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読書が楽しくなるワークショップのデザインと、ファシリテーターの心構え 〜カンボジア教員養成校での読書ワークショップにて〜

カンボジアで読書をする人を見かけることはあまりありません。でも、本を読むDNA、読まないDNAがあるわけではありません。ただ、読書が習慣になるような環境や学習体験がなかっただけです。カンボジアの教員養成校で読書ワークショップを行った際、普段読書をしない多くの学生が、読書を楽しみ始めました。読書が自分ごとになるようにプログラムをデザインし、読書に関するネガティブな固定観念を手放せるようなファシリテーションがあれば、多くの人が読書を楽しみ始めるんですね。

カンボジアの教師に求められる役割と読書

学校の役割は生徒に知識を伝えるだけではありません。学校は、人間関係や社会のルールなど、必要なライフスキルを体験を通して学び習得できる場所です。その中心的役割を担うのが教師です。教師には、生徒とコミュニケーションをとり、自分で課題を見つけ、解決していく力が求められます。

しかし、カンボジアでは教師の育成とサポートについて、政府に多くを期待することはできません。カンボジアでは人的、経済的資源が不足しているからです。実際、教員養成校はありますが、授業のカリキュラムや指導方法を教えることで精一杯のようです。

では、できることはないのでしょうか?

いえ、教師一人一人に読書の習慣があれば、この状況を草の根から変えていくことができます。なぜなら、読書からは知識を得るだけでなく、想像力、集中力、考える力といった、カンボジアの教育現場で必要とされる様々な能力を鍛えることができるからです。さらに、効果的な読書法を実践できれば、読書ほど費用対効果が高い学習方法はありません。これらを学生時代に習慣化できれば、教師となり全国へ派遣されていく彼ら彼女らが変革の希望となります。

カンボジアで滅多にみることがない読書人

一方で、現在のカンボジアには読書習慣はほとんどありません。スマホが普及し、SNSやyoutubeを楽しむ人はたくさんいますが、読書する人を見ることは滅多にありません。僕の友人のカンボジア人起業家たちの中でも、月に1冊以上本を読む人は半分もいません。誤解を恐れず言うと、月に1冊本を読んでいるというだけで、人に自慢できるぐらいです。

その理由として最初に考えられるのは、読書環境が整っていないことです。書店が極めて少なく、地方ではまともな書店がありません。書店があったとしても、売り場の半分以上を占めるのは文房具やおもちゃ。本の約半分は学校の教科書と外国語学習本。駅前や商店街、至る所に書店があり、世界中のあらゆる分野の良書を日本語で読むことができる日本とは大違いです。さらに、カンボジアでは著作権の考え自体が希薄なため、出版業界も脆弱です。クメールルージュ時代に教育や知識そのものが否定、破壊され、すべてがゼロになったことが今も影響しています。

読書の重要性はわかっている。でも、習慣化するのは難しい。

そこで、カンボジア人の友人、大学生、社会人、起業家に読書習慣について質問してみました。みんな言うのは同じことです。

「読書が大事なのはわかってる。でも、時間がなくて読めない。何を読んだらいいかわからない。」

つまり、読書の重要性はわかっているわけです。重要性はわかっているけど、読書習慣はない。これが現状です。この状況で先生や親、上司がただ「読め」と強く言っても効果はありません。読まないと将来が危ないよ、と不安を煽っても効果はありません。読書が重要なことはわかっているのに、読まないわけですから。これは、カンボジアの学生だけでなく、日本でもタイでも、学校でも家庭でも企業でも同じです。

では、どう言う時に人は本を読みたくなるのか?

この点を意識して、カンボジアの教員養成校に通う学生300人を対象に読書ワークショップのプログラムをデザインしました(2019年12月20日、カンボジアの教育の質の向上に取り組むNGO・KIZUNA主催のイベントにて)。

本を読みたくなるワークショップのデザイン

どうすれば読書の楽しさを知ってもらえるか?僕が今回のプログラムを作る際に立てた仮説はこうです。

そもそも読書が自分ごとになっていない。誰だって、夢や目標、悩みを持っている。どうやったら夢や目標に近づけるか?どうやったら悩みを解決できるか?毎日そんなことを考えています。読書はここに関係していると知ることなく、ただ義務として読書をさせられてもちっとも楽しくない。楽しくないどころから、読書嫌いになる。まずは読書を自分ごとにしてもらおう。

そこで、これから読む本の内容そのものに興味を持ってもらう。自分ごとに感じてもらうようにしました。

「理想の学校の先生は?」
「どんな人になりたい?」
「異性からモテたい?」
「大事なことはなんだろう?」

とグループで自由に話し合ってもらう。すると、なんらかの形でコミュニケーションの大切さが出てきます。その上で、コミュニケーションの本を読んでもらいます。読書に対する期待も目的も明確になれば、もう読みたくでウズウズしてきます。ちなみに、今回使用した本はカーネギーの「人を動かす」。長年にわたり世界中で愛読されてきたコミュニケーションの名著です。

次に、楽しさ。読書に苦手意識を持っている人の多くは、一人で机に向き合って難しい本と格闘するイメージを持っています。そこで、一人でたくさん読まなくても、少し読んだ後、チームでワイワイ議論する。お互い否定なしで助け合う、というルールを設けた上で学び合う。つまり、インプットとアウトプットを繰り返す訳です。アウトプットを前提にインプットすると言い換えてもいいです。これは楽しくて盛り上がります。話好きな国民性の場合はなおさらです。もっと言えば、この手法は一人で読書するよりも学習効果も高いです。

ワークショップのファシリテーションで気をつけたこと

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参加者が良い学習体験をできるワークショップの条件は、良いプログラムだけではありません。参加者の学習を促すファシリテーションが不可欠です。プログラムとしてグループディスカッションがあるだけで、皆が積極的に学び合うわけではありません。学習を促す問いかけや具体例の提示、時には勇気付けることが必要です。

そこで、今回のワークショップのファシリテーションでは、カンボジアで多くの人が持っていると予想される「読書」や「学び方」に対する次の固定観念をはずすことを特に意識しました。

・最初から最後まですべて読まなくてもいい
・読み始めたら最後まで読まなくてもいい
・試験に備えて、内容を暗記しなくていい

これらを意識したファシリテーションは、結果的に参加者の苦手意識をかなり払拭したように見えました。予想をはるかに上回るレベルで、みんな集中して読書に取り組んでいました。300人いて、途中退席もスマホいじりもほぼゼロ。これには、主催のカンボジア人スタッフも驚いていました。

良い学習プロセスが持つ可能性の大きさ

ワークショップの2時間はあっという間に過ぎました。最後に僕はみんなに聞いてみた。

「こんな感じで読書をチームで楽しめる読書部があったら入りたい?」

なんとほぼ全員が手をあげました。これには魂が震えました。疲れが一気に吹き飛びました。

今回のワークショップを通して、学習デザイナー・学習ファシリテーターとして大切なことを改めて教えてもらいました。学習の機会を提供する側の効率や都合、エゴではなく、学ぶ側の立場にたって学習プロセスを作ることの大切さを。

カンボジア人は本を読まない?いやいや、そんなことはありません。そもそも人種によって本を読むDNAがあるわけじゃない。経験してきた学習プロセス、それによる思い込み、周囲の社会環境によって読む機会が制限されていただけのこと。だったらそれを超える良い学習プロセスをいろんな場所で作っていけばいい、いろんな人たち共に。そう改めて思いました。

カンボジア教員養成校の読書カリキュラムに

ワークショップ終了後、教員養成校の校長先生が僕のところへ興奮気味にやってきた。力強いグリップで握手した後、校長の口から出てきた言葉は意外で嬉しいものだった。

「同校では、JICAの支援でちょうど図書館が新しくなる。そこで、1週間に2時間の読書を学生に義務づけた。でも、義務づけるだけでは意味がないことはわかっている。ぜひ読書の授業カリキュラムを作ってほしい。単位も認定される正式な授業にしたい。」

僕に大切なことをたくさん教えてくれた国、人生を面白くしてくれた国、カンボジア。この国の未来に大きな貢献ができる機会を与えてもらえました。ありがたいことに、最近、カンボジアでも大規模なブックフェアが開催されはじめた。この流れの中で、学習を通した国際協力をもっとすすめていこう。派手さがなく注目されないことだけど、この大切さを理解してくれる人もたくさんいる。しっかりとすすめていこう。

最後に。こうした貢献の機会をいただけたのはすべて、いつも僕の「学習に対する考え方」やワークショップ、ファシリテーションを信じ、たくさんの機会を与えてくれるNGO・KIZUNAの高田さん、スタッフのみなさんのおかげです。この場を借りてお礼申し上げます。

追記:日本人向けオンライン読書会2020

昨年、何度か開催した日本人向けのオンライン読書会を2020年1月から再開します。事前に読んでこなくてもいい読書会です。もっと本が読みたくなる、視野が広く視座が高くなる、海外からの参加多数、オンラインで知り合ったのに参加者同士が仲良くなる、という感想をよくいただく読書会です。準備出来次第、noteとtwitterでご案内します。ご興味ある方はフォローしておいてください。


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