僕らは、地方創生をやめることにした。
みなさん、こんにちは。
シビレ株式会社代表の佐藤陽(あきら)です。
僕たちは、2016年1月に横浜で、東京にこだわらない働き方「OFF TOKYO」をコンセプトに、首都圏にお住まいのエンジニアの地方移住を伴う転職支援事業からスタートした。2018年からは共同代表の鈴木翠の地元である宮城県仙台市に本社を移転し、2020年までは創業メンバーのみで事業の拡大というよりは、小さいけれど、コンセプトを大事に会社を育ててきた。
私は2020年11月から共同代表に就任し、鈴木と共に、シビレ株式会社の第二創業をガンガン進めていくぞ。と思った矢先、世の中に新型コロナウイルス一色に。
しかし、コロナが多くの人のライフスタイルに大きな影響を与えてくれました。もちろん、会社の舵取りは大変でした。一方で、「東京にこだわらない」というコンセプトにはこれ以上ない風向きだったことは事実。
結果、僕たちは2年間で数多くの地方自治体からお声がけをいただき、いわゆる地方創生に関する事業をサポートさせていただきました。これまで連携した自治体は、40を超える数になりました。従業員も増えて、「これぞ第2創業期だ」と思える2年間だったと思う。
地方創生の経緯とこれまでの取り組み
地方創生「元年」は平成27年(2015年)から
日本の人口は平成20年(2008年)の1億2,808万人をピークに人口減少段階に入り、高齢化や人口減少が進む中で地方の活性化は一層困難度が増していくことが懸念されていた。地方の活性化は歴代政権が力を入れて取り組んできたが、十分な成果が上がってこなかった。
第2次安倍内閣は、こうした状況を踏まえ、人口減少と地方の衰退の問題に一体的に取り組む。それが国が考える「地方創生」というわけだ。「地方創生元年」とされる平成27年は、その土台固めを行い、平成28年からは本格的に様々な施策が実施に移されていくことになる。
ここで覚えておきたいのは、当然だが地方創生のスキームづくりを主導的に取り組んできたのは「国」だということだ。「国」は日本の超高齢化社会と人口減少、また地方の衰退に対して非常に強い危機感を感じているということだ。
コンサルが作る計画からは何も生まれない
私自身、9年間の社会人生活のうち、6年間を経営者として過ごしてきた。この6年間本当に刺激的な時間を過ごしてこれたと自負している。中には、二度とやりたくない経験や戻りたくない時間があることも事実だが、一つだけ信念として強く感じていることがある。
それは、危機感だけでは何も生まれないということ。
当然、経営者や組織のリーダーは常にあらゆる課題を感じ、日々改善に取り組んでいるだろう。「現状維持は衰退のはじまり」という言葉があるように、常に危機感も感じている。私自身もそうだ。
しかし、危機感には「良い危機感」と「悪い危機感」があるということだ。
「国」は強い危機感を感じている一方で、地方創生の目指す方向性を「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」として示している。平成3年6月には「まち・ひと・しごと創生基本方針 2021」を閣議決定。国が感じている危機感というのは、行政特有の「参酌文化」なのではないか。
国の策定した計画を都道府県が参酌し、都道府県の策定した計画を市町村が参酌する。その結果は容易に想像がつくだろう。どの市町村も同じような計画が完成する。
意外と知られていないが、この市町村が策定する総合戦略は大概の場合、コンサル会社が委託を受け、素案を作成している。コンサル会社は、良くも悪くもあらゆるフレームワークを用いて、例えばSWOT分析・4P・3Cをもとに現状分析を行う。どの地方も(いい意味で)、「自然が豊か」「人が優しい」「コミュニティが密接」「食の資源が豊富」など差別化ができない。するとどうなるか、どの市町村も同じような計画が完成する。
A市の人口動態やリソースを定量的に分析し、このまま推移すると20年後には人口がこれだけ減少します。A市の「豊かな自然」「1次産業」を活かし、6次産業化に取り組み、地域商社をつくり、移住支援センターを開設し、地域おこし協力隊を活用しましょう。という、どの地方自治体でも該当してしまうような「総合戦略」が完成してしまうのだ。約1,700の地方自治体の総合戦略をぜひ見てほしい。
ちなみに、令和3年に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針 2021」中身を見てみると、これが結構おもしろい。
市町村にとっての地方創生を考える
課題解決だけでは地方創生は実現できない
僕たちは、創業から7年間一貫して地方創生に取り組んできた自負をもっている。その中で感じたことは、「地域資源を活かす」とか「課題解決」という切り口で入ると全然うまくいかないということだ。
では、何が必要なのか。それは、市役所や役場の職員の「これやったらおもしろいじゃん」っていう感情や僕ら自身が「めちゃくちゃおもしろい」って感じるものが、うちの町には意外とたくさんあるよねっていう感情が大事だと思うわけです。
日本の地方は大体いいんです。住めば都というが、住まなくたって本当にいいところはたくさんあるんです。人が良くて、空気がきれいで、食事が美味しくて、お酒が美味しくて、歴史自然文化があって。要は大体、いいところがどの地方にも揃っている。
差別化は必要か
例えば、海があるとかないとか差はあるとしても、大体地方っていいところがたくさんある。だからこそ、市町村は近隣市町村や同規模自治体との差別化を必死に考える。税金を使う以上、競争優位性や課題解決思考で考えることはもちろん重要だ。そこを否定しているわけではない。
しかし、差別化要素を究極的につき詰めていくと、結局は言ったもん勝ちみたいな要素が強いのではないか。要は主張したもん勝ちみたいな。もう少し噛み砕くと、言ってる人が本当に思い込んでるか、みたいなところが多分一番重要で、結局そこに尽きると僕らは思っている。
市町村にとっての地方創生とは
国が考える地方創生と人口数万人規模の市町村が考える地方創生が違って当然だ。では、市町村は何をしないといけないのか。
それは、「企む」ことではないだろうか。
自分自身がおもしろいと思うことを考え、企むチームを作ること。企むチームに行政、民間の枠はないだろう。予算がなくたってできることなんて山ほどある。むしろ、予算が議会を通ってから初めてやるなんて、民間企業ではあり得ない。
民間企業のやり方を押し通すのではなく、良いマインドは積極的に導入すべきだ。新規事業に必要な予算がついてから、動き出すなんて企業は存在しないだろう。
まずはどんなに小さくても良いからフィジビリティ・スタディ(F/S)でやってみる。ここで大事なことはスピードだ。F/Sが必要な理由は、市町村が考えている課題の大半が「見せかけの課題」のケースが多いから。実際にあったケースを紹介してみよう。
見せかけの課題にとらわれてはいけない
これは、まさに「見せかけの課題」にとらわれているケースだ。
しかも、やっかいなのは「すでに予算要求をすることが決まっている」「すでに予算は通っている」ケースが結構あることだ。
この「見せかけの課題」の通りに事業化するとどうなるか。WordPressで構築したいい感じのデザインのポータルサイトを数百万から1,000万円で開発する。そして、そのサイトを年度内にリリースする。
起こったことは「サイトをリリースした」だけ。ということが本当に多く発生する。そうすると、どうなるか。サイトをリリースしたのに、全然見られないからプロモーションをしないといけない。頑張って広告予算を獲得しよう。という思考に陥っていく。
「見せかけの課題」を起点に事業をスタートすると、深刻な負のスパイラルに陥ってしまうのだ。
僕らは、地方創生をやめることにした。
僕らはこれまで7年間、いわゆるクライアントワークをやってきた。地方自治体と仕事をするといっても、実際のところは全ての事業で「業務委託契約」を締結するため、要はクライアントワークなのだ。
手段を目的化していたのは僕らだった
自治体との事業は、「単年度契約」が原則だ。その上、レギュレーションがかなり厳しい。僕が代表に就任したのは2020年11月。代表就任直後にコロナ禍に突入した。働き方だけではなくライフスタイルのあり方自体が劇的に変化した。
代表に就任した当時の経営状態は本当に厳しいものがあった。一方、創業者で共同代表の鈴木が築いてきた多くの自治体とのリレーションのおかげで、取引自治体数はこの2年間で倍増した。会社の売上は2.5倍になった。本当に仲間とクライアントに恵まれていたと思う。
一方で、会社として大事にしてきた「企む」時間は劇的に減ってしまった。
僕らの会社の名前は「シビレ株式会社」。シビレという名前には、こんな意味が込められている。
そう。地方創生という言葉に溺れて、自治体の仕事を獲得することに躍起になっていた。自治体職員が企むだけではいけない。僕ら自身が誰よりも企んで、そして僕らがシビレる事業を世の中に出していく。そんな想いをもとに、シビレの存在意義を明確にするために、ビジョン・ミッションを再定義した。
僕ら自身が、誰よりも手段と目的を履き違えていたのだ。だから、僕たちは地方創生に関わることをやめる。
僕らが目指すことは、「東京と地方」「仕事とプライベート」「家庭と会社」など、線引きをするのではなく、あらゆることがもっとシームレスにつながるような社会を目指すこと。そして、そのための選択肢を早く、シンプルに、わかりやすく届けること。
だから僕らは新規事業のこだわる
僕らは、徹底的に思い込むことにした。地方創生という言葉に踊らされることなく、自分たちがおもしろいと思うことを徹底的に事業化していくことが僕らの存在意義なんだと思い込むことにした。
そんな僕らの思い込み第1弾となるサービスを2022年10月にリリースする。
従業員が増えたと言っても、僕らは業務委託メンバーを入れて20人程度の小さな会社だ。自治体の仕事というのはキャッシュフローがとてつもなく厳しい。
契約は単年度の上、入金は原則精算払い。要は契約期間が終了し、成果物を納入し、検収が完了した後、ようやく請求書を発行できる。仮に2022年5月に事業がスタートした場合、契約終了は2023年3月。3月末に成果物を納入し、検収は4月。入金は2023年5月になるのだ。要は13〜14ヶ月持ち出しで事業を実施しないといけない。
だから、僕らなりの新規事業のあり方を考えることにした。(続く)