『アはアーケードのア』 第14回『ゼビウス』(1983年/ナムコ)
ゲーム史において時計の針を大きく進めた作品
地上と空中を撃ち分けて進んでいくゲームシステム、無彩色のグラデーションで表現されたメカニック、絵巻物のように進んでいく背景、神秘的なSE、バックストーリーを感じさせる謎めいた世界観と数々の隠し要素……『ゼビウス』はその後のビデオゲームに大きな影響を与えた黎明期の傑作です。
『ゼビウス』を初めてプレイしたとき、じつに不思議な気持ちになったことをよく覚えています。最初に飛んでくるトーロイドの幾何学的なデザイン、敵の撃破音とは思えないきらびやかなSE、こんな映像がビデオゲームでできるのかという衝撃。ゲームの世界に何が起こったんだという感覚すらありました。
見事に使い回されたスクロールマップ
また驚いたのが、スクロールマップの使い方です。ゲーム序盤でナスカ地上絵の一部分が、画面横の端の方にチラリと見える。印象的なものが背景に描かれているなと思いながら進むと、ずっと後になってからその全貌が見える。画面いっぱいに広がるその地上絵は、当時とてつもなく巨大に見えました。
遊んでいて、最初は「巨大な一枚のマップを少しずつずらして繰り返し使用している」ということがわからなかったのですが、その仕組みを理解したとき、そういうことかと感銘を受けました。
繰り返し利用された同一地形でも、ずらして使われたときには、地上ターゲットの配置は変わっていきます。つまり、単なる演出だけではなく、ゲーム的な仕掛けを兼ねた仕組みだったわけです。
ナスカ地上絵のアイデアや、『ゼビウス』というネーミングは、メインゲームデザイナー遠藤雅伸さんではなく他者の提案で決まったそうで、メカデザインやサウンドの秀逸さも含め、たくさんのスタッフの優れた仕事でこの名作が生まれたということがよくわかる話です。
さまざまなインスパイア作品やエピゴーネンが生み出された
『ゼビウス』からはたくさんの亜流が生まれました。直接的に似た印象を持つゲームだけでも、『イスパイアル』『ファイヤーバトル』『ザビガ』など枚挙にいとまがありません。その後のシューティングの方向性を決めたといっても過言ではないと思います。
古代遺跡的なものと絡めて神秘性を表現するという手法もユニークで、当時の各社に大きなインパクトを与えたことは想像に難くありません。『グラディウス』のモアイのアイデアなども、もしかすると『ゼビウス』をヒントに生まれたものかもしれません。
また、各社が『ゼビウス』の後追いで次々縦スクロールシューティングを開発していくなか、当のナムコがアーケードでは『ドラゴンスピリット』まで同ジャンルを一切出さなかったのは興味深い事実だと思います。しかも、まったく別路線の、生物をモチーフとした世界観にたどり着いたというのもおもしろい話です。
「一千万点プレイヤー」という言葉はこのゲームから始まった
「一千万点プレイヤー」という言葉が生まれたのも、おそらくですが『ゼビウス』が最初だったと思います。得点のカウンターがそれ以上進まなくなるまで、100円で何時間もかけて延々遊び続けるのです(それまでもプレイしていて一千万点に到達できるゲームはありました)。
もちろん、店側からすれば、それは迷惑な話ですし、実際に困っただろうなあと思います。でも、そういうことが何とかカンとか許されていた(?)おおらかな時代でした。ぼくは残念ながら一千万点まで行ける実力がありませんでしたが、あったらきっと挑戦していたと思います。
当時、全国のゲームセンターのハイスコアを掲載していたマイコンBASICマガジン誌には、毎号のように『ゼビウス』一千万点達成者の名前がずらりと並ぶ時期がありました。ネットのない時代、そうした雑誌を通じて自分の名が世にとどろくというのは、この上なく大きな勲章だったのです。
『ゼビウス』は(おそらく※)業界で初めて「オート難易度(プレイヤーの腕によって難易度が変わる)」が導入された作品としても知られています。ソルバルゥ1機あたりで稼いだ平均点数、つまり「現在のスコア÷使用ソルバルゥ数」の値が大きいほど、空中物の出現テーブルが大きく進みます。
なので、ミスをせず敵を多く破壊しているプレイヤーほど、ゾシーのバックアタックやブラグザカートなどの難しい敵が早く出てきます。ただ、オート難易度とは別に、エリア固定の敵というのもいて(アンドアジェネシス前のザカートのような)、その組み合わせでゲームにメリハリを与えています。
さらに、DIPスイッチの難易度設定でも、このテーブルの進み方が変わります。難易度が高く設定されているほど、空中物のテーブルが大きく進むようになっています。
コピー対策やバグすらも伝説になった
『ゼビウス』では、コピー対策プログラムが有名です。タイトル画面に出てくる“(C)(P) 1982 NAMCO LTD.”の文字列がソース上で改変されているとコピー基板と判定され、ゲーム開始時の隠し10点メッセージや、森の中に潜むnamcoロゴに変化が起きるよう仕組まれています。
また、あまり知られていませんが『ゼビウス』には10点メッセージと森の中のロゴ以外にもコピー対策が組み込まれています。コピー品の場合、エクステンドチェック毎(つまりスコア加算毎)に、そのときのスコアと敵の種類を見て、特定の条件を満たすとゲームリセットがかかるというプログラムです。
少し専門的な話になりますが、具体的には、そのときのスコアの十から万の位の4つの数字の論理積(AND)が0以外で、かつそのとき画面内に6番目の空中物が生きているとリセットします。
一例として、スコアの十から万の各桁に8と9の数字しかない場合、8は二進数で1000、9は1001なので、論理積を取ると下から4番目の桁に1が立ち、条件を満たすことになります。この条件を満たす組み合わせは、ほかにも数通りあります。
6番目の空中物というのは、同時に6機の空中物が出るときにその6番目のバッファに格納されている敵のことです。これが画面上に生きていればフラグが立ちます(ゲーム序盤では6機編隊は出てこない。中盤から出てくる)。これら2つを満たすことが、リセットの条件となります。
『ゼビウス』コピー品において、これが本当に機能していたのか、それともコピー品『バトルス』の10点メッセージなどのように回避されていたのか、ぼくはわかりません。ゲームがある程度進むとそれなりの確率で発動する条件のはずなので、当時コピー基板でよく遊んでいた人ならわかるかもしれません。
知り合いにこの話をしたら「そういえば、自分が遊んでいたコピー品はよくリセットしていた気がするが、それがコピー対策のおかげだったのか、単なる基板異常だったのかはわからない」という話が聞けました。同じような経験をされた方はいますでしょうか?
『ゼビウス』ではさまざまなバグも語り継がれています。2Pサイドでプレイすると隠しキャラクターソルの破壊座標がずれるというのはよく知られていて、これはソルが影込みで描かれた絵で、もともとの破壊座標が絵の中心になかったため、画面フリップ(反転)時にはその座標をずらさないといけないのですが、それを修正していなかったために起こったものです。
当然ながら2Pサイドであってもアップライト筐体であれば画面がフリップしないので、このソルのバグは出ません。当時のテーブル筐体ならではの、今では起こり得ないおもしろいバグです。
アンドアジェネシスのコア破壊時にも、直前の地上物の点数がプラスされるバグがあります。これは本来加算されないはずの、アンドア全体を制御している透明スプライトのバッファ(地上物と共用)に入ってる得点を加算してしまっているためです。コア破壊時の得点が毎回異なるのはこれが理由です。
ほかにも、移動地上物ドモグラムが他のドモグラムの破壊CGの下を通過してしまう(ソートされていない)とか、エリア終了直後にミスするとエリアが一つ飛んでしまうなど、どれも今だったらデバッグチームが確実に見つけているであろうバグで、チェックの甘いのんびりした時代だったことがうかがえます。
『ゼビウス』に関しては、近年になって遠藤雅伸さん以外のスタッフの功績も含めて語られ始めており、とてもよいことだと思います。このようにして過去の作品がいろいろな形で記録に残されていくことを望みます。 了