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カンボジア地雷危険区域でミストランジット現象を発見した卒論をまとめ直した

大学時代は授業も最低限しか出ない典型的クズ学生でしたが、卒論(=理系なので"研究")はめちゃくちゃ楽しかったので先日ふと自分の卒論を読み返してみました。

するとビジネスマンになった今だから感じる体裁の酷さに嫌気が差したので改めてnoteにまとめ直してみました。笑

建築を専攻していた僕の研究テーマは
カンボジアの貧困地域では人々が高床式住居で生活をしているのですが、それが近年普通の接地式住居に変わりつつある点に着目して「そもそも何故彼らは高床式住居に住んだのか?そして何故高床式住居が終わりつつあるのか?」を解明することでした。

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これ何故だと思います?笑
ちなみに日本では弥生時代にお米をネズミから守るために床を浮かせてネズミ返しを付けた高床式住居が有名です。中学生の時習った気がしますね!笑

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隣国タイの同様の研究結果によると

そもそも何故彼らは高床式住居に住んだのか?
→床下からの風通しを確保することで暑さをやわらげつつ、洪水から生活空間を守るため。

何故高床式住居が終わりつつあるのか?
→エアコンや扇風機が一般家庭に普及し暑さを和らげる代替手段を持ったから。また下水道設備が整ったため洪水が少なくなったから。

でした。

タイとカンボジアは隣国で地理的環境が似ています。
そしてタイを開発途上国と表現するならばカンボジアはその一歩遅れている後発開発途上国と表現できることから、タイの研究結果がそのまま数年遅れでカンボジアにも適用できるのではないか?という仮説が生まれました。

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冷めたことを言うと研究なんて他人が証明したことにあやかって似たことを懇切丁寧に証明する作業です。仮説が大きく外れることはほとんど起こり得ないですし、効率的に研究を進めるために仮説が外れることはあってはなりません。

その上理系学生の研究なんて専門領域の人にしか理解出来ない自己満足研究ばかりです。


しかし!


私は良くも悪くもこのタイの研究結果から導いた仮説が大きく外れたのです!そして外れた結果個人的にめちゃめちゃ面白い発見をしたのです!

それがまさしくミストランジット現象でした。
テクノロジーが作った"歴史の寄り道"を目の当たりに出来た僕の大切な経験ですので、興味がある人は是非読み進めてください!

なお、ミストランジット現象とは「途上国が先進国の生活水準に追いつく際にテクノロジーの影響を受けて、先進国とは異なる非合理的な段階を経て最先端の生活水準を得る現象」を指します。

なお類義語のリープフロッグ現象は「途上国が先進国の生活水準に追いつく際にテクノロジーの恩恵を授かり、先進国が経た段階を飛ばして一気に最先端の生活水準を得る現象」を指します。

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リープフロッグ現象は、仮想通貨が日本の様な為替が安定している先進国よりも、ブラジルの様な為替が不安定な国の方が先に浸透した。が有名な例ですね!


それでは僕が大学四年生だった2014年にタイムリープします!笑
(以下長いのでご注意!笑 "深夜特急"が好きな人やバックパッカー経験者は読んで損は無いかと思います)


教授とのバトル

そもそも私はカンボジアの研究がしたかった訳でも高床式住居に興味があった訳でもありませんでした。

研究室配属の時期は就活で忙しく、唯一面接に行けた研究室に適当に入り、研究テーマ選びも就活で放置していたら教授が「僕の顔がカンボジア人っぽいから」という理由で僕をカンボジア研究班に勝手に配属にしたのが全ての始まりでした。

就活を終えて研究室に顔を出し始めたころには既に夏休みは全て返上でカンボジアで過ごすことが決まっていたのです。

人生最後の夏休みが遊べなくなったのは泣きましたが、決まってしまったことは仕方ありません。

また、僕は海外旅行が趣味なのですが今まで貧困地域に行ったことがありませんでした。ですので「せっかく途上国のカンボジアに行くのなら最貧困地域を見てみたい!」と思ったのでそのためだけに貧困地域を研究エリアにしようと試みました。

しかし、僕の研究室はかつて都市部の研究しか行ったことが無く、研究チームは4人中2人が女性ということもあり「貧困地域なんて危険だから学生だけで行かせられる訳がないだろう!」と教授に言われバトルになりました。笑

そして最後まで教授は折れることが無く
「お前はカンボジアの貧困地域の実態を何も分かっていない。どうしてもやると言うのなら今すぐカンボジアに行って貧困地域を見てこい!でなければお前は先輩の都市部の研究の一部をやれ!」
と言い残して去って行きました。

若かった僕は「お前だって行ったこと無いくせに無理って決めつけんなよ!」とむかついたので親に借金をして三日後に一人でカンボジアに向かいました。笑
22歳にしてはなかなかの行動力だったと思います。

とは言え”行った”という事実だけでは教授も納得しないだろうと考え、貧困地域(≒農村部)と都市部の実態を比較して差を見つけることで貧困地域を研究する意義を訴えようと思いました。

具体的には居住生活(テレビを持っているか?など)に関するアンケートを英語で作成し、誰かにクメール語(カンボジア語)に翻訳してもらい、貧困地域と都市部で配り歩いて何かしら違いを見出せれば教授も納得するだろう!と考えました。


今考えるとすげー浅い…笑


まぁという訳で日本にいる内にとりあえず”英語とカンボジア語が話せる人”を探しました。当時はGoogle翻訳も使えなかったので…
片っ端からfacebookの友達の中で海外旅行好きの友達に聞きまわったところ、パンちゃんというカンボジアに住む女子大生の知り合いがいる人がいたので早速紹介してもらいました。facebookマジすごい…

そしてもろもろ説明すると空港まで僕を迎えに来てくれることになったので安心して日本を経ちました。


パンちゃんが首都プノンペンに住んでいるという理由で行き先はアンコールワットで有名なシェムリアップでは無くプノンペンに決定、そして空港に着くとパンちゃんは本当に来てくれました!

その後一緒に食事をしたのがこちら。

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一人で現地調査(都市部攻略編)

到着の翌日パンちゃんに都市部を案内してもらいました。
するとプノンペン王立大学という立派な大学がありました。庭には日本と同じように暇そうな大学生が沢山いたので

「ここなら都市部のアンケートを取れそうだ!」

と思い早速行動。

まずはパンちゃんに事前に作成していた英語のアンケートをクメール語(=カンボジア語)に訳してもらいました。
そしてそれを王立大学にある無料コピー機を勝手に拝借して40部刷り、内20部を学内の学生に配ることにしました。

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アンケート用紙が完成したら後は当時渋谷のクラブで培ったナンパ力を発揮して学内の暇そうな学生に片っ端から話しかけ、5時間程で20部を回収。

話しかける際に「俺日本人でさ…」と言うと「え、カッコいい!」と言われるのが新鮮でした。ヨーロッパで日本人って言っても「ふーん」なのに。​

余談ですが翌朝詐欺に引っかかった話がこちら。

一人で現地調査(貧困地域攻略編)

さて、都市部はクリアしたので次は貧困地域(=農村部)です。パンちゃんにいい感じの貧困地域を知らないか聞くと

私プノンペンから出たこと無いから全く分からないわ…

とのこと。ここら辺も日本とは感覚が違いますね。東京から出たことない都内の大学生なんていないでしょう…

とりあえず行先を決めないと話にならないのでもう一度王立大学を徘徊し、先生っぽい人に聞いてみました。

「ここから近くにある農村部を知りませんか?僕は今からそこに行きたいんです。」

「なんでそんなところに行きたいの?」など色々聞かれた後にメモ用紙に地名を二つ記載して渡してくれました。今いるプノンペン郊外にある農村部の地名の様です。(クメール語で読めなかった…)


とりあえず行先は決まったので道にいた暇そうなトゥクトゥク(東南アジアによくあるバイクと自動車の中間的な乗り物)のドライバーに声をかけ丸二日僕のガイドをしてくれるように交渉。
メモを見せて今日と明日で一か所ずつ回ってくれることになり早速出発。

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痩せた!?!?笑
理由は分からないのですが途中で乗り換えさせられたり。


さて、今自分がどこにいるのか分からない状態でそれっぽい場所に到着しました。すると確かに高床式住居に人が住んでいました。

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一口に高床式住居と言っても色々ありそうでした。
ただとりあえずこれを実際に目の当たりにした僕の感想は

「・・・なんで浮いているの?」

の一言に尽きます。


ただ今はこの知的好奇心を抑えてアンケートを取らなければいけない状況、でないとこの高床式住居の研究させてもらえないですしね。


という訳で片っ端から家にお邪魔してアンケートを渡して記入してもらいあっという間に20部達成!!!



とはなりませんでした。笑


実は僕がこの村で話した人は誰一人として字が読めなかったのです。

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いや~甘かった…たしかに途上国の識字率は…みたいな話聞いたことありましたがすっかり忘れてました。笑

しかし人生で始めて字を読めない人と会った衝撃はいまだに覚えています。自分の常識が常識じゃなかったことに気付かされた瞬間でした!

途方に暮れましたが何とかするしかありません。ありったけのジェスチャーでアンケート内容を伝えようと試みましたが、例えば年齢をジェスチャーで表現するのは至難の業でした。

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するとトゥクトゥクドライバーが困り果てている僕を見て「俺が訳そうか?」と神提案してくれました!笑

トゥクトゥクドライバーは英語もクメール語も話せたのでめっちゃチップ渡してフル活用させて頂きました!

同じことを翌日も別の村で行い20部の貧困地域のアンケートを回収完了。四泊五日で目的を達成して帰路に着くことが出来ました。

ちなみに貧困地域では僕のような異国民が珍しいらしく真っ裸の子供や犬がいつの間にか僕の後を付けてきて行列が出来てたり、最後は村で噂になったのか家主の方から僕に協力を申し出てくれるようになってました。笑

これは憶測ですが、観光が盛んな都市部の人の方が貧困地域の人より心が貧しくて物乞いしてくるのではないかと思います。僕も都市部では結構たかられましたが農村部では一切たかられませんでした。


下の写真は都市部郊外の観光地で物乞いをしていきた8歳の女の子たち。学校の校舎はあるが教科書や鉛筆を買う金が無いから結局行けないそうです。英語は日々の物乞いで覚えたとか。
日本のボランティアは"やった感"を出すためにカンボジアに学校の校舎を建てまくってますが、それだけでは何も解決出来ていないのかもしれないと感じました。

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教授を説得

帰国すると早速教授にカンボジアで回収したアンケートを提出しました。
実はアンケート結果から面白いことが分かっていたのです!

それは、都市部の人と貧困地域の人の所持している家電の違いに関してでした。

アンケ―トの一部で私は

「ラジオ、テレビ、扇風機、エアコン」の所持を聞いていました。

僕の仮説は都市部の人は全ての所持率が高く、貧困地域の人は何も持っていない、又は扇風機やエアコンなど暑さ対策の家電のみ持っている。でした。

しかし!結果は
都市部の人は仮説通り全ての所持率が9割を超えていたのですが、貧困地域の人はラジオ、テレビの所持率は7割を超えていたものの、扇風機やエアコンを持っている人はほとんどいなかったのです。

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カンボジアは暑いです。故に家電が手に入るならば真っ先に扇風機やエアコンを購入すると思うのは自然考えだと思うのですが見事に裏切られました!

僕は建築の中でも環境学という居住における快適性や省エネなどが専門だったのですが、貧困地域では我々のイメージとは異なり扇風機やエアコンが欲されていないというのは研究テーマの対象となりそうです!

これはあえて危険な貧困地域に行く理由にもなり得そうです!

ということを教授に叩きつけると教授も首を縦に振るしか無かったのでしょう。私がカンボジアの貧困地域の研究を実施することを許可してもらいました!(高口先生ありがとう!!!)

そのせいで先輩の都市部の研究が急遽私と同じ貧困地域の研究に変わっちゃいました。(ともみ先輩ごめんなさい…)でも長い人生の中で途上国の貧困地域に行く機会なんて滅多に無いですから先輩に対しても良いことをしたと思い込んでいます。笑

まぁ僕はもう一人で行っちゃったんですけどね…笑


さて、貧困地域に行けることが決まったので次は研究テーマを決めなければなりません。前章の写真にあった通り貧困地域の人々はたしかに高床式住居で生活を営んでいましたが、高床式住居と言っても色々なタイプがありそうでした。

また、これは後々分かったことでもあったのですが、居住民は自分の高床式住居を増築して段階的に近代的な住居に変化させていました。

という訳で僕の研究テーマは「カンボジア農村部における高床式住居の増築に関する実態調査になりました。

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実証方法

再掲ですが、研究内容と仮説は下記2点です。

・何故カンボジア人は高床式住居に住んだのか?
→床下からの風通しを確保することで暑さをやわらげつつ、洪水から生活空間を守るため。

・何故高床式住居が終わりつつあるのか?
→エアコンや扇風機が一般家庭に普及し暑さを和らげる代替手段を持ったから。また下水道設備が整ったため洪水が少なくなったから。

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僕らは農村部の住居に突撃訪問を繰り返して仮説を立証しよう!ということになりました。



実証結果

noteなので調査・分析過程は無視して結論だけ書きます。笑

実は調査中のインタビューで僕が「この地域って地雷は埋まっていないんですか?」と伺うと「あ~去年そこで一人地雷で死にました」と答えられたのですが研究を中止させられると思い教授には内緒にしていたのです。笑
今考えると何という自分勝手…

※以下は実際に調査した高床式住居の一例

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※以下は研究対象外ですが、水上に高床式住居を建てて住む人もいました!

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※移動手段は桶

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さて、23件の住居に調査を行った結果カンボジア人が高床式住居に住んだ理由が我々の仮説と大きく外れていることが分かりました!(※あくまで私が調査した地域に限る話です)
そしてこれこそがミストランジット現象でした!

その答えは

・何故カンボジア人は高床式住居に住んだのか?
仮説
→床下からの風通しを確保することで暑さをやわらげつつ、洪水から生活空間を守るため。

調査結果
→カンボジア農村部の人は家を持つ前にテレビを持った
そこで家を作ろうと思った時にテレビを観るとタイなど隣国の農村部の映像が流れていた。
その映像に高床式住居に人が住んでいる姿が映っていたので「東南アジアの農村部の家とはこういうものを指すのか!」と思った。
従って、テレビの映像に従って高床式住居を建ててみた。


とのこと。笑

つまり彼らはテレビによって

東南アジアの農村部に建つ家 = 高床式住居

と思いこみ家を建ててみてしまったのです。笑

これこそがまさしくミストランジット現象「途上国が先進国の生活水準に追いつく際にテクノロジーの影響を受けて、先進国とは異なる非合理的な段階を経て最先端の生活水準を得る現象」ではないですか!笑


加えてもう一つの問い

・何故高床式住居が終わりつつあるのか?
仮説
→エアコンや扇風機が一般家庭に普及し暑さを和らげる代替手段を持ったから。また下水道設備が整ったため洪水が少なくなったから。

調査結果
→高床式住居に住んでみた結果、床下空間で十分涼しく生活できることに気付き、むしろ階段を上って床上空間に行くのが面倒になってきたから。
また、この地域には洪水は無かったから。

とのこと。笑

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つまり彼らは高床式住居に住んでみたものの、高床である必要性が無いことに気付いたので辞めたのです。笑


はっきり言いますが、インタビューしててこう答える農村部の人々を見て

「バカなの??」

と正直思いました。笑
ですが冷静に考えると家は自分で建てる物で、かつ高床式住居しか知らないなら、僕もとりあえず高床式住居を建ててみたでしょう。

警察官を知らない人が警察官になろうと思えないのと同じですね。


そして!

この高床式住居が終わり近代的な住居に変化する過程には実は段階が存在していることも調査結果で分かりました!

これを一枚の絵にまとめたのがこちら
※左図がその時の住居形態、右の吹き出しがその時感じた課題です。

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これ…面白くないですか?笑
目の前の課題をひたすら増築によって解決していったのが手に取るように分かります。

そしてこの導き出した段階が人間の欲求に段階があると提唱したマズローの五段階欲求に似ている点も個人的には面白かったです!

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人間の欲求は、たとえ国や時代が違えど置かれている状況によって大きくはズレないということなんですね!

※下の写真は大学の研究チームと協力してくれた現地の学生たち

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おわりに

いかがでしたか?
個人的にはカンボジアの貧困地域で灼熱太陽の下、現地の大学生に通訳をお願いしながら住居に突撃訪問を繰り返すことで仮説が外れていく工程が凄く面白くて卒業から6年経った今でもあの時の光景を鮮明に覚えています。

しかし書いてみて、これは身をもって発見した事実だから面白いのであって他人が文面で読んでも「ふーん」くらいの感想なのかもしれないと思いました。

ググれば何でも分かる時代だからこそ、このような実体験から得た知識は大切にしたいなと思いました!

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ちなみにミストランジット現象とは僕が作った言葉です。笑


サポートありがとうございます! もっと面白い記事を書いていきたいと思っているので、ぜひコメントで率直な意見を頂けると嬉しいです!