見出し画像

或る日、イタリアで uno-1


料理を生業としている僕、久嶋健嗣は、イタリアの家庭料理に触れてみたくて、2010年にイタリアへ渡り、2ヶ月間、ホームステイ先のマンマに現地の家庭料理を教わりました。これは、当時、現地で書き留めた日記やレシピをそのまま載せた、僕の思い出の記録です。

僕が見たイタリアを、マンマから教わったちいさなレシピとともに、おたのしみください。イラストは、当時、僕が見た風景、光景を思い起こしながら描いています。



画像1


Sabato,16. Ottobre.2010

夜7時。
冷たい雨が降る、ミラノ・マルペンサ空港。
中央駅まで、曇ったバスの窓から、ミラノの街を眺める。少し、パリに似ている、と思う。

ホテルは、駅からすぐのはずだけれど、夜の暗さと雨で人も歩いておらず、さっぱりわからない。
雨のなか、スーツケースを引き摺りながら探しまわるのにもうんざりして、タクシーに乗る。
ホテルは、探していた方向と真逆の、駅のすぐ近くだった。
熱いシャワーが、ありがたい。
すぐに眠る。


Domenica,17.Ottobre

ホテルの朝食をとり、
まだ小雨降るミラノ中央駅へ。
8:15発のユーロスターに乗り、ナポリを目指す。
窓からの田園風景。
何もない草原に、ぽつんとある教会。
険しい山の斜面にある、小さな村落。
見ているだけで、退屈しない。
ヘッドホンで聴く、ヤン・ティールセンが景色にぴったりで、じんとする。
ナポリ13:15着。
空腹に、駅の外に出て何か食べようか、とも思うが、今日は日曜日で店もやっていない。
仕方なく、駅の売店の、パックに入った妙にふかふかとした、パニーニを食べる。

ナポリ13:58発
ローカル線に乗り替え、サレルノへ。
6人掛けの、個室に分かれた列車。
イタリア人は、本当によく電車のなかで電話するな、と関心する。
たまに知っている単語が拾えるくらいで、ほかはさっぱりわからないから、気にはならない。

サレルノ14:32着。
駅前タクシーに住所を見せ、家まで連れて
いってもらう。

ベルを押して、名前を告げる。
ドアを入ったところで、
「2階ですよ。」
と上から声をかけてくれたのが、ホストファミリーであるCleliaさん。

Cleliaは、想像していたとおりの、
大きなイタリアのお母さんだった。
大きな声で、わかりやすいようにはっきりと発音して、家の説明をしてくれる。
家の説明だから、想像でほとんどのことは理解できるが、言葉じたいは、さっぱりわからない。
部屋は、充分すぎるくらいにきれいで、ベッドはダブルの大きなもの。
壁の、モディリアーニの絵も、とても好きだ。
荷物を片付けていると、Cleliaがcaffe`を淹れてきてくれる。
イタリアにきて初めてのエスプレッソ。
甘くて、とろりと濃厚で、とてもとても、おいしかった。
すっかり安心して、ベッドに横になる。

気がつくと外は暗い。
一緒に住むことになる、スイス人留学生と挨拶する。
勝手に、男の子だと想像していたが、女の子だった。

Cleliaと食事について話していて、
食べられないものはある?
と訊かれ、お肉は食べません、
と答えると、ひどく驚いている。
学校に、きちんと伝えたはずなのに、伝えられていないらしい。
じゃあ、今晩は、frittata(フリッタータ、たまごやき)にしましょう!ということになった。

夕食は、
トマトソースのタリアッテッレ
フリッタータ
レタスとトマトのサラダ
パン

スイス人留学生、Avelineには、肉団子を煮たものが出されていた。
なんだか、2種類用意してもらうのが申し訳ない。


Lunedi,18.Ottobre

昨晩は、9時くらいに寝てしまった。
目が覚めたのは4時。まだ真っ暗。
町の中心地だというのに、夜になると、全くの無音だ。
耳が痛いくらいの静寂。

6時。窓の外から、車のエンジン音やら、ドアを閉める音やら、聞こえてきて、なにやら騒がしい。
そのうち人の声や口笛も聞こえてきだした。
カーテンを開けると、家の前の広場は、朝市になっていた。
たくさんの野菜の色。魚の生臭い匂いまで届いてくる。
窓からこんな愉しい光景が見られるなんて。
とてもうれしい。

8時。朝食。
昨日、なにを食べるかと訊かれて、イタリアではふつうはなにを食べるの?それと同じでよいです。と答えたので、
朝食は、パン、marmellata(マルメッラータ、ジャム)、burro(バター)、そしてcappuccino(カップッチーノ)。
カップッチーノといっても、日本にあるのと違って、泡立ってはおらず、ミルクコーヒーといったほうがぴったりくるような、すこし甘い、なんだか懐かしい味。

今日から学校。
Avelineに道を教えてもらいながら、向かう。
坂道を降りて行くと、きれいなみどり色をした海が見えた。

学校は、海からすぐを走る大通り、via ROMA沿いにあり、サーモンピンクの、とてもかわいらしい建物だ。

クラスは、他に6人の生徒(スウェーデン、ドイツ、スイス、ブルガリア人たち)。
当たり前だけれど、授業はすべてイタリア語。説明じたいも、なにを言っているのか、頭をフル回転させて考えなければならない。
終わりの午後1時には、ぐったり疲れていた。

初日なので、サレルノの街をぐるぐる歩き回り、距離感をつかむ。
とてもちいさな街だ。すぐに海にも駅にも辿り着ける。
そして来る前に想像していたよりも、はるかに
都会だ。店がものすごくたくさんある。ブランドの洋服屋も。
歩いている人たちが、ちっとも怖い感じがしないのも、とてもいい。

夕食
じゃがいもをマッシュしたのにチーズとパン粉をかけて焼いたグラタンみたいなもの、
茄子のフンゲット(きのこみたいに調理したもの。オイルで、にんにくや唐辛子と一緒に煮込む)
モッツァレッラ
パン

イタリア人は、毎夕ワインを飲むもの、と勝手に思っていたが、そんなことはないらしい。

そして、Cleliaとの会話でわかったこと。
昨日のタリアテッレのトマトソースも、
今朝のいちごのマルメッラータ(ジャム)も、すべてCleliaが自分で作ったものであること。
そしてそのトマトやいちごは、Cleliaの兄弟が作ったものだということ。
すばらしい!
それをきいて、とてもうれしくなった。


ここから先は

3,178字 / 2画像

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事を読んで、すごく気に入って、その気持ちを表現したいな、と、もし思ったら、サポートをいただけたら、とってもうれしいです。サポートは、これからの表現活動のために、だいじに使わせていただきます。久嶋健嗣