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話す言語は作る音楽に影響するのか?

前の記事「言語の持つ音声リズム」に続いて、今回はタイトルの通り「話す言語は作る音楽に影響するのか?」について述べていきたい。
前回の記事の内容が前提になってくる。

言語によって、それぞれの持つ音声リズム(韻律)も異なり、大きく3つに分けられることを説明した。また、母音の変動率を測るnPVIという数値も紹介した。
話す言語は作る音楽に影響する」ということを示す論文やデータを以下に見ていく。

1.音楽と言語を同じ基準で見てみる

もともとPVIは言語に適用されるものであるが、音楽のメロディのリズムにも適用するデータ・論文もある。
つまり、PVIを言語と音楽両方に用いることで、それぞれのリズムを同じ基準・フレームワーク上で見ることが可能になる。
「Aniruddh D. Patel, Joseph R. Daniele (2002): An empirical comparison of rhythm in language and music )」では、英語(ブリティッシュ)とフランス語の音声リズムの違い、英国の作曲家とフランスの作曲家の音楽の違いに注目している。

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上の論文のデータによると、英語のPVIは67前後、フランス語は50弱だ。別データ(前の記事参照)だと、英語=57.2、フランス語=43.5なので、英語とフランス語におけるPVIの関係性は同じだ。
英語は強勢拍リズム、フランス語は音節拍リズムの言語であるため、このような結果になるのは当然でもある。

次に音楽のメロディのリズムの関係性だ。この論文では、歌詞(言語)に直接影響されないようなインストゥルメンタル楽曲が分析に用いられている。
英国側の作曲家にはエルガーやホルスト他、フランス側はドビュッシーやラヴェル、フォーレなどによる楽曲が用いられた。

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楽曲分析の例として、上がドビュッシー、下がエルガーの楽曲のそれぞれテーマが挙げられている。4分音符の音価を1として、PVIの計算式に入れ込んでいく。
その結果、以下のデータが得られた。

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PVIだけで見れば、フランス出身の作曲家の作るメロディは、英国出身の作曲に比べると、均一な(あるいはシンプルな)リズムになる傾向が見られた。

これは、最初の図の英語とフランス語の音声リズムの関係と同じだ。
言語における音声リズムの違いが、作曲するメロディのリズムの違いに影響を与えていることを示唆している。

2.同じ言語でも方言の違いは音楽に影響するか?

言語の違いにより、作る音楽にも影響しうることは上記の通りだ。ただ、英語といっても、イギリス英語、アメリカ英語ではまた異なってくる。日本語でも、地域によって(e.g. 関西と関東)音声リズムも少しずつ異なってくる。

論文「Rebecca W. McGowan; Andrea G. Levitt (2011): A Comparison of Rhythm in English Dialects and Music」では、スコットランドのシェトランド諸島、アイルランドのドニゴール県、アメリカのケンタッキー州のそれぞれの方言と音楽の比較が行われている。
データは1949~1960年のそれぞれの地域のフィドル奏者のフィールドレコーディングが用いられている。ここでも同じようにPVIを言語と音楽の両方に適用している。結果は以下のようになった。

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表Aを見るとやはり、地域としても一番離れているアメリカのケンタッキー州の方言のPVIの数値が高く出ている。そして、それに対応するように表Bの音楽の特徴も似たような数値が出た。

言語的な差異のみにとどまらず、同一言語内でも方言の差異が(PVIから見た)音楽の違いに影響しうることも示唆されている。

3.まとめ

こういった研究の前にも、「言語によって音楽の捉え方やアウトプットにまで影響を与えうる」といったことは長らく言われており、これは一般レベルでも感覚的にいくらか感じるものなのではないだろうか。
データの集め方や用い方に疑問の残るところはいくらかあるものの、それぞれ「言語の音楽における影響」について具体的な数値(PVI)を用いて導き出された貴重な見解だ。

私自身の作るメロディのリズムも日本語の韻律に影響されていると思うと、とても興味深いものがある。

こういった韻律の観点から、英語の方言や歌詞の関係などについても、別記事で触れていくことを考えている。

参考文献:https://www.researchgate.net/publication/10976378_An_empirical_comparison_of_rhythm_in_language_and_music

・http://www.haskins.yale.edu/Reprints/HL1630.pdf

・http://www.phon.ox.ac.uk/files/people/grabe/ 

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