ってください。なぜ利益のことばかり言うのです。
(『孟子』梁恵王章句上 一 より)

 「先義後利」と「論語と算盤」は厳密に言うとニュアンスが違いますが、まあ言いたいことはだいたい同じです。

 つまり、利益という結果だけでなく、その利益に至った背景、「考え方=義」も重視しないかぎり、その利益は一過性のもので終わる、ということです。

 正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。ここにおいて論語と算盤という懸け離れたものを一致せしめることが、今日の緊要の務めと自分は考えているのである。
(『論語と算盤』処世と信条 論語と算盤は甚だ遠くして甚だ近いもの より)


参考文献

↓『論語と算盤』はAudibleでも聴けます。Audible初めて使う方は、最初の1冊無料なので、聴いてみてください。読むのがめんどい方にもおすすめ。


『論語と算盤』考察第1回目は↓

自己紹介記事は↓


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