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「中道的創憲」を目指して ―新憲法試案の条文と解説―

 

「中道的創憲」を目指して

―新憲法試案の条文と解説―

 

羽奈作造・著

 

目次

序章 「中道的創憲」とは何か

第1部 「新日本国憲法試案」の全文

第2部 条文の解説(前文、第1~3章)

第3部 条文の解説(統治機構)

終章 「では、どうすべきか」

 

(著者紹介)

羽奈作造(はなさくぞう)

1972年茨城県生まれ。専修大学法学部卒業。1992年頃、松下政経塾のボランティア・スタッフをして、政治改革運動に燃えていた。その後ずっと何年も政治の世界から離れていたが、最近になって久しぶりに、もう一度自分の憲法試案を書いてみようという気になった。



序章 「中道的創憲」とは何か


私の書いた「新日本国憲法試案」の目指す基本的方向は、「右寄り改憲」でも「左寄り護憲」でもない「中道的創憲」である。「中道的」と書いたが、これには少し説明が必要である。私の書いた試案を、もし「右寄り改憲」派の人が読んだら「これは左翼的だ」と言うだろうし、「左寄り護憲」派の人が読んだら「これは右翼的だ」と言うだろう。私がこの試案で表現したかったのは、従来の「右か左か」という座標軸で測れるものではない。憲法論議が二極分化している中で、その中間にいる多くの人々の意見を代弁したかったのである。実際「改憲して戦前の日本のようになるのは嫌だけど、護憲を叫びながら自衛隊を持っているのも矛盾している」と思っている人が、私以外にもたくさんいるのではないだろうか。かと言って憲法条文をこのままそっとしておいて「解釈改憲」状態を続けていたら、憲法と現実がどんどん乖離していき、平和のための歯止めとして機能しなくなっている。ならばここで両極端を避けて、真ん中で多数が同意できるような改正案を私なりに書いてみよう、と考えたのである。現行憲法を「不磨の大典」のように考えて、改正しないでずっとそのままにして、解釈と運用だけで切り抜けようとするのでは、時代の変化と必要についていけない。それに、条文が抽象的であいまいな表現だと、解釈の仕方によって後で勝手に内容が変えられてしまう。なので、そうならないように、なるべく細かく具体的に、議論が分かれる余地がないように明文化した。それでもし現実の必要が変わって憲法に合わなくなってきたら、その問題を解決するためにどんどん憲法の条文を改正して、アップデートしていけば良いのである。

しかし、ここで私が書きたいのは、一部分だけ少し修正したり加えたりするような「妥協の産物」ではない。従来の「違憲か合憲か」といった過去志向的な議論ではなく、「新しい日本はどうあるべきか」というビジョンを描いて、未来志向的、建設的な議論をしたいのである。そのために、今までの「右寄り左寄り」というイデオロギー的固定観念を捨てて、全く新しくゼロベースで「創憲」するのだ。このゼロベースで創憲という考え方は、大前研一氏の書いた「平成維新」という本(1989年刊行、講談社)の中にある「新国家運営理念の草案」を参考にしている。また世界各国の憲法条文や世界人権宣言のような国際条約も、大いに参考にして取り入れている。特にドイツ、イタリア、スイス、フィンランド、韓国、フィリピンなどの憲法を読んでみると、実に色々な規定があって非常に興味深い。「こんなことも憲法に書いてよいのか」「こんな条文が日本にもあったらいいのに」と感じるものがたくさんあった。日本の中だけの知識で議論していると、現状をどう修正するかしか考えなくなって、視野が狭くなる。比較憲法学から現代の新しい世界的潮流を学ぶと、より広い視野から発想を得て、新しく憲法を起草することができる。とにかく、私がこの試案を書いた目的は、「こんな憲法もありうるのだ」というものを提案することによって、国民みんなが将来の国家ビジョンを話し合うようになり、一緒に新しい日本を築き上げていくためなのである。

これから、新憲法試案の全文と、その解説を述べる。しかし、一部分だけを見て「なんだこんなものか」と早合点して、読むのをやめてしまわずに、どうか最後まで一つ一つの条文をじっくりと読んでいただきたい。もし全部は賛成できなかったとしても、その中で同意できる点もきっと見つかると思う。


第1部 「新日本国憲法試案」の全文


新日本国憲法試案

 

(前文)

我々日本国民は、1947年に施行された前憲法が、第二次世界大戦後の日本の民主化と平和、そして発展のために大きな役割を果たしてきたことを踏まえながらも、時代の変化に対して、憲法の解釈と運用だけでは対応しきれなくなっていると認識した。そこで、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という、前憲法の基本原則を維持しつつ、それを現代の必要に合わせて具体的に適用し、さらに発展させることによって、より良い日本の未来を築き上げていくために、ここに前憲法を全面的に改正し、新憲法として制定する。

 

第1章   総則

 

第1条     (1)日本国は、民主、人権、平和を基本原則とする。

(2)日本国は、前項の基本原則に基づいて、以下の基本理念を実現する。

1、全国民が主権者として国政の運営に責任を持ち、主体的に政治に参加することによって、国民の自由な意思に基づく真の民主政治を確立すること。

2、国民の基本的人権を保障し、その生活の安定と向上をはかり、経済と文化を発展させることによって、全国民の幸福を最大限に実現すること。

3、国際協力を推進し、諸国民の共存と社会の発展に努めることにより、世界の平和と人類の福祉に積極的に貢献すること。

第2条     (1)日本国の主権は、国民にあり、全ての権力は、国民に由来する。

(2)日本国民は、選挙、投票及びこの憲法に定めるその他の方法によって主権を行使する。

(3)独裁、強権、全体主義、権威主義、軍国主義又は暴力主義的な政治は、どんな形態であっても、これを禁止する。国民は、この憲法に定める方法により、このような政治を排除しなければならない。それでも他に救済手段が全く存在しないときには、国民は、抵抗する権利を有する。

第3条     (1)天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は国民の総意に基づく。

(2)天皇は、国際関係において日本国を代表する。

(3)皇位は、世襲のものであって、法律の定めるところにより継承する。

(4)天皇は、国の象徴としての儀礼的な行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。

(5)天皇の全ての公的行為には、内閣の承認を必要とし、内閣がその責任を負う。天皇の公的行為については、法律で定める。

第4条     (1)日本国の国旗は「日の丸」とする。

(2)日本国の国歌は、国民からの公募に基づき、法律でこれを定める。

(3)国旗及び国歌は、尊重されなければならない。但し、誰もその掲揚又は斉唱を強要されない。

第5条     (1)この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、条約、命令及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

(2)日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守しなければならない。

第6条     (1)すべて国民は、この憲法及び法律を遵守しなければならない。

(2)天皇及び総理、閣僚、国会議員、裁判官その他の全ての公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。

 

第2章   国際平和及び協力

 

第7条     (1)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、紛争解決の手段としての戦争、武力による威嚇、武力の行使その他自衛以外の一切の戦闘行為を、永久に放棄する。

(2)国は、国際平和を維持し、紛争を平和的手段によって、国際法の原則に従って解決するように、最大限の努力をする義務を負う。

第8条     (1)国の平和と安全を守るために、自衛隊を設置する。

(2)自衛隊の最高指揮権は、総理に属する。

(3)自衛隊の統合幕僚長及び陸海空の各幕僚長は、内閣が任免する。

(4)自衛隊は、政治に介入してはならない。自衛官は、政党に所属してはならず、選挙及び投票権行使以外の政治活動をしてはならない。又、その在役中及び退役した後10年間は、総理、閣僚、国会議員、地方自治体の首長又は議会議員及び法律に定めるその他の公務員となることができない。

第9条     自衛官は志願制とし、徴兵制は禁止される。

第10条   防衛費は、国の緊急事態の場合を除き、名目国内総生産の1パーセントを超えてはならない。

第11条   自衛隊は、国内での災害救助活動のために出動することができる。

第12条   (1)自衛隊が、国の防衛又は治安維持のために出動するには、事前又は事後10日以内に国会の承認を必要とする。

(2)自衛隊は、国際平和維持活動、海外での災害救助又は外国にいる日本国民の保護のために、当事国の同意を得た上で、国外に出動することができる。その場合、事前又は事後10日以内に国会の承認を必要とする。

(3)前2項において自衛隊が出動した後、国会の承認が得られないとき、又は出動の必要がなくなったときは、総理は、直ちに自衛隊の撤収を命じなければならない。

第13条   (1)国の安全に関わる重大な緊急事態が発生したとき、内閣は、全国又は一部地域において緊急事態を宣言し、法律の効力を有する緊急命令を発することができる。

(2)前項の宣言又は緊急命令は、その発令後10日以内に国会の承認を必要とする。承認が得られないときには、その宣言又は緊急命令は、効力を失う。

(3)緊急事態宣言と緊急命令の有効期間は、30日以内とする。延長するときには、国会の承認を必要とする。

第14条   日本国は、自国の安全と防衛のために、外国と同盟して行動することができる。

第15条   日本国は、世界中に存在するあらゆる核兵器、化学兵器、生物兵器その他の無差別大量破壊兵器の全廃を追究し、そのような兵器の製造、実験、搬入、保有又は使用を禁止する。

第16条   日本国及び日本国民は、世界中の全ての人々が、平和と安全のうちに生存し、基本的人権が保障され、経済的、社会的、環境的、健康的及び文化的必要が満たされることによって、持続可能な社会において共に生きることができるように、積極的に貢献する責務を有する。

第17条   日本国の国際協力の基本原則は、次の通りとする。

1、国際平和を維持し、民主化と人権保障を推進すること。

2、飢餓、貧困又は災害に対して人道的な援助をし、地球環境を保全すること。

3、経済と文化の発展、自助努力の支援及び国際交流を推進すること。

第18条   (1)海外における災害救助、難民救済、医療活動、人材育成、技術供与、福祉活動その他の国際協力を推進するために、国際協力機構を設置する。

(2)国際協力機構の組織及び権限は、法律で定める。

 

第3章   基本的人権の保障

 

第1節 通則

 

第19条   国民は、すべての基本的人権を享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として与えられたものである。

第20条   この憲法が国民に保障する基本的人権は、国民の不断の努力によって保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に他人の権利を尊重し、公共の利益のためにこれを利用する責任を負う。

第21条   (1)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

(2)国は、人間の尊厳と価値を保障し、その人格の自由な発展を保護する義務を負う。

第22条   (1)国民の基本的人権は、憲法及び法律の規定に基づき、又は裁判所により正当に下された判決に基づく場合でなければ、これを制限することができない。

(2)基本的人権に対する制限は、憲法の基本原則を守るため、又は公共の利益、公の秩序、善良の風俗、他人の権利の尊重のため、民主的な社会において必要な最小限度の場合においてのみ行われるべきであって、国民の権利を不当に制限するようなことがあってはならない。

(3)この憲法のいかなる規定も、国、集団又は個人が、基本的人権を破壊し、もしくはこの憲法に定める制限の範囲を超えて制限することを認めるものと解釈してはならない。

(4)いかなる場合においても、基本的人権の本質的な内容を侵害してはならない。

第23条   (1)個人は家族を構成し、家族は地域社会を構成し、地域社会は地方自治体を構成し、地方自治体は国を構成し、国は国際社会を構成する。それぞれの構成員は、互いに自立し尊重し合う。構成員はすべて、共同体の一員として共生し、公共の利益のために責任を負う。

(2)すべて国民は、人間の尊厳が保障される民主的な社会に対して、その連帯を維持するために必要な義務を負う。

(3)この憲法が保障する基本的人権は、私人相互の関係にも適用されなければならない。

第24条   (1)父又は母が日本国民である者は、出生したときから日本国民となる。

(2)日本国籍の取得については、法律で定める。

第25条   国外に滞在する日本国民は、日本国政府の保護を受ける権利を有する。

第26条   日本国に滞在する外国人は、国際法、条約及び法律の定める基準に従い、基本的人権が保障される。

 

第2節 平等権

 

第27条   (1)すべて国民は、法の前に平等であって、人種、民族、言語、性別、思想、宗教、社会的身分、出生、出身地又は身体精神的障害により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

(2)栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴わない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

第28条   人種、民族、言語、性別、思想、宗教、社会的身分、出生、出身地又は身体精神的障害に対して、差別、憎悪、脅迫、暴力又は侮辱を扇動する言動は、これを禁止する。

第29条   少数民族に属する者は、その伝統文化及び言語の保護を受け、多様性が尊重される権利を有する。

第30条   身体的又は精神的に障害のある者は、その尊厳が守られ、自立して社会参加することができるように、国及び社会の支援を受ける権利を有する。

 

第3節 精神的権利

 

第31条   思想及び良心の自由は、これを保障する。

第32条   (1)信教の自由は、これを保障する。

(2)すべて国民は、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。

(3)いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。

(4)国及びその機関は、いかなる宗教的活動もしてはならない。

(5)公の財産は、特定の宗教団体の使用又は行事のために支出してはならない。

第33条   (1)集会、デモ行進、結社、言論、出版、報道、放送その他一切の表現の自由は、これを保障する。

(2)検閲をしてはならない。通信の秘密を侵してはならない。

(3)すべての報道機関は、真実に基づいた公平な情報提供に努め、個人の名誉及び人権を尊重し、社会倫理を守る責任を有する。

(4)報道機関に対する不当な統制、干渉、介入、圧力又は操作は、これを禁止する。

第34条   すべて国民は、自己の個人情報を守り、それを管理する権利を有する。

第35条   (1)学問の自由は、これを保障する。

(2)国は、文化遺産、景観、伝統文化、科学技術、知的財産、芸術及びスポーツを保護し、文化及び学術の発展を奨励する。

 

第4節 政治的権利

 

第36条   (1)公務員を選定し、罷免することは、国民固有の権利である。

(2)すべて国民は、法律の定める基準に従い、ひとしく公務につく権利を有する。

(3)すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。公務員は、公共の利益のために勤務し、国民に対して責任を負う。

第37条   (1)すべて公務員は、清廉と公正をもって、その職務を行わなければならない。

(2)総理、閣僚、国会議員及び裁判官は、法律の定めるところにより、その在任中、報酬のある他の職務に従事することができない。

(3)総理、閣僚、国会議員、裁判官及び法律に定めるその他の公務員は、その在任中毎年、活動の収支及び資産を国政監査院に報告しなければならない。

(4)公務員の職にありながら、贈収賄罪、選挙に関する犯罪及び法律に定めるその他の犯罪により刑に処せられた者は、その判決が確定した後10年間は、公務員となることができない。

第38条   (1)公選による公務員に対する普通、平等、自由、直接及び無記名選挙は、これを保障する。

(2)満18歳以上のすべての国民は、公務員の選挙及び国民投票において投票する権利を有し、義務を負う。

(3)満18歳以上70歳未満のすべての国民は、公選による公務員の被選挙権を有する。

(4)立候補における供託金制度は、禁止する。

(5)すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問われない。

第39条   (1)国外に居住する日本国民は、法律の定める方法によって、選挙及び投票に参加する権利を有する。

(2)日本国政府により永住を許可された外国人で、満18歳以上の者は、法律の定める基準に従い、その居住する地方自治体の公務員の選挙及び住民投票に参加することができる。

第40条   すべて国民は、一人一人が主権者としての自覚を持って政治に参加し、意見の多様性を尊重し、互いに理解し合い、十分に話し合うことによって、健全な民主政治の発展に努めなければならない。

第41条   (1)すべて国民は、政治的意思の形成に参加するために、自由に政党を結成する権利を有する。

(2)政党活動の自由及び複数政党制は、保障される。

(3)国会に議席を有する政党は、法律の定めるところにより、その活動の収支及び資産を、毎年国政監査院に報告しなければならない。

(4)政党及びすべての団体は、憲法の基本原則を擁護しなければならない。

(5)団体の活動目的として、刑法律に違反する活動、又は憲法の基本原則を暴力によって破壊する活動を行った団体に対して、憲法裁判所は、その活動の停止、又は団体の解散を決定することができる。

第42条   すべて国民は、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、その請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

第43条   すべて国民は、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

第44条   (1)すべて国民は、国の機関又は公共団体に対して、法律の定めるところにより、その事務に関わる情報の公開を請求する権利を有する。

(2)前項の権利は、公の秩序又は善良の風俗を害する恐れがある場合にのみ、制限を受ける。

 

第5節 社会的権利

 

第45条   (1)家族は社会の自然的かつ基礎的な単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。

(2)結婚は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

(3)配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚、結婚及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない。

第46条   女性は、雇用、社会活動及びその他の分野において、男性と均等な機会及び待遇が確保され、妊娠、出産及び育児において、特別の保護を受ける権利を有する。

第47条   (1)子どもの生存、成長、安全及び参加に対する権利は、これを保障する。

(2)胎児の生命は、受胎したときから保護される。

第48条   (1)すべて高齢者は、健康を維持し、治療及び介護を受け、社会に参加し、尊厳を守られる権利を有する。

(2)すべて国民は、自分の親を敬い、高齢となった家族を介護しなければならない。

第49条   (1)すべて国民は、健康で文化的な生活を営む権利を有する。

(2)国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

(3)すべて国民は、国民皆保険制度に加入することによって、病気、けが、事故、老齢、障害、配偶者の死亡、失業、災害、貧困その他の生活困窮の場合に、必要な補助を受けることができる。

(4)すべて国民は、適切な住居に住む権利を有する。

第50条   (1)すべて国民は、安全で快適な環境を享受する権利を有する。

(2)国の全ての機関、国民及び事業者は、安全で快適な環境の保全に努める義務を負う。

(3)森林、湖沼、河川、海岸、野生動植物、その他の天然資源及び自然環境は、法律の定めるところにより、国の保護を受ける。

第51条   (1)すべて国民は、その適性に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

(2)すべて国民は、自分の子どもを保護し教育する権利を有し、その義務を負う。

(3)公立の学校教育は、満6歳から満18歳に至るまで無償とする。

(4)大学及び私立学校に通う学生は、法律の定める基準に従い、学費の補助を受けることができる。

(5)国及び地方自治体は、満5歳以下の子どもに対する教育及び保育のための施設を整備する。

(6)国は、生涯学習の振興に努める。

第52条   (1)教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な日本及び国際社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の尊厳を重んじ、勤労と社会責任を尊び、自主的精神に充ちた、心身ともに健康な人間の育成を目的として行われる。

(2)すべての学校は、各自の教育方針を定め、教師、学生及びその保護者が協力し合って自治的に運営することができる。

(3)国は、各学校の教育内容に対して、不当な統制、干渉、介入、圧力又は操作をしてはならない。

第53条   (1)すべて国民は、労働の権利を有し、義務を負う。

(2)賃金、就業時間、休息、有給休暇その他の労働条件に関する基準は、法律で定める。

(3)児童を酷使してはならない。

第54条   (1)労働者の団結する権利、団体交渉をする権利及び同盟罷業その他の争議行為によって団体行動をする権利は、これを保障する。

(2)前項の権利は、一般公務員にも保障される。但し、警察官、自衛官及び法律の定めるその他の公務員は、この権利について一部制限を受ける。

 

第6節 経済的権利

 

第55条   (1)すべて国民は、公共の利益に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

(2)外国に移住し、又は国籍を離脱する自由は、これを保障する。

第56条   (1)財産権は、これを保障する。

(2)財産権の内容は、公共の利益に適合するように、法律で定める。

(3)私有財産は、相当な補償の下に、公共のために用いることができる。

第57条   消費者の安全、情報入手、選択機会及び被害救済に関する権利は、これを保障する。

第58条   国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。

 

第7節 身体的権利

 

第59条   すべて国民は、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

第60条   すべて国民は、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。

第61条   (1)すべて国民は、裁判所において公平で迅速な裁判を受ける権利を有する。

(2)裁判にかかる費用は、国から補助を受けることができる。

第62条   すべて国民は、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する裁判官が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

第63条   (1)すべて国民は、理由を直ちに告げられ、かつ直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない。

(2)すべて国民は、正当な理由がなければ拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

(3)警察署に設置する留置場は、刑事施設として代用することができない。

第64条   (1)すべて国民は、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利を有する。

(2)前項の権利は、現行犯として逮捕される場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、かつ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

(3)捜索又は押収は、権限を有する裁判官が発する各別の令状により行う。

第65条   拷問及び残虐な刑罰は、絶対に禁止する。

第66条   (1)すべて刑事事件においては、被告人は、公平で迅速な公開裁判を受ける権利を有する。

(2)刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。

(3)刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自ら依頼することができないときは、国でこれを附する。

第67条   (1)すべて国民は、自己に不利益な供述を強要されない。

(2)強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、証拠とすることができない。

(3)すべて国民は、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

第68条   すべて国民は、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。

第69条   すべて国民は、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

第70条   他人の犯罪行為によって生命若しくは身体の被害を受けた者、又はその遺族は、法律の定めるところにより、国の救済を受けることができる。

 

第4章   国会

 

第71条   国会は、国の最高議決機関であって、全国民を代表して立法権を行使する。

第72条   (1)国会は一院制とし、国民から直接選挙された議員で組織する。

(2)国会議員の定数は、200名とする。

第73条   (1)国会議員は、各道及び都を選挙区として選出される。

(2)各選挙区の定数は、5年ごとに行われる人口国勢調査の結果に基づいて、比例配分される。

(3)各政党は、選挙区ごとに順位をつけない候補者名簿を提出する。無所属の候補者は、1名で1政党とみなす。

(4)選挙権を有する者は、候補者1名に投票する。候補者への投票は、その所属する政党への投票とみなされる。

(5)各選挙区内の各政党の議席数は、各政党の得票数に基づき、比例代表の原則で配分される。

(6)候補者は、選挙区ごとに、その所属政党に配分された議席数の内で、個人名得票の多い順に当選とする。

第74条   (1)国会議員に欠員が生じたときは、前条第6項の順位に従って、繰り上げて補充し、その者が残りの任期を全うする。但し、残りの任期が6か月未満であるときには、これを補充しない。

(2)無所属の国会議員が欠けたときは、これを補充しない。

第75条   (1)国会議員の任期は、4年とする。但し、解散された場合は、その期間満了前に終了する。

(2)国会は、総議員の4分の3以上の多数による議決をもって、自主的に解散することができる。

第76条   (1)国会議員の総選挙は、その任期満了日の30日前の日から起算して20日以内に行われる。

(2)国会が解散されたときは、解散の日から30日以内に、国会議員の総選挙を行わなければならない。

(3)国会は、その任期が満了又は終了した後であっても、新たに国会が組織されるまで、引き続きその職務を行う。

(4)国の緊急事態において総選挙を行うことができないときには、国の緊急事態が解除された日から30日以内に総選挙を行わなければならない。

(5)総選挙が行われてから2年以内、又は国の緊急事態においては、国会は解散されてはならない。

第77条   国会議員は、全国民の代表者であって、一部の選挙人による委任に拘束されることなく、良心に従ってその職務を行う。

第78条   国会議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。

第79条   国会議員は、国会外における現行犯罪の場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、国会の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。

第80条   国会議員は、国会内で行った演説、討論又は表決について、国会外で責任を問われない。

第81条   通常国会は、毎年1月第3週に招集され、11月末に閉会する。但し、法律の定めるところにより、夏期休会その他の休会を定めることができる。

第82条   (1)内閣は、臨時国会を招集することができる。

(2)総議員の4分の1以上の要求があるときには、その20日以内に、国会議長が臨時国会を招集しなければならない。

第83条   国会議員の総選挙があったときは、その選挙の日から30日以内に特別国会を招集する。

第84条   (1)国会の中に、国会議員20名からなる常設委員会を置く。

(2)常設委員会は、国の緊急事態において国会を開くことができないときには、国会の代わりに決議をすることができる。

(3)前項において採られた措置は臨時のものであって、次の国会開会の後10日以内に国会の同意がない場合には、その効力を失う。

(4)常設委員会委員は、各政党の所属議員数の比率により、各政党に割り当てて選任される。この選任は、国会議員の総選挙後に初めて国会が招集された日から10日以内に行われる。

(5)常設委員会委員長は、国会議長が兼任する。

(6)常設委員会は、国会議員が任期満了するか、又は国会が解散されたときでも、次の常設委員会が組織されるまで、引き続きその職務を行う。

第85条   (1)国会は、その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失わせるには、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。

(2)1年以上会議を欠席している議員は、その議席を失う。

第86条   (1)国会は、その総議員の過半数の出席がなければ、議事を開き議決することができない。

(2)国会の議事は、この憲法に特別の定めがある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

第87条   (1)法律案は、国会議員又は内閣がこれを提出する。国会議員は、1名で自由に議案を発議することができる。

(2)国会議員は、行政機関に対して、法律案作成に必要な調査研究資料又は情報の提出を要求することができる。

(3)選挙権を有する者は、法律の定めるところにより、その総数の1パーセント以上の署名によって、国会に法律案を提出することができる。

第88条   (1)国会の会議は、公開とする。但し、出席議員の3分の2以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。

(2)国会は、その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、一般に頒布しなければならない。

(3)出席議員の4分の1以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。

第89条   (1)国会は、その議長、副議長その他の役員を選任する。

(2)国会は、その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、国会内の秩序を乱した議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。

第90条   (1)国会は、総議員の4分の1以上の要求によって、国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。

(2)前項の調査は、裁判を拘束せず、司法権の行使に影響を及ぼさない。

第91条   総理、閣僚及び法律の定めるその他の公務員は、議案について発言するために、何時でも国会に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、法律に定められた場合を除き、出席しなければならない。

第92条   (1)国の選挙、投票及び政党に関する事務は、中央選挙管理委員会が管理する。

(2)中央選挙管理委員会は、委員5名で構成する。任期は4年とし、国会が、その出席議員の3分の2以上の多数による議決をもって任命する。

(3)中央選挙管理委員会の委員は、国会議員及びその他の公選による公務員を兼ねることができない。又、政党に所属してはならず、選挙及び投票権行使以外の政治活動をしてはならない。

第93条   (1)公務員の選挙に関する法律案は、事前に中央選挙管理委員会に諮問し、その答申に基づいて、国会が議決する。

(2)前項の法律案の修正には、中央選挙管理委員会の同意を必要とする。但し、国会の出席議員の3分の2以上の多数で議決したときには、この限りではない。

 

第5章   内閣

 

第94条   (1)行政権は、内閣に属する。

(2)内閣は、その首長たる総理及び閣僚で組織する。

第95条   (1)総理は、国民が直接選挙する。総理選挙は、国会議員の総選挙が行われるときに、同時に行う。

(2)総理の選挙は、有効投票総数の過半数を得た者を当選とする。

(3)過半数を得た者がいないときは、1週間後に上位2名による決選投票を行い、多数を得た者を当選とする。

第96条   (1)総理選挙に立候補するには、国会議員又は国会議員選挙に立候補した者20名以上の推薦を必要とする。

(2)総理は、国会議員と兼ねることができない。

(3)総理候補者は、同時に行われる国会議員の総選挙にも重複して立候補することができる。但し、両方とも当選したときには、国会議員を辞めなければならない。

第97条   総理は、就任に際し、国会において、この憲法の遵守と職務の誠実な執行を厳粛に宣誓しなければならない。

第98条   (1)総理の任期は4年とし、再任することができる。但し、合計して8年を超えて在任することはできない。

(2)国会議員の任期が満了又は終了したときには、総理の任期も同時に終了する。

第99条   (1)任期の途中に総理が欠けたときは、30日以内に国民の直接選挙による補欠選挙を行い、当選した者が残りの任期を全うする。但し、残りの任期が1年未満であるときには、国会が総理を選出する。

(2)総理の補欠選挙においても、有効投票総数の過半数を得た者を当選とする。過半数を得た者がいないときは、1週間後に上位2名による決選投票を行い、多数を得た者を当選とする。

(3)総理の補欠選挙において国会が総理を選出する場合、国会議員の有効投票の過半数を得た者を当選とする。過半数を得た者がいないときには、直ちに上位2名による決選投票を行い、多数を得た者を当選とする。

(4)国会議員は、総理の補欠選挙に立候補することができる。但し、当選したときには、国会議員を辞めなければならない。

(5)総理が欠けたときには、新たに総理が選出されるまで、副総理がその職務を行う。

(6)総理と副総理が同時に欠けたときには、新たに総理が選出されるまで、国会議長が総理の職務を行う。この場合、国会議長の職務は、国会副議長が行う。

第100条  (1)総理は、閣僚を任命する。

(2)閣僚のうち1名は、副総理として任命される。

(3)閣僚は、行政各省庁の長官、委員会の委員長又は無任所閣僚として任命される。

(4)閣僚の人数は、20名以下とする。

(5)閣僚は、国会議員と兼ねることができない。

(6)総理は、任意に閣僚を罷免することができる。

第101条  (1)国会が、出席議員の3分の2以上の多数をもって、内閣の不信任決議案を可決したときは、総理は、任期途中であっても解任され、内閣は総辞職する。

(2)前項の場合に限り、内閣は、不信任決議案の可決後10日以内に、国会を解散することができる。

(3)内閣の不信任決議案は、総理の選挙が行われてから2年以内は、これを議決することができない。

(4)内閣の不信任決議案が否決された後1年間は、同一の総理に対して、再び内閣不信任決議案を提出することはできない。

第102条  (1)総理の任期が満了又は終了したときには、閣僚も同時に総辞職する。

(2)内閣は、総辞職した後も、新たに内閣が組織されるまで、引き続きその職務を行う。

第103条  総理は、内閣を代表して、一般国務及び外交関係について国会に報告し、閣議を主宰し、行政各省庁を指揮監督する。

第104条  内閣は、他の一般行政事務の外、次の事務を行う。

1,法律を誠実に執行し、国務を統括すること。

2,憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。

3,国会を招集すること。

4,国会議員の総選挙及び国民投票の施行を公示すること。

5,外交関係を処理すること。

6,条約を締結すること。但し、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を必要とする。

7,大使及び外交使節を信任し、接受すること。

8,法律の定める基準に従い、行政機関の職員を任免し、その事務を処理すること。

9,法律案及び予算案を作成して国会に提出すること。

10,この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

11,大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。但し、事前に最高裁判所の承認を必要とする。

12,栄典を授与すること。

第105条  法律及び政令には、すべて主任の閣僚が署名し、総理が連署することを必要とする。

第106条  (1)国会で議決された法律又は予算は、法律でその公布日を指定された場合を除き、その議決後30日以内に、内閣によって公布される。

(2)内閣は、国会の議決した法律案又は予算案について異議があるときは、その議決から10日以内に理由を示して、これを再議に付することができる。

(3)前項の場合、国会が出席議員の55パーセント以上の多数で再議決したときは、法律又は予算として成立し、内閣はこれを30日以内に公布しなければならない。

第107条  (1)人事院は、法律の定めるところにより、国家公務員の採用、給与、任免、研修、懲戒その他の人事行政の公正の確保及び公務員の利益の保護に関する事務をつかさどる。

(2)人事院は、人事官3名で構成する。人事官は、国会の同意を得て、内閣が任命する。任期は4年とし、再任されることができる。但し12年を超えて在任することができない。

第108条  (1)行政機関の職員は、満70歳に達した時には退官する。

(2)行政機関の職員は、法律の定めるところにより、その離職後5年間は、以前在職していた機関と密接な関係のある団体又は企業に再就職することができない。

 

第6章   裁判所

 

第109条  (1)司法権は、憲法裁判所、最高裁判所及び下級裁判所に属する。

(2)下級裁判所として、道裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所、知的財産裁判所及び防衛裁判所を設置する。

(3)臨時の裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行うことができない。

(4)国民は、法律の定めるところにより、裁判員として裁判に参加することができる。

第110条  (1)国政が憲法に従って公正に行われているかを審査するために、憲法裁判所を設置する。

(2)憲法裁判所は、一切の法律、条約、命令、条例、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを最終的に決定する権限を有する。

(3)憲法裁判所の判決は、国及び地方自治体の全ての機関を拘束する。

第111条  憲法裁判所に提訴できるのは、次の場合である。

1,内閣が要求するとき。

2,国会の総議員の4分の1以上が要求するとき。

3,一つの地方自治体の議会が要求するとき。

4,国政監査院が要求するとき。

5,人権委員会が要求するとき。

6,選挙権を有する者の総数の1パーセント以上が、署名によって要求するとき。

7,最高裁判所又は下級裁判所が、その具体的訴訟事件において、憲法に適合するかどうか判断する必要があると認め、これを憲法裁判所に移送して裁判することを要求するとき。

第112条  憲法裁判所は、その権限を有する事項について、提訴された日から60日以内に判決を下さなければならない。

第113条  (1)憲法裁判所は、総理又は国会議員が、憲法又は法律に著しく反する非行を行ったときには、弾劾のために訴追することができる。その場合には、裁判官6名以上の賛成を必要とする。

(2)前項の訴追があったときには、総理については全国で、国会議員についてはその選出された選挙区において、弾劾のために国民投票が行われ、その過半数の賛成があったときには、罷免される。

(3)国民投票の結果、罷免された総理又は国会議員は、その罷免された日から10年間は、公務員となることができない。

第114条  閣僚、人事官、国政監査官、人権委員、検事総長、中央選挙管理委員会委員及び法律に定めるその他の公務員が、憲法又は法律に著しく反する非行を行ったときには、国会の常設委員会で訴追の議決がなされた後、憲法裁判所の弾劾判決によって罷免される。その場合には、裁判官6名以上の賛成を必要とする。

第115条  裁判官が、憲法又は法律に著しく反する非行を行ったときには、国会の常設委員会で訴追の議決がなされた後、国会の弾劾によって罷免される。その場合には、国会の出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。

第116条  (1)憲法裁判所は、国政上重要な政策について国会で審議がなされた後、国民の総意を問う必要があると判断するときには、その案件を国民投票に付することができる。但し、租税及び予算に関する案件を国民投票に付することはできない。

(2)国民投票で一度否決された案件は、国会議員の総選挙が新たに行われた後でなければ、これを再び国民投票に付することはできない。

(3)国民投票は、有効投票の過半数によって決し、その決定は、国及び地方自治体の全ての機関を拘束する。

第117条  憲法裁判所は、国の機関の相互間、国の機関と地方自治体、及び地方自治体の相互間の権限に関する争議について審判する。

第118条  (1)憲法裁判所は、9名の裁判官で構成する。
(2)憲法裁判所の裁判官は、任期を12年とし、再任されることができない。

第119条     (1)憲法裁判所の裁判官は、最高裁判所又は下級裁判所の裁判官として12年以上在職した有資格者の中から、これを互選する。
(2)前項の選出において、有資格者は、候補者1名に投票する。候補者は、その得票数が多い順に当選とし、最も得票が多かった者が、憲法裁判所の長官となる。

第120条     (1)最高裁判所は、15名の裁判官で構成し、そのうちの1名を長官とする。最高裁判所の長官は、憲法裁判所の長官が兼任する。
(2)最高裁判所の裁判官は、任期を12年とし、再任されることができない。
(3)最高裁判所の裁判官は、憲法裁判所が指名した者の名簿に基づいて、国会が任命する。この任命には、国会の出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。

第121条     最高裁判所の裁判官は、裁判官、検察官、弁護士又は大学の法律学教授として12年以上在職した者の中から任命しなければならない。


第122条  (1)道裁判所の裁判官は、道議会が、出席議員の3分の2以上の多数による議決をもって任命する。

(2)道裁判所以外の下級裁判所の裁判官は、その管轄する道裁判所が指名した者の名簿に基づいて、道議会が任命する。但し、知的財産裁判所及び防衛裁判所の裁判官は、最高裁判所が任命する。

(3)東京都に所在する下級裁判所は、関東道裁判所が管轄する。

第123条  下級裁判所の裁判官は、任期を8年とし、再任されることができる。但し、満70歳に達した時には退官する。

第124条  (1)最高裁判所は、訴訟に関する手続き、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。但し、憲法裁判所に関する規則は、憲法裁判所が定める。

(2)検察官は、最高裁判所の定める規則に従わなければならない。

(3)最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。

第125条  (1)検察官の行う事務を統括するため、最高裁判所の下に、最高検察院及びその他の下級検察院を設置する。

(2)最高検察院の長は検事総長とし、最高裁判所がこれを任命する。任期は4年とし、再任されることができない。

(3)検察官は、常に厳正公平及び不偏不党を旨として、事案の真相を明らかにし、事件の処理においては基本的人権を尊重しなければならない。

第126条  (1)すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。

(2)すべて裁判官は、政党に所属してはならず、選挙及び投票権行使以外の政治活動をしてはならない。

(3)裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。

第127条  裁判官は、全て定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、最高裁判所の同意なしに減額することができない。

第128条  (1)裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う。

(2)裁判所が、公の秩序又は善良の風俗を害する恐れがあると決した場合には、対審は、公開しないで行うことができる。但し、この憲法第3章で保障する基本的人権が問題となっている事件の対審は、これを公開しなければならない。

第129条  (1)国政全般が憲法及び法律に従って公正に行われているか監査し、国の会計を検査するために、憲法裁判所の下に、国政監査院を設ける。

(2)国政監査院は、国の機関又は公務員の行為に不正、不当、不適切又は非能率があると思われるときには、自らの職権又は国民の直接の申立てにより、監査を行い、資料の提出又は業務の改善を命令し、憲法裁判所に報告する。

(3)国政監査院は、5名の国政監査官で構成し、憲法裁判所がこれを任命する。任期は8年とし、再任されることができる。但し、満70歳に達した時には退官する。

第130条  (1)人権侵害行為に対する調査、救済、予防、仲裁、勧告及び人権教育に関する事務を行うために、憲法裁判所の下に、人権委員会を設置する。

(2)人権委員会は、7名の委員で構成し、憲法裁判所がこれを任命する。任期は4年とし、再任されることができる。

 

第7章   地方自治

 

第131条  (1)地方の政治は、その地域の住民が、地方自治体を通して自主的に行う。

(2)住民に身近な立法及び行政事項は、できる限りその地方自治体が担当する。国は外交、防衛、通貨その他の国全体に関わる事項を行い、それ以外の事項は基本的に地方自治体が行うものとする。

(3)国及び地方自治体は、その事務を行うときに、互いに連絡調整し、協力し合わなければならない。

第132条  (1)広域自治体として道及び都を、基礎自治体として市区町村を設置する。

(2)道及び都は、次の通りとする。

1,      北海道

2,      東北道(青森、秋田、岩手、宮城、山形、福島)

3,      関東道(茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、旧東京都の23区以外の地域)

4,      北陸道(新潟、富山、石川、福井)

5,      東海道(長野、山梨、静岡、岐阜、愛知、三重)

6, 関西道(滋賀、京都、兵庫、大阪、奈良、和歌山)

7, 山陰陽道(鳥取、島根、岡山、広島、山口)

8, 四国道(香川、徳島、愛媛、高知)

9, 九州道(福岡、佐賀、長崎、熊本、宮崎、鹿児島)

10, 沖縄道

11, 東京都(23区のみ)

第133条  (1)地方自治体には、その議事機関として議会を設置する。

(2)地方自治体の議会議員は、その住民が直接選挙し、任期は4年とする。

(3)地方自治体の議会議員の定数及び選挙方法については、各自治体の条例で定める。

第134条  (1)地方自治体には、その執行機関の首長として、道及び都には知事を、市区町村には長を設置する。

(2)地方自治体の首長は、その住民が直接選挙し、有効投票の過半数を得た者を当選とする。過半数を得た者がいないときは、1週間後に上位2名による決選投票を行い、多数を得た者を当選とする。

(3)地方自治体の首長の任期は4年とし、再任することができる。但し、合計して8年を超えて在任することができない。

(4)地方自治体の首長の選挙は、議会の選挙と同時に行う。議会議員の任期が満了又は終了したときには、首長の任期も同時に終了する。

第135条  (1)地方自治体の議会が、出席議員の3分の2以上の多数をもって、首長の不信任決議案を可決したときは、首長は、任期途中であっても解任される。

(2)前項の場合に限り、首長は、不信任決議案の可決後10日以内に、議会を解散することができる。

第136条  地方自治体は、自主的に租税を課し、財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、その権能の範囲内で条例を制定することができる。

第137条  地方自治体が自立してその事務を行うため、十分必要な財政能力を持つことができるように、国は措置を講じなければならない。

第138条  (1)地方自治体は、その住民で選挙権を有する者の総数の4分の1以上の署名による要求があるときには、その首長若しくは議員の解職、又は重要政策について、住民投票を行う。

(2)住民投票は、有効投票の過半数によって決し、その決定は、その地方自治体の全ての機関を拘束する。

第139条  (1)地方自治体の住民で選挙権を有する者は、その総数の1パーセント以上の署名によって、条例案を議会に提出することができる。

第140条  (1)すべての道及び都の知事は、相互の連絡と財政調整を行い、地方自治に関する政策を協議し、国に提言するために、全国知事会を組織する。

(2)道及び都の知事は、全国知事会に自ら出席できないときは、その指名した者を代理として出席させることができる。

(3)国と地方自治体の役割分担、及び地方自治体の事務に関する法律を制定するには、国会で審議された後、全国知事会において過半数の同意を得ることを必要とする。

 

第8章   財政

 

第141条  国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない。

第142条  あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

第143条  (1)国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基づくことを必要とする。

(2)国の歳出は、法律に定める特別な場合を除き、公債又は借入金以外の歳入をもって、その財源としなければならない。

第144条  (1)内閣は、毎会計年度の予算案を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を得なければならない。

(2)継続支出の必要があるときは、年限を定め、継続費として国会の議決を得なければならない。

第145条  (1)予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。

(2)すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承認を得なければならない。

第146条  内閣は、必要に応じて、一会計年度のうちの一定期間に係る暫定予算を作成し、これを国会に提出することができる。

第147条  すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算案に計上して、国会の議決を得なければならない。

第148条  (1)国の収入支出の決算は、すべて毎年国政監査院がこれを検査し、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。

(2)国政監査院は、国の収入支出の均衡及び健全性を監査し、内閣に対して改善を命令することができる。

第149条  内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少なくとも毎年2回、国の財政状況について報告しなければならない。

 

第9章   改正

 

第150条  (1)憲法改正案の提出は、国会議員20名以上の賛成、又は内閣によって行われる。

(2)憲法の改正は、国会が、その出席議員の5分の3以上の賛成をもって議決した後、

30日以内に国民投票が行われ、その有効投票の過半数の賛成を得たときに成立する。

(3)憲法改正について前項の賛成を得たときは、内閣は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

第151条  (1)この憲法の基本原則を破壊することを目的とした憲法改正は、禁止される。

(2)総理の任期延長又は在任期間制限に関する憲法改正は、その提案当時の総理に対しては、効力を有しない。
(3)国の緊急事態宣言が発令されている期間は、憲法を改正することができない。

第10章   補則
 
第152条     (1)この憲法は、公布の日から起算して6か月を経過した日から施行する。
(2)この憲法を施行するために必要な法律の制定及び準備手続は、前項の期日よりも前に行うことができる。

第2部 条文の解説(前文、第1~3章)


(前文)


我々日本国民は、1947年に施行された前憲法が、第二次世界大戦後の日本の民主化と平和、そして発展のために大きな役割を果たしてきたことを踏まえながらも、時代の変化に対して、憲法の解釈と運用だけでは対応しきれなくなっていると認識した。そこで、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という、前憲法の基本原則を維持しつつ、それを現代の必要に合わせて具体的に適用し、さらに発展させることによって、より良い日本の未来を築き上げていくために、ここに前憲法を全面的に改正し、新憲法として制定する。


(解説)


前文は、新憲法を制定する理由を簡単に書くのにとどめた。具体的な国の基本理念は、本文の第1章「総則」に書いてあるので、内容が重なるからである。私は、現行憲法の良かった点まで全面的に否定するつもりはない。むしろ戦後日本の民主化と、平和への決意を保つのに大きく貢献した点を、正しく評価すべきであると考える。しかしその後、時代と状況が変化しているのに、きちんとした憲法条文改正をしないで、その場しのぎ、なし崩し的な「解釈改憲」で対応するようになってしまった、そのことが問題なのである。だから現行憲法の三大基本原則を維持しつつも、その内容を、現代の世界と日本の必要に合わせて、具体的に規定し直すべきだと考える。それも、部分的に修正したり加えたりするのではなく、「新しい日本の姿はどうあるべきか」を考えて、全面的にゼロベースで「創憲」するのである。とにかく、これは過去を否定するのではなく、過去を踏まえた上で、現在の問題を解決し、未来のビジョンに向けて建設していくためのものである。



第1章 総則

 

第1条(1)日本国は、民主、人権、平和を基本原則とする。

(2)日本国は、前項の基本原則に基づいて、以下の基本理念を実現する。

1、全国民が主権者として国政の運営に責任を持ち、主体的に政治に参加することによって、国民の自由な意思に基づく真の民主政治を確立すること。

2、国民の基本的人権を保障し、その生活の安定と向上をはかり、経済と文化を発展させることによって、全国民の幸福を最大限に実現すること。

3、国際協力を推進し、諸国民の共存と社会の発展に努めることにより、世界の平和と人類の福祉に積極的に貢献すること。


(解説)


現行憲法の三大原則である「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義」を、シンプルで覚えやすい標語として「民主、人権、平和」と表現した。そしてその具体的内容は、基本理念として第2項に明文化した。

(1)民主主義は、努力して維持していないと、いつの間にか崩れていくものである。今の日本も、投票率は低下する一方で、過激な発言する政治家が大衆の人気を奪うような傾向がある。民衆が政治に失望して無関心になり、みんながそう言うから周りを恐れて流されていき、大衆迎合の衆愚政治になり、それが全体主義と独裁政治を招く。これは日本と世界の歴史が証明している。このような最近の傾向に対して、私は強い危機感を持っている。だからこそ私たちは常に「自分たちが日本の政治を動かしていくのだ」という自覚を持って、自分から進んで積極的に政治に関わり、民主政治を発展・成長させなければならない。これは第40条にも、国民の義務として規定してある。

(2)基本的人権も同じように、単に尊重するだけではなく、常に努力して発展させなければならない。人権を広い意味で再定義して「一人一人が人間として大切にされて、幸せに生きていく権利」が保障される社会を、みんなで築き上げていく。このビジョン実現のために、国の政治や経済、文化の全てが動かされていくのである。

(3)平和主義も単に「もう戦争をしない」というだけではなく、積極的に平和を作り出す国となる、というビジョンを掲げる。そのために「自分さえ良ければいい」という、かたよったナショナリズムを排除して、あらゆる方法で国際協力を推進し、世界の平和と共生に貢献する。これは、第16条以下にも具体的に規定した。

・・・・このように、憲法の第1条で、国の基本原則と理念をはっきり提示することによって、国民全体がこのビジョンに向かって前進していけるようにした。



第2条(1)日本国の主権は、国民にあり、全ての権力は、国民に由来する。

(2)日本国民は、選挙、投票及びこの憲法に定めるその他の方法によって主権を行使する。

(3)独裁、強権、全体主義、権威主義、軍国主義又は暴力主義的な政治は、どんな形態であっても、これを禁止する。国民は、この憲法に定める方法により、このような政治を排除しなければならない。それでも他に救済手段が全く存在しないときには、国民は、抵抗する権利を有する。




(解説)


国民主権は、この新憲法の第一原則である。国家権力が国民を支配するのではなく、国民が国家権力を支配するのだ。ただし、第1条の解説で述べたように、これを維持し発展させる努力を怠っていると、あっという間に独裁政治に逆戻りしてしまう。なので、ここでは国民の「抵抗権」を明文化した。これはドイツ連邦共和国基本法の第20条や「戦う民主主義」の考え方を参考にしている。しかしこれは、何も暴力革命やクーデターを勧めているのでは全くない。まず第一には、憲法システムの範囲内で国民主権を実質的に守るように最大限努力すべきである。しかし、この憲法の本質を無視した独裁者が一旦権力を握ると、ナチスのように憲法の規定を形骸化させて強権政治を行う可能性は大いにある。そのようなとき、国民はただ黙認してはならない。そのような政治に対してあらゆる方法で抵抗し、最後の手段として、みんなで立ち上がって戦わなければならない。そういう意味での「抵抗権」である。民主主義とは、制度の上に安住するものではなく、勝ち取るものなのである。



第3条(1)天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は国民の総意に基づく。

(2)天皇は、国際関係において日本国を代表する。

(3)皇位は、世襲のものであって、法律の定めるところにより継承する。

(4)天皇は、国の象徴としての儀礼的な行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。

(5)天皇の全ての公的行為には、内閣の承認を必要とし、内閣がその責任を負う。天皇の公的行為については、法律で定める。

 

(解説)

 

国民主権下での象徴天皇制は、戦後日本において、大部分の国民が大すじにおいて肯定的に受けとめ定着していると思う。しかし各論となると、感情・観念的論争があって非常に難しい。右寄り改憲論者はだいたい「天皇は国家元首だとはっきり規定すべきだ」と主張している。しかし「元首」と言うと、どうも明治憲法下の「統治権の総覧者」というイメージが強いようで、左寄りの人たちには受け入れがたいだろう。左派の憲法学者たちは「現行憲法では内閣総理大臣が元首である」と主張している。しかし国際的にみると、元首という地位は今日において、単に「対外的に国家を代表する者」を意味するように変化している。ヨーロッパで政治権力のない形式的な国王や君主はみな元首である。日本の天皇も、現に外交儀礼上では元首扱いとされている。なので、ここでは第3条第2項で「天皇は、国際関係において日本国を代表する」と、現実に即して表現した。実際には形式的意味での元首なのだが、「元首」と直接書いて誤解と反発を招くよりも、このほうが無難であろう。

 第3項の皇位継承については、女性天皇の可能性について色々と議論があるが、私自身もまだはっきりとした結論に至っていないので、法律に委ねることにした。しかし「皇室典範」という名前は明治憲法下の名残なので、ここでは単に「法律の定めるところにより」とした。

 現行憲法にある、首相と最高裁長官の任命権や国事行為のリストは、ここにはない。これらは形式的なものであり、実際には国会の指名や内閣の助言と承認に基づいて行っている。なので、試案では現実に即して、その大部分を内閣の管轄とした。そうでないと衆議院の「7条解散」のように、時の政府が解釈を変えて勝手に利用してしまうからだ。(この試案の第102条では、内閣の国会解散権は、内閣不信任案の可決後に限定されている。)残されたのは「儀式を行うこと」であるが、これは国事行為とは呼ばず「公的行為」として、やはり内閣の承認を必要とし、詳細は法律に委ねた。天皇は国政に関する権能を有しないのだから、このほうがシンプルで実態に合っていると思う。

 

 

第4条(1)日本国の国旗は「日の丸」とする。

(2)日本国の国歌は、国民からの公募に基づき、法律でこれを定める。

(3)国旗及び国歌は、尊重されなければならない。但し、誰もその掲揚又は斉唱を強要されない。

 

(解説)

 

国旗は「日の丸」のままで良いと思う。しかし、国歌については「君が代」ではなく、新しい時代と日本のビジョンにふさわしく、国民みんなが誇りをもって歌えるような歌詞で、新しく作ったほうが良いのではないか。国旗国歌でいつも問題になるのは、教育現場でそれを強制されるのではないか、という点なので、上からの強要は禁止するべきだ。しかし歌というのは、くりかえし歌って覚えることにより、チームを団結させ、みんなが一つの目標に向かって努力するように心を励ます効果がある。なので、せっかく新しい憲法を制定するのだから、これを機会に、ふさわしい歌詞とメロディーを広く国民から公募して、みんなが納得して心から歌える新しい国歌を生み出すことが望ましい。


 

第5条(1)この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、条約、命令及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

(2)日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守しなければならない。

第6条(1)すべて国民は、この憲法及び法律を遵守しなければならない。

(2)天皇及び総理、閣僚、国会議員、裁判官その他の全ての公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。


(解説)


現行憲法の第98条と99条を、こちらに持って来た。しかし条約よりも憲法を上に置いた。憲法に違反するような内容の条約は、当然締結してはいけない。もし日本が、ある条約を結ぼうとするのにそれが憲法の内容と抵触するのなら、まず憲法を改正してから、その条約を締結すべきだ。日米安全保障条約を結んでおきながら、後でそれに合わせて憲法を解釈し直す、などというのは、本末転倒である。国際人権規約や子どもの権利条約などの条文も、どんどん日本の憲法に採用して取り入れれば良い。憲法とは、時代と世界の流れに従って、常に最新化、アップデートすべきものだからだ。

それから、国民の憲法法律遵守義務を明文化した。これはイタリア共和国憲法第54条を参考にした。主権者である国民が、自分で作った憲法と法律を守るべきことは、当然と言えば当然のことである。近代において憲法とは、国民が国家権力に対して守らせる中立的ルールブックのようなものであった。しかし現代の憲法では、国民と国家が一緒に共通の政策目標と方向性を宣言して「みんなでこれを実現しましょう」という内容となる傾向が強い。だから「国民がみんなでこの憲法を守っていこう」と規定するのは、意味があるだろう。



第2章 国際平和及び協力

 

第7条(1)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、紛争解決の手段としての戦争、武力による威嚇、武力の行使その他自衛以外の一切の戦闘行為を、永久に放棄する。

(2)国は、国際平和を維持し、紛争を平和的手段によって、国際法の原則に従って解決するように、最大限の努力をする義務を負う。

第8条(1)国の平和と安全を守るために、自衛隊を設置する。

(2)自衛隊の最高指揮権は、総理に属する。

(3)自衛隊の統合幕僚長及び陸海空の各幕僚長は、内閣が任免する。

(4)自衛隊は、政治に介入してはならない。自衛官は、政党に所属してはならず、選挙及び投票権行使以外の政治活動をしてはならない。又、その在役中及び退役した後10年間は、総理、閣僚、国会議員、地方自治体の首長又は議会議員及び法律に定めるその他の公務員となることができない。



(解説)


いよいよ、戦後憲法論議の中心となる「憲法第9条問題」について述べる。私の試案では「自衛以外の一切の戦闘行為を永久に放棄する」と規定した。これによって、放棄したのは「紛争解決の手段としての戦争」つまり侵略戦争であって、自衛戦闘行為は合憲であることを、はっきりと明文化する。しかし戦争になる前に、それを予防するほうがもっと大切である。普段から外交と国際協調によって他国と良い信頼関係を築き、問題が起きてもそれを平和的に話し合って解決するように常に努めることを、国の最大の義務とする。しかし、それにもかかわらず他国が侵略して攻めて来る場合もある。そのときは自衛するしかない。そのために自衛隊を持つのである。自衛隊も軍隊なのだから「防衛軍」と書こうか迷ったが、戦前の軍国主義への警戒が強くて、反発が大きいだろう。今ではもう「自衛隊」という呼称がすでに定着しているので、結局今まで通り自衛隊と呼ぶことにした。これなら今の自衛隊をそのまま憲法上の存在と認めただけだから、より抵抗感が少ないだろう。自衛隊の最高指揮権は総理(首相)にあって、自衛官(いわゆる制服組)のトップである統合幕僚長と陸海空の各幕僚長は、内閣が自由に任命し、又は解任できる。そして自衛隊は政治的に中立でなければならない。戦前のように軍部が権力をもつことがないように、政治介入を禁止して、自衛官が政治活動をしたり政治家になったりできないようにする。このように、自衛隊を憲法上で明記することによってこそ、憲法規定によって自衛隊を民主的文民統制下に置き、軍国化の動きに歯止めをかけることができるのだ。



第9条 自衛官は志願制とし、徴兵制は禁止される。

第10条 防衛費は、国の緊急事態の場合を除き、名目国内総生産の1パーセントを超えてはならない。


(解説)


世界的に見ると、軍隊を志願制にしている国も多い(アメリカ、イギリス、ドイツなど)。日本では、徴兵制に対する反対は非常に根強い。なので、試案では徴兵制ではなく、現状の通り志願制とした。このほうが国民は受け入れやすいだろう。それから、防衛費GDP比1%枠を憲法で規定した。防衛費は保険料のようなもので、一旦心配し始めるといくら増額しても安心できない。何らかの歯止めがないと、不安と恐れにあおられて際限なく増大してしまう傾向がある。戦後の軽武装・経済優先路線、そして1%枠という基準は、良い歯止めとしてある程度は機能していたと思う。日本のGDPは世界第3位で分母自体が大きいから、その1%と言っても相当な額となり、防衛費は現在世界第9位の「軍事費大国」である(2021年の統計)。なのに「アメリカが要求しているから2%にしよう」などというのは、本当に国民無視としか言いようがない。このような軍拡路線をストップするための改憲なのだ。ただし、他国の侵略を受けて国の緊急事態のときは特別な支出が必要なので、その場合に限り1%を超えても良いことにした。



第11条 自衛隊は、国内での災害救助活動のために出動することができる。

第12条(1)自衛隊が、国の防衛又は治安維持のために出動するには、事前又は事後10日以内に国会の承認を必要とする。

(2)自衛隊は、国際平和維持活動、海外での災害救助又は外国にいる日本国民の保護のために、当事国の同意を得た上で、国外に出動することができる。その場合、事前又は事後

10日以内に国会の承認を必要とする。

(3)前2項において自衛隊が出動した後、国会の承認が得られないとき、又は出動の必要がなくなったときは、総理は、直ちに自衛隊の撤収を命じなければならない。


(解説)


平時において自衛隊の活躍が一番国民の目に映るのは、災害救助出動のときだろう。東日本大震災のときの自衛隊の活動ぶりを見たら、「自衛隊はいらない」などと言う人はいなくなると思う。国民を守るために、自衛隊にはこのような大切な役割があることを、憲法にも明記すべきである。侵略攻撃を受けたときの防衛出動と、国内で騒乱などがあったとき秩序維持するための治安出動については、国会の承認が必要である。自衛隊が海外に派遣されるケースは(1)国連のPKO(平和維持活動)に協力するとき(2)災害救助(3)外国で日本国民を緊急に救出する必要があるとき・・・の3つに限定される。これ以外の目的で自衛隊を海外派遣したら、その国を攻撃しに来たと思われて、戦争へと発展する危険性があるからだ。自衛隊を海外に派遣するには、まずその当事国の同意を得て、その上でさらに、日本の国会でも承認を得なければならない。もし緊急に派遣した後で、10日以内に国会の承認が得られなかったとき、又は現地での必要がなくなったときには、すぐに日本に戻る。このように、憲法規定によって具体的に何重にもチェック機能がかけられているほうが、ただ護憲を叫んで何の歯止めもかけられないよりもずっと安心である。



第13条(1)国の安全に関わる重大な緊急事態が発生したとき、内閣は、全国又は一部地域において緊急事態を宣言し、法律の効力を有する緊急命令を発することができる。

(2)前項の宣言又は緊急命令は、その発令後10日以内に国会の承認を必要とする。承認が得られないときには、その宣言又は緊急命令は、効力を失う。

(3)緊急事態宣言と緊急命令の有効期間は、30日以内とする。延長するときには、国会の承認を必要とする。


(解説)


これは最近よく論議されている緊急事態条項である。この規定をナチスのように濫用・悪用したら確かに危険であるが、だからと言って「そんな条項はいらない」と言うのは飛躍しすぎている。「軍隊は危険だからいらない」と言うのに似ている。実際、戦乱や大地震、疫病など、いざというときに、このような規定がないために混乱することのほうが、もっと危険である。そうなってから対応するのでは遅すぎる。「備えあれば憂いなし」である。だから、世界各国の憲法の多くは、緊急事態条項を設けた上で、議会がそれを民主的に統制できるようにしている(ドイツ、フランスなど)。この試案もそれにならって、国会によるコントロールを明文化した。自衛隊の防衛出動と同じように、事前又は事後10日以内に国会の承認がなければ、緊急事態宣言や緊急命令は無効となる。国会が開けないときには、国会の中にある常設委員会が代わりに決議できる(第84条)。国会議員の任期が切れているのに総選挙ができないようなときでも、新しく国会が組織されるまで、国会は継続して職務を行うことができる(第76条)。このような大事な規定は、法律ではなく、やはり憲法の中に書いておくのが望ましい。



第14条 日本国は、自国の安全と防衛のために、外国と同盟して行動することができる。

第15条 日本国は、世界中に存在するあらゆる核兵器、化学兵器、生物兵器その他の無差別大量破壊兵器の全廃を追究し、そのような兵器の製造、実験、搬入、保有又は使用を禁止する。


(解説)


第14条は集団的自衛権の規定である。今の国連は機能不全に陥っていて、集団安全保障を期待することはできない。しかし個別的自衛権だけで国を守るのは難しい。やはり日米安保やNATO(北大西洋条約機構)のような、外国との同盟が実際に必要である。しかし、アメリカの軍事戦略のために日本が海外派兵する事態にならないように、「自国の安全と防衛のために」同盟して行動すると書いた。

第15条は「非核三原則」の「持たず、作らず、持ち込ませず」を明文化したものである。フィリピン憲法にも非核政策の条項がある。日本は世界唯一の被爆国として、核兵器全廃を世界に訴え続ける責任がある。化学兵器や生物兵器も同様だ。



第16条 日本国及び日本国民は、世界中の全ての人々が、平和と安全のうちに生存し、基本的人権が保障され、経済的、社会的、環境的、健康的及び文化的必要が満たされることによって、持続可能な社会において共に生きることができるように、積極的に貢献する責務を有する。

第17条 日本国の国際協力の基本原則は、次の通りとする。

1、国際平和を維持し、民主化と人権保障を推進すること。

2、飢餓、貧困又は災害に対して人道的な援助をし、地球環境を保全すること。

3、経済と文化の発展、自助努力の支援及び国際交流を推進すること。

第18条(1)海外における災害救助、難民救済、医療活動、人材育成、技術供与、福祉活動その他の国際協力を推進するために、国際協力機構を設置する。

(2)国際協力機構の組織及び権限は、法律で定める。



(解説)


第16条では、日本の国際貢献責務を規定した。ここには、現行憲法前文にある「平和的生存権」だけでなく、「持続可能な社会」や「共生」といった考え方も含めている。この国際協力の基本原則を書いたのが第17条である。そして、これを具体的に実行するために、国際協力機構(JICA)を憲法上の組織として明記した。日本は、経済発展や勤勉精神、利他的協調性などの面で、世界に模範を示すことができる。「世界に貢献する日本」は、軍事力によるのではなく「国がお金を出せばいい」というのでもない。平時から有能で献身的な人材を世界中に遣わし、その国の民衆のために現地で精一杯奉仕することによって、国民草の根レベルで信頼友好関係の土台を築いていく。これこそが日本の進むべき「積極的平和主義」の道である。



第3章 基本的人権の保障


(解説)


 第3章のタイトルは「国民の権利及び義務」ではなくて「基本的人権の保障」とした。このほうが、その内容にふさわしいからである。そして、条文を並べ直して内容ごとに分類し、以下の7つの節にまとめた。


第1節 通則

第2節 平等権

第3節 精神的権利

第4節 政治的権利

第5節 社会的権利

第6節 経済的権利

第7節 身体的権利


こうしたほうが、種類別にまとまっていて、ただ条文を羅列するよりも分かりやすい。



第1節 通則


第19条 国民は、すべての基本的人権を享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として与えられたものである。

第20条  この憲法が国民に保障する基本的人権は、国民の不断の努力によって保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に他人の権利を尊重し、公共の利益のためにこれを利用する責任を負う。

第21条 (1)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

(2)国は、人間の尊厳と価値を保障し、その人格の自由な発展を保護する義務を負う。


(解説)


 第19条は、現行憲法の第11条と97条を合わせたものである。この2つの条文は大変重要であるが、内容が重なっているので、それぞれの表現を残しながら統合した。第20条は、現行憲法の第12条に対応する。「公共の福祉」という言葉は、あいまいで分かりにくい表現であり、「全体のため、お国のために個人を犠牲にする」というように誤解されやすい。なので、ここでは「公共の利益」と書いた上で、その詳しい内容は第22条で具体的に規定した。第21条は、現行憲法の第13条に対応する。ここでは「公共の福祉に反しない限り」を削除した。個人の尊重は、国政上最大の尊重が必要だからである。そして第2項では、人間の尊厳を保障することが国の義務であることを明記した。これはドイツ連邦共和国基本法第1条を参考にしている。



第22条 (1)国民の基本的人権は、憲法及び法律の規定に基づき、又は裁判所により正当に下された判決に基づく場合でなければ、これを制限することができない。

(2)基本的人権に対する制限は、憲法の基本原則を守るため、又は公共の利益、公の秩序、善良の風俗、他人の権利の尊重のため、民主的な社会において必要な最小限度の場合においてのみ行われるべきであって、国民の権利を不当に制限するようなことがあってはならない。

(3)この憲法のいかなる規定も、国、集団又は個人が、基本的人権を破壊し、もしくはこの憲法に定める制限の範囲を超えて制限することを認めるものと解釈してはならない。

(4)いかなる場合においても、基本的人権の本質的な内容を侵害してはならない。


(解説)


 基本的人権は、どのような場合に限り制限が許されるのか、具体的に規定した。まず手続きとしては、憲法、法律又は裁判所の判決によらなければ、制限できない。この制限は、憲法の基本原則(民主、人権、平和)を守るため、公共の利益のため、公序良俗のため、そして他人の権利を尊重するため、に限定される。その上で「民主的な社会において」のみ制限が可能である。逆に言うと、非民主的、独裁的で全体主義的な政治体制下では、人権を制限することは許されない、という意味である。そして、この制限は必要最小限度で行うものであって、不当に制限してはならない。それから「公共の利益」という言葉を利用して、憲法の範囲を超えて人権をいくらでも制限しても良いのだ、と解釈してはならない。最後に、この基本的人権の本質的内容は、どんな場合であっても侵害してはならない。その「本質的内容」とは「人間の尊厳は、人間が生まれながらにして本来与えられており、国や憲法以前に存在しているもので、絶対永久に誰からも侵されてはならない」という考え方である。これらの規定は、世界人権宣言第29条、30条、ドイツ連邦共和国基本法第19条などを参考にしている。



第23条 (1)個人は家族を構成し、家族は地域社会を構成し、地域社会は地方自治体を構成し、地方自治体は国を構成し、国は国際社会を構成する。それぞれの構成員は、互いに自立し尊重し合う。構成員はすべて、共同体の一員として共生し、公共の利益のために責任を負う。

(2)すべて国民は、人間の尊厳が保障される民主的な社会に対して、その連帯を維持するために必要な義務を負う。

(3)この憲法が保障する基本的人権は、私人相互の関係にも適用されなければならない。




(解説)


 近代の憲法は、個人対国家という関係の中で、個人の権利を国家権力から守るために憲法を制定する、という形であった。しかし現代社会では、個人対国家という枠組みだけでは人権を守れない。私人どうしの関係(家庭、学校、企業や民間団体など)、地域社会での関係、国際社会の関係など、もっと幅広く複雑な関係の中で、人権をとらえる必要がある。ここでは、社会の構成関係を、以下のように規定した。


(個人)→(家族)→(地域社会)→(地方自治体)→(国)→(国際社会)


 各構成員は自立しているが、共同体の一員として、連帯を維持して協調する責任を負う。自分の権利ばかり主張するエゴイズムや、自分の国や民族の利益だけを守ろうとする極端なナショナリズム、個性を否定する全体主義などは、当然否定される。



第24条 (1)父又は母が日本国民である者は、出生したときから日本国民となる。

(2)日本国籍の取得については、法律で定める。

第25条  国外に滞在する日本国民は、日本国政府の保護を受ける権利を有する。

第26条  日本国に滞在する外国人は、国際法、条約及び法律の定める基準に従い、基本的人権が保障される。


(解説)


 日本社会が国際化しているので、権利保障を受けられる者が誰なのかを、はっきり定義する必要がある。日本国民としての国籍取得は、今の国籍法で定める通りに、出生地主義ではなく血統主義を基本として、詳細は法律に委ねた。また、国内だけでなく外国にいる日本国民も、権利保障の対象となる。国際化に伴って、今の日本でも外国人労働者や留学生が増えている。彼らの人権が当然守られるべきである。しかしその内容は、日本国が締結した条約や、日本国の法律の基準に従って適用される。



第2節 平等権


第27条 (1)すべて国民は、法の前に平等であって、人種、民族、言語、性別、思想、宗教、社会的身分、出生、出身地又は身体精神的障害により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

(2)栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴わない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

第28条  人種、民族、言語、性別、思想、宗教、社会的身分、出生、出身地又は身体精神的障害に対して、差別、憎悪、脅迫、暴力又は侮辱を扇動する言動は、これを禁止する。

第29条 少数民族に属する者は、その伝統文化及び言語の保護を受け、多様性が尊重される権利を有する。

第30条  身体的又は精神的に障害のある者は、その尊厳が守られ、自立して社会参加することができるように、国及び社会の支援を受ける権利を有する。


(解説)


差別禁止の項目の中に「民族」「言語」「思想」「宗教」「障害」などの言葉を加えた。「門地」という言葉は分かりにくいので「出生」とした。「出身地」を入れたのは、部落差別をなくすためである。第2項の栄典の限界は、現行憲法の第14条第3項とほぼ同じである。第2項にあった貴族制度の否認は、現代ではもう存在意味がないので削除した。第28条は、いわゆるヘイトスピーチの禁止である。第29条では、少数民族の権利を規定した。日本には以前からアイヌ人、琉球民族、在日韓国・朝鮮人などの少数民族が存在する。彼らが差別から守られ、その文化多様性が尊重されるべきだ。また第30条では、障害者権利条約や障害者基本法にある理念を明文化した。



第3節 精神的権利


第31条  思想及び良心の自由は、これを保障する。

第32条 (1)信教の自由は、これを保障する。

(2)すべて国民は、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。

(3)いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。

(4)国及びその機関は、いかなる宗教的活動もしてはならない。

(5)公の財産は、特定の宗教団体の使用又は行事のために支出してはならない。


(解説)


 これは現行憲法の第19条、20条の内容とほぼ同じである。現行憲法の第89条にある、公財産の宗教団体使用禁止規定は、表現をシンプルにした上に「行事」という言葉を加えて、第32条第5項に移した。政教分離なので、神社参拝の玉ぐし料、地鎮祭などの宗教行事に公費を支出するのは、当然憲法違反である。それから、現行憲法で「何人も」とあるのは「すべて国民は」に、「これを侵してはならない」とあるのは「これを保障する」に修正して、表現を統一した。



第33条 (1)集会、デモ行進、結社、言論、出版、報道、放送その他一切の表現の自由は、これを保障する。

(2)検閲をしてはならない。通信の秘密を侵してはならない。

(3)すべての報道機関は、真実に基づいた公平な情報提供に努め、個人の名誉及び人権を尊重し、社会倫理を守る責任を有する。

(4)報道機関に対する不当な統制、干渉、介入、圧力又は操作は、これを禁止する。

第34条  すべて国民は、自己の個人情報を守り、それを管理する権利を有する。

第35条 (1)学問の自由は、これを保障する。

(2)国は、文化遺産、景観、伝統文化、科学技術、知的財産、芸術及びスポーツを保護し、文化及び学術の発展を奨励する。


(解説)


 表現の自由の項目の中に「デモ行進」「報道」「放送」という言葉を加えた。現代は情報化社会となって、自分の意見を表現する方法は多様化している。また、新聞やテレビ、インターネットなどによって、マスメディアの影響力も強くなっている。ここでは、マスメディアの倫理責任を規定すると共に、マスメディアに対する不当なコントロールを禁止した。そしてプライバシーを守り、自分の個人情報を管理する権利を明記した。また、学問の自由と共に、文化学術の奨励を規定した。これはイタリア共和国憲法第9条を参考にしている。



第4節 政治的権利


第36条 (1)公務員を選定し、罷免することは、国民固有の権利である。

(2)すべて国民は、法律の定める基準に従い、ひとしく公務につく権利を有する。

(3)すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。公務員は、公共の利益のために勤務し、国民に対して責任を負う。

第37条 (1)すべて公務員は、清廉と公正をもって、その職務を行わなければならない。

(2)総理、閣僚、国会議員及び裁判官は、法律の定めるところにより、その在任中、報酬のある他の職務に従事することができない。

(3)総理、閣僚、国会議員、裁判官及び法律に定めるその他の公務員は、その在任中毎年、活動の収支及び資産を国政監査院に報告しなければならない。

(4)公務員の職にありながら、贈収賄罪、選挙に関する犯罪及び法律に定めるその他の犯罪により刑に処せられた者は、その判決が確定した後10年間は、公務員となることができない。


(解説)


 公務員の選定罷免権の後に、第2項として公務就任権を加えた。これは世界人権宣言第21条を参考にしている。第3項では、公務員が国民に対して責任を負うことを明記した。第37条では、公務員の清廉公正義務を規定した。また、総理、閣僚、国会議員、裁判官は、他の職業との兼職を禁止した。そしてその在任中に毎年収支資産報告をすることを義務付けた。また、汚職や選挙違反をした公務員は、判決後10年間は公務員就任を禁止した。このように、公務員の倫理基準を厳しく規定することによって、日本政治の金権腐敗体質は変えられていくだろう。



第38条 (1)公選による公務員に対する普通、平等、自由、直接及び無記名選挙は、これを保障する。

(2)満18歳以上のすべての国民は、公務員の選挙及び国民投票において投票する権利を有し、義務を負う。

(3)満18歳以上70歳未満のすべての国民は、公選による公務員の被選挙権を有する。

(4)立候補における供託金制度は、禁止する。

(5)すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問われない。

第39条 (1)国外に居住する日本国民は、法律の定める方法によって、選挙及び投票に参加する権利を有する。

(2)日本国政府により永住を許可された外国人で、満18歳以上の者は、法律の定める基準に従い、その居住する地方自治体の公務員の選挙及び住民投票に参加することができる。

第40条  すべて国民は、一人一人が主権者としての自覚を持って政治に参加し、意見の多様性を尊重し、互いに理解し合い、十分に話し合うことによって、健全な民主政治の発展に努めなければならない。


(解説)


 選挙権を18歳以上と明記すると共に、義務投票制とした。特別な理由なく投票に行かなかった者には、罰金が科せられる。このような義務投票制をしている国は、イタリア、スイス、オーストラリアなど、数多く存在する。今の日本は政治に無関心な人が多くて、投票率が低すぎる。これは国民が自分の権利を投げ捨てて、独裁政治を招くようなもので、民主主義の危機である。義務投票制を導入することによって、民主政治を守り発展させることは国民の義務であることを自覚させ、国民の政治意識を高めなければならない。このことは、第40条でも規定してある。民主主義とは何かを啓発する主権者教育も必要になるだろう。すぐに多数決を取るのではなく、少数意見を尊重して、相手の意見に耳を傾け、ルールを守りながら上手に話し合い、一致点を見いだしていくことを、子どものときから練習しなければならない。18世紀のフランスの哲学者ヴォルテールはこう言っている。


「私はあなたの意見には反対だ。だが、あなたがそれを主張する権利は、命をかけて守る。」


・・・・これこそが真の民主主義である。


 それから、議員だけでなく、総理や自治体の首長も含めて、全ての公務員の被選挙権年齢を18歳以上70歳未満とした。今の日本には、もっと若い政治家が出て来てほしい。そして、高齢の政治家が引退しないで議席に居座り続けるのを防止するためである。それと同時に、官僚や裁判官などの定年も70歳とした(第108条、第123条、第129条)。そして、選挙に立候補するときにお金を預ける供託金制度は廃止した。売名や泡沫候補乱立を防止するための供託金だと言うが、今の選挙はお金がかかりすぎて、志がある人でもお金がないと立候補すらできない。アメリカ、フランス、ドイツ、イタリアなどでは供託金制度はなく、制度がある国でも金額は日本ほど高くない(ウィキペディア「供託金」参照)。泡沫候補は、お金によってやめさせるのではなく、選挙で国民が審判すれば良いのである。

 第39条は、外国にいる日本国民の参政権を規定した。郵便にするかネット投票にするか、具体的方法は法律に委ねた。日本にいる外国人の地方参政権は、今色々と議論されている。ここでは、永住権を取得している外国人に限り、地方自治体の選挙投票権のみ(被選挙権はない)を認めることにした。「日本に不利益になる、乗っ取られる」などという意見があるが、永住権を許可するかどうかは日本政府が決めるのだから、危険な場合は永住権を与えなければいいのである。日本が国際化社会になり、外国人が日本に何十年も住んで税金も払っているのに、政治に参加できないというのは、理にかなっていないと思うからである。



第41条 (1)すべて国民は、政治的意思の形成に参加するために、自由に政党を結成する権利を有する。

(2)政党活動の自由及び複数政党制は、保障される。

(3)国会に議席を有する政党は、法律の定めるところにより、その活動の収支及び資産を、毎年国政監査院に報告しなければならない。

(4)政党及びすべての団体は、憲法の基本原則を擁護しなければならない。

(5)団体の活動目的として、刑法律に違反する活動、又は憲法の基本原則を暴力によって破壊する活動を行った団体に対して、憲法裁判所は、その活動の停止、又は団体の解散を決定することができる。


(解説)


 政党は、現代政治において重要な役割を果たしているので、憲法の中にしっかり規定しておく必要がある。まず、政党結成と活動の自由、そして複数政党制を保障する。その上で、政党活動の収支資産報告を義務付けた。国会に議席を持つほどの政党となれば、公的な存在として社会的責任があるからである。また、政党は憲法の基本原則(民主、人権、平和)を擁護する義務を負い、それを否定し破壊するような活動をした政党は、憲法裁判所の判決によって、活動停止や解散が命じられる。これは、ドイツ連邦共和国基本法第9条や大韓民国憲法第8条を参考にした。



第42条  すべて国民は、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、その請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

第43条  すべて国民は、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

第44条 (1)すべて国民は、国の機関又は公共団体に対して、法律の定めるところにより、その事務に関わる情報の公開を請求する権利を有する。

(2)前項の権利は、公の秩序又は善良の風俗を害する恐れがある場合にのみ、制限を受ける。


(解説)


 第42条、43条は、現行憲法の第16条、17条とほぼ同じである。第44条では、知る権利、情報公開請求権を規定した。ただし、国家機密や個人のプライバシーなど、公序良俗を害するような請求は制限される。



第5節 社会的権利


第45条 (1)家族は社会の自然的かつ基礎的な単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。

(2)結婚は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

(3)配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚、結婚及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない。


(解説)


 家庭は社会の土台であり、当然守られるべきものである。個人の尊重が第一であるにしても、家族関係の大切さを否定する人はいないだろう。第45条は、世界人権宣言第16条を参考にしているのであって、かつての封建的家制度の復活などでは決してない。第45条第2項と第3項は、現行憲法の第24条とほぼ同じである。



第46条  女性は、雇用、社会活動及びその他の分野において、男性と均等な機会及び待遇が確保され、妊娠、出産及び育児において、特別の保護を受ける権利を有する。

第47条 (1)子どもの生存、成長、安全及び参加に対する権利は、これを保障する。

(2)胎児の生命は、受胎したときから保護される。

第48条 (1)すべて高齢者は、健康を維持し、治療及び介護を受け、社会に参加し、尊厳を守られる権利を有する。

(2)すべて国民は、自分の親を敬い、高齢となった家族を介護しなければならない。


(解説)


 第46条では、女性の権利について、特に男女雇用機会均等法の理念を明文化した。第47条では、子どもの権利条約を参考にして、その理念を要約して書いた。第47条第2項では、胎児の生命保護を規定している。胎児は、母の胎内にいるときから一人の人間であり、母親の身体の一部ではない。母親だけでなく、胎児の人権も守るべきだ。だから人口妊娠中絶や堕胎は当然禁止される。これは、ハンガリーやアイルランドの憲法を参考にしている。もちろん禁止するだけではなく、望まない妊娠をした女性に対する心身のケア、養子縁組紹介などの活動を支援する政策も必要となるだろう。第48条は、高齢者の権利である。日本も高齢化社会となっている。高齢者が大切にされ、十分な介護が受けられるように、福祉制度が充実されなければならない。また国民も、親を敬い最期まで介護する責任を持つ。これはフィリピン共和国憲法第15条を参考にしている。



第49条 (1)すべて国民は、健康で文化的な生活を営む権利を有する。

(2)国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

(3)すべて国民は、国民皆保険制度に加入することによって、病気、けが、事故、老齢、障害、配偶者の死亡、失業、災害、貧困その他の生活困窮の場合に、必要な補助を受けることができる。

(4)すべて国民は、適切な住居に住む権利を有する。

第50条 (1)すべて国民は、安全で快適な環境を享受する権利を有する。

(2)国の全ての機関、国民及び事業者は、安全で快適な環境の保全に努める義務を負う。

(3)森林、湖沼、河川、海岸、野生動植物、その他の天然資源及び自然環境は、法律の定めるところにより、国の保護を受ける。


(解説)


 生存権について、現行憲法の第25条にある「最低限度の」という言葉は削除した。国民皆保険制度への加入を明記して、何かあっても安心して生活していけるようにする。適切な住居に住むことも、権利として加えた。第50条では、環境権を規定すると共に、環境を守ることを、国、国民そして事業者(企業)全員の義務とした。また、天然資源や自然環境の保護も規定した。これはスイスやスペインなど、世界各国の憲法に規定されている。



第51条 (1)すべて国民は、その適性に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

(2)すべて国民は、自分の子どもを保護し教育する権利を有し、その義務を負う。

(3)公立の学校教育は、満6歳から満18歳に至るまで無償とする。

(4)大学及び私立学校に通う学生は、法律の定める基準に従い、学費の補助を受けることができる。

(5)国及び地方自治体は、満5歳以下の子どもに対する教育及び保育のための施設を整備する。

(6)国は、生涯学習の振興に努める。


(解説)


 現行憲法の第26条には「能力に応じて」となっているが、「適性に応じて」のほうが良い表現だろう。親は子どもを教育する権利を持ち、その義務も負う。義務教育というのは、子どもを学校に行かせる義務のことではない。まず第一に親が、責任をもって子どもを教育する義務がある、という意味である。親がその責任を放棄して、学校にまかせて丸投げ、ではないし、ましてや国家が教育するのでも決してない。親が子どもを教育するのを、助けサポートするのが学校であり、その教育施設や支援体制を整備するのが国の役割である。公立学校では、満6歳から18歳、つまり小中学だけでなく高校までの授業料を無料とする。私立学校の授業料も、公立と同じ程度になるように、国や自治体が補助する。大学の授業料も同様である。満5歳以下の子どものための施設(保育園、幼稚園、こども園)を整備することも規定した。また、子どもだけではなく、大人や高齢者のための生涯教育も盛んになるように、国がサポートする。これは大韓民国憲法第31条を参考にした。



第52条 (1)教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な日本及び国際社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の尊厳を重んじ、勤労と社会責任を尊び、自主的精神に充ちた、心身ともに健康な人間の育成を目的として行われる。

(2)すべての学校は、各自の教育方針を定め、教師、学生及びその保護者が協力し合って自治的に運営することができる。

(3)国は、各学校の教育内容に対して、不当な統制、干渉、介入、圧力又は操作をしてはならない。


(解説)


 教育の目的を明記した。これは教育基本法第1条の、2006年に改正される前の条文を参考にした。その上で、各学校の教育方針は、各自が自由に決めて、自治的に運営するようにした。教育内容は、全国一律同じではなく、親や学校にまかせたほうが、多様な価値観の中で自由に選択できる。国は施設や財政面でのサポートに徹するべきだ。今のように、教育指導要領や教科書検定制度などによって、政府が自分の価値観を押し付け、上からコントロールすることを禁止した。



第53条 (1)すべて国民は、労働の権利を有し、義務を負う。

(2)賃金、就業時間、休息、有給休暇その他の労働条件に関する基準は、法律で定める。

(3)児童を酷使してはならない。

第54条(1)労働者の団結する権利、団体交渉をする権利及び同盟罷業その他の争議行為によって団体行動をする権利は、これを保障する。

(2)前項の権利は、一般公務員にも保障される。但し、警察官、自衛官及び法律の定めるその他の公務員は、この権利について一部制限を受ける。



(解説)


 現行憲法の第27条では「勤労の権利」となっているが、「労働の権利」のほうが一般的な呼び方なので、そのようにした。労働基準の項目の中には「有給休暇」を加えた。労働者の団体行動権には、「同盟罷業(ストライキ)その他の争議行為によって」という言葉を加えた。日本では、一般公務員のスト権は禁止されているが、イギリスやフランスなどでは認められており、ILO(国際労働機関)も日本政府に対して改善するように勧告している(ウィキペディア「労働基本権」参照)。ここでは一般公務員にもスト権を認めたが、警察官や自衛官などは制限されるとした。



第6節 経済的権利


第55条 (1)すべて国民は、公共の利益に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

(2)外国に移住し、又は国籍を離脱する自由は、これを保障する。

第56条 (1)財産権は、これを保障する。

(2)財産権の内容は、公共の利益に適合するように、法律で定める。

(3)私有財産は、相当な補償の下に、公共のために用いることができる。

第57条  消費者の安全、情報入手、選択機会及び被害救済に関する権利は、これを保障する。

第58条  国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。


(解説)


 第55条、56条、58条は、現行憲法の第22条、29条、30条とほぼ同じである。第57条には、新しく消費者の権利を規定した。これは、アメリカのケネディ大統領が提唱した消費者の4つの権利を参考にしている。



第7節 身体的権利


第59条  すべて国民は、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

第60条  すべて国民は、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。

第61条 (1)すべて国民は、裁判所において公平で迅速な裁判を受ける権利を有する。

(2)裁判にかかる費用は、国から補助を受けることができる。


(解説)


 第59条、60条は、現行憲法の第18条、31条とほぼ同じである。第61条では、現行憲法の第32条第1項に、「公平で迅速な」という言葉を加えて、第2項では、裁判費用の補助を規定した。今の裁判は、お金と時間がかかりすぎて、裁判を受けたくてもできないことがあるからである。



第62条  すべて国民は、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する裁判官が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

第63条 (1)すべて国民は、理由を直ちに告げられ、かつ直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない。

(2)すべて国民は、正当な理由がなければ拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

(3)警察署に設置する留置場は、刑事施設として代用することができない。


(解説)


 第62条、63条は、現行憲法の第33条、34条とほぼ同じである。日本では、警察署の中にある留置場を代用監獄として利用し、そこで長時間の取調べが行われている。これは国際人権(自由権)規約第9条に違反しており、国連の規約人権委員会からも、代用監獄制度を廃止するように勧告されている(日本弁護士連合会のサイトを参照)。なので、第63条第3項として、代用監獄の禁止を明記した。



第64条 (1)すべて国民は、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利を有する。

(2)前項の権利は、現行犯として逮捕される場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、かつ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

(3)捜索又は押収は、権限を有する裁判官が発する各別の令状により行う。

第65条  拷問及び残虐な刑罰は、絶対に禁止する。

第66条 (1)すべて刑事事件においては、被告人は、公平で迅速な公開裁判を受ける権利を有する。

(2)刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。

(3)刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自ら依頼することができないときは、国でこれを附する。

第67条 (1)すべて国民は、自己に不利益な供述を強要されない。

(2)強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、証拠とすることができない。

(3)すべて国民は、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。


(解説)


 第64条は、現行憲法の第35条の内容を、わかりやすく書き直した。第65条では、現行憲法の第36条にあった「公務員による」という言葉を削除した。66条、67条は、現行憲法の第37条、38条の内容と、ほぼ同じである。



第68条  すべて国民は、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。

第69条  すべて国民は、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

第70条  他人の犯罪行為によって生命若しくは身体の被害を受けた者、又はその遺族は、法律の定めるところにより、国の救済を受けることができる。


(解説)


 第68条、69条は、現行憲法の第39条、40条と、ほぼ同じである。第70条は、犯罪被害者への救済を規定した。これは、大韓民国憲法第30条や読売新聞社の憲法改正試案第47条を参考にした。



第3部 条文の解説(統治機構)


これから、第4章以降の、統治機構について解説する。新憲法での統治機構を図に現すと、以下のようになる。



第4章 国会

 

第71条 国会は、国の最高議決機関であって、全国民を代表して立法権を行使する。

第72条(1)国会は一院制とし、国民から直接選挙された議員で組織する。

(2)国会議員の定数は、200名とする。

 

(解説)

 

国会は現行憲法で「国権の最高機関」と書かれているが、試案では、立法、司法、行政の三権分立をはっきりさせるため、国会だけを最高機関とはしないで、「最高議決機関」と表現した。試案では、国会を二院制ではなく一院制にしたのが、大きな変更点である。今の参議院は、衆議院のカーボンコピーで、衆議院と同じ議論を繰り返すだけである。時間ばかりかかり非効率的で意味がない。参議院は「良識の府」で慎重に審議しチェック機能を果たすというが、今はそうなっていない。私も最初は参議院改革を色々考えたが、ふさわしい選挙制度が思いつかなかった。直接選挙にすれば、結局は政党化する。かと言って間接選挙では民意が反映されにくく、貴族院の復活みたいで、私は賛成しない。地域代表制も悪くないが、試案では全国知事会が地方自治関連法案の同意権を持つようにしたので(第140条)、その役割はそちらにゆずった。また試案では、立法に対するチェック機能は、憲法裁判所が十分行使できるようにしてある(第6章)。ウィキペディアで「参議院不要論」を調べたら、次のように書いてあったので、以下に引用する。

 

北欧を中心として、国連加盟国の過半数は一院制を採用している。

フランスの政治家エマニュエル=ジョゼフ・シエイエスが主張した「第二院は第一院と同じ意思決定をするのなら無駄である。また、異なる意思決定をするなら有害である」という伝統的な不要論がある。

 

・・・全くそのとおりだ。というわけで、思い切って一院制にした方が、シンプルで良いと私は思う。それから、国会議員の定数は200名とした。衆議院議員は現在465名で以前よりも減ったが、それでもまだ多い。フィンランドの国会は一院制で200名である。このくらいの人数のほうが、議員一人一人の責任の重みがあって、互いに良く知って議論し合うにも効率的なのではないだろうか。

 

 

第73条(1)国会議員は、各道及び都を選挙区として選出される。

(2)各選挙区の定数は、5年ごとに行われる人口国勢調査の結果に基づいて、比例配分される。

(3)各政党は、選挙区ごとに順位をつけない候補者名簿を提出する。無所属の候補者は、1名で1政党とみなす。

(4)選挙権を有する者は、候補者1名に投票する。候補者への投票は、その所属する政党への投票とみなされる。

(5)各選挙区内の各政党の議席数は、各政党の得票数に基づき、比例代表の原則で配分される。

(6)候補者は、選挙区ごとに、その所属政党に配分された議席数の内で、個人名得票の多い順に当選とする。

第74条(1)国会議員に欠員が生じたときは、前条第6項の順位に従って、繰り上げて補充し、その者が残りの任期を全うする。但し、残りの任期が6か月未満であるときには、これを補充しない。

(2)無所属の国会議員が欠けたときは、これを補充しない。

 

 

 

(解説)

 

現在の衆議院議員の選挙制度は小選挙区比例代表並立制である。これは元々、2大政党制によって政権交代する安定政権を作ることを意図して、1996年から導入された。しかし実際には、2009年から民主党が3年余り政権を維持しただけで、それ以外はずっと自民党政権が続いている。小選挙区制は、1選挙区に1名しか選べないので、第1党に極端に有利になる。野党が統一候補を立てれば当選可能性は高くなるが、各党の利害がからむので実際には候補者調整は難しい。比例代表を加えたとしても、中小政党の議席数は得票率に比べてずっと少なくなってしまう。これでは自民党の1党長期支配が固定化されて、政権交代はますます難しくなる。政権交代が起きないとチェック機能が働かないので、政権党は独善的になり腐敗していくばかりである。

これに対して比例代表制は、各党の得票率がほぼそのまま議席獲得率となるので公平であり、多様化している民意をより正しく反映できる。現在ヨーロッパを始め世界中で採用されており、選挙制度の主流となっている。比例代表制だと、単独で過半数を取る政党はあまり出ないので、連立政権となる場合が多い。「比例代表制は小党分立の連立政権となって政治が不安定になる」という意見があるが、ヨーロッパの大陸諸国では連立政権でも安定した政治が行われている。この試案では議院内閣制ではなく首相公選制を採用しているので、政権は国民が総理選挙で直接選択でき、たとえ国会で少数与党でも政権は維持できる(第95条)。国会が内閣不信任案を可決するには出席議員の3分の2以上を必要とするので、過半数を割ったからといってすぐに政権が崩壊するわけではない(第101条)。また、連立政権だと連立与党内で政策の調整が行われ、互いにチェックし合うので、腐敗が防止される。というわけで、この試案では比例代表制にしたのである。

比例代表制にも色々な種類があるが、ここでは「ブロック単位非拘束名簿式比例代表制」を採用した。ブロックは各道と東京都を単位としているので、全部で11選挙区となる(第132条参照)。5年ごとに行われる人口国勢調査の結果に基づいて、国会議員全体の定数200名を各選挙区に比例配分する。比例配分の計算方法はドント方式、アダムズ方式など色々あるが、それは法律で定めることにする。人口が最も大きい関東道でも定数は47名ほどになるので(2020年の統計から計算)、1議席を獲得するには得票率が最低2.1%以上でなければならない。人口が少ない選挙区なら、その当選ラインはもっと高くなる。もし全国で1区だったら得票率0.5%でも1議席を得られるので小党乱立になりかねないが、これならそれほど乱立にはならないだろう。非拘束名簿式では、各政党が順位をつけない候補者名簿を提出して、有権者は政党名ではなく候補者名に投票する。候補者への投票はその所属政党への投票とみなされる。そして選挙区ごとに、各政党の得票数に基づいて議席を比例配分する。各政党の議席配分が決まったら、その枠の中で、候補者個人名得票の多い順に当選とする。今の参議院の比例代表選出方法は、政党名と個人名のどちらかを記入するので、ある党の候補者は少ない票でも当選し、ある党の候補者はそれよりずっと多く得票したのに落選する、ということが起こる。この試案では個人名だけに投票して、当選ラインはほぼ同じになるので公平である。今の衆議院の比例代表は拘束名簿式なので、リストの順位が上に決められた候補者は、何もしないでもそのまま当選してしまう。しかし非拘束名簿式なら、有権者が候補者一人一人の意見や人格を見て選んで投票できるので、緊張感があって良いだろう。欠員が生じたときにも個人名得票数の順位に従って繰り上げ補充する。しかし、現行制度のように任期満了の直前に繰り上げ補充して、議員の任期が数か月しか残っていない、ということにならないように、残りの任期が6か月未満のときは欠員を補充しないことにした。

 

 

第75条(1)国会議員の任期は、4年とする。但し、解散された場合は、その期間満了前に終了する。

(2)国会は、総議員の4分の3以上の多数による議決をもって、自主的に解散することができる。

第76条(1)国会議員の総選挙は、その任期満了日の30日前の日から起算して20日以内に行われる。

(2)国会が解散されたときは、解散の日から30日以内に、国会議員の総選挙を行わなければならない。

(3)国会は、その任期が満了又は終了した後であっても、新たに国会が組織されるまで、引き続きその職務を行う。

(4)国の緊急事態において総選挙を行うことができないときには、国の緊急事態が解除された日から30日以内に総選挙を行わなければならない。

(5)総選挙が行われてから2年以内、又は国の緊急事態においては、国会は解散されてはならない。

 

(解説)

 

 今の衆議院議員の任期は4年であるが、内閣が解散権を乱発しているので任期が満了することはほとんどなく、だいたい3年あまりで終わってしまう。この試案では、内閣の国会解散権は不信任案可決時に限定されているので(第101条)、任期途中の解散はそれほどないだろう。しかし、何か重要な問題があって総選挙をする必要があるときには、総議員の4分の3以上の議決で自主解散できるようにした。(今の地方自治体の議会も、4分の3以上の出席議員が5分の4以上で議決すれば自主解散できる。)それでも、たびたび解散と総選挙が行われると政治が不安定になるので、総選挙後2年以内と国の緊急事態のときは、解散できないことにした。国会議員の任期が満了又は終了(解散のときは終了と言う)しているのに、国の緊急事態のために総選挙ができないときは、新しく国会が組織されるまで、それまでの国会が継続して職務を行うことができる。しかし緊急事態が解除されたら、30日以内に総選挙を行わなければならない。

 

 

第77条 国会議員は、全国民の代表者であって、一部の選挙人による委任に拘束されることなく、良心に従ってその職務を行う。

第78条 国会議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。

第79条 国会議員は、国会外における現行犯罪の場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、国会の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。

第80条 国会議員は、国会内で行った演説、討論又は表決について、国会外で責任を問われない。

 

(解説)

 

 今の国会議員は、自分の選挙区の住民や、自分を支援してくれる利益団体のために、国から予算を運んでくる人になってしまっている。しかし国会議員は一つの地域の利益代表ではなく、全国民の代表者として、国全体の利益を考えて行動すべきである。なので、第77条では上記のように規定した。第78条、第79条、第80条は、現行憲法の第49条、第50条、第51条とほぼ同じである。ただ現行第50条に「法律の定める場合を除いては」とあるのは、国会法第33条によると「院外における現行犯罪の場合」のことなので、その規定をそのまま憲法に「格上げ」した。

 

 

第81条 通常国会は、毎年1月第3週に招集され、11月末に閉会する。但し、法律の定めるところにより、夏期休会その他の休会を定めることができる。

第82条(1)内閣は、臨時国会を招集することができる。

(2)総議員の4分の1以上の要求があるときには、その20日以内に、国会議長が臨時国会を招集しなければならない。

第83条 国会議員の総選挙があったときは、その選挙の日から30日以内に特別国会を招集する。

 

(解説)

 

 現行憲法では「常会」「臨時会」「特別会」と書かれているが、一般的には「通常国会」「臨時国会」「特別国会」と呼ばれているので、ここではわかりやすく一般の呼び方の通りにした。今の通常国会は、毎年1月中に召集され会期は150日間なので、6月中に会期終了となる。しかし、会期延長をめぐって与野党が「かけ引き」を行うことが多い。諸外国では通年国会が多く、今の地方自治体の議会も、通年の会期とすることができる(地方自治法102条の2)。この試案でも通常国会を1月から11月までとして、ほぼ通年国会のような形とした。但し法律によって夏期休会やその他の休会を定めることができる。臨時国会は、現行憲法第53条に、総議員の4分の1以上の要求があれば召集しなければならない、と書いてあるのに、政府の都合で召集されないことがあった。こんなことが起きないように、試案では「20日以内」に招集するよう期間を明記した上で、国会議長が招集することにした。また、現行憲法では天皇が国会を召集する形を取っているが、試案では内閣がそれを行うので(第104条)、召集ではなく「招集」と書いている。

 

 

第84条(1)国会の中に、国会議員20名からなる常設委員会を置く。

(2)常設委員会は、国の緊急事態において国会を開くことができないときには、国会の代わりに決議をすることができる。

(3)前項において採られた措置は臨時のものであって、次の国会開会の後10日以内に国会の同意がない場合には、その効力を失う。

(4)常設委員会委員は、各政党の所属議員数の比率により、各政党に割り当てて選任される。この選任は、国会議員の総選挙後に初めて国会が招集された日から10日以内に行われる。

(5)常設委員会委員長は、国会議長が兼任する。

(6)常設委員会は、国会議員が任期満了するか、又は国会が解散されたときでも、次の常設委員会が組織されるまで、引き続きその職務を行う。

 

(解説)

 

 ここでは「常設委員会」を新設した。これは、緊急事態などで国会を開けないときに、国会の役割を代行できる機関が常にあるほうが良いと考えたからである。名前は似ているが、予算委員会などの「常任委員会」とは別のものである。名前の通り「常設」されているので、国会が閉会、休会、解散、又は任期満了していても、いつでも活動できる。また、常設委員会は、公務員や裁判官を弾劾するための訴追を議決する、という役割も持っている(第114条、第115条)。

 

 

第85条(1)国会は、その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失わせるには、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。

(2)1年以上会議を欠席している議員は、その議席を失う。

第86条(1)国会は、その総議員の過半数の出席がなければ、議事を開き議決することができない。

(2)国会の議事は、この憲法に特別の定めがある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

 

(解説)

 

 第85条第1項は、現行憲法の第55条とほぼ同じである。第2項では、1年以上会議を欠席している議員は議席を失うものとした。せっかく国民から選ばれても仕事をしないのなら、議員の資格はない。第86条の定足数は、現行憲法では3分の1以上の出席となっているが、これでは少なすぎる。諸外国の議会や法人の総会でも、定足数は過半数であることが多い。なので、ここでは「総議員の過半数の出席」とした。

 

 

第87条(1)法律案は、国会議員又は内閣がこれを提出する。国会議員は、1名で自由に議案を発議することができる。

(2)国会議員は、行政機関に対して、法律案作成に必要な調査研究資料又は情報の提出を要求することができる。

(3)選挙権を有する者は、法律の定めるところにより、その総数の1パーセント以上の署名によって、国会に法律案を提出することができる。

 

(解説)

 

 今の日本の国会では、政府提出法案がほとんどで、議員立法が少なすぎる。その原因の1つは、国会法第56条で、議案を発議するのに衆議院議員は20人以上、参議院議員は10人以上の賛成を要件としているからだ。それでここでは、どんな議員でも1名で自由に議案を提出できることにした。また、今の国会議員は法案を作成する能力も、それを支えるスタッフも足りない。なので、法案作成に必要な調査研究資料や情報を、行政機関に要求できるようにした。こうすることによって、国会議員一人一人の政策立案能力が高まるだろう。また、「国民発案」制度を導入した。有権者の1%以上の署名で、直接国会に法律案を提出できる。有権者の1%は、105万6千人ほどである(2021年の統計から計算)。もちろん議会制民主主義が基本ではあるが、この試案では他にも直接民主制の要素を多く取り入れている(第116条など)。

 

 

第88条(1)国会の会議は、公開とする。但し、出席議員の3分の2以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。

(2)国会は、その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、一般に頒布しなければならない。

(3)出席議員の4分の1以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。

第89条(1)国会は、その議長、副議長その他の役員を選任する。

(2)国会は、その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、国会内の秩序を乱した議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。

第90条(1)国会は、総議員の4分の1以上の要求によって、国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。

(2)前項の調査は、裁判を拘束せず、司法権の行使に影響を及ぼさない。

第91条 総理、閣僚及び法律の定めるその他の公務員は、議案について発言するために、何時でも国会に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、法律に定められた場合を除き、出席しなければならない。

 

(解説)

 

 第88条と第89条は、現行憲法の第57条、第58条とほぼ同じである。第90条は国政調査権についてである。今の国会では、国政調査権は有効に活用されていない。それは証人喚問をしようとしても、与党が過半数を握っているため、否決されてしまうからだ。そうならないために、試案では、総議員の4分の1以上、つまり25%以上の要求によって、国政調査権を発動できるようにした。これによって野党は、政府をチェックするという本来の機能を、もっとしっかり果たせるようになるだろう。しかし、司法権の独立を守るために、現在裁判で係争中か、判決確定後の問題については、国会における国政調査は影響を及ぼさないと規定した。第91条は、現行憲法の第63条とほぼ同じである。

 

 

第92条(1)国の選挙、投票及び政党に関する事務は、中央選挙管理委員会が管理する。

(2)中央選挙管理委員会は、委員5名で構成する。任期は4年とし、国会が、その出席議員の3分の2以上の多数による議決をもって任命する。

(3)中央選挙管理委員会の委員は、国会議員及びその他の公選による公務員を兼ねることができない。又、政党に所属してはならず、選挙及び投票権行使以外の政治活動をしてはならない。

第93条(1)公務員の選挙に関する法律案は、事前に中央選挙管理委員会に諮問し、その答申に基づいて、国会が議決する。

(2)前項の法律案の修正には、中央選挙管理委員会の同意を必要とする。但し、国会の出席議員の3分の2以上の多数で議決したときには、この限りではない。

 

(解説)

 

 中央選挙管理委員会を憲法上の機関とした。そして選挙だけでなく、国民投票や政党に関する事務も管理するようにした。選挙管理運営の政治的中立性は、近年ますます重要になっている。選挙が自分に不利な結果になると「これは不正選挙だ」と主張して、民主政治のルールを否定しようとするグループさえいるからだ。だから、委員の選出には、与党だけで決めないように、国会の出席議員の3分の2以上の議決を必要とした。また、選挙制度を改革しようとすると、議員は自分の当落に直接関係するので、国会で審議したらどうしても党利党略になりやすい。そこで、選挙関連法案は、事前に中央選挙管理委員会に諮問して、その答申に基づいて議決することにした。こうすることによって、国民の側に立った、より公正な選挙が期待できる。

 

 

第5章 内閣

 

第94条(1)行政権は、内閣に属する。

(2)内閣は、その首長たる総理及び閣僚で組織する。

第95条(1)総理は、国民が直接選挙する。総理選挙は、国会議員の総選挙が行われるときに、同時に行う。

(2)総理の選挙は、有効投票総数の過半数を得た者を当選とする。

(3)過半数を得た者がいないときは、1週間後に上位2名による決選投票を行い、多数を得た者を当選とする。

 

(解説)

 

「大臣」という呼称は、古代律令制から使われて来て「天皇の政治を輔弼する臣下」という意味なので、ここでは使わずに、内閣総理大臣は「総理」、国務大臣は「閣僚」と呼ぶ。そして試案では、いわゆる「首相公選制」を導入して、国民が総理を直接選べるようにした。今の議院内閣制では、国会が首相を指名するので、多くの場合、多数党の党首が首相となる。その党首を決めるのは、その党の党員だけである。自民党総裁選の場合は、派閥のパワーゲームや談合などで決められてしまうことも多く、国民は全くカヤの外である。自民党総裁選の報道を見ながら「国民が直接選べたらいいのに」と感じる人は、私以外にも多いのではないだろうか。

「日本は天皇制だから議院内閣制でなければ」と言う人がいるが、ヨーロッパの立憲君主制の国で議院内閣制を採用しているからといって、必ずしも同じようにしなければならないわけではない。象徴天皇制と首相公選制は何ら矛盾せず両立共存できる。天皇は国政に関する権能を有しないので、天皇制の存在が、国の政治システムを決めるのに制約になることはない。

現在、地方自治体の首長は住民が直接選挙している。首長の党が議会で少数党になる、いわゆる「ねじれ」状態でも、首長の地位が安定しているので、それほど問題にはならない。むしろ、2元代表制なので、互いにチェックできる。地方自治体で、すでに首長公選制が定着しているのだから、国政でも可能である。国の政治のトップリーダーは、やはり国民が直接選ぶべきである。

 総理選挙は、国会の総選挙と同日選挙とした。そのほうが「ねじれ」は起こりにくいだろう。有効投票の過半数を得た者を当選として、過半数を得た者がいないときは、上位2名による決選投票を行う。フランスやブラジルなど、諸外国の大統領選挙の多くは2回投票制である。今の地方自治体の首長選挙は1回投票制なので、野党は統一候補を立てるのが難しく、保守も分裂したりする。候補者が多いときは、得票率が30%程度でも当選してしまうので、残りの70%が反対する候補者が総理となることになる。2回投票制なら、過半数の得票が必要なので、国民のより多数の支持を反映した結果となる。第2回目のときに、2位以下の候補者たちは連合しやすいので、1位の候補者と接戦になり、政権交代が起きやすいだろう。

 

 

第96条(1)総理選挙に立候補するには、国会議員又は国会議員選挙に立候補した者20名以上の推薦を必要とする。

(2)総理は、国会議員と兼ねることができない。

(3)総理候補者は、同時に行われる国会議員の総選挙にも重複して立候補することができる。但し、両方とも当選したときには、国会議員を辞めなければならない。

 

(解説)

 

 総理選挙に立候補するには、国会議員立候補者20名以上の推薦を要件とした。これは、国会内に支持基盤のない一時的な大衆扇動的政治家の立候補を防ぐためである。議院内閣制では首相は国会議員の中から選ばれるが、ここでは総理の国会議員兼職を禁止した。今は立法と行政が癒着してしまっているので、三権分立を明確にするには、このほうが良いと思う。但し、総理選挙と国会議員総選挙との重複立候補を認めて、両方とも当選したときには、その人は総理となって、国会議員は辞める、というシステムにした。こうすれば、ある党の党首が総理選挙で落選しても、国会議員総選挙で当選していれば国会議員になれるので、野党党首として国会で総理と直接討論できるし、次の総理選挙にもチャレンジしやすいだろう。

 

 

第97条 総理は、就任に際し、国会において、この憲法の遵守と職務の誠実な執行を厳粛に宣誓しなければならない。

第98条(1)総理の任期は4年とし、再任することができる。但し、合計して8年を超えて在任することはできない。

(2)国会議員の任期が満了又は終了したときには、総理の任期も同時に終了する。

 

(解説)

 

 総理は新しく就任するときに、国会で宣誓式を行う。これは、諸外国の大統領の多くが就任のときにそうするように規定されているので(ドイツやイタリアなど)、それを参考にした。総理の任期は国会議員と同じ4年で、再選できるが合計8年までとした。「合計」としたのは、以前の総理在職日数をカウントに入れる、という意味である。もし「連続3選禁止」と書くと、総理を一旦辞めた後しばらくしてから再登板することによって、何年も総理のイスに座り続けようとする者が起こるかもしれないので、それを防止するためである。また、総理の任期に関する憲法改正は、その提案当時の総理には適用できない(第151条)。国会議員の任期が満了又は終了したときには、総理の任期も同時に終了する。なので、国会議員総選挙のときには、毎回同時に総理選挙が行われることになる。

 

 

第99条(1)任期の途中に総理が欠けたときは、30日以内に国民の直接選挙による補欠選挙を行い、当選した者が残りの任期を全うする。但し、残りの任期が1年未満であるときには、国会が総理を選出する。

(2)総理の補欠選挙においても、有効投票総数の過半数を得た者を当選とする。過半数を得た者がいないときは、1週間後に上位2名による決選投票を行い、多数を得た者を当選とする。

(3)総理の補欠選挙において国会が総理を選出する場合、国会議員の有効投票の過半数を得た者を当選とする。過半数を得た者がいないときには、直ちに上位2名による決選投票を行い、多数を得た者を当選とする。

(4)国会議員は、総理の補欠選挙に立候補することができる。但し、当選したときには、国会議員を辞めなければならない。

(5)総理が欠けたときには、新たに総理が選出されるまで、副総理がその職務を行う。

(6)総理と副総理が同時に欠けたときには、新たに総理が選出されるまで、国会議長が総理の職務を行う。この場合、国会議長の職務は、国会副議長が行う。

 

(解説)

 

 アメリカの大統領選挙では、副大統領もワンセットで同時に選出して、後でもし大統領が任期途中で辞めたときは、副大統領が大統領になる。しかし、アメリカの副大統領候補の選び方を見ると、大統領候補の支持層と違う支持層を補うために、大統領候補とは別のタイプの候補者が選ばれる傾向がある。副大統領は、あくまでもサブリーダーであって、その人がトップリーダーにふさわしいタイプであるとは限らない。また、大統領が任期途中で辞めるときというのは、何か重大な事件があってそうなることが多いので、その時点で副大統領が国民の過半数の支持を得ているわけではない。なので、ここではそのやり方にしないで、総理が辞めたときには、もう一度国民が直接選挙で選び直し、残りの任期を全うさせるようにした。このほうが、そのときの民意をリアルタイムで反映できるからである。しかし、残りの任期が短くて、就任したばかりなのにまた総理選挙をする、というのでは良くない。そこで、残りの任期が1年未満であるときには、特例として国会が総理を選出することにした。こうすれば、今の地方自治体の首長選挙のように、議会選挙との時期がずれないで、毎回同じサイクルで同時選挙にすることができる。

公選による補欠選挙でも国会での選出でも、やはり過半数を当選要件として、過半数を得た者がいないときには上位2名で決選投票をする。総理が辞任してから30日以内に、この補欠選挙を行う。その期間、総理不在では困るので、新総理が選出されるまで、副総理が職務を代行する。だから、副総理が総理代行を務めるのは最長30日である。もし戦乱やテロなどで、総理と副総理が同時にいなくなってしまった場合は、国会議長が総理の職務を代行する。もちろんそれも、30日以内に新総理が選出されるまでの間だけである。

 

 

第100条(1)総理は、閣僚を任命する。

(2)閣僚のうち1名は、副総理として任命される。

(3)閣僚は、行政各省庁の長官、委員会の委員長又は無任所閣僚として任命される。

(4)閣僚の人数は、20名以下とする。

(5)閣僚は、国会議員と兼ねることができない。

(6)総理は、任意に閣僚を罷免することができる。

 

(解説)

 

 総理は閣僚を任命し、そのうちの1名は副総理として任命する。「大臣」という呼称は使わないので、例えば外務大臣は「外務省長官」と呼ぶようにする。閣僚は20名以内である。現行憲法と違うのは、閣僚の国会議員兼職を禁止したことである。国会議員がもし閣僚になるなら、国会議員を辞めてからである。そして閣僚を辞めた後でも、次の総選挙まで国会議員に復職することはできない。今の与党議員は「大臣病」という言葉があるくらい、みんな大臣になりたがって、当選回数が多くなれば入閣させる、という傾向がある。能力がなくても大臣になれるので、行政のことは何も知らずに、大臣になってからその省庁の仕事を勉強する、という始末である。また、内閣改造も頻繁にあってすぐに辞めてしまうので、大臣がその省庁をリードすることができず、全部官僚まかせになっている。三権分立を徹底させるためには、やはり国会議員は立法に専念して、行政はその道のプロに任せるべきである。

 

 

第101条(1)国会が、出席議員の3分の2以上の多数をもって、内閣の不信任決議案を可決したときは、総理は、任期途中であっても解任され、内閣は総辞職する。

(2)前項の場合に限り、内閣は、不信任決議案の可決後10日以内に、国会を解散することができる。

(3)内閣の不信任決議案は、総理の選挙が行われてから2年以内は、これを議決することができない。

(4)内閣の不信任決議案が否決された後1年間は、同一の総理に対して、再び内閣不信任決議案を提出することはできない。

第102条(1)総理の任期が満了又は終了したときには、閣僚も同時に総辞職する。

(2)内閣は、総辞職した後も、新たに内閣が組織されるまで、引き続きその職務を行う。

 

(解説)

 

 国会が内閣不信任案を可決するには、過半数ではなく、出席議員の3分の2以上を必要とした。総理は国民の直接選挙なので、その地位を安定させて、簡単には辞めさせられないようにしてある。そして、内閣が国会の解散するのも、今のように首相が自由に決めるのではなく、不信任案が可決されたときに限定した。不信任や解散が、そうたびたびあったら政局不安定になる。なので、不信任案議決は、総理選挙後2年以内は禁止した。また、不信任案が否決されたら、その後1年間は、同じ総理に対して再び不信任案を提出できないことにした。総理が辞職したときは、閣僚も総辞職する。しかし、新しく内閣が組織されるまで、継続して職務を行うものとする。

 

 

第103条 総理は、内閣を代表して、一般国務及び外交関係について国会に報告し、閣議を主宰し、行政各省庁を指揮監督する。

第104条 内閣は、他の一般行政事務の外、次の事務を行う。

1,法律を誠実に執行し、国務を統括すること。

2,憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。

3,国会を招集すること。

4,国会議員の総選挙及び国民投票の施行を公示すること。

5,外交関係を処理すること。

6,条約を締結すること。但し、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を必要とする。

7,大使及び外交使節を信任し、接受すること。

8,法律の定める基準に従い、行政機関の職員を任免し、その事務を処理すること。

9,法律案及び予算案を作成して国会に提出すること。

10,この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

11,大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。但し、事前に最高裁判所の承認を必要とする。

12,栄典を授与すること。

第105条 法律及び政令には、すべて主任の閣僚が署名し、総理が連署することを必要とする。

第106条(1)国会で議決された法律又は予算は、法律でその公布日を指定された場合を除き、その議決後30日以内に、内閣によって公布される。

(2)内閣は、国会の議決した法律案又は予算案について異議があるときは、その議決から10日以内に理由を示して、これを再議に付することができる。

(3)前項の場合、国会が出席議員の55パーセント以上の多数で再議決したときは、法律又は予算として成立し、内閣はこれを30日以内に公布しなければならない。

 

(解説)

 

 総理の職務には「閣議を主宰し」を加えた。そして、現行憲法では天皇の国事行為だった事項のほとんどは、内閣の職務とした。そのほうが実態に即しているからである。また、大赦等を決定するには、事前に最高裁判所の承認を必要とした。大きく変わったのは、内閣に法律案と予算案の拒否権を与えた点である。しかし、国会が出席議員の55%以上で再議決したときは、その法律案・予算案は確定する。総理の所属する党が国会で少数党であり、他党と連立しても過半数に届かない「ねじれ」状態のときには、内閣が提出した議案が通らないことが起こりうる。内閣と国会の2元代表制なので、このようなときは調整しないと、政治が停滞してしまう。今の地方自治体でも首長に拒否権があるが、議会が出席議員の3分の2以上で再議決したときには、その議案は確定する。ただ、もし3分の2以上にするとハードルが高すぎて、国会に対する内閣の権限が強すぎてしまうので、ここでは55%とした。

 

 

第107条(1)人事院は、法律の定めるところにより、国家公務員の採用、給与、任免、研修、懲戒その他の人事行政の公正の確保及び公務員の利益の保護に関する事務をつかさどる。

(2)人事院は、人事官3名で構成する。人事官は、国会の同意を得て、内閣が任命する。任期は4年とし、再任されることができる。但し12年を超えて在任することができない。

第108条 (1)行政機関の職員は、満70歳に達した時には退官する。

(2)行政機関の職員は、法律の定めるところにより、その離職後5年間は、以前在職していた機関と密接な関係のある団体又は企業に再就職することができない。

 

(解説)

 

 人事院は、内閣からある程度独立した中立的機関として重要であるため、憲法上に規定した。人事官の人数や任期などは、現行と同じである。第108条では、官僚の定年を70歳にして、退職後も年金と合わせて安定した老後を送れるようにする代わりに、天下りを禁止した。

 

 

第6章 裁判所

 

第109条(1)司法権は、憲法裁判所、最高裁判所及び下級裁判所に属する。

(2)下級裁判所として、道裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所、知的財産裁判所及び防衛裁判所を設置する。

(3)臨時の裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行うことができない。

(4)国民は、法律の定めるところにより、裁判員として裁判に参加することができる。

第110条(1)国政が憲法に従って公正に行われているかを審査するために、憲法裁判所を設置する。

(2)憲法裁判所は、一切の法律、条約、命令、条例、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを最終的に決定する権限を有する。

(3)憲法裁判所の判決は、国及び地方自治体の全ての機関を拘束する。

 

(解説)

 

第6章のタイトルは「司法」ではなくて「裁判所」とした。第4章が国会、第5章が内閣なので、それに合わせたのである。今の日本の最高裁判所は、違憲審査権を持っていても、統治行為論などを使って憲法判断を回避してばかりである。下級裁判所が違憲判決をしても、最高裁判所はそれをひっくり返して、政府の言い分を認めてしまう。立法と行政が癒着しているのを、司法が追認しているだけだ。これでは三権分立の意味がない。司法府は、立法府と行政府の間違いを正すチェック機能を果たすべきだ。そこでこの試案では憲法裁判所を新設した。憲法裁判所は、国政全般が憲法に従って正しく行われているかを審査して、その判決に国の全ての機関を従わせる権限を持つ。具体的な訴訟事件がなくても、法律や政府の行動全てを審査できる、いわゆる抽象的違憲審査制である。このような憲法裁判所を持つ国は、ドイツ、イタリア、フランス、韓国など、数多く存在する。この強力な憲法裁判所が機能してこそ、政治は浄化されるのだ。

 下級裁判所の中に、現在東京高等裁判所の支部となっている知的財産裁判所を加え、また防衛裁判所(いわゆる軍法会議)を新設した。両方とも下級裁判所なので、当然最高裁判所に上訴できる。今の高等裁判所は、道裁判所となる。また、国民が裁判に参加する裁判員制度も規定した。現行憲法第76条にある「特別裁判所の禁止」とは、特定の事件を裁くための臨時の裁判所を設置してはならない、という意味なので、ここではわかりやすく「臨時の裁判所」と書いた。

 

 

第111条 憲法裁判所に提訴できるのは、次の場合である。

1,内閣が要求するとき。

2,国会の総議員の4分の1以上が要求するとき。

3,一つの地方自治体の議会が要求するとき。

4,国政監査院が要求するとき。

5,人権委員会が要求するとき。

6,選挙権を有する者の総数の1パーセント以上が、署名によって要求するとき。

7,最高裁判所又は下級裁判所が、その具体的訴訟事件において、憲法に適合するかどうか判断する必要があると認め、これを憲法裁判所に移送して裁判することを要求するとき。

第112条 憲法裁判所は、その権限を有する事項について、提訴された日から60日以内に判決を下さなければならない。

 

(解説)

 

 憲法裁判所は、誰かの提訴があってから、初めて審査ができる。この提訴を直接できるのは、第111条に書いた7つの場合である。この提訴によって、憲法審査だけでなく、後述する弾劾裁判や国民投票なども要求できる。一般国民が直接提訴するには、有権者の1%以上の署名が必要である。または、通常裁判所で具体的訴訟事件を係争中に、この件に関して憲法判断が必要だとその裁判所が認めたときは、それを憲法裁判所に移送して裁判できる。これは、いわゆる付随的違憲審査制と呼ばれているものである。その場合は、間接的にではあるが、国民が個人で提訴できる。憲法審査は国政に重大な結果をもたらすので、いたずらに裁判を遅らせることなく、迅速に審理する必要がある。それで、提訴から60日以内に判決を出すように規定した。

 

 

第113条(1)憲法裁判所は、総理又は国会議員が、憲法又は法律に著しく反する非行を行ったときには、弾劾のために訴追することができる。その場合には、裁判官6名以上の賛成を必要とする。

(2)前項の訴追があったときには、総理については全国で、国会議員についてはその選出された選挙区において、弾劾のために国民投票が行われ、その過半数の賛成があったときには、罷免される。

(3)国民投票の結果、罷免された総理又は国会議員は、その罷免された日から10年間は、公務員となることができない。

第114条 閣僚、人事官、国政監査官、人権委員、検事総長、中央選挙管理委員会委員及び法律に定めるその他の公務員が、憲法又は法律に著しく反する非行を行ったときには、国会の常設委員会で訴追の議決がなされた後、憲法裁判所の弾劾判決によって罷免される。その場合には、裁判官6名以上の賛成を必要とする。

第115条 裁判官が、憲法又は法律に著しく反する非行を行ったときには、国会の常設委員会で訴追の議決がなされた後、国会の弾劾によって罷免される。その場合には、国会の出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。

 

(解説)

 

 これは弾劾裁判の規定である。ここでは以下の3種類に分けて規定している。

(1)総理と国会議員に対する弾劾

(2)閣僚などの公務員に対する弾劾

(3)裁判官に対する弾劾

 

(1)総理と国会議員は、国民が直接選挙した公務員なので、簡単に辞めさせるわけにはいかない。まず憲法裁判所で審査して、裁判官9名中6名、つまり3分の2以上が賛成するときには、訴追することを決定する。その次に、それを国民投票にかける。総理の場合は全国で過半数、国会議員の場合は選出された選挙区全体で過半数が、弾劾に賛成するときには、その人は罷免される。そして、国民投票で罷免された総理又は国会議員は、その後10年間は公務員となることができない。地方自治体には、首長や議会議員の解職を問う住民投票制度があるので、それを参考にした。

(2)閣僚、人事官、国政監査官、人権委員、検事総長、中央選挙管理委員会委員その他の公務員の場合は、まず国会の常設委員会が審査する。そこで訴追すると決定したときには、次に憲法裁判所でその人を裁判する。そこで裁判官6名以上が弾劾に賛成したときには、その人は罷免される。

(3)裁判官を弾劾するのは憲法裁判所ではなく、国会が弾劾する権限を持つ。まず常設委員会が審査して、そこで訴追すると決定したときには、次に国会の本会議で裁判する。そこで出席議員の3分の2以上が弾劾に賛成したときには、その裁判官は罷免される。

 

 

第116条(1)憲法裁判所は、国政上重要な政策について国会で審議がなされた後、国民の総意を問う必要があると判断するときには、その案件を国民投票に付することができる。但し、租税及び予算に関する案件を国民投票に付することはできない。

(2)国民投票で一度否決された案件は、国会議員の総選挙が新たに行われた後でなければ、これを再び国民投票に付することはできない。

(3)国民投票は、有効投票の過半数によって決し、その決定は、国及び地方自治体の全ての機関を拘束する。

第117条 憲法裁判所は、国の機関の相互間、国の機関と地方自治体、及び地方自治体の相互間の権限に関する争議について審判する。

 

(解説)

 重要政策について国民投票を行う権限を、もし内閣が持ったら、内閣が国会の立法権を飛び越えて強くなりすぎてしまう。もし国会が持ったら、国会が自分で議決すれば国民投票をする必要はないので意味がない。なので、ここでは憲法裁判所がその権限を持つことにした。重要政策が国会で審議されても、話し合いが不十分で国民的合意が得られていないのに、多数派によって強行採決などが行われるときがある。そのような場合、国会で審議した後に、その案件は改めて国民の総意を問う必要があると憲法裁判所が判断したときに限り、国民投票にかけることができる。ただし、税金や予算に関することは、「自分に損か得か」だけで投票することになりやすいので、その性質上、国民投票にかけることは禁止した。これはイタリアの憲法を参考にしている。また、国民投票で一度否決されたのに、同じ案件について何回も国民投票をするのは良くないので、国会議員の総選挙が行われた後でないと、同じことを国民投票にかけることができないことにした。それから、これはいわゆる諮問的国民投票ではなく、その投票結果が全ての機関を拘束する、強制力を伴う国民投票制度である。

 また憲法裁判所は、国の機関どうしの権限争議、国と地方自治体との権限争議、地方自治体どうしの権限争議も裁判する。この他にも、憲法裁判所は、ある政党や団体がその活動目的として、刑法に違反する活動や、憲法の基本原則を暴力によって破壊する活動を行ったときに、その団体の活動停止や解散を決定する権限を持っている(第41条)。これはドイツや韓国の憲法を参考にしている。

 

第118条(1)憲法裁判所は、9名の裁判官で構成する。
(2)憲法裁判所の裁判官は、任期を12年とし、再任されることができない。
第119条(1)憲法裁判所の裁判官は、最高裁判所又は下級裁判所の裁判官として12年以上在職した有資格者の中から、これを互選する。
(2)前項の選出において、有資格者は、候補者1名に投票する。候補者は、その得票数が多い順に当選とし、最も得票が多かった者が、憲法裁判所の長官となる。
 
(解説)
 
 憲法裁判所の裁判官は9名で、任期は12年である。再任可能とすると、次も選ばれようとして偏った判断をするかもしれないので、再任禁止とした。憲法裁判所の裁判官は、不偏不党で政治的に中立でなければならないので、国会や内閣が任命するのではなく、裁判官として12年以上在職した者全員が、自分たちの中から選出するようにした。選出方法は、憲法裁判所の裁判官に立候補した者の中から、有資格者は、1名だけを選んで投票する。その得票数が多い者から順に9名を当選とし、その中の最多得票者を憲法裁判所の長官とする。裁判官を国民が直接選挙する方法も検討したが、公選となると、どうしても人気投票的になり、また政党の組織力を頼ることになるので、ここでは採用しなかった。
 
 

第120条(1)最高裁判所は、15名の裁判官で構成し、そのうちの1名を長官とする。最高裁判所の長官は、憲法裁判所の長官が兼任する。
(2)最高裁判所の裁判官は、任期を12年とし、再任されることができない。
(3)最高裁判所の裁判官は、憲法裁判所が指名した者の名簿に基づいて、国会が任命する。この任命には、国会の出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。
第121条 最高裁判所の裁判官は、裁判官、検察官、弁護士又は大学の法律学教授として12年以上在職した者の中から任命しなければならない。
 
(解説)
 
今の最高裁判所裁判官は内閣が任命するので、だいたいほとんど政府寄りの判決を下すようになっている。その上、最高裁判所裁判官の国民審査制は、それによって罷免させられたことは今まで一度もなく、全く機能していない。これでは三権分立のチェック機能が働かないのは当然である。この試案では、憲法裁判所が、最高裁判所の裁判官を指名して、それに基づいて国会が任命する、というシステムにした。その上で、国会が裁判官を任命するときには、出席議員の3分の2以上を要件とした。過半数ではなく3分の2以上なので、与野党が合意しないと任命できない。こうすれば、今の最高裁判所裁判官のように、政府寄りの人ばかり選出される、ということは起きにくいだろう。これは、ドイツやフランスのやり方を参考にしている。最高裁判所裁判官も、憲法裁判所裁判官と同じく、任期を12年とし、再任禁止とした。最高裁判所裁判官は15名で、そのうちの1名が長官となるが、それは憲法裁判所の長官が兼任する。最高裁判所の裁判官になる資格は、裁判官、検察官、弁護士又は大学の法律学教授として12年以上在職した者である。最高裁判所は、憲法裁判所が審査する分野以外の通常裁判における終審裁判所となる。
 


第122条(1)道裁判所の裁判官は、道議会が、出席議員の3分の2以上の多数による議決をもって任命する。

(2)道裁判所以外の下級裁判所の裁判官は、その管轄する道裁判所が指名した者の名簿に基づいて、道議会が任命する。但し、知的財産裁判所及び防衛裁判所の裁判官は、最高裁判所が任命する。

(3)東京都に所在する下級裁判所は、関東道裁判所が管轄する。

第123条 下級裁判所の裁判官は、任期を8年とし、再任されることができる。但し、満70歳に達した時には退官する。

 

(解説)

 道裁判所は、各道に設置されるので、全部で10か所になる(第132条参照)。今の高等裁判所の管轄とは少し違うので、関東道や北陸道、沖縄道には、道裁判所を新設することになる。東京都にある下級裁判所は、関東道裁判所の管轄に属するので、東京地方裁判所から上訴するのは、関東道裁判所となる。地方裁判所は、今の都道府県単位とほぼ同じである。北海道の中には4つの地方裁判所がある。沖縄道の中に、いくつか地方裁判所を新設しても良い。道裁判所の裁判官は、道議会が任命する。ここでも出席議員の3分の2以上を要件とする。地方裁判所や家庭裁判所、簡易裁判所の裁判官は、その管轄する道裁判所の指名に基づいて、道議会が任命する。これは、通常通りの過半数で良い。ただし、知的財産裁判所と防衛裁判所の裁判官は、最高裁判所が任命する。下級裁判所裁判官の任期は8年で、再任可能である。ただし満70歳に達したら退官する。

 

 

第124条(1)最高裁判所は、訴訟に関する手続き、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。但し、憲法裁判所に関する規則は、憲法裁判所が定める。

(2)検察官は、最高裁判所の定める規則に従わなければならない。

(3)最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。

第125条(1)検察官の行う事務を統括するため、最高裁判所の下に、最高検察院及びその他の下級検察院を設置する。

(2)最高検察院の長は検事総長とし、最高裁判所がこれを任命する。任期は4年とし、再任されることができない。

(3)検察官は、常に厳正公平及び不偏不党を旨として、事案の真相を明らかにし、事件の処理においては基本的人権を尊重しなければならない。

 

(解説)

 

 第124条は、現行憲法第77条とほぼ同じである。ただし、憲法裁判所に関する規則は、最高裁判所ではなくて憲法裁判所が自分で定める。今の検察庁は法務省の下にあるので、検察が汚職した政治家を捜査しようとしても、法務大臣が指揮権を発動してそれをやめさせる、ということがあった。こんなことにならないように、第125条で検察院は最高裁判所の下において、検事総長も最高裁判所が任命することにし、強い独立性を持たせた。

 

 

第126条(1)すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。

(2)すべて裁判官は、政党に所属してはならず、選挙及び投票権行使以外の政治活動をしてはならない。

(3)裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。

第127条 裁判官は、全て定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、最高裁判所の同意なしに減額することができない。

第128条(1)裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う。

(2)裁判所が、公の秩序又は善良の風俗を害する恐れがあると決した場合には、対審は、公開しないで行うことができる。但し、この憲法第3章で保障する基本的人権が問題となっている事件の対審は、これを公開しなければならない。

 

(解説)

 

第126条第1項は、現行憲法第76条第3項とほぼ同じである。

第126条第2項に、裁判官の政党所属と政治活動の禁止を規定した。

第126条第3項は、現行憲法第78条とほぼ同じである。

第127条は、現行憲法第80条に対応しているが、最高裁判所の同意があれば、報酬を減額できるようにした。

第128条は、現行憲法第82条に対応しているが、現行では「裁判官の全員一致で」とあるのを削除して、裁判官の過半数が同意したら、対審は非公開にできることにした。

 

 

第129条(1)国政全般が憲法及び法律に従って公正に行われているか監査し、国の会計を検査するために、憲法裁判所の下に、国政監査院を設ける。

(2)国政監査院は、国の機関又は公務員の行為に不正、不当、不適切又は非能率があると思われるときには、自らの職権又は国民の直接の申立てにより、監査を行い、資料の提出又は業務の改善を命令し、憲法裁判所に報告する。

(3)国政監査院は、5名の国政監査官で構成し、憲法裁判所がこれを任命する。任期は8年とし、再任されることができる。但し、満70歳に達した時には退官する。

 

(解説)

 

 憲法裁判所の下に国政監査院を新設した。今の会計検査院の機能もここに含まれる。ここでは行政だけではなく、国政全般を監査・監視することができる。いわゆるオンブズマンと呼ばれ、スウェーデンなど多くの国で導入されている制度である。今の日本にも行政相談委員制度があるが、権限が非常に弱い。この試案では、国民が、国の機関や公務員の行為に不正、不当、不適切又は非能率があると思うときに、ここに直接苦情を申し立てることができる。国政監査官は、この申し立てがあったとき、又は自らの職権で、監査を行う。そして、その機関又は公務員に対して、資料の提出、業務の改善を命令する権限を持つ。その監査の結果を憲法裁判所に報告し、必要があれば憲法裁判所に提訴することができる(第111条)。この他にも国政監査院は、総理や閣僚、国会議員、裁判官、そして政党の収支資産報告を受け(第37条、第41条)、国の収支決算の均衡と健全性を監査して、内閣に改善を命令する権限(第148条)も持っている。このように、国政監査院が憲法裁判所の手足、実働部隊となって国の政治全体をしっかりとチェックするときに、この国の政治は正しい方向へと変えられていくのである。

 

 

第130条(1)人権侵害行為に対する調査、救済、予防、仲裁、勧告及び人権教育に関する事務を行うために、憲法裁判所の下に、人権委員会を設置する。

(2)人権委員会は、7名の委員で構成し、憲法裁判所がこれを任命する。任期は4年とし、再任されることができる。

 

(解説)

 

 今の日本の人権擁護委員はボランティアで権限が弱く、法務省の監督の下にいるので独立中立性が保たれない。国連からも国内人権機関を設けるように勧告されて、2012年に人権委員会設置法案が国会に提出されたが、廃案となった。そこでこの試案では、行政府から独立した人権委員会を、憲法裁判所の下に設置した。人権委員会は、国民からの申し立てを受けて、人権侵害行為を調査し、そこからの救済措置を取り、当事者の間に立って仲裁し、勧告する。勧告を受け入れないときは、憲法裁判所に提訴する権限も持っている(第111条)。また国民の間に広く人権教育をし、政策提言する。このような国内人権機関を設置している国は、オーストラリアやカナダ、フィリピンなど、数多く存在する。

 

 

 

第7章 地方自治

 

第131条(1)地方の政治は、その地域の住民が、地方自治体を通して自主的に行う。

(2)住民に身近な立法及び行政事項は、できる限りその地方自治体が担当する。国は外交、防衛、通貨その他の国全体に関わる事項を行い、それ以外の事項は基本的に地方自治体が行うものとする。

(3)国及び地方自治体は、その事務を行うときに、互いに連絡調整し、協力し合わなければならない。

 

(解説)

 

 現行憲法第92条には「地方自治の本旨に基づいて」とあるが、その本旨が何であるのか、全く書かれていない。この試案第131条では、地方自治の原則である住民自治と団体自治を明文化した。現行憲法では「地方公共団体」とあるが、一般的には「地方自治体」と呼ばれているので、その通りにした。今の日本は中央集権が強すぎて、地方自治体の力が弱い。ここでは、地方分権と補完性の原則によって、地方のことはその地方自治体がやり、地方自治体ではできないことだけを国がやるようにした。今の国の権限の大部分は地方自治体に移譲されて、国の仕事は外交や防衛、通貨など、国全体に関わることだけに限定される。国と地方自治体との具体的な役割分担リストは、あまりに詳細になるので憲法ではなく法律で規定することにしたが、それを国が上から一方的に決めたのでは意味がない。そこで、地方自治関連の法律を決めるには、全国知事会の同意を必要とした(第140条)。また、国と地方自治体は上下主従関係ではなく、互いに対等で協力し合うものとした。

 

 

第132条(1)広域自治体として道及び都を、基礎自治体として市区町村を設置する。

(2)道及び都は、次の通りとする。

1,北海道

2,東北道(青森、秋田、岩手、宮城、山形、福島)

3,関東道(茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、旧東京都の23区以外の地域)

4,北陸道(新潟、富山、石川、福井)

5,東海道(長野、山梨、静岡、岐阜、愛知、三重)

6,関西道(滋賀、京都、兵庫、大阪、奈良、和歌山)

7,山陰陽道(鳥取、島根、岡山、広島、山口)

8,四国道(香川、徳島、愛媛、高知)

9,九州道(福岡、佐賀、長崎、熊本、宮崎、鹿児島)

10,沖縄道

11,東京都(23区のみ)

 

(解説)

 

 この試案では道州制を採用した。今の47都道府県では、国の権限を移譲するのには単位が小さすぎる。府県は廃止し、ブロックごとに統合する。これは連邦制ではないが、アメリカやドイツの州のように、各道が強い権限を持ち、独自性を発揮できるようにする。これによって、東京一極集中が是正され、地方が活性化し発展できるだろう。

各道及び都の区域を図にすると、以下のようになる。

 

 

第133条(1)地方自治体には、その議事機関として議会を設置する。

(2)地方自治体の議会議員は、その住民が直接選挙し、任期は4年とする。

(3)地方自治体の議会議員の定数及び選挙方法については、各自治体の条例で定める。

第134条(1)地方自治体には、その執行機関の首長として、道及び都には知事を、市区町村には長を設置する。

(2)地方自治体の首長は、その住民が直接選挙し、有効投票の過半数を得た者を当選とする。過半数を得た者がいないときは、1週間後に上位2名による決選投票を行い、多数を得た者を当選とする。

(3)地方自治体の首長の任期は4年とし、再任することができる。但し、合計して8年を超えて在任することができない。

(4)地方自治体の首長の選挙は、議会の選挙と同時に行う。議会議員の任期が満了又は終了したときには、首長の任期も同時に終了する。

第135条(1)地方自治体の議会が、出席議員の3分の2以上の多数をもって、首長の不信任決議案を可決したときは、首長は、任期途中であっても解任される。

(2)前項の場合に限り、首長は、不信任決議案の可決後10日以内に、議会を解散することができる。

 

(解説)

 

 地方自治体の議会議員の任期は4年とするが、その定数や選挙方法は、国の法律で定めるのではなく、各自治体の条例に委ねることにした。首長の任期も4年であるが、総理と同じで合計8年までとする。今の地方自治体の首長は多選傾向で、10選して40年間も市長をした人さえいる。人は一度権力を握ると、そこから離れようとしない。長期政権は腐敗するものだから、多選禁止を明記すべきだ。首長は公選で、やはり総理と同じように、過半数を得た者を当選とし、過半数を得た者がいないときには上位2名による決選投票を行う。議会の選挙と首長選挙は同時に行い、任期も同時に終了する。議会が首長の不信任を決議するには、出席議員の3分の2以上を必要とする。不信任案が可決された場合に限り、首長は議会を解散できる。これも国会と総理の関係と同じである。

 

 

第136条 地方自治体は、自主的に租税を課し、財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、その権能の範囲内で条例を制定することができる。

第137条 地方自治体が自立してその事務を行うため、十分必要な財政能力を持つことができるように、国は措置を講じなければならない。

 

(解説)

 

 現行では「法律の範囲内で条例を制定する」とあるのを「その権能の範囲内で」とした。国の法律で上から決められてしまうのではなく、自治体の立法自主権を明記したのである。また、地方自治体の課税自主権も明記した。地方分権を推進するには、地方自治体の財政能力を高めなければならない。国の地方交付税交付金や国庫支出金に依存することなく、自主財源を増やし、地方自治体間の財政格差も調整するシステムが必要である。その具体的方法は、ここには規定せず法律に委ねた。

 

 

第138条(1)地方自治体は、その住民で選挙権を有する者の総数の4分の1以上の署名による要求があるときには、その首長若しくは議員の解職、又は重要政策について、住民投票を行う。

(2)住民投票は、有効投票の過半数によって決し、その決定は、その地方自治体の全ての機関を拘束する。

第139条(1)地方自治体の住民で選挙権を有する者は、その総数の1パーセント以上の署名によって、条例案を議会に提出することができる。

 

(解説)

 

 住民の直接請求を明記した。有権者の4分の1以上の署名によって、首長や議員の解職を問う住民投票だけでなく、重要政策の住民投票も請求できる。この住民投票での決定は諮問的ではなく、拘束力を持つものである。また、有権者の1%以上の署名によって、条例案を議会に提出できる。

 

 

第140条(1)すべての道及び都の知事は、相互の連絡と財政調整を行い、地方自治に関する政策を協議し、国に提言するために、全国知事会を組織する。

(2)道及び都の知事は、全国知事会に自ら出席できないときは、その指名した者を代理として出席させることができる。

(3)国と地方自治体の役割分担、及び地方自治体の事務に関する法律を制定するには、国会で審議された後、全国知事会において過半数の同意を得ることを必要とする。

 

(解説)

 

 全国知事会を憲法上の機関とした。構成員は、1都10道の知事11人である。ここで、各道相互の連絡と財政調整を行い、地方自治に関する政策を協議し、国に提言する。知事が自ら出席できないときには、その代理者が出席する。この全国知事会は、地方自治関連法案に対する同意権を持つ。なので、国は地方自治に関する政策を上から決めるのではなく、事前に知事たちの意見を聞かなければならない。こうすることによって、地方の声が中央に反映され、地方分権、地域主権が推進されていくのである。

 

 

第8章 財政

 

第141条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない。

第142条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

第143条(1)国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基づくことを必要とする。

(2)国の歳出は、法律に定める特別な場合を除き、公債又は借入金以外の歳入をもって、その財源としなければならない。

 

(解説)

 

 第141条、142条、143条は、現行憲法の第83条、84条、85条とほぼ同じである。ただ第143条第2項として、財政法第4条の規定を加えた。今の日本では、赤字国債を発行するのが普通になってしまい、国の借金は増え続けるばかりである。財政再建と健全化のためには、憲法にこのように規定して、それを守らせる必要がある。

 

 

第144条(1)内閣は、毎会計年度の予算案を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を得なければならない。

(2)継続支出の必要があるときは、年限を定め、継続費として国会の議決を得なければならない。

第145条(1)予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。

(2)すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承認を得なければならない。

第146条 内閣は、必要に応じて、一会計年度のうちの一定期間に係る暫定予算を作成し、これを国会に提出することができる。

第147条 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算案に計上して、国会の議決を得なければならない。

 

(解説)

 

 第144条第2項として、継続費の規定(現行では財政法第14条の2)を加えた。また第146条に、暫定予算の規定(現行では財政法第30条)を加えた。その他は、現行憲法の第86条、87条、88条とほぼ同じである。それから、現行憲法の第89条にある宗教団体への支出禁止規定は、表現をシンプルにした上で、第32条第5項に移した。そして「公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業」への支出禁止規定は削除した。この規定をそのまま読むなら、今の私学助成も当然禁止となってしまう。なので、現状に憲法条文を合わせたのである。

 

 

第148条(1)国の収入支出の決算は、すべて毎年国政監査院がこれを検査し、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。

(2)国政監査院は、国の収入支出の均衡及び健全性を監査し、内閣に対して改善を命令することができる。

第149条 内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少なくとも毎年2回、国の財政状況について報告しなければならない。

 

(解説)

 

 これは、現行憲法の第90条と91条に対応している。今の会計検査院の役割は、国政監査院がするようになる。それだけでなく、国政監査院は、収入と支出がバランスを保っているか、予算の無駄遣いなどがないかをいつもチェックして、もし不健全に陥っていたら、政府に改善を命令する権限を持つ。また財政報告も、毎年1回ではなくて、年2回以上報告するものとする。こうすることによって、国のお金の使い方をしっかり監視して、それを正すことができるのである。

 

 

第9章 改正

 

第150条(1)憲法改正案の提出は、国会議員20名以上の賛成、又は内閣によって行われる。

(2)憲法の改正は、国会が、その出席議員の5分の3以上の賛成をもって議決した後、

30日以内に国民投票が行われ、その有効投票の過半数の賛成を得たときに成立する。

(3)憲法改正について前項の賛成を得たときは、内閣は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

 

(解説)

 

 現行憲法の改正手続きは、衆参両院で総議員の3分の2、つまり66.6%以上の賛成を得た後、国民投票で過半数の賛成を得なければならない。これは非常に高いハードルなので、今まで76年たっても一度も改正できなかった。この試案は、条文が具体的で細かく書いてあるので、現状のニーズに合わせて柔軟に対応できるようにする必要がある。それで、現行憲法よりも改正のハードルを少し低くしている。憲法は人間が作ったものだから、完璧ではなく、ましてや不磨の大典でもない。時代の変化に合わせてどんどんアップデートできるようにしておくべきだ。憲法が改悪されるのを恐れてそのまま手つかずにしておいたら、古くなった条文が政治を縛って硬直化させるだけだ。

憲法改正案は、国会議員20名以上の賛成によって提出するか、又は内閣が提出できる。まずは国会で出席議員の5分の3、つまり60%以上の賛成が必要である。その後30日以内に国民投票を行い、その過半数の賛成を得たときに成立する。

 

 

第151条(1)この憲法の基本原則を破壊することを目的とした憲法改正は、禁止される。

(2)総理の任期延長又は在任期間制限に関する憲法改正は、その提案当時の総理に対しては、効力を有しない。

(3)国の緊急事態宣言が発令されている期間は、憲法を改正することができない。

 

(解説)

 

 「柔軟に改正」と言っても、何でも変えて良いわけではない。本当に大切な「民主、人権、平和」という基本原則まで変えてはいけない。この原則を暴力的に破壊するような憲法改正は禁止される。また、時の総理が権力欲に取りつかれて、自分の任期延長のために憲法を改正しようとすることがありうるので、それを禁止した。これは大韓民国憲法第128条を参考にしている。それから、緊急事態やクーデターを利用して憲法停止することも禁止した。そのような反動的、復古的な動きに対して、国民は断固として対抗すべきだ。それこそが「戦う民主主義」である。国民みんなで作ったこの憲法秩序体制は、国民が自分自身の手で守り続けていかなければならないのである。

 

 

第10章 補則

第152条(1)この憲法は、公布の日から起算して6か月を経過した日から施行する。

(2)この憲法を施行するために必要な法律の制定及び準備手続は、前項の期日よりも前に行うことができる。


 


終章 「では、どうすべきか」


 私が政治に関心を持つようになったのは、確か中学生ぐらいの頃からであった。単に今の政治問題を批評するのではなく、「では、どうすべきか」「どうすれば日本の政治が良くなるのか」をいつも考えていた。高校生になると、もう自分の憲法改正案を書き始めていた。大学1年生のときに「選挙制度の改革」という題で懸賞論文に応募し、優秀賞をもらった。大学2年生には、友人に誘われて、松下政経塾のボランティア・スタッフとなった。1992年の当時は、政治改革が盛んに議論されている時代だった。私はスタッフの仲間と一緒に、新宿駅前で街頭演説や署名活動をしたり、議員を招いて大学で講演会を開いたりした。とにかく「日本の政治を変えよう。そのために何か行動しよう」という情熱に燃えていた。しかし、その後で、そのスタッフ組織は突然、解散してしまった。私はひどく失望し、それ以来、政治への興味を失った。そして政治の世界から離れて、そのことを全く忘れ去っていたのである。

 あれから約30年の年月が流れて、私は50歳になった。あるとき、政治好きの友人と久しぶりに政治の話をしているうちに、私は「以前書きかけて途中で終わっていた自分の憲法試案を、もう一度書いてみようか」という思いが湧いてきた。書き始めると、昔の情熱を思い出して、面白くて夢中になって書いた。書き上げると、今度はそれを誰かに見せたくなった。どうしようかと考えているときに、ふと「ブログを作って投稿したらどうか」というアイディアが浮かんだ。今はインターネット、SNSの時代で、自分の意見をネット上にのせて、簡単に瞬時に、多くの人たちに拡散することができる。本を出版するのは大変だけど、これならお金もかからない。というわけで、この新憲法試案の全文と解説を、ブログにのせることにしたのである。

 せっかく自分なりに気に入った案を書いても、それを自分だけにとどめておいて何もしなければ、それは実現しない。ただの理想、絵に描いたモチで終わってしまう。かと言って、今の自分には、学生の頃のように、もう一度政治運動に身を投じるほどの覚悟もパワーもない。でも、自分の意見をネットで公開することなら、できる。色々な非難や中傷を受けて傷ついたらどうしよう、という恐れもあったが、思い切って勇気を出して、ブログを書くことにした。この試案を読んで、コメントや感想、ご意見などを頂ければ幸いである。また、この試案に関心を持ち、少しでも賛成する方がいたら、ぜひ他の人にもシェアしてほしい。この試案をたたき台として、広く国民的議論が起こることを願っている。それは、単なる批判のための批判や、「違憲か合憲か」「右か左か」という不毛の議論ではない。私が求めているのは「では、どうすべきか」「私だったらこうする」という代案である。未来に向けた、建設的議論を期待する。・・・・・明治憲法は伊藤博文が起草した。昭和憲法はマッカーサーが作った。もしあなたが、現代の伊藤博文やマッカーサーだったら、どんな憲法草案を書くだろうか。真っ白な一枚の紙に、新しい絵を描くとしたら、どんな日本の未来像を描くだろうか。国民の一人一人がそれを描いて、一緒に夢とビジョンを語り合いたいのである。そうするときに、国民の間に意識改革が起こり、それが国民的運動へとつながる。それによって、日本の政治は変えられ、良くなっていくと信じる。私が個人的に書いたこの試案が、そのための一つのきっかけとなることを願ってやまない。


2023年1月16日    羽奈作造





#創作大賞2023 #オールカテゴリ部門

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