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北野武『首』を観た。

北野武『首』を観た。
『アウトレイジ最終章』以来6年ぶりということで待ちに待った新作。予告編では戦国時代版アウトレイジみたいな印象だったけど、実際にはオフビートな笑いと乾いた暴力が散りばめられた北野流アンチ大河ドラマというか、「俺が時代劇撮るならこうする!」という意欲作だった。

冒頭の死体の場面から、この映画はこのくらいのグロさでいくぜ!とアクセル全開なので、最近のコスプレ時代劇に慣れた人は振り落とされると思う。
タイトル通り「首」がバンバン飛んでいく。
よく考えれば戦国時代って血塗られた時代なんだから、人の死がかなり身近にあったわけで、死体はゴロゴロ転がってるし、人が死ぬ時もぽんぽんあっさり死ぬ。
この辺の、人が簡単に死んでいく感じはアウトレイジで登場人物がほとんど死ぬことにも通じる。タメとかがなくて重要人物がサクッと死んでいく感じはいかにも北野映画。その淡白さが心地いい。

特筆すべきは戦国武将の男色の描写。はっきり言ってBLドラマだし、これまでの映像作品ではオミットしていた要素を入れたことで、戦国武将の絆も惚れた腫れたの要素が実は大きかったのではという解釈は面白かった。
男同士のラブシーンも満載なので、これから時代劇やるなら、ちゃんと男色要素も盛り込んだほうがリアリティが出るよなあと嘆息。
最近はBLドラマが増えたので、有名俳優が男同士のラブシーンを演じても、観る側にそんなに違和感がなくなったのも大きいと思う。明智光秀を演じるのは「きのう何食べた?」の西島秀俊asシロさんだし。個人的には地上波のBLドラマもキスシーンくらいやったら?とは思う。

観る前はなぜタイトルが「首」なんだろうと思っていたけど、これは登場する戦国武将の多くが「首」に取り憑かれているから。
「敵武将の首をとること」「大物の首をとること」が勝利と出世の条件であり、「首」に取り憑かれた人間はおかしくなっていく。
そんな中で北野武演じる羽柴秀吉は首に執着しない。「首なんてどうでもいいんだよ!」と光秀の首を蹴り飛ばすことで物語は終わるのだが、ここでハッとした。

今、私たちは物理的に人の首に執着することはないだろうが、「首のような何か」に執着している人は多い。「おめえらも首に取り憑かれてないか?」と北野武に言われているようで目が醒める、そんな映画だった。血がたくさん出ることに抵抗がなければ必見の一作。北野武はまだ枯れてないとわかって嬉しかった。どんどん新作撮ってほしい。

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