time

 ぼくは芦ヶ久保のカフェで暫し休息を取っていた。カフェはオークで作られ、山小屋をイメージしているらしく、古風な暖炉が店中を暖めていた。

 外は見事な雪化粧に覆われ、雪が陽光を反射してぼくの座っている席の真横にある窓が白むほど照り輝いていた。

 木製のスツールの座り、温かいコーヒーを飲んでいる。目の前には背の低い木製の丸机があり、その上で読みかけの長編小説が伏せた状態で、そして氷の入った水がガラスのコップの中でじっとしている。

 店の中は暖炉が時折パチパチとその大きな口の中で燃料を燃やす音のほかなにも聞こえないほど静かである。

 コーヒーの湯気がぼくの目の前であがっている。やがて煙はぼくの目の前、やがて額よりも少し高いところまでゆっくりと伸び上がると、思い出したかのようにフッと消えてしまった。

 突然、グラスの水がカランッと音を立てた。あまりに唐突のことでぼくは驚いたが、それはほとんど停止してしまっていた時が緩やかに再始動する音であることを知った。

 再び中の氷が崩れて小気味良い音を響かせた。コップの中では水の表面がグラグラと揺れており、小さなあぶくがいくつか立った。

 やがて水面が落ち着くと再び静寂が訪れ、湯気と暖炉の炎がひたすら揺らめいていた。

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