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私的詩手帳

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_人人人人_ > 突然の詩 <  ̄Y^Y^Y^Y^ ̄
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#ポエム

(詩)おやすみのかたまり

寝息のかなでる子守唄の
やさしい矛盾をひきうけて
夜は虹色のうすい膜をひろげ
ふくれあがり息をする
ほら眠る子の頬をなでて
ほら泣く人の涙をぬぐい
木立の象のように街をゆくよ
おやすみのかたまりは

瞳をとじた孤独な鼓動も
無風無音のためいきも
もつれた脳波のハミングも
ぜんぶぜんぶかきまぜて
きまぐれな真夜中の対流
ささくれをなでつけて
しまわれた街はゆるまってゆく
おやすみのかたまりに

ビル

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(詩)立冬

冷たくけむる空気を
見えない編み棒で編むように
朝っぱらからギターは響く
その振動が減衰する果てに
届くべき鼓膜がないとしても

孤独と退屈とは異なる
教えてくれた人はもう遠く
そんなことを思い出したり
思い出さなかったりしながら
ガットギターはつまびかれる

離れゆく虚無の日々も
無駄ではなかったと信じることが
良いのか悪いのかその戸惑いだけを
淹れたてのコーヒーに溶かした
砂糖とクリームのよう

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(詩)うがつ

目の前の壁を数ミリずつうがちながら
ときおり憎むべきそれに寄りかかりながら
人生というものは一定のリズムをきざんで
しかし残念ながら遅々として進まない
情けなくて涙が出ようが泣いたところで
なにも特になんにも解決しないので
一休みしてわんわん泣いて
貴重な休みや後悔と引き換えに
すっきりするだけすっきりする
その内側に宿るものこそ人生の
人生のまん中に近い場所を
占めているという誰かの声は
心を込

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(詩)サイクル

ひびきあう
いつかのサイクル
いつとも知らずに
突然起きては
心うちならす
うちうちに

ひびきあう
だれかのサイクル
きりきりまいして
偶然の一致が
ありえないくらい
ありありと

ひびきあう
無意味なサイクル
意味と意味とが
いみを捨てさって
おどりをおどるよ
おどおどと

ひびきあう
サイクルとサイクル
触れてもないのに
ふれられやしないのに
つうじあっては
つじつまを

ひびきあう
ぜんぶ

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(詩)おちこみ しみこみ

わすれかけた言葉が
おちこみ
しみこみ
いつかひょっこり
顔を出し

ひねくれた希望が
おちこみ
しみこみ
ぐるりとまわって
まっすぐに

かんがえなしの蛮勇も
おちこみ
しみこみ
散らした花びらは
点描点睛

真夜中のざわざわと
おちこみ
しみこみ
夢のほとりで
ほとぼって

無駄につんだ日々に
おちこみ
しみこみ
あの熱たちは
くすぶって

忸怩のかたまりめ
おちこみ
しみこみ
心のうちに

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(詩)しずむ

日々のあくは
うかびあがって
すくいとられる
こともなく
いずれいずこへ
内のうちまで
しずみ しずむ
音もないまま

膜のうちの
しょげたゆめは
うかばれぬまま
うかぶまま
熱にうかされ
すかされて
すずみ すずむ
秋のゆうぐれ

いかりを下ろし
あめかぜよける
みずのそこには
あの日のおもい
きまずいうずまき
きりきりまいで
よどみ よどむ
見えないこころ

試しあいした
みじゅくなみそぎ

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(詩)雪平鍋

湯は空気の玉を含んで
ふつふつおどり
湯気を吸い込みながら
換気扇がまわる
今日も熱を受けとめて
あいつからもらった
黒ずんだ雪平鍋

薄きいろのかたまりが
沸騰の中でほどける
百度近くの熱と
五百ミリリットルの水をえて
膨れあがる期待
あの日笑顔の
あいつからもらった
黒ずんだ雪平鍋

あいつからもらった
黒ずんだ雪平鍋
あの日の輝きはもうなくて
でも今もここにあり
いつものように
一袋40円の

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(詩)白石本通

ワイドパンツを翻し風が吹いている
彼女の髪の先がふわりと肩を離れ
互いがじゃれるように舞いはじめる
三十分前に洗った髪から
水分にしがみついた香料が離れ
風下へと儚い旅に出る

時を同じくして
パン工場の機械式のかまどから
小麦やら水分やら熱やらに見送られて
小さくわずかな粒子が
母なる酵母からのなごりを湛えて
うわついたように飛び立つ

粒子はロバの彫像の鼻先をかすめ
空気と戯れながら
彼女の鼻

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(詩)夏至

幸せだったかと訊かれれば
幸せだったと答えるだろう

思い出すのは
琥珀色の水飴のような君の声
ふいの言いまちがいの笑いあい
意味もなく一緒にぎらぎら汗臭くなった日々
暑さの最後の日にようやく飲んだ
アイスコーヒーのほろ苦さ

忘れられないまま一分一分が
分かてない時を分かち
分かったふりをしたぼくは
分かちがたい分からなさをかかえ

待っていなくても
夏至は勝手におとずれて
頼んでいなくても

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(詩)ゆらゆら

引きずって
立ちどまって
もやもや
また歩きだして
立ちどまっては
くよくよ

振りかえって
遠くなって
くらくら
前むいて
歩きだしては
てくてく

ありそうな
憂鬱つれて
ぐるぐる
ありもしない
希望はもはや
からから

だれかの期待に
からめとられて
ぼろぼろ
ずるいやつらの
無意識の欲望が
ひりひり

歩いても
歩いても
だらだら
休まずに
休まずに
ふらふら

思い出したように
ひとりご

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(詩)春と半魚人

二月はにげて
三月さらさら
ぼくはからから
からまわり

春はぼくをおいていき
時はすべてを押し流し
ぽくはぽつねん四季の底
ひとりおぼれた半魚人

背びれ胸びれ萎えはてて
穴あき水かき水かけず
ぶざまなクロールくりかえし
見えない鍋底なでまわす

からから からから
からまわり
からから からから
からまわり

春の陽気はどこはやら
脳裏をしばる寒流よ
花ぐもりの空およぐ鳥
見上げた桜はマリンス

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(詩)歌

転ばぬ先の歌より
歌いたいのは
転んでしまった
見知らぬきみを支え
少しだけ立つのを助ける歌

そんなことをいいながら
いまだ立つことすら
ままならないぼくは
転ぶことも
支えるものをつかむのも
知らないままでいて

自分のための歌より
歌いたいのは
立って歩いて
はるか先にいる
見知らぬ先のきみの歌

立ち上がることが
できなくても歌は歌える
だれかのための空回りも
ぼくの忸怩を過去にする
そん

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(詩)そら

すかす すべて
そら すべて

すかす すべて
そら すべて

しとり しとり
しとね しめる

ぬめり ぬらり
やどり やどす

とばり するり
あけて あける

あかり あかし
めざめ さめる

すかす すべて
そら すべて

すかす すべて
そら すべて

さらり ぽろり
からり はじく

たわみ きしみ
かすれ すれる

ふるい ふるえ
ひびき ひびく

ひかり はらり
ふらり とどく

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(詩)奇跡のなかのきみ

わたしを呼んだ奇跡のなかに
思いがけずきみがいて
Y字路でわかれてそれぞれ
泣き顔困り顔で
道を急いだはずなのに
ひとつところで落合うなんて
互いにそれが幸いだと
なかなか思えなかった
あの日々が
なつかしくて

きみのいないここまでも
考えられないけど
そりの合わない日がないのも
考えられなかった
でも歯車が噛み合うように
きみが出るとわたしは引っ込み
わたしが突っ張ればきみは引く
プラマイゼロ

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