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ドラえもんからの学び

幼少期、いわゆる「勉強」というものを全くと言っていいほどやらなかった私が、どのように学力を身につけていったか、何をしていたことが学力につながったかについてお話ししようと思います。

幼少期を振り返ってみるとそのようなものがいくつかあるのですが、まず今回は国民的作品である「ドラえもん」からの学びについての話です。

人生における大事なものの半分くらいはドラえもんから学んだ」そう言っても良いくらい、後から考えても幼少期に多くのことを学ばせてもらいました。

世の中にはどんな人がいて、人とはどんなものなのか。

世の中にはどんなことがあって、世の中とはどんなものなのか。

そして生きていく中で大事なことは何なのか。

幼い頃、まだ知識が体系化されずぼんやりとしか世の中のことを理解できていない中で、そのようなことへの理解の土台を築いてくれたような気がします。

もちろんその後も様々な漫画と出会うわけですが、自分の人生に影響を与えた量を考えると、ドラえもんに比肩できる作品はありません。

私自身、幼い頃から本というものはよく読んでいましたが、図鑑だったり名鑑だったりといった資料性の高いものがほとんどで、文章だけの本を読むような読書の習慣がありませんでした。そんな中、唯一物語性のある本として読んでいたのが、ドラえもんの単行本だったわけです。

鳥山明先生の出世作である「Dr.スランプ」も姉の影響で幼稚園児の頃から好んで読んでいましたが、この作品は娯楽性がより強いので、人生に影響を与えたというよりは単純に楽しんでいた感じですね。

中学高校時代は普通の学生らしく、当時500万を超える発行部数を誇っていた「週刊少年ジャンプ」の漫画を中心に読んでいたので、ドラえもんへの愛情はさすがに突出したものではありませんでしたが、それでも高校時代、大学で「ドラえもん学」なんかがあるなら学んでみたいなあなんてことを周りの友達に話していました。

そのことは実現しませんでしたが、私が大学を卒業した年である1999年、実際に「ドラえもん学」を提唱し、とある大学で授業をされていた方もいらっしゃったようです。

それだけ研究に値するような、もはや古典的名作と言って良いのではないでしょうか。


ドラえもんについて多くを語る必要はないと思いますが、私がハマるまでの流れも含めて簡単に説明していきます。

1969年に漫画連載がスタートし、1973年に1度目のテレビシリーズの放送が始まっています。この時は日本テレビ系列で放送されており、半年で終了しているようです。ちなみにその半年の中でドラえもんの声優は1度交代しており、2代目の声優はあの声優界のレジェンドである野沢雅子さんです。

連載当初は今のような大人気作品ではなかったようですが、1974年、単行本が発売された後に人気作品となり、1979年に2度目のテレビシリーズの放送がテレビ朝日系列でスタートしてから、今のような国民的作品になっていきます。

1975年生まれの私はその2度目のシリーズにがっつりハマることとなります。6歳上の姉がすでに単行本も19巻まで集めていたこともあり、単行本の方も幼稚園に入る前から読み始め、20巻からは私が集めていくことになりました。

当時の私がどのくらいハマっていたかを表すエピソードを1つ。

1979年からのテレビシリーズは今のような週1回30分の放送ではなく、私の住む関東地区では月曜から土曜日まで18時50分〜19時までの10分の帯番組でした。それに加えて日曜日の朝8時30分〜9時まで30分の放送もありました。

当時の私はもちろんそれを全て観ていたわけですが、今と比べて情報摂取量の少ない時代ですから、日常の中におけるドラえもんの占める比率がとんでもなく高かったことになります。

幼少期から遅寝遅起きだった私も、日曜日の放送は時間も長く、特に楽しみにしていました。まだ録画という習慣がそれほど一般的でない時代だったこともあり、毎週リアルタイムで観ていました。

そして幼稚園に入園後、そんな私の楽しみを邪魔するイベントが登場します。

運動会です。

当時は世間的に週休1日ですから、運動会は日曜日です。もちろん朝から出かける必要があります。

そこで私がとった行動は…

運動会のボイコット!

正確には運動会序盤の種目へのボイコットです。9時の放送終了までしっかり観てから支度をし、10時くらいの種目から参加した記憶があります。

三つ子の魂百まで」と言うように、これが私の本質なのでしょう。皆と同じことができない子供でした。親や先生には本当に迷惑をかけてしまったと思います。

小学生になってから集団の中においてはその傾向が弱まり、中学時代には完全に真逆の人格になっていました。このエピソードに関しても、おそらく最も驚くのは中学時代のクラスメイトなのではないかと思います。

私自身、様々な能力値のバランスが時期によって大きく変化するのですが、中学時代が最もバランスが良く、こんな一面を全くと言っていいほど見せていなかったので。

この先、年をとって自制心が弱くなった頃に、またこんな感じのワガママが出てしまうのかと思うとちょっと怖いです。今のうちに徳を積んでおきたいところ。逆にどんどんそういう面を見せて、周りの耐性をつけておくという手もありますが。


ここまで「学び」とはズレた話をしてきましたが、ここからがドラえもんからの「学び」についてです。


ご存知の方も多いかもしれませんが、ドラえもんという作品は小学館が出版する様々な雑誌に連載されていました。

「よいこ」「幼稚園」「小学一年生」「小学二年生」「小学三年生」「小学四年生」「小学五年生」「小学六年生」「てれびくん」といった雑誌です。

それとは別にアニメ映画の原作となる大長編ドラえもんと呼ばれる作品が「コロコロコミック」で連載されていました。

乳幼児向けから小学校高学年向けの雑誌がありますので、作者の藤子・F・不二雄先生(以下藤本先生)はそれぞれの雑誌に合わせて、内容を書き分けていました。

低学年までの作品はドラえもんが出す秘密道具の楽しさを描き、学年が上がるごとに道具を使ったことでのしっぺ返し、そしてそこから生まれる後悔や反省といった心情が描かれていきます。

最終学年の6年生向けの作品では、自立や成長がテーマとなる作品も出てきて、藤本先生からの人生訓を授けられているようなものと言えるでしょう。


そして単行本は、多くの連載漫画の単行本の作り方とは異なり、藤本先生自らが選んだ作品を収録しています。おそらく話の性質や学年のバランスを考慮した選定をして、1冊の中の内容やレベルが偏らないようにしているのでしょう。

そのことが私の学力に大きな影響を与えることになったのだと思います。単行本を読むことによって、普段の生活の中で全く興味のないことや、明らかに自分の年齢よりも上の内容に触れることとなり、完全に理解できないとしても、頭の中に多様な価値観、様々な知識が根付いていったことは間違いありません。


こういう作品との出会いが無く、年齢よりも感覚が幼い子にドラえもんの単行本を使って授業をしたことが何度もあります。国語的なことだけでなく、算数、理科、社会にも繋がるような、また学校では学ばないものについて科目横断型のような授業が、ドラえもんを題材にしてできるわけです。

生徒が知らなそうな言葉や話題を作品中からピックアップして、それに関連する幅広い内容の講義をしたり、感じたことのないであろう心情について丁寧に一緒に考えていったり。

やはりその効果は顕著で、漫画も含めて読書の習慣が無かった子もドラえもんだけはすぐに読み出すようになることもありました。そして作品中に出てくる状況と同じような状況をリアルな生活の中で経験した時に、「気づき」というものが生まれているはずです。それが人間的な成長につながっていくのでしょう。


これだけの影響を与えてくれる作品なわけですが、この作品自体、藤本先生が自分の人生を捧げるものとして作っていったと聞いています。

ドラえもん連載以前に「オバケのQ太郎」や「パーマン」といった娯楽性の強い作品で人気を博した藤本先生でしたが、それらの作品では描ききれないもの、一漫画家として伝えきれないものを伝えられる可能性をドラえもんに見出したのでしょう。

そのような作品ですから、やはり読み返す度に新たな発見があります。出てくるキャラクターの年齢にも幅があり、また話によって主役となるキャラクターが変わることもよくあるので、読んだときの自分の年齢やそのときの状況によって伝わるものが変わるのだろうと思います。

そしてこの作品の舞台は「ドラえもんがいること」以外は何気ない日常です。

子供は学校に遅刻をし、先生に叱られ、テストの出来に一喜一憂し、家に帰れば宿題に追われつつ、遊びにも一生懸命。

パパは仕事で忙しく、帰りには飲みに繰り出し、休日はゴロゴロしていることもあればゴルフに出かけることもある。

ママは家計簿をつけながらため息をつき、子供のテストや宿題に気を配り、生活全般に対して子供を叱ったり。そんな中でも美容に気を使っていたり。

そんなありふれた日常が舞台であることが、直接的にも間接的にも「学び」につながるのだと思います。


お子さんはもちろん、子供の頃は読んだことがあるけど……という大人の方も含めてぜひこの機会にドラえもんをお読みになってみてはいかがでしょうか。コンビニに置いてあるようなテーマ別に作られたものではなく、藤本先生がバランスを考えて収録作品を選んでいる単行本の方がオススメです。

お子さんのタイプによっては、ちょっとオススメしにくいケースもあります。わからないことがあるときにそれがストレスになってしまうようなタイプの子。今はわからなくても良いことがある、そういうこと自体がまだわからない子のように、すぐに白黒つけたがるような性格の子は読ませる時期を考えた方が良いかもしれません。


単行本以外に、何やら「100年ドラえもん」という豪華愛蔵版も近々発売されるようですね。ステマではないです。笑



オススメがもう1冊。


これは漫画ではないのですが、「ドラえもんで英単語[ドラ単]」という英単語集です。

子供の頃は気付きませんでしたが、ドラえもんという作品は、よく見るとひとコマひとコマの絵がものすごく面白いことに気付かされます。

この単語集ではそれぞれの英単語の意味に関連したドラえもんの漫画のひとコマが掲載されています。「beautiful」という単語のところには有名な「きれいなジャイアン」のコマが載ってたりします。

英語の勉強にどれだけ有効なのかは個人差があると思いますが、ドラえもんファンなら目を通しておくべき1冊と言えるでしょう。


最後に、大人になってから出会ったドラえもんの話の中で特に驚いた話

ドラえもんの通常の単行本に未収録の作品が「ドラえもん プラス」として5巻まで発売しているのですが、2005年に発売された第1巻に収録されている「きらいなテストにガ〜ンバ!」という作品があります。

話の概要としては、テストに対して「怠けようとする心」と「頑張ろうとする心」が具現化する(それぞれの心を持った小さいのび太が生まれる)道具を使ってのび太を頑張らせようとしたものの、「怠けようとする心」の方が強く、「頑張ろうとする心」は格闘の末に負けてボロボロになってしまう。

しかし「頑張ろうとする心」を持った小さなのび太がボロボロになりながらも勉強に取り組み始める。

そんな姿を見たドラえもんは

「けなげなやつだなあ……。」

これをけさないように根気よくそだてていかなければ……。

と語って話が終わります。

もちろん「これ」というのがのび太の頑張る心を表しています。

私が生徒を指導するにあたって大切にしてきたことがそのままドラえもんのセリフになっていたことに驚き、それと同時に嬉しさのようなものも感じました。

藤本先生と同じようなことを考えられてたんだなと。

この作品を読んだ当時は仕事として家庭教師だけをしていたわけですが、まさにこのことをいつも意識していて。

家庭教師をつけて教わるということがいろんな意味でどれだけハードルの高いことか。また他の教育サービスでどうしてもうまくいかなかった方が最終手段としてプロ家庭教師をつけるという選択をされることも多く、初めて会った時点でやる気の火が消えかけてしまっている子も少なくありませんでした。

そんな子達を見ていつも考えていたのがドラえもんの言っていたあのセリフとまさに同じことなのです。

すぐに結果が出なくても、こちらが試行錯誤を重ね、生徒本人にも試行錯誤を重ねさせ、とにかくやる気の火を消すことの無いように細心の注意を払いながら、生徒とともに成長していく。

自分のそんな思いが間違っていなかったことを、ドラえもんから、そして藤本先生から教えてもらえたような気がしました。


これからもいろいろな「気づき」が与えてもらえることを期待しつつ、ドラえもんと末長く向き合っていこうと思います。





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