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45名の隊員が活動するまち、兵庫県豊岡市の「地域おこし協力隊」によるまちづくり

今回は、兵庫県豊岡市の地域おこし協力隊担当の方にお話を伺いました。まちの「もっと磨いて光らせたい分野」で地域と一緒に活動しておられる地域おこし協力隊の皆さんは現在45名(2022年9月末時点)。全国でも有数の隊員数を誇っています。豊岡市は何を目指してこれだけの人数を受け入れているのでしょうか。また、これだけ多くの人が応募する理由とは。

地域おこし協力隊を受け入れる地域として、取り組みに対する様々な思いや工夫がありました。

豊岡市環境経済部環境経済課定住促進係長 沖中 正孝さん

1978年7月生まれ。これまで教育委員会公民館・生涯学習担当、税務課収税係、農林水産課環境農業推進係、環境経済課定住促進係で豊岡市の公務に広く尽力。現在は環境経済部環境経済課定住促進係長を務める。好きなものは古くてエモいもの、ハイボール、サッカー。嫌いなものは人の悪口。

豊岡市のまちづくりを多方面から担う地域おこし協力隊

豊岡市はまちづくりの大きなテーマのひとつとして「演劇のまちづくり」を掲げています。

市内の学校では演劇的手法を用いた「コミュニケーション教育」が導入され、市内に滞在して劇やダンスを制作する「アーティストインレジデンス」では世界中から訪れたアーティストと市民が触れ合う機会も。2021年4月には観光と演劇が学べる4年制大学も開学しました。

そんな「演劇のまちづくり」の核となるのが「豊岡演劇祭」です。約2週間にわたって行われる演劇祭期間中は市内の至る所で演劇やパフォーマンスが行われます。

この演劇祭にも多くの地域おこし協力隊が関わっており、約10名が実行委員として活動しています。県内一広い面積を持つ豊岡市。市内各地で行われる演目を見ようと思えば、どうしても移動が必要になります。実行委員のメンバーは演劇祭の企画運営だけではなく、こういった公共交通機関をいかに効率的に使うかといった交通政策も含めて検討し、演劇をまちづくりにつなげる活動をしています。

さらに、データやテクノロジーを活用したDXの推進をミッションとする地域おこし協力隊も活動しており、先ほどの演劇祭の交通についてもDX化に取り組んでいます。このように隊員同士でミッションの垣根なく協力することも多くあります。彼らはそれ以外にも、各地区の区長さんたちの負担を減らすため、スマホで簡単に報告できるシステムを開発するなど、地域課題をITの面から解決すべく活動しています。

その他にも伝統工芸を担う職人や減農薬・有機農業の取り組みが盛んな農業の後継者をはじめ、地域での担い手が少なくなってきている分野でも地域おこし協力隊が活躍しています。このように豊岡市では地域おこし協力隊が多角的にまちづくりに関わっています。

「豊岡で協力隊になってよかった」と思ってもらうために

豊岡市では、地域おこし協力隊の制度を2014年から活用しています。事業を進める中で課題となっていたのは、ミッションとのミスマッチをどう防ぐかということと、協力隊卒業後の地域への定着率をどう上げるかということでした。

制度利用開始から数年経ち、卒業後に定着している人の多くは採用時に複数の応募者の中から選考された方であると気づきました。

ひとつの枠に対して応募が1人だからその人を採用する、というやり方では、その人が本当にやりたいこととミッションのミスマッチが起きやすくなります。複数の応募者の中から本当にミッションにマッチする人を採用することで、その後の活動もスムーズに行うことができ、卒業後も住み続けたいと思ってくれる可能性が高くなります。

そこで、2019年から募集に力を入れ始めました。あえて募集枠を増やしたわけではありませんが、現役や卒業後の地域おこし協力隊の活躍を見た地域の人や団体から「うちも協力隊を受け入れたい」と言っていただくことが増えた結果、多様なミッションで募集することができるようになりました。外向きの情報発信に力を入れて露出度があがったことで、まちの人たちの認知度向上にもつながっていると感じています。

ちなみに協力隊の受け入れをしたいと連絡をくれた団体さんには、まず任期を終了する3年後に、協力隊の方にどうしてもらいたいのかをしっかりヒアリングします。なんでも募集するのではなく、将来の展望や活動の内容、サポート体制などをしっかり聞いたうえで、受け入れ団体となっていただくかを判断しています。

また、協力隊の選考過程で「お試し協力隊」の取り組みも行っています。「お試し協力隊」は実際にまちを見たり、受け入れ団体の方と会ったり、体験をしていただくものです。一次選考合格者には二次選考前に2泊3日ほど豊岡市に来ていただき、自分が本当に豊岡市やミッションとマッチしているかを自分の目で見極めてもらうようにしています。

活動に専念できるように体制を強化

豊岡市の協力隊の受け入れ体制は、受け入れ団体と市役所で協力隊をサポートする形をとっています。地域や団体が受け入れ団体となり、協力隊はそこを拠点として活動します。普段の活動は受け入れ団体と相談したり協力したりしながら行っています。市役所では協力隊の募集や移住時のサポート、契約や支払いの事務、活動の相談も行います。また、ミッションによって担当課が異なり、例えば農業の協力隊であれば農林水産課が担当になります。それぞれの分野の担当部署がサポートすることで、より的確なアドバイスができる体制にしています。

地域おこし協力隊の人数が増えていく中で、受け入れ体制の見直しも必要になってきました。

そこで、2022年度からは市との契約方式を業務委託型に変更し、協力隊は個人事業主として市から業務を受託するという形になりました。これまで協力隊の活動費を使う際には市役所が協力隊の代わりに支払いをする必要があり、物品を購入する際も市役所宛の請求書が必要であったり、住居も市役所名義で借りたりしていました。委託型にすることで協力隊自身が支払いをできるようになり、活動費が使いやすくなりました。

また、業務の報告にはkintoneを導入しました。日々の活動報告や月次報告、活動費の使用報告、全体連絡など、一括してシステム内で行うことができるようになり、効率的に情報共有ができるようになりました。

これまでのやり方を変えるのは大変でしたし、市の担当者や協力隊のみなさんが不安に思うこともありましたが、今後も続けていくために必要なことだと思っています。

異なるバックグラウンドを持つ隊員が個性を活かして

地域おこし協力隊の人数も40名を超え、今年は初めて協力隊の全体交流会を行いました。受け入れ団体や関係者にも参加していただき、普段は交流のない隊員とも話せるいい機会になったと思います。

仲間がいると、シンプルに安心感が生まれます。さらに、自分の考えややり方が正しいのか確認するためにも、同じ立ち位置の仲間を活用して欲しいと思っています。

隊員の中には、例えば広告会社に勤めていた方や写真が好きな方は演劇祭のプロモーションの部分を担当したり、大学の時に研究していたことを活かしたいと『森のようちえん』に来られたり、もの作りが好きな方は伝統工芸の後継者に挑戦したり、それぞれのこれまでの経験が活かされています。

他にも、子どもの頃自然の中の祖父母の家で過ごした経験が忘れられず、地域おこし協力隊になったことで田舎暮らしを実現できた方もいます。子どもの頃からの思いが叶ったり、経験が繋がったり、バックグラウンドが活かされるとても良い制度だなと感じています。

今後のまちと隊員それぞれの自己実現のために

卒業後も地域おこし協力隊の方々の思いを実現できるようにサポートしていきたいと思っています。その1つとして起業のための支援を行っていて、豊岡市では協力隊の方を対象に最大200万円の支援をしています。また、市で起業相談窓口を専門家に委託しているので、無料でビジネスコンサルティングを受けることができます。専門家のアドバイスを受けて起業のイメージをしっかりと形にしていただき、補助金を活用して起業していく流れを作りたいです。

自分が主になって動いていきたい人が多いと思うので、豊岡市での起業という形でそれを実現してもらうために、できる範囲でサポートを継続していきたいです。

協力隊の人数について何人までという目標はありませんが、引き続き採用を推進していこうと思います。

ただの人手不足の解消手段ではなく、将来的に伸ばしていきたい分野に対してアイデアや人材を募集して、ともにまちを強めていく。そのようなスタンスで今後を見据えています。

豊岡市では2023年1月5日まで地域おこし協力隊を募集中!

豊岡市に少しでも興味をもたれた方は、ぜひサイトをチェックしてみてください!