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アフターデジタルな世界への理解が新しいイノベーションへと繋がる

日頃仕事で「ユーザー体験(UX)をきちんと考えないと!」なんて話を知ったふうにお客さんにしていますが、いつも付け焼刃の知識で誤魔化しているので、UX Designについてきちんと体系的に学びたく学校に通う事に。
Xデザイン学校:https://www.xdesign-lab.com/

月に1回、全10回で2020年の2月までのコースなので、学んだ事の中で気になったポイントに絞ってnoteにまとめていきたいと思います。

Xデザイン学校ベーシックコース 08 / 2019年12月21日(土)

Xデザイン学校8回目。今回は「プロトタイピング」の授業を振り返ろうと思っていたのですが、基本的に手を動かす作業がメインの授業だったので、前から先生にお勧めされていてやっと年末に読むことが出来た「アフターデジタル」と絡めて、2020年に必要なサービスデザインに対する考え方について思索してみたいと思います。

アフターデジタルとは何か?

まず、アフターデジタルをまだ読んでない方の為に少し引用しながら内容をご紹介します。

【日本企業から先進的な中国企業への質問】
「オンライン企業である御社が、なぜオフラインの無人コンビニを展開する必要があるのでしょうか。O2O戦略があれば教えてください」
※ O2O = Online to Offline

【中国企業の回答】
「もうO2Oの時代ではありません。店舗というリアルチャンネルであっても、ユーザーの行動のすべてをデータとして取得できる時代です。我々にとってはモバイルもPCもコンビニも、ただのユーザーインターフェースでしかありません。(中略)
顧客は『オンラインとかオフラインとか』いちいち考えておらず、その時最も便利な方法で買いたいだけなので、我々は様々な選択肢を提供する事が大事だと思っています。そのために無人コンビニも展開しているのです」

突然この文章を引用して紹介してもピンと来ないと思うのですが、アフターデジタルでは様々な中国企業のビジネスを紹介しながら、O2Oに続く「デジタル×現実」世界の概念としてOMO(Online Merges with Offline)を説明しています。OMOとは言葉の通り「オンラインとオフライン(現実)が溶け合って混じり合った世界」の事で、O2Oの様な「現実があった上でオンライン(デジタル世界)がある」という考えの更に進んだ世界観になります。

イメージとしてはこんな感じです。

【O2Oの世界観】
主として現実世界があり、そこからアクセスする先にデジタル世界がある。

【OMOの世界観】
デジタルが現実世界を内包しており、デジタルと現実の境界線が無くなった世界。

「デジタルが現実世界を内包している」というのも良く分からない概念だと思うのですが、あらゆる個人情報(デジタル決済、顔認証、アプリなどを通した行動データ)がインフラとして流通している中国では、ECサイトを訪れたユーザーが「どのページを○○秒見て、次に○○ページに遷移して、最終的にコンバージョンまで辿り着いた」という様な、今までデジタル世界でしか出来なかったユーザーの行動分析が、現実世界でも出来る様になってきている、と書かれています。

現実世界の行動もオンライン上での行動も関係なく、全ての行動がデジタル化され企業(社会)に把握されている世界の事を「アフターデジタル」と表現しており、この感覚は「O2Oって何の略だっけ?」レベルの私の様な日本人ビジネスマンにとってはしっかりと腹落ちして理解するのがかなり難しいです。

プロトタイピングの授業中に先生から受けた指摘

ここで少しXデザイン学校の授業の話をします。今回の授業では付箋とA4用紙を使って簡易ストーリーボードを作成し、そこからワイヤーフレームを手描きしながら「考えているサービスがユーザー体験としてスムーズなものになっているか?」「本質的なニーズ満たすサービスになっているか?」を検証していく、ペーパープロトタイピングを行いました。

こちらの具体的な手法に関しては私が説明できる程理解出来ていないので
https://techlife.cookpad.com/entry/2016/10/12/110000
https://uxmilk.jp/75270
このあたりの記事を読むと、だいぶイメージが出来るかと思います。

そして、私が所属するグループのアウトプットはこんな感じになりました。

ストーリーボードを書いたり、WFを手描きする過程で「このサービスのコアになる部分ってどこなんだ?」とか、抜け漏れていた「あっ、この導線も必要だね!」みたいな部分に気づくことが出来てとても面白かったです。(実務でもこのプロセス取り入れていきたいなぁ)

そんな授業中、先生が再三「インターフェースはスマホだけじゃないのよー!」と呼び掛けており「うちのグループはたまたまスマホだけじゃなかったラッキー!」位に思っていたんですが、アフターデジタルを読んでみたら、このアフターデジタル的な世界観を理解出来ていないからこそ「サービス企画=スマホアプリを作る」という固定概念に囚われてしまいがちなのかな?と思い、今このnoteを書いています。

「デジタルトランスフォーメーションだ!新しいサービスを考えないと!=スマホアプリだよね」って、考えてみると完全にO2O的な発想ですよね。現実世界がまずあって「デジタル=スマホ」がある、という固定概念の元にサービスを考えてしまっている状態。

OMOの世界では現実とオンラインが融合していくので、PC、スマホ、タッチパネル、顔認証、リアル店舗も全て同じサービスと顧客が接触するインターフェースのひとつになります。こういう意識があれば、ここまでスマホに囚われた発想にならなかったのかな?と。

ローカルでアナログなビジネスに今後可能性が全然無いとは思いませんが(2極化していく中でむしろ増えていく)、今学校でやっているのは世界的な認知度のある一部上場企業が展開する新サービスを企画するというお題なので、デジタルデータを活用したOMO的なビジネスの発想は必要不可欠なのかもしれないな、とアフターデジタルを読み終わって感じました。

デジタル化により向上する中国人のマナー

ここまでの流れとは毛色が違う話なんですが、アフターデジタルの中でとても面白いな!と思った部分について少しだけ。現在中国では「ジーマ・クレジット」と呼ばれる「個人の支払い能力を可視化した信用スコア」が存在し、「個人特性」「支払い能力」「返済履歴」「人脈」「素行」を軸にAIによって個人が採点される仕組みがあるそうです。

ジーマ・クレジットが高いと海外渡航ビザの取得プロセスが短くなったり、賃貸物件を借りやすくなる、婚活でモテる… といったメリットがあり、信用スコアが高い人だけが加入できる保険についても本の中で言及されています。

なんとなくこの「信用スコア」というのは聞いた事があったのですが、そのスコアがある事で中国社会全体のマナーが向上し、おもてなし社会化しているという内容を読んで、科学技術の発展が人の生き方、社会の在り方を変えつつあるというのはとても興味深い現象だなと感じました。

ウーバーの評価システムを説明しましょう。ウーバーでは、ドライバーと乗客の相互評価が基本です。乗客は、ドライバーの運転マナーや乗り心地、接客態度を評価し、ドライバーは乗客が悪い客でなかったかどうかを評価します。中国でこれをやるとどうなるかというと、「5元をあげるから、俺に5点の評価をくれ」というワイロが発生するでしょう。

こちらもアフターデジタルからの引用なのですが、中国人という国民性をとても端的に表現していると思います。簡単に言えば「自分の得になる事に対して最短の道を選ぶという感じでしょうか?きちんと運転して乗客に評価して貰うより、乗客をワイロで買収した方が早いよね!という発想です。(日本人との国民性の違いを感じますね)

そんな中国で高く評価されているディディというタクシーの配車アプリは、ウーバーとは全く違う考え方で運転手を評価しています。それは「配車リクエストに対する応答時間」だったり、GPSとジャイロセンサーを活用した「安全運転をしているかどうか?」といった、買収しようのない客観的な評価です。

中国人は自分達の特性を非常に良く理解した上でサービスを設計しているんだな!という驚きと、サービスがユーザーに提供する本質的価値(タクシー配車アプリの場合は「安心して素早く目的地に辿り着けること」)に直接結びつく部分に絞って運転手を評価する、という仕組みに考え抜かれた巧妙さを感じます。

「デジタル化により向上する中国人のマナー」と書きましたが、今まではズルをしたり、ちょっと悪い事をした方がメリットの多かった中国社会において、信用スコアといった個人の行動履歴の評価により「善い生き方をした方が得」という社会に変化し、人の生き方が変容して来ているというのはとても面白い話です。

革命的な出来事?

人類の歴史は「権力を持った人間が如何に持たざる者たちをコントロールするか?」の試行錯誤の積み重ねだと思っています。

・王政
→ 権威、武力、経済力によるコントロール
・宗教
→ 権威、神秘、道徳的なコントロール
・金融資本主義
→ お金によるコントロール

大袈裟かもしれませんが、中国で起きている「データ資本主義」による個人の生き方、社会の変革は、これに続く新しい人間の導き方だな、と。

宗教の時は「悪い事をすると地獄に落ちるよ」と言っていたものが、データ資本主義になったら「悪い事をすると信用スコアが落ちてモテないよ」になる訳です。

「悪い事をすると地獄に落ちるよ」は地獄を信じてない人には効果が無いですし、罰が下されるまでの時間が長いため「今この瞬間の行動」に対する抑止力が弱いです。でも「悪い事をすると信用スコアが落ちてモテないよ」は、ほとんどの人にとって嫌な事ですし、罰もすぐ下される為、今この瞬間の行動に対する抑止力も非常に強い。

これって、OMOでデジタルと現実が溶け合ってますます社会が便利になるよ!という話だけでなく、リアル「お天道様が見てる」の実現により新しい人間社会の管理方法が生まれたというお話しで、人類史的にも革命的な出来事なのでは??ととても興奮しました。いやー、中国面白いなぁ。そりゃあトヨタも自分で実験都市作るわな。
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次回のXデザイン学校は「ユーザー評価法」をやります。早いもので残すところあと2回!最後まで楽しく多くの事を学んでいきたいです。

自分用アフターデジタル備忘録
・減点方式ではなく、良い事をし続けるとメリットがある加点方式
・それは買い手と売り手にどんなメリットがあるの?
・いかに高頻度低価格でユーザーのタッチポイントを多く生み出して、データを取得できるかどうか?
・取得したデータをフル活用し、プロダクトとUXをいかに高速で改善できるかどうかが競争原理になる
・OMO型のビジネス発想はRPGゲームによく似ている
・日本の武器は「意味の無い事への異常な情熱」「ユニークな文化」「ある種のあたたかさ」
・属性ターゲティングではなく状況ターゲティング

 

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