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英語論文の読み方① 英語論文を効果的に読むために必ず知っておきたい「論文を構成する7つの要素」

「英語が苦手だから論文を読むなんてむり」なんて思っていませんか? そんなことないですよ!意外かもしれませんが、英語論文を読むためには、基本的な英文法、具体的には、5文型(プラス自動詞と他動詞の区別)が分かっていれば十分です。新聞や小説に比べればずっと平易な英語で書かれている英語論文を読むのはそれほど難しいことではないのです。

英語論文がうまく読めないのは英語力の問題というよりもむしろ、論文がどのように構成されているのかを十分に理解していないせいなのです。論文特有のルールを理解したうえで練習を続けていくことによって、最終的にはすらすらと論文が読めるようになっていった学生さんを実際にたくさん見てきました。なので、正しい方向に努力すれば、あなたも英語論文を読めるようになるのは間違いないです! ただそのためには、きちんとしたやり方を身につけるのがとても大切です。

そこで、現役の人間栄養学者・村上健太郎が、英語論文を効果的に読むために必ず知っておくべき論文特有のルールを解説します。結論からいうと「論文は7つの要素から成り立っていて、どこに何が書かれているのかほぼ決まっている」のです。

それでは早速、論文を構成する7つの要素をご紹介します。なおこの記事は、人間栄養学・栄養疫学分野の論文を想定して書かれています。


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論文を構成する7つの要素

論文は、それぞれ役割が異なる以下の7つの要素から成り立っています。

  1. タイトル:研究の内容を一言で表したもの

  2. 抄録:研究内容のなかで最も大切な要素をまとめたもの

  3. 緒言:研究実施に至った背景と研究の目的を記述するセクション

  4. 方法:研究で用いられた方法を記述するセクション

  5. 結果:研究で得られた結果を記述するセクション

  6. 考察:研究の結果を解釈・考察するセクション

  7. 引用文献:先行研究に言及するときに用いた文献

これらのことを知っているだけで、論文を読むのが楽になるのは間違いないです。では、これらの要素を順番に見ていきましょう。

1. タイトル title

タイトルとは「研究の内容を一言で表したもの」です。論文を構成する要素の中で最も重要なものが、このタイトルです。その証拠に、タイトルは通常、論文の最初に最も大きなフォントで書かれます。下の例では”Data-driven development of the Meal-based Diet History Questionnaire for Japanese adults”というのがタイトルです(文献1)。

タイトル(および非構造化抄録)の例(文献1)

ちなみにタイトルは、PubMedといった論文データベースにも格納されます。そのようなわけでタイトルは、人の目に触れる可能性が最も高い要素といえます。まさに論文の顔ですね。(PubMedについてはまた別の機会にお話しします。)

2. 抄録 abstract

タイトルの次に来るのが抄録です。抄録とは「研究内容のなかで最も大切な要素をまとめたもの」です。抄録に含まれる要素は通常は以下のものです。

抄録に含まれる要素

  • 研究の背景 background

  • 研究の目的 purpose

  • 方法 methods

  • 結果 results

  • 結論 conclusion

抄録の長さには上限があります。雑誌によって異なりますが、通常は200~300単語以内であることが多いです。フォーマットは2種類あり、ひとつは下に示したような「構造化抄録」(文献2)というものです。これは、抄録の中に各要素を示す見出し(文献2では、Objective, Design, Setting, Participants, Results, Conclusion)があるタイプのものです。もうひとつは、上の画像にあるような「非構造化抄録」で、こちらはすべての要素をひとつのパラグラフの中に盛り込んだものです。構造化抄録のほうが読みやすいので、最近はこちらのタイプのほうが増えてきている気がします。

構造化抄録の例(文献2)

3. 緒言 introduction

抄録の次に来るのが緒言セクションです。通常は緒言セクション以降を「論文の本文」とみなします。緒言は「研究実施に至った背景と研究の目的を記述したセクション」です。緒言に含まれる要素は通常は以下のとおりです。

緒言に含まれる要素

  • 研究の背景

  • 先行研究のまとめ

  • 先行研究の問題点

  • 研究の目的・仮説

緒言の長さには制限がないことが多いですが、2~5パラグラフ程度で構成されるのが普通です。記述の仕方にもかなりの裁量が認められているので、緒言セクションは比較的自由度の高いセクションです。ただし、緒言セクションの最後の部分に研究の目的・仮説を記述するというのはかなり普遍的です。

4. 方法 methods

緒言セクションの次に来るのが方法セクションです。方法セクションはその名のとおり、「研究で用いられた方法を記述するセクション」です。実際に行なったことが記述されるので、基本的には事実の記述に終始します。論文の中で最も読みやすいセクションだといえます。方法セクションに含まれる要素は通常は以下のとおりです。

方法セクションに含まれる要素

  • 研究デザイン

  • 対象

  • 測定法

  • 統計解析

方法セクションの長さには制限がないのが一般的で、すべてのセクションで最も長い場合が多いです。また、見出しを使ってそれぞれの項目や内容が分離して書かれることが多いです。必要に応じて図や表が使われることもあります。ちなみに、文献2の方法セクションでは、以下のような見出しが使われています。

方法セクションの見出しの例(文献2)

  • Study procedure and participants(研究の手順と研究参加者)

  • Dietary assessment(食事評価)

  • Definition and creation of eating pattern variables(摂食パターンに関する変数の定義と作り方)

  • Assessment of basic characteristics(基本特製の評価)

  • Analytic sample(解析に含まれたサンプル)

  • Statistical analysis(統計解析)

方法セクションでは、その研究に関係のないこと、より明確には、次に来る結果セクションに関係のないことが記述されることはありません。その意味で、方法と結果のセクションは対になるものといえます。

5. 結果 results

方法セクションの次に来るのが結果セクションです。結果セクションはその名のとおり、「研究で得られた結果を記述するセクション」です。実際に明らかになったことが記述されるので、基本的には事実の記述に終始します。論文の中でも比較的読みやすいセクションだといえます。結果セクションに含まれる要素は通常は以下のとおりです。

結果セクションに含まれる要素

  • 対象者特性

  • メインの解析を補足・解釈するための解析

  • メインの解析

結果セクションの特徴的な点は、図と表を用いてデータを示すところです。それぞれの図表がひとつひとつの項目や内容を示すことが多いです。ちなみに、文献2の論文における「対象者特性を示す表」はこんなかんじです。

対象者特性を示す表の例(文献2)

結果セクションの長さには制限がないのが一般的ですが、できるだけ簡潔な記載が望まれます。たとえば、図表ですでに示されていることを文章で繰り返すのは避けるべきとされています。そのため、すべてのセクションの中で最も短い場合もあります。

6. 考察 discussion

結果セクションの次に来るのが考察セクションです。考察セクションは、「研究の結果を解釈・考察するセクション」です。考察セクションで記述される内容は以下のとおりです。

考察セクションに含まれる要素

  • 研究結果の要約と意義

  • 研究結果の解釈

  • 先行研究との比較

  • 研究の長所と限界

  • 結論

考察セクションに書かれる内容は幅広く、推論や予想なども含むので自由度も高いです。そのため、理解するのが難しいこともあります。そのため、考察セクションの長さには決まりはないことが多いです。

7. 引用文献 references

考察セクションの次に来るのが引用文献です。引用文献とは、緒言・方法・結果・考察の各セクションで先行研究に言及するときに用いた文献のことです。引用文献はつまり、その研究を構築するために必要とされた過去の研究成果であり、科学論文に必須の要素です。

引用文献の例(文献2)

オンライン資料 supplemental materials


今までに紹介した論文を構成する7つの要素以外に、オンライン資料があります。論文には、単語の総数や図表の数に制限があることが多いです。そのため、論文上で示すことができなかった詳しい方法論の記述や、補足的な解析結果を示した図表などが、補足資料としてオンライン上で見られるようになっている場合があります。ただし、オンライン資料を参照しなくても論文自体を理解できるようにしておくのが基本的なルールです。


まとめ

このように論文は、それぞれ役割が異なる7つの要素から成り立っています。そのため論文では、どこに何が書かれているのかほぼ決まっているのです。

論文を構成する7つの要素とその役割

  • タイトル:研究の内容を一言で表したもの

  • 抄録:研究内容のなかで最も大切な要素をまとめたもの

  • 緒言:研究実施に至った背景と研究の目的を記述するセクション

  • 方法:研究で用いられた方法を記述するセクション

  • 結果:研究で得られた結果を記述するセクション

  • 考察:研究の結果を解釈・考察するセクション

  • 引用文献:先行研究に言及するときに用いた文献

これらのことを知っているかどうかによって、論文の読み方が大きく変わってくるはずです。ここで学んだ知識をぜひ論文を読むときに活かしてください。

以上、現役の人間栄養学者・村上健太郎が『英語論文の読み方① 英語論文を効果的に読むために必ず知っておきたい「論文を構成する7つの要素」』についてお届けしました。最後まで読んでくださりどうもありがとうございました。

文献(PubMedへのリンクあり)

  1. Murakami K, Shinozaki N, McCaffrey TA, Livingstone MBE, Sasaki S. Data-driven development of the Meal-based Diet History Questionnaire for Japanese adults. Br J Nutr. 2021;126(7):1056-1064.

  2. Murakami K, Livingstone MBE, Masayasu S, Sasaki S. Eating patterns in a nationwide sample of Japanese aged 1-79 years from MINNADE study: eating frequency, clock time for eating, time spent on eating and variability of eating patterns. Public Health Nutr. 2022;25(6):1515-1527.


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