(詩)春と半魚人

二月はにげて
三月さらさら
ぼくはからから
からまわり

春はぼくをおいていき
時はすべてを押し流し
ぽくはぽつねん四季の底
ひとりおぼれた半魚人

背びれ胸びれ萎えはてて
穴あき水かき水かけず
ぶざまなクロールくりかえし
見えない鍋底なでまわす

からから からから
からまわり
からから からから
からまわり

春の陽気はどこはやら
脳裏をしばる寒流よ
花ぐもりの空およぐ鳥
見上げた桜はマリンスノー

ソナーのような呼びかけも
遠くくぐもり聞こえない
魚にも人にもなれず
叫ぶすべすら忘れはて

あの日のあの手のなるほうへ
せめてどうにかなるほうへ
あがきもがきも板につき
はたから見たら花見の踊り

からから からから
からまわり
からから からから
からまわり

たといぶざまでも海流つかんで
桜ふぶきをおいこして
大陸棚のそのむこう
うろこも乾く春の園

夢はいつでも夢のまま
うろこは乾かず泣きぬれて
衰えだけがおいついて
やがて悲しきデトリタス

春はいつでも
流れのさきで
ぼくはいまでも
おぼれたままで

四月もしらず
五月のいつか
タンゴを踊る
夢をみて

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