(詩)奇跡のなかのきみ

わたしを呼んだ奇跡のなかに
思いがけずきみがいて
Y字路でわかれてそれぞれ
泣き顔困り顔で
道を急いだはずなのに
ひとつところで落合うなんて
互いにそれが幸いだと
なかなか思えなかった
あの日々が
なつかしくて

きみのいないここまでも
考えられないけど
そりの合わない日がないのも
考えられなかった
でも歯車が噛み合うように
きみが出るとわたしは引っ込み
わたしが突っ張ればきみは引く
プラマイゼロのフィフティフィフティ
トントンでイッテコイ
いつも二人笑顔で終わってたのも
たぶん奇跡のひとつだったのかもね

わたしがめったに泣かなかったのは
わたしが強いからでなく
いつも強がったわたしの代わりに
きみが泣いていたから
きみがよく泣くのは
きみが弱いからでなく
みんなの分までいろいろ引き受ける
まっすぐな強さがあったから
わたしもだれかのために
強くて折れそうなきみのために
涙を流したいと願ったけど
けっきょく一人で泣いちゃった

そもそも広い海でわかれわかれになって
それぞれ奇跡の海流にのって出会った
もともといっしょの二枚貝が
きみとわたしだったんじゃないか
ちょっとはずかしい気もするけど
きみもわたしも
同じ奇跡のなかにいたんだと
たまにそうも思うんだ
きみがどう思ってるかわからないけれど
わたしはあなたと出会えて
ほんとうによかった

一生分の奇跡を使い果たして
わたしはこれから海流の慣性で
ふたたびのY字路のむこうへ
大きな流れ 孤独たちのなかへ
またはなればなれになる
そう思ってしまって泣きそうになって
でも奇跡なんてもうそうそうないから
どうしても強がることしかできなかった
わたしの弱さはわたしで引き受けよう
きみに頼れないからひとりで強くなろう
また強がってそう思ってた

だけどきみが みんなが
教えてくれてたことを忘れるところだった
弱さを強さにするにも
弱さをいっしょに受け止めてくれる
だれかの手が 体温が 声が 心が
どうしようもなく必要なんだと
奇跡なんか関係なく
どうしても人には人が
どうしようもなく必要なんだと

Y字路の先 ふいの落合の日々が
Y字路の先に過ぎていったとしても
それでもきみがきみで
それでもわたしがわたしで
それでもみんながみんなであるように
引き受けあうこと
涙を受け止めあうこと
それだけは忘れたくない
きみから受け取った涙の分を
強がらないわたしが輝きにして
蒼い光で渡すまでは

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