自分以外のもう一つの明日

親から子へ。
子から孫へ。
リレーのバトンのように想いが託されていく。
それは、親から別の親へ、親から婿や嫁に想いが託されていくのも同じだ。
リレーのようにバトンが渡されていく。
人から人へ時代を超えて想いが託されていくのだ。
瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』を読むと、そのような「想いのリレー」に感動してしまう。

中でも私がお気に入りなのは、森宮さんという男性の登場人物だ。
主人公の親として自分なりに精一杯頑張ろうとするのだけれども、いつも空回りしてしまう。
周りの人とズレているためかTOPをわきまえない、自分勝手なところがある。
そんな森宮さんも、主人公のために父親として一生懸命振る舞おうとする。
主人公というバトンを託された以上、責任を持っているのだ。

主人公が森宮さんの元を離れる時、森宮さんは真剣になる。
ネタバレになるのであまり書けないが、主人公と一緒になる相手に強く当たる。
親バカなのかと思うけれども、実はそれだけではない。
相手は大事なバトンを託す人物たるのか、それをはっきりさせたいのだ。
森宮さんも他の人から想いを託されたのだ。
森宮さんが他の人に想いを託すとき、託せるだけの相手なのか慎重に見極めたいのだと思う。
それだけ森宮さんは主人公のことを大切に想い、親としての責任を持っている。

想いを託す。
想いを託される。
言葉では簡単に聞こえるけれども、実はものすごい大きな覚悟が必要だと思う。

この作品で私が好きな言葉がある。

「明日が二つ」
「自分の明日と、自分よりもたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって」

親になる。
大切な人ができる。
愛する人ができる。
そうすると、自分のための明日以外に、もう一つ別の明日がやってくる。
自分とは違った可能性を持つ明日がやってくる。
明日が増えるのだ。
これは、自分一人では決して生まれることはないと思う。

大切な人を託される。
覚悟が必要な分、それ以上に幸せなことが起きる。
明日が増えるのだ。
未来が増えるのだ。
バトン渡されて、想いが託されて、未来がつながって。
こうして人の想いは永遠に続いてくのだと思う。

瀬尾まいこさんの作品はそんなことを考えさせてくれる本だった。

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