見出し画像

英語論文の読み方② 論文を読むための基礎の基礎「明確な意図をもって論文を読もう」

※前回の記事はこちら
英語論文の読み方① 英語論文を効果的に読むために必ず知っておきたい「論文を構成する7つの要素」
https://note.com/kenmrkm/n/na279c142393d

最初から何の苦もなく論文を読める人はそうそういないでしょう。もちろんぼくも例外ではありません。いまから20年ほど前、交換留学先の北アイルランド・アルスター大学(人間栄養学コース)で大量の英語論文を読まなければならなかったときは本当に苦労しました。いちばん困ったのは「分からない文章の意味を教えてくれる人はいるけれど、どうやったら自分一人で論文を読めるようになるのかを教えてくれる人はいない」ということでした。

結局ぼくは、これといった指針なしで膨大な時間を費やすことによって論文を読めるようになっていったわけですが、そうしていくなかで論文を読むためのコツのようなものがあることに気づきました。そのようなコツはまさに、昔のぼくを含めて論文を読めなくて困っている方々や、もっと上手に読めるようになりたいと思っている方々が知りたいことだと思います。

というわけで、現役の人間栄養学者・村上健太郎が、英語論文を上手に読むためのコツをシリーズで解説していくことにしました。この記事では、論文を読むときに絶対に忘れてはいけない最も大事なことを説明します。それは「明確な意図をもって論文を読む」です。

明確な意図をもって論文を読むためには、以下の5つのポイントが大切です。

  • 余計なことを考えずにインプットに専念する

  • 集めたい情報を明確にする

  • 必要な箇所だけを飛ばし読みする

  • 著者の意図を読みとる意識をもつ

  • 前から順番に読むことにこだわらない

それではひとつずつ順番に見ていきましょう。
(この記事は、人間栄養学・栄養疫学分野の論文を想定して書かれています。)


お知らせ:2022年9月に、栄養学研究についての教科書を出版します。本記事に書いてある以上の内容を深く説明して一冊の本にまとめていますので、発売されましたらぜひ一度お手に取ってご覧ください。
基礎から学ぶ栄養学研究 ―論文の読み方・書き方から科学的根拠に基づいた実践まで―』予価3,300円 (本体予価:3,000円)
https://www.kenpakusha.co.jp/np/isbn/9784767962177/


1. 余計なことを考えずにインプットに専念する

ひとつめのポイントは「余計なことを考えずにインプットに専念する」です。たくさんのアプリを同時に使うとパソコンが遅くなるのと同じように、わたしたちも複数の作業を同時にしようとすると効率が落ちます。慣れていない作業ならなおさらです。

論文を読むというのは認知的な作業なので、いつまでも「慣れる」ということはないものです。よって、論文を読むときには論文を読むことに専念するのが最も効率的です。論文を読むときには、論文を読むということ以外の作業を脳にさせてはいけません。当たり前なのですが、これが意外とできないものなのです。

たとえば会話をしているときに、相手の話を聞きながら、次に何を言おうか考えてしまっていませんか? まさしくこれが「二つの作業を同時にする」です。「聞く」に専念しないで「聞く」と「考える」を同時にしています。その結果として「聞く」はおろそかになります。同じように、論文を読みながら「自分はこう思う」とか「それはおかしいだろう」とかいろいろ考えてしまうと、論文を読むことはおろそかになります。どちらの場合もまずはインプットに専念すべきなのです。

インプットに集中せずにアウトプットを考えてしまうというのは、突き詰めると、不十分な情報をもとに自分の中でストーリーを作り上げてしまうということであり、その源泉は先入観です。先入観が強いと、自分の都合に合うように情報を解釈してしまいがちです。そして、いちど自分で解釈できた(理解できた)と思ったものを自力で修正するのはとても難しいです。論文を読んでいるときはたいてい一人なので、誤った解釈を修正できる場面はなかなか訪れません。注意しましょう。

本当の意味でひとつの作業に集中するというのは、意識しないとできるようになりません。というわけで、論文を読むときはいつでも「余計なことは考えずにインプットに集中しよう」と強く意識しましょう。

2. 集めたい情報を明確にする

二つめのポイントは「集めたい情報を明確にする」です。わたしたちは普通、辞書を前からすべて熟読したりはしません。そうではなく、自分が知りたい単語が書かれている箇所だけを読みます。このようにできるのは、知りたい情報が明確になっているからです。論文を読むときも、自分から情報を探していくという姿勢で臨みましょう。自分が知りたい情報が明確になっているならば、そのことが書かれているところを探してそこだけを読めばよいのですからとても効率的です。じつは、この作業を繰り返すというのが論文を読むということにほかなりません。すなわちこういうことです。

論文を読むということ=以下の作業を繰り返すこと

  • 自分が知りたい情報を決める

  • その情報を論文から得る

  • 自分が知りたい別の情報を決める

  • その情報を論文から得る

この作業を効果的に行なうためには、論文特有のルールを知っておくことが必要です。論文は厳密なルールのもとで書かれたものであり、高度に構造化された文章から成り立っています。そのため、何がどこに書かれているかほぼ決まっているのです。論文のルールについては別の記事(英語論文の読み方① 英語論文を効果的に読むために必ず知っておくべき「論文を構成する7つの要素」)で解説しているので、しっかり理解しておいてください。

3. 必要な箇所だけを飛ばし読みする

三つめのポイントは「必要な箇所だけを飛ばし読みする」です。必要な箇所だけを飛ばし読みするように心がければ、集めたい情報をより明確にできますし、また、不必要な情報に遮断されることなく必要な情報のみを集めることに集中できるので、とても効率的です。論文を読むという自分にとって慣れない作業をしているのですから、脳に負荷をかけるもののなかで取り除けるものはすべて取り除きましょう。

4. 著者の意図を読みとる意識をもつ

四つめのポイントは「著者の意図を読みとる意識をもつ」です。二つめ(集めたい情報を明確にする)と三つめ(必要な箇所だけを飛ばし読みする)のポイントはとても重要かつ有用なのですが、これだけでは論文を読めるようにはなりません。というのは、これら二つは、研究の目的や結論、研究方法や得られた結果など「事実の客観的な記述」を理解するには有効ですが、「それ以外のこと」に対してはあまりうまく機能しないからです。「それ以外のこと」とは簡単にいうと「一言では答えられない問題や疑問」で、たとえばこういうものです。

一言では答えられない問題や疑問

  • どの変数(解析)を最も重視しているのか

  • 研究結果をどの程度重大だと思っているのか

  • 研究の長所と短所のひとつひとつをどのように認識しているのか

  • 研究結果の応用可能性をどの程度とみなしているのか

これら、「一言では答えられない問題や疑問」を理解するために必要なのが「著者の意図を読み取る意識をもつこと」です。

論文の著者は誰もが、すべての単語とその語順・配置に意味をもたせようと最大限努力しています。ということは、すべての単語とその語順・配置にこそ著者の意図が反映されているといえます。

例として、三つの研究の限界を記述してあるひとつのパラグラフを考えてみましょう。まず、「ひとつのパラグラフにはひとつのテーマが盛り込まれている」ことが普通ですので、「著者は三つの研究の限界をひとつのテーマとして扱おうとしている」ということが読み取れます。また、「何かを順に並べるとき、たいていは重要なものから並べる」ので、「著者はひとつめに挙げた限界が最も重要で、三つ目に挙げた限界が最も重要でないと考えている」ということが読み取れます。

さらに、使用されている助動詞(mayやmight、canやcould)、形容詞や副詞(likelyやhighly likely)からは、著者の考えや推論の強さを読み取ることができるでしょう。また、文と文をつなげる接続詞(butやwhile)、副詞(howeverやadditionally)からは、著者が前の話題と次の話題のつながりをどのように考えているのかが読み取れます。基本的には、論文に書かれているものすべてが著者の意図を読み取るための有用な情報であると考えましょう。

これらについてより詳しく説明するのは、また別の機会にしたいと思います。ここで強調しておきたいのは、論文のなかの「事実の客観的な記述」以外の箇所は、論文内のすべてを手がかりと考えたうえで著者の意図を読み取る意識をもつことによって読み解こう、ということです。

5. 前から順番に読むことにこだわらない

五つめのポイントは「前から順番に読むことにこだわらない」です。論文は前から順番に読まないといけないと思っているかもしれませんが、そんなことは全くありません。論文のそれぞれの要素は基本的には、独立して読んでも理解できるようになっています。この特性を生かして、今まで説明してきたように、集めたい情報を明確にしたうえで必要な箇所を飛ばし読みしましょう。

これは、論文を全文読む必要はないという意味ではありません。ひとつの論文をじっくりと味わって読むのはとても大切です(特に初心者にとっては)。けれどもそのような場合でも、前から漫然と読むのは避けたいところです。そうではなく、自分が集めたい情報を明確にしたうえで読み進め、それに従って読み進めていたら結果的に全文を読み終わった、というかんじがよいです。このように読んだほうが、かけた時間は同じでも得られるものが大きいと思います。

もちろん、漫然と読むのでなければ前から順番に読むのもよいと思います。要は「明確な意図をもってさえいれば読む順番は何でもよい」ということです。

ちなみにぼくが1本の論文をまるまる読むときには以下の順序で目を通します。

タイトル→図表→引用文献→抄録→方法→結果→諸言→考察

どんな目的意識で読んでいるか、ぜひ想像してみてください(別の機会に詳しく説明するかもしれません)。

まとめ

論文を読むときに絶対に忘れてはいけない最も大事なことは「明確な意図をもって論文を読む」です。そのための5つのポイントは、以下のとおりです。

明確な意図をもって論文を読むための5つのポイント

  • 余計なことを考えずにインプットに専念する

  • 集めたい情報を明確にする

  • 必要な箇所だけを飛ばし読みする

  • 著者の意図を読みとる意識をもつ

  • 前から順番に読むことにこだわらない

かなり抽象的な内容なのですぐに実践に生かすことはできないかもしれませんが、どれもとても大事なものなので、まずは論文を読むときに意識するとよいでしょう。実際にどのように論文を読み進めるかについては、セクションごとに別の記事でお話ししていく予定です。

以上、現役の人間栄養学者・村上健太郎が『論文の読み方② 論文を読むための基礎の基礎「明確な意図をもって論文を読もう」』についてお届けしました。最後まで読んでくださりどうもありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?