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台湾で起きるディスラプション

2020年が終わり、多くの国・地域がマイナス成長となる中、台湾では2020年のGDP通年予測を、1.56%から2.54%へ上方修正しています(2020年12月8日現在)。けん引したのは輸出で、輸出額は前年と比べ4.9%増加しました。

驚くのは、航空会社も黒字見込みであること。台湾航空大手の中華航空(チャイナエアライン)は、2020年上半期(1~6月)の本業の利益が世界首位となった。上半期に本業で利益が出た航空会社は世界的に4社のみで、台湾同業大手のエバー航空は4位に入ったのだ。両社は旅客需要がない中、すぐにエアカーゴにシフト。いずれもハイテク部品や小型電子端末を中心としたエアカーゴの需要高騰と世界的なエアカーゴ運賃の大幅上昇が利益を押し上げた。

「ハイテク部品って何?」という点ですが、台湾の半導体製造世界トップのTSMCがすごいことになっている。

TSMC図1

(上図)こちらは2021年1月14日に発表された4Q決算。驚異の営業利益率でなんと43.5%! 予測を超え、対前年、対前Qも超える状態に。中身をさらに見ていくと……


TSMC図2

こちらは半導体の種類ですね。1nm(ナノメートル)は10億分の1mなので、世界最小の半導体を作れるというのがTSMC最大の強み。どうやらこの図の赤い部分であり5nmの生産が伸びているということですね。どんどん小型化が進んでいる。


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対前年と比較すると赤い部分、5nmが伸びて、10nmなんかは無くなっていますね。では、一体何に使われているのでしょうか?


TSMC図4

こちらのように、4Qの実績は半分以上はスマートフォン。Q比較で見ると、自動車やDCE(どうやらdata circuit terminating equipmentという通信回線の終端に設置される装置らしい)が伸びている。

TSMC図5

年間での実績でみると、スマフォ、HPC、IoT関連が対前年比で伸びています。4Qは急激に自動車やDCEが伸びたということですね。


TSMC図6

こちらが年次決算。売上は455億USD、一年間でも営業利益率が42.3%もあるんですね。台湾で生産された半導体が世界に輸出されていく。それによりエアカーゴも伸びるし、半導体産業全体が業績が上がっていく。すると恩恵を受ける半導体業界に勤務する社員の給与も上がっていくので内需も活性化していく、という流れですね。今は海外に行けないので、台湾内消費が増えるという好循環に。

このようにして台湾は他国に抜きんでて成長することができた。人口が増えなくても、観光客が増えなくても、輸出を伸ばせば経済成長はできる。いかに輸出戦略が重要かが分かる事例でした。加えて、今年2.9兆円をさらに追加投資予定で、日本にも材料研究開発センターを設置検討をしているようです。さらに活況を見せることが期待できますね。

こうなると、採用市場にも大きな変化が起きる。これがディスラプションだ。いわゆる今までの考え方や常識が崩れて新しいことが起きるということです。

僕が赴任した2010年以降の中国でも同じことが言えた。中国はリーマンショック後、4兆元の投資を決めて、いち早く回復を遂げた。外資を受け入れ、内資企業との合弁企業をつくらせた。それによって中国企業はどんどん技術力を高め成長した。その後、政治的圧力もあり、国内の内資企業を優先するよう助成政策が起きたり、国内メディアは内資系企業の成長や進化の称賛を称えるようになった。※中国では毎年、外資系企業がコテンパンに叩かれるテレビ番組が毎年ある。これが国内企業のブランディングにも寄与している

こうなると、外資系企業よりも中国企業のほうが給与などの条件面で目に見えるメリットが出てくるようになる。これにより、人材採用の市場においても中国系企業が優位性を発揮するようになった。それまでは日系企業というだけである程度ブランド力があったが、労働者の価値観が変わり、プレゼンスが落ちてくる。こうなると従来のように採用がうまくいかなくなり、持続可能かつ再現性の高い人材の採用ができなくなるのだ。

同じことが台湾でも起きつつあると思っている。TSMCがこのように伸びることで、台湾系の企業の給与が一時的に高騰し、外資系企業よりも台湾企業が採用優位性を発揮してくる。そのため、今まで以上に外資系企業は採用において力を入れ、制度の見直しなどをしていかないと、太刀打ちできなくなってしまう。

中国でも、バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイといった会社がこの10年でディスラプションを起こした。私が2016年にテンセント社員から聞いたエンジニアの平均給与は90万元(1300万円)で驚いた。こういった内容をメディアで露出することで、中国大陸全土で多くの優秀なエンジニアを採用した。

では、台湾で起きるディスラプションに対して、外資系企業はどう変革していくべきなのか? 特に日系企業は、「日本的な●●」「日本企業だから…」という発想をもつと、逆行していくと思う。すでに、海外に出ているのであれば、グローバル企業としての視点で考える、もしくはその現地企業という観点で深く現地化した戦略実行していく必要性が出てきている。

そして、制度の見直しや採用力の向上をしていかないと今までのように採用はできなくなるでしょう。これができないのであれば、採用の対象を変えていくといった具体的なアクションが求められてきていると思う。

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